花火大会③
「影の中で妖怪を倒すことができたら助かるかもしれません!」
朱理の声が聞こえた直後、身体が完全に影へ沈んだ。影の中は真っ暗で何も見えない。身体も動かすことができない。こんな暗闇の中で妖怪を見つけろだと?一体どうしろというのだ。さっきまで感じていた恐怖が、次第に怒りへ変わっていく。……気づけば腕に力が戻っていた。……ひとまず、この微弱な妖気を辿れば妖怪に辿り着くだろうか。地面に足がつかず、水中にいるような感覚だ。泳ぐように手足を動かすと、少しずつ妖気との距離が縮まっていく。
もう姿が見えてもおかしくないほど近づいたはずだが、相変わらず真っ暗で何も見えない。
「お兄さん……なんで動けるの……?」
「!」
妖怪の声か。妖気の方向から聞こえる。
「ここに落ちた人は……恐怖で動けないはずなのに……」
……次の瞬間、暗闇が裂けるように大きな口が開いた。
「あぁああああ!!」
化け物じみた顔が目の前に浮かんでいる。
「……俺を脅かしたつもりか?」
姿が見えた。それで十分だ。
瞳が、朱く染まる。
“朱炎の目”
目の前に浮かんだ妖怪が悲鳴を上げながら燃え上がる。……大した妖怪ではない。そのまま炎は燃え続け、最後はちりとなって消えた。
頭上から光がさし、身体が光の方へ吸い寄せられた。
気づくと、元いた花火会場の地面に倒れていた。
「秋実様!」
見ると朱理が安堵の表情でこちらを見ていた。
「妖怪は倒せたのですね。」
「ああ。」
起き上がり辺りを見る。地面を覆っていた影は消え、沈んでいた人々も元に戻ったようだ。そこらじゅうから安堵の声が聞こえる。
「……どうした?」
朱理はきょろきょろと辺りを見回していた。
「いえ……」
「秋実様!朱理様!」
花火大会の警備をしていた他の陰陽師が集まってきた。
「突然、影が消えたようですが、もしかして……」
陰陽師達は朱理の方を見た。
「ああ、妖怪は俺が倒した。」
「……そうでしたか! 影の中では身動きも取れず、どうなることかと思いました……ありがとうございます、秋実様。」
「お前らも影の中にいたのか……」
影の中にいた陰陽師は俺だけではなかったようだ。
「ところで朱理、俺が影に沈んだ後、沈まなかったお前は地上で何をしていたんだ。」
隣に立っていた朱理に尋ねた。
「えっ……」
「あの惨状を黙って見ていただけか。」
俺の問いかけに朱理はしばらく黙った。
「……申し訳ありません、今回の妖怪は私には手が出せませんでした。」
「ふん、そうか。」
あんなことがあれば、花火大会はもうお開きだろう。ひとまず、被害状況と会場にいた人間達の安否の確認をしなくては。




