町の知らせ
陰陽師を家に置いてから十日ほど経った。初日は敵意剥き出しだったが、今は普通に会話ができるほど警戒を解いてくれている。このまま何事もなく治療が終わればいいのだが。
陰陽師の朝食を用意したあとは、いつも通り山を降り町の料理屋に向かう。町に着くと、人だかりができている。いつもより騒がしい。
「号外!号外だよ!」
声を上げる新聞の売り子に、人が吸い寄せられていく。俺も売り子の方へ足を寄せ、新聞を買った。
料理屋の方へ進みながら新聞に目を落とす。
その記事を読み、思わず足を止めた。昨夜、町で妖怪による襲撃があり、夜警に出ていた陰陽師が殺されたらしい。町が騒がしいのもこの事件のせいかと辺りを見渡す。
料理屋に着くと店の雰囲気も普段と違って慌ただしかった。
「優里!あぁ、その新聞見たか。」
料理人仲間の佐一に声をかけられた。
「昨夜の妖怪、まだ見つかってないんだと。うちは大事を取ってしばらく営業を昼過ぎまでにするそうだぞ。」
「本当か?」
「どこもそうするみたいだぜ……」
「おい、お前ら」
店の奥から料理屋の主人の声が聞こえた。
「昨夜の妖怪騒ぎは知ってるだろ。」
そう言って主人は……どこから持って来たのか、年季の入った刀を俺達に渡してきた。
「え、なんですかこれ……」
佐一は戸惑いながら刀を受け取っていた。
「昨夜の妖怪がいつ襲ってくるかわからねえ……まだ近辺に潜んでるかもしれねえだろ。護身用に持ってろ。」
佐一は驚いた顔を見せる。
「いやいやいや!こんなもん持ってても妖怪に勝てる訳ありませんって!第一、刀なんて握ったこともないですよぉ!」
「おい、優里、お前はどうだ?」
俺は渡された刀の刀身を無意識に確認していた。
「え……あぁ……」
返答に困り、言葉が詰まる。
「少しは振ったことがありますけど……流石に妖怪に太刀打ちできるほどでは……」
「刀、振ったことあるんだな!?」
主人が身を乗り出してきた。
「いや、妖怪と戦うのは無理ですよ?」
「何もないよりはマシだ。とにかく店にいる間は手の届くところに置いとけ」
と言い残し、主人は店の奥に引っ込んでいった。
「お前さあ。」
邪魔にならないように刀を腰に差そうとしたところで、横にいた佐一に声をかけられる。
「ん?」
「なんか刀の扱い慣れてない?」
図星を突かれて動揺する。
「そ、そうかな。」
俺の肩に手を置いて、
「もしかしてめちゃくちゃ強かったりする?」
と尋ねてきた。
「しないから。」
俺は肩に置かれた手を払って答えた。
***
お昼を過ぎた頃、烏天狗さんはいつもより早く帰ってきた。私のいる部屋の前に烏天狗さんがやってくる。
「入っていい?」
「どうぞ。」
烏天狗さんが部屋に入ってきた。
「今日は早いんですね?」
「うん……ちょっとね……昨夜、町で妖怪の襲撃騒ぎがあったみたいで。」
そう言うと、烏天狗さんは新聞を取り出し、少し躊躇したように私に差し出した。新聞の見出しが目に入る。
「……!」
『夜警の陰陽師惨死 妖怪の仕業か』
慌てて差し出された新聞を掴んだ。
「昨夜の事件の妖怪がまだ捕まっていない影響で、町中の店が昼過ぎには閉店していたよ。」
「帰らないと……」
思わず呟いた。
「私の怪我はどれぐらい治っているのでしょうか。」
十日も薬を飲み続けた。最初の頃より倦怠感もなくなっている。幻術なしでも命に関わらない程度まで傷が塞がっていれば、あとは火吹家でも療養できる。
「まだ幻術なしじゃ、生命維持は無理だ。
本当なら死んでいた怪我だ。十日じゃ治らないよ。」
「薬の量を増やしてもらえれば……治るのは早くなりますか?」
「今でも十分副作用に苦しんでるだろ。俺を人殺しにしないでくれ。」
烏天狗さんは困ったように答えた。
「……すみません。」
「悪いな、これを見せたところで、君は焦るだけだろうけど。隠すのも、違うと思ったから。」
「いえ、ありがとうございます。何が起こっているかだけでも知っておきたいですから。」
私がそう答えると、烏天狗さんは気まずそうに部屋から出ていった。
手元にある新聞を握りしめる。
火吹家の陰陽師が殺された。でも、今の私には何もできない。




