秋実
数日後に控えた花火大会を前に、火吹家では主だった陰陽師たちが集められ、当日の警備について話し合っていた。
広間には町の地図が広げられ、燈玄が陰陽師たちの持ち場を順に割り振っている。
「秋実、お前は川沿いを見ろ。人の集まる場所だ、何かあればすぐに知らせろ。」
「承知しました。」
朱理の父でもある前当主の火吹臙司が亡くなった後、次に火吹家を継ぐ者として俺の名が挙がった。それまでは自分が当主になるなど考えたこともなかったが、母上はそれ以来、いずれ俺が火吹家を継ぐのだと何度も言うようになった。
特別それを望んでいたわけではない。だが、嫌だと思ったこともない。
今では、俺が次の当主になる。それが当たり前のことだと思っている。
話し合いが終わり、広間を出た。
花火大会の持ち場を朱理に伝えなくては。よほど戦うことが好きなのか、いつも道場か術の稽古場にいる。道場にいなかったため、稽古場に行くと朱理の姿を見つけた。……朱理の側にもう一人……確か兼津といったか。朱理が他の陰陽師と二人で稽古場にいるなど珍しい。
「朱理!」
「……秋実様。」
「何をしてるんだ?」
「兼津さんに術の手解きをしていました。」
「術の手解き?お前は普段、刀ばかり使ってるだろう。そんなお前から何を教えることがあるんだ?」
「……」
「あ、あの秋実様……口を出して申し訳ありませんが、朱理様は剣術だけでなく術の精度も卓越していますよ。」
横にいた兼津が口を挟んできた。
「何を教えていたんだ?」
「『朱炎の目』です。」
朱炎の目……?婚約したての頃、朱理が俺に教えてくれた術だ。……この術なら俺と相性がいいと言われて、習得するまでしつこく教えられた。
「おい、そんなやつに教えてどうするんだ。」
「は?」
朱理がこちらを睨む。
「あの術はお前らのような霊力では三発も撃てないだろ。習得するだけ時間の無駄だ。」
「無駄かどうかは秋実様が決めることではありません。たとえ一度しか撃てなくても、撃てると撃てないとでは天と地ほどの差があります。」
相変わらず失礼な物言いをする。
「お前、それでどこまでできたんだ。」
俺は兼津に尋ねた。
「いえ、まだ始めたばかりですので……」
「ふん……」
軽く辺りを見ると、兼津の前に蝋燭が立てられていた。おそらくここに火をつける練習でもしていたのだろう。俺はその蝋燭を見つめた。髪と目が朱くなる。
「!」
蝋燭全体が炎に包まれた。兼津も驚いているようだ。
「朱理、少し話があるから来い。」
「話?」
「花火大会の件だ。」
「わかりました。すみません、兼津さん……やり方は教えた通りなので……」
俺が稽古場を離れても、朱理は兼津に話をしていた。
「朱理!」
名前を呼ぶと、朱理はやっとこちらへやって来た。母屋へ続く渡り廊下まで移動したところで足を止める。移動中、朱理は口を開かなかった。
今は随分無愛想になってしまったが……あの時、俺が朱炎の目を初めて成功させた時は、笑顔を向けてくれていた。
俺は懐から折り畳んだ町の地図を出し、朱理に見せながら持ち場を説明した。
「固定警備は交代制だ。担当時間以外は会場周辺を巡回する。」
「はい。」
「ここに露店が並ぶらしい。」
俺は地図を指差した。
「露店……」
「どうせなら巡回ついでに見ていくか。」
「……?えっと……秋実様とですか?」
「他に誰がいるんだ。」
「わかりました。」
たまには何か買ってやるか。この無愛想な態度も少しはマシになればいいが。




