↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルケミストのアロンは母さんを探す旅に出る!  作者: 一雲一人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/20

第19話 『アルケミストは母さんを探す旅に出る』

王都の宮殿近くに借りた小さな家。

アロンの一家は、そこで静かな暮らしを始めていた。

お父さんは朝早くから研究施設へ向かい、量産化の難航に頭を悩ませている。ラーテルは近所の市場で買い物をしたり、時折り空を飛んで風を感じたりと、意外と都会の生活を楽しんでいる様子だった。

アロンはというと、毎日のようにスクーターの調整を繰り返していた。

量産がうまくいかない理由を、自分なりに考え続けている。

「糸の張り方とか、シリンダーの微妙な圧力とか……言葉にしにくいんだよな」

指先の感覚で調整したものを、図面だけで再現するのは無理がある。

それが分かっていても、国のためだと言われれば、何かできることはないかと模索せずにはいられなかった。

そんなある午後のこと。

家の前で、小さなざわめきがした。

「……ここか?」

聞き慣れない声に、アロンが玄関を開けると、そこに立っていたのは若い兵士だった。

片足を失い、木製の簡易義足に体重を預けている。年齢は二十歳前後。顔にはまだあどけなさが残っている。

「あなたが……紅蓮のアルケミスト、アロンさんですか?」

「え、あ、はい……」

兵士は深々と頭を下げた。

「お願いします。僕の足を、直してください」

アロンは目を丸くした。

噂は、街に広がっていた。

「片腕の所長に腕を生やした少年がいる」「あいつなら失った手足を取り戻せる」――そんな話が、酒場や兵舎で一人歩きを始めていたのだ。

「僕は……ただのアルケミストで」

「善戦で、あなたの鉄馬を見ました。あれに助けられた兵士は、僕だけじゃありません。だから、お願いします。もう一度、剣を握りたいんです」

真剣な瞳だった。

アロンは黙って、兵士の簡易義足を見た。

お父さんの腕のときとは違う。足は体重を支え、地面を蹴り、バランスを取る必要がある。簡単な話ではない。

それでも、アロンの中で何かが動いた。

「……中に入って。見せて」

リビングに通された兵士は、緊張した面持ちで簡易義足を外した。

切断箇所は膝下だ。残された筋肉はまだしっかりしている。

アロンはいつものように、静かに触診を始めた。

「頭の中で、無い足の指を動かしてみてください」

「は、はい……」

兵士が幻肢を動かすたびに、アロンの指が皮膚の上を正確になぞっていく。

筋肉の反応を確認し、骨の残り具合を測り、重心の位置をイメージする。

(腕のときより難しい。でも……できないことはない)

しばらくして、アロンは顔を上げた。

「作れます。ただし、すぐには動けません。練習が必要です。それでもいいですか?」

兵士の目が一気に輝いた。

「はい! いくらでも練習します!」

その夜。

夕食の席で、アロンは両親に報告した。

「今日、足を失った兵士が来たんだ。義足を作ることにした」

お父さんは箸を置き、静かに息子を見た。

「……無理はするなよ。お前の体は、まだ発展途上だ」

「分かってる。でも、やりたいんだ」

ラーテルは微笑みながら、アロンの頭を優しく撫でた。

「やってみなさい。ただし、困ったときはすぐ言いなさい。いいわね」

「うん」

アロンは小さく頷いた。

その夜、自室に戻ったアロンは、机に向かって設計を始めた。

お父さんの義手で得たデータ、釣りで作った収縮する糸、スクーターの魔導シリンダー技術。

それらを組み合わせ、今度は「歩ける足」を生み出す。

ペンを走らせながら、アロンはふと思った。

(僕が作れるものって、まだ他にもあるのかな)

窓の外では、王都の夜景が静かに輝いている。

研究施設では相変わらず量産化が難航し、街では自分の噂が一人歩きしている。

そしてアロンは、自分の手で、もう一つの「可能性」を作り始めていた。

翌朝。

兵士が約束通りに再訪したとき、アロンはすでに最初の試作フレームを手元に置いていた。

「今日から、始めよう」

そう言って笑う少年の目は、いつもの職人の光を宿していた。



つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。