↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/31

烏天狗

目を覚ますとそこは見慣れない部屋だった。

どうやら布団で寝ていたらしい。寝起きのせいか頭が回っておらず、意識を失う前の記憶を辿ろうとしていた。私が思考を巡らせていると、

「え、もう起きたの?」

と後ろから声がした。

振り返ると、襖を開けて烏天狗が立っていた。

妖怪の姿を認識した瞬間、反射的に布団から飛び起きた。

「妖怪……!」

私は身体に霊力を巡らせ、目の前の烏天狗めがけ拳を振り抜いた。

「ちょっ……と待って!落ち着いて!」

拳は烏天狗の手で受け止められた。

すかさず蹴りを入れようとするが、それもかわされる。

「それ、やめて!霊力抑えて!」

もう一撃繰り出そうとした瞬間、腹部に鋭い痛みを感じ、膝をつく。見ると血が溢れ出ており、そのままその場に倒れ込んでしまった。そういえば、私は腹部に致命傷を負ったはずだ。烏天狗が私の元に近づいて来たので身体がこわばり、また反射的に霊力が全身を巡った。

「どうしたらその霊力止めてくれるの?」

「霊力……?」

また意識が遠のいていく……


***


「とんでもない子拾っちゃったよ……」

陰陽師の傷を処置してもう一度布団に運び、俺は頭を抱えた。陰陽師の一撃を受け止めた時に負った左手の火傷を見つめる。普段なら一瞬で治るような怪我だが、まだ治る気配がない。

「まともに会話もできないしどうすんだよこれ……」


***


目が覚めるとそこは見慣れない部屋だった。

……いや、さっきもそんなことを思った気がする。

無意識に烏天狗の姿を探す。

烏天狗は少し離れたところに座っていた。

さっき見た時と違って羽がない。人間の姿に化けているみたいだ。

烏天狗は半紙を手にしており、それを広げて私に見せてきた。

『話がしたい。暴れないでほしい。』

それを見て少し力が抜けた。

「な、何なの……?」

「大丈夫?落ち着いて話できそう?」

「はい。」

「じゃあ、ここから話すよ。

君、自分が怪我人であることは理解してる?」

「……はい。」

腹部を確認すると、微かに妖気を感じた。

自分の身体から妖気を感じるのは、少し気味が悪かった。

「君の怪我はまだ治ってない。今は俺が幻術で傷を無理矢理塞いでるだけ。君の霊力は俺の術を弾くから、治るまでは、その……髪が朱くなるようなことはしないで。」

「私を助けたんですか?」

「うん、助けた。」

妖怪が陰陽師を助けた?

頭が混乱した。妖怪に人間を食べる理由があっても、助ける理由はないはずだ。

「どうして……?どうして助けたんですか?」

「どうしてって……」

烏天狗は困ったような表情を浮かべ少しの間考え込んだ。

「俺も人間の町で働いてるから。」

「……は?」

「だから人を喰う妖怪は俺にとっても迷惑なんだよ。そういう妖怪を退治してくれる陰陽師は生きておいてくれた方が都合がいい。」

「人間の町で働いてる……?妖怪が?」

「うん。そういう妖怪もいるってこと。」

初めて聞く事実に、理解が追いつかない。少なくとも、この男はそれを当然のことのように話している。

「この傷は……幻術で塞いでるとおっしゃいましたが、完全に治すことはできるのですか?」

「できる。……多分。」

「多分。」

この妖怪と話しているとなんだか気が抜けてくる。

顔立ちは整ってはいるがかなり目つきが悪い。悪人面と言って差し支えない。

人を顔で判断するのは我ながらどうかと思うが、今のところ態度と顔が一致していない。どこかで本性を見せる可能性もある。油断するなと自分に言い聞かせる。

「この怪我、治して頂けるということですか?」

「うん。妖怪しか知らないすごい薬があるから、まあそれで。」

「すごい薬??」

烏天狗が立ち上がって、私は少し身構えた。

「あ、近づいていい?近づきます!」

烏天狗がこちらに近づいて薬の包みを置いた。

見たことがない真っ赤な粉末が包装されている。

「何これ……」

「薬です。」

「薬……?」

「飲んでください。」

「これを……?」

烏天狗が薬だと言い張るその赤い粉末は明らかに怪しい雰囲気を纏っている。

助けてくれたとはいえ会ったばかりの男……しかも妖怪を信用するなんて、陰陽師として如何なものかと自分に問うてしまう。

「わかった。」

「わかった?」

「俺も半分飲む。」

「???」

「言いたいことはわかる。怪しくて飲めません、だろ。」

烏天狗は薬を別の紙に半分ほど分けて、それを飲み干した。

「毒じゃないってことは伝わった?」

「いや、あの……薬、半分になりましたけど。一回の処方量とか……」

「とりあえず飲んでほしい……」

「えぇ……」

なんだかすごく適当だ。そもそも妖怪が半分飲んだところで、人間にだけ有害な可能性もある。

とはいえ、この傷が人間の治癒能力では治らない傷だということは理解している。一度は失いかけた命だと思えば……

私は意を決して薬を飲み干した。

飲んだあと烏天狗の顔をのぞくと、何故かばつが悪そうな顔をしている。

「副作用を説明します。」

「!?」

「数刻たつと高熱が出ます。今晩はおそらく動けなくなると思います。」

突然の後出しに目が点になった。

「何で先に説明してくれなかったんですか……?」

「聞かれなかったし、飲ませることが優先だから……ごめん。」

「あなたも飲みました……!」

「いやぁ、ごめん。妖怪には何の効果もないんだ。」

そう言うと烏天狗は立ち上がり、

「何かあったら呼んで。向かいの部屋にいるから。」

と言い残して、部屋から出ていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。