烏天狗の夜警
町に来てみると人影は見当たらなかった。あれだけ新聞で取り沙汰されていれば、出歩く人間などいないだろう。しばらく歩き回ってみたが、誰とも会わなかった。こんなものかと、橋の上で一息つき、水面を見つめていた。その時、水面から水鉄砲のようなものがこちらに向かって飛んできた。体を引いて避ける。
「……?」
水の中に誰かいるのだろうか。水面を覗き込む。
——背後で水音がして妖気が膨れ上がった。
振り返った時には、斧を振り上げた妖怪が目前に迫っていた。振り向きざまに刀を振り抜き、首をはねた。地面に転がった妖怪の死体に目を落とす。体には魚の鱗のようなものが生えている。懐にしまっておいた札を取り出す。果たして上手く起動するのか。妖怪の上に札を置き、刀の切先に妖気を溜め、札に触れた。途端に札は激しく燃え上がった。炎は妖怪の身体へ燃え移り、大きな焼け跡を残した。
***
翌朝、料理屋に行くとすぐさま店主に刀を渡された。まさか本当に店の前に立たされるとは思ってなかった。……それにしても、客の入りがいつもより多い気がする。店の中からは注文を通す声が絶えず聞こえてくる。
「おいこら優里!」
店から店主が顔を出して俺に怒声を飛ばした。
「な、なんですか?」
「何そんなとこで突っ立ってんだ!注文が溜まってんだよ、さっさと厨房戻れ!」
「ええぇ……」
ここに立ってろって言ったのあんただろうが……
出かかった言葉を飲み込んで店へ戻った。
厨房に行くと佐一が半笑いで話しかけてきた。
「おぉい、優里!お前何サボってんだよ!お前なんて顔が怖いんだから、店の入り口に立っちゃだめだろ?」
こいつはもう殴ろうかな。
「はあ……調子いいよな……お前も大将も……」
ため息をつきながら返す。
「ところでなんで今日、こんなに人入ってんの。」
「えぇ、なんでお前が知らないんだよ。お前が昨日、妖怪を倒したことが広まって、ここなら妖怪が出ても安全だって評判になってるらしいぜ。」
「えぇ……本当かよ……二度目があっても上手く行くとは限らないぞ。」
「まあでもよ、この妖怪騒ぎもそろそろ落ち着くかもしれないな。」
「……なんで?」
「新聞見てないのかよ?昨夜妖怪の死体が見つかったらしいぞ。体の火傷に火吹家の霊力が残ってたって。こっからまた火吹家様が妖怪を懲らしめてくれるだろ。」
昨日はじめたばかりの夜回りがこんなに上手く行くとは。少なくとも、人間は火吹家の仕業だと思ってくれたらしい。あとは妖怪達もそう思ってくれればいいが。




