第17話 『ローレルとの再会とアイアンペガサス』
前方に、巨大な白い石壁が見えてきた。
人族の心臓部――王都である。
アロンたちが城門の手前でゆっくりと地上へと降り立ち、門をくぐろうとした、その時だった。
「お、おい! あれを見ろ!」
「間違いない……あの紅蓮のライン、鋼鉄の馬……『アイアンペガサスを操る紅蓮のアルケミスト』だ!」
門兵たちがスクーターを見るなり、色めき立って大声をあげる。
すでに前線の兵士たちの口コミや、国王が放った使いによって、王都にはアロンの噂がまたたく間に広がっていた。
「えっ、ええっ!?」
周囲の群衆からも一斉に視線が集まり、「おおお!」「あれが国を救った奇跡の鉄馬か!」と大歓声が巻き起こる。
予想以上の大歓迎に、アロンは顔を真っ赤にしてスクーターの影に縮こまるしかなかった。
熱狂する群衆を割るようにして、王宮直属の魔法聖騎士団の護衛が整然と現れる。
「アロン殿、および所長、ラーテル殿ですね。国王陛下、ならびに魔法聖騎士団幹部がお待ちです。宮殿内へご案内いたします」
厳重な警護に守られながら、アロンたちはそのまま壮麗な宮殿の奥へと進んでいった。
案内されたのは、先日の魔界ゲートの危機の際に全軍の指揮を執っていたという、重厚な扉に閉ざされた「司令室」だった。
トントン、と護衛が扉を叩き、静かに開け放つ。
「よく無事で戻った、ラーテル……! 司令室から一歩も動けず、ずっとお前たちの身を案じていたんだぞ!」
部屋の奥から大股で歩み寄ってきたのは、魔法聖騎士団の幹部としての威厳と、立派な体躯を鎧に包んだ男――ラーテルの実の兄であり、アロンの叔父であるローレルだった。
かつて前線で戦い抜き、今は全軍の要として鋭い眼光を放つローレルだが、久々に再会した妹の前では、一人の優しい兄の顔を隠しきれずにいる。
お父さんに対しても、「義弟よ、息災だったか」と深く頷き、男同士の確かなリスペクトをにじませた。
「お兄ちゃん、久しぶりね。心配かけてごめんなさい。でもね、挨拶もそこそこに、まずはお兄ちゃんに見せたいものがあるのよ」
「ん? 見せたいもの?」
ラーテルがふふっと不敵に笑い、アロンの後ろにある『アイアンペガサス』を指差した。
「お兄ちゃんが昔、朝露の爺さんの家にポイ捨てしていった、あの五十㏄の魔導二輪。アロンの手で直されて、今、こうなったのよ」
「何……?」
ローレルが怪訝そうな顔で、アロンの愛車へと視線を移す。
最初は「何を言っているんだ?」という顔だった。
しかし、その紅蓮の装甲の奥にある、見覚えのある古いシリンダーの刻印とフレームの形状を認め、それが前線で大暴れしたという『鋼鉄の天馬』の正体だと脳が理解した瞬間――。
魔法聖騎士団幹部としてのローレルの全威厳が、音を立てて崩壊した。
「……は!? 俺が若い頃に乗って、朝露の爺さんの家に捨ててったあの原チャリが、前線で大暴れしてた『鋼鉄の天馬』だってぇ!!?」
司令室の窓ガラスがビリビリと震えるほどの咆哮が、王宮の廊下にまで響き渡る。
「声が大きいわよ、お兄ちゃん。これでも一応、王宮なんだから少しは静かにしなさい」
ラーテルが耳を塞ぎながら呆れたように言うが、ローレルはそれどころではない。
「静かにしていられるか! おいアロン、本当か!? あれ、本当に俺のあのボロ原チャリなのか!?」
「は、はい、間違いなく……。あちこち魔造錬金で補強しちゃいましたけど、ベースはローレル叔父さんのバイクです……多分」
アロンが気圧されながら答えると、ローレルはガシガシと自分の頭を掻きむしり、「信じられん、あのポンコツがなぁ……」と天井を仰いだ。
そんな騒ぎを、お父さんは一歩引いたところから静かに見守っていた。
その顔には、どこか満足げな、それでいてどこか酷使した体に耐えるような、微かな陰りがある。
「――おい、何を騒いでいる、ローレル」
重厚な足音とともに、司令室のさらに奥、カーテンで仕切られた上座から一人の男が姿を現した。
白髪交じりの髪を厳かに整え、気品と圧倒的な覇気を纏った男。
この人族の国を統べる王、その人であった。
つづく




