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花火大会①

花火大会当日。決められた持ち場での警備を終え、秋実と会場周辺を巡回していた。大通りには多くの露店が並び、大勢の人で賑わっている。

特に話すこともないので、私からは話しかけなかった。露店を見ながら進む。


不意に心臓が大きく脈打った。見覚えのある姿が目に入り、足が止まる。……椿さんだ。椿さんは手元を見ながら何かを作っている。しばらくぼうっと椿さんの姿を見続けていた。

「どうした、あれが食べたいのか?」

秋実が声をかけてきた。私が同じ露店の方をずっと見ていたので、食べたいのだと思ったようだ。顔を上げると、店の暖簾には「たい焼き」の文字があった。

「……はい。」

否定をする理由もなかったのでそう答えた。秋実は露店に近づいた。

「いらっしゃ……」

顔を上げた椿さんと目が合った。一瞬驚いた顔を見せ、口元が緩んだように見える。しかし視線はすぐに秋実の方へ移り、表情も元に戻った。

「これ二つ。」

「……はい、どうぞ。」

私は秋実からたい焼きを受け取った。

「ありがとうございます。」

露店の方を見ると、椿さんはもう手元に視線を戻していた。

「目つきの悪い店番だったな。接客向いてないだろ。」

隣で歩いている秋実が呟いた。……確かに目つきは悪い。性格からは考えられないほど。そんなことを考えていると少しおかしくなった。

「ふふ……」

私は歩きながらたい焼きをかじった。

「……美味しい。」

秋実の視線を感じるが、私がそちらへ向くことはなかった。

ドォン、と腹の底に響くような音がした。花火の打ち上げが始まったらしい。

「はじまったか。」

秋実が呟いた。このまま何事もなく終わればいいのだが。花火が上がる度、その光が一瞬辺りを照らす。花火を見物する人々の影がくっきり浮かんだ。しばらく花火を見上げ、つい見物に夢中になっていた。

……その時、地面から妖気を感じた。

「!」

妖気に気付いて地面を見ると、辺りが真っ黒な影に覆われはじめていた。花火の光でも照らされることがない真っ黒な影。……人々の動揺する声が聞こえはじめる。

「うわぁああ!」

悲鳴があがった。人混みで何が起きたのかは確認できない。近くに行って確認しようと私は声の方へ進もうとした。

「ま、待て!朱理!」

秋実に腕を掴まれた。秋実の方を見ると、違和感を覚えた。いつもより秋実の頭の位置が低い。

「……?」

秋実の足元を見ると、影の中に足が沈んでいる。

「秋実様!」

慌てて腕を上に引っ張るが、引き上がる様子はない。……気付けば、人々のざわめきは悲鳴に変わっていた。辺りの人々が次々と影に沈んでいる。何が起きているのかわからない。妖気は依然として地面の中から感じる。その場を離れようとすると、秋実は掴んだ腕を離さなかった。

「朱理!なんとかしろ!」

「では手を離して頂けますか。妖気のする方へ向かってみます。」

「な、何でお前は沈んでないんだ?」

「……」

確かになんでだろう。試しに何度か地面を踏んでみるが、沈み込む気配はない。今は霊力強化も行っていない。私は秋実の手を振り払った。

「妖気を感じる場所を調べて参りますので。」

沈みゆく秋実を置いて、私はその場を離れた。

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