静かな朝
朝目が覚めると、家の中は静かだった。いつもなら烏天狗さんが朝食ができたと知らせに来る頃だ。
彼の気配がないことが気になって、家の中を探してみた。向かいの部屋や台所で烏天狗さんを呼んでみたが、返事がない。
玄関の方へ足を進める。
「……!?」
玄関でうつ伏せになって倒れている烏天狗さんを見つけた。
「烏天狗さん!?」
急いで近づいて呼び起こそうとするが返事がない。
……脈は……ある。死んでいるわけじゃない。
仰向けにして状態を確認する。
「……!」
お腹のあたりの衣服が焼け焦げていて、大きな火傷があった。汗をかいて苦しそうな表情を浮かべている。……火傷から霊力を感じる。
「もしかして……」
烏天狗さんは札を懐にしまっていた。その札が何かの拍子に暴発してしまったのかもしれない。霊力が妖怪の再生力を阻害しているのだろう。
「……っ」
罪悪感に浸っている場合ではない。私は火傷に手を伸ばした。霊力を取り除くと、火傷がみるみる消えていく。その様子を見て、ようやく少し息をついた。烏天狗さんはまだ起きる様子がなかったのでひとまず部屋まで運ぶことにした。
烏天狗さんを布団に寝かせる。着物を見ると妖怪の返り血だろうか、少し汚れている。……衛生上着替えさせた方がいいと思うが……異性を着替えさせるのは流石に躊躇いがあった。しばらく葛藤したあと、
「……ご、ごめんなさい……私には無理です……」
手を合わせて謝る。せめて、と額の汗は拭っておいた。
烏天狗さんの横でしばらく様子を観察していたが、苦しそうだった表情も穏やかになり、今は静かに寝息を立てている。妖怪の回復力にほっとし、部屋を出る。
今まで烏天狗さんが毎日食事を用意してくれていたことを思い出す。烏天狗さんが起きるまでに、朝食を用意できないだろうか……
***
目が覚めると自室の布団で寝ていた。体を起こして、何があったかを思い出す。……確か、玄関で倒れてしまった気がする。体を見ると着物は焼け焦げたままだったが、火傷跡はなくなっていた。
「……あれ?」
前に陰陽師ちゃんから受けた火傷でさえ、治るのに三日ほどかかった。だから今回はそれ以上の時間がかかると思っていたのだが。
……そうだ、俺は玄関で倒れていたはず。誰が運んだ?……陰陽師ちゃん?
ああ、そういえば彼女の食事を用意できていない。
立ち上がり、着物を着替え、部屋を出る。
「……?」
台所の方から音が聞こえる。
***
「陰陽師ちゃん?」
「!」
私が朝食の準備をしていると後ろから声が聞こえた。振り返ってみると、烏天狗さんが立っている。
「烏天狗さん、起きたんですね。体は大丈夫ですか?」
烏天狗さんの方へ近寄って表情を覗くと、きょとんとしてこちらを見ている。
「……」
「……烏天狗さん?」
「ああ、うん、大丈夫……」
「良かったです。……ごめんなさい、渡した札のせいですよね?」
「……いや、俺の不注意だから……えっと……君が部屋まで運んでくれたの?」
「はい。火傷に残っていた霊力を取り除いたら、火傷跡が消えていくのは確認したのですが。流石に着替えはさせられなくて……」
「火傷治してくれたの……?」
「治したというか……勝手に治ったというか……」
「……そっか、ありがとう。」
「あの……」
「烏天狗さんが寝ている間に朝食を作ったので……食欲ありますか?」
「食事まで作ってくれたの……!?」
「……お口に合うかわかりませんが。」
「ありがとう、頂くよ。」
向かい合わせに膳を並べる。
我ながら、料理の見栄えに顔をしかめる。烏天狗さんが作ったものとは比べ物にならない……
「頂きます。」
私は不安なまま、烏天狗さんが食事を口に運ぶのを見ていたが、私の心配とは裏腹に烏天狗さんはにこにこしている。
「美味しい。」
「!」
烏天狗さんの言葉に驚く。
「ほ、本当ですか……?」
「うん、美味しいよ。」
そう言って烏天狗さんは箸を進める。
私も自分の作った食事を口へ運ぶ。見た目はよくないが、食べられなくはない……かな……
「ご馳走様でした。」
食べ終えると、烏天狗さんは手を合わせた。
「……陰陽師ちゃん、ありがとう。」
烏天狗さんはこちらに優しく微笑んだ。
なんだか照れてしまい、少し目を逸らしてしまった。
「い、いえ……いつもお世話になっていて……お礼を言うのは私の方ですから。」




