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アルケミストのアロンは母さんを探す旅に出る!  作者: 一雲一人


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15/20

第15話 『小さな職人の誓いと、未完成の右腕』

エルフの郷に帰り着いてから、数ヶ月が過ぎていた。

懐かしい我が家で、アロンは毎日のように赤いスクーターのメンテナンスに精を出していた。お父さんは最初こそ緊張気味だったが、今ではすっかり村の生活に馴染んでいる。最近は「先日の戦いを忘れないうちに」と、魔界のゲートに関する資料作りに没頭する日々だ。

家族三人で過ごす穏やかな時間。

そんなある日、お父さんがふと思い立った。

「アロン、少し離れた川へ釣りに行かないか?」

誘われたアロンは目を輝かせた。

「釣り!? 行く行く! でもお父さん、後ろに乗るよね? だったらスクーター、もう少し改良しなきゃ」

さっそくアロンは魔導シリンダーの出力を調整し、特製の『二人乗りシート』を作り上げた。翌日には、赤いスクーターに男二人を乗せて、川辺へと飛んでいく。

男だけの釣りが始まった。

最初はお父さんからイロハを教わるアロンだったが、経験の差は大きく、初日は一匹も釣れずに完敗。

「むぅ……負けた」

しかし、負けず嫌いなアロンはすぐに職人の顔になった。

「どうすればもっと釣れるか」を研究し始め、魔導具の技術を応用してとんでもないものを生み出してしまう。

錬金術で作り出した不思議な『伸びる糸』。

重りを付けて投げると五倍ほどに伸びて戻り、水に浸かると長さが固定され、空気に触れるとまた縮む。

さらに、水中の生命反応を感知して自動で追尾する『熱感知装置』まで仕込んだ。

これらを餌の重り代わりにした特製の釣り竿。

「……よし、かかった!」

結果、お父さんより遥かに多くの魚を、百発百中で釣り上げるようになった。

「それはもう釣りじゃなくて漁だろ……」

お父さんは苦笑いするしかない。

地面でピチピチと跳ねる魚。

お父さんはそれを不器用そうに、けれど優しく、左手一本だけで針を外そうと苦戦していた。失われた右腕の袖が、動きに合わせて寂しげに揺れている。

それを見たアロンは、静かに傍らへ歩み寄った。

「お父さん、右腕を見せて」

真剣な目をした息子の言葉に、お父さんは一瞬目を見開いた。

だが、瞳の奥にある『職人の光』を見て取り、静かに右袖を捲り上げる。

肘の少し先で千切れた、かつての修羅場の痕跡。

アロンは傷口の痛々しさに一瞬胸を痛めながらも、すぐにアルケミストの顔になり、小さな両手で残された腕の筋肉を優しく、的確に触診し始めた。

「お父さん、今、頭の中で『無い右手の小指』を動かせる?」

「……ああ。感覚としては、今もそこにあるように動かせるぞ。幻肢というやつだな」

「うん、そのまま動かし続けて。指を一本ずつ……そう、順番に」

お父さんが頭の中で右手を動かすたびに、アロンは皮膚の上を指先でなぞり、微かに躍動する筋肉の場所を正確に調べていく。

(ここだ……! 魔力はなくても、脳からの命令で筋肉は確かに動こうとしている。ここに、僕が作った『収縮する糸』を貼り付けて束にしておけば……)

脳裏に、一瞬で新型義手の設計図が組み上がる。

(指は五本。でも親指の複雑な動きと全体のバランスを制御するには、小指ほどの小さな魔導シリンダーが七つ要る。そのシリンダーをこの筋肉の束と連動させれば、お父さんの『動かしたい』って感覚のままに、指が動く右腕ができる)

人族のトップ魔導士たちが「魔力がないから無理だ」と匙を投げた難題を、アロンは「筋肉の収縮と魔導具の物理連動」という、まったく新しいアプローチで突破口を見つけ出していた。

「……アロン? 私の腕が、何か役に立つのか?」

不思議そうに見つめるお父さんに、アロンは右腕をそっと包み込むようにして、満面の笑みを浮かべた。

「ううん、なんでもないよ! ……さあ、そろそろ日が暮れるね。母さんが待ってるから帰るとするか」

その夜。

三人で温かい夕食を囲みながら、アロンは昼間の決意を言葉にした。

「お父さん。僕、お父さんの右腕を作れるよ。昔みたいに、両手で器用に何でもできるようになる」

「右腕を……か?」

お父さんは言葉を失い、自分の千切れた腕と、息子の頼もしい小さな手を交互に見つめた。

隣で、すべてを察したラーテルが、静かに、けれど激しく胸を揺さぶられて涙ぐんでいる。

「うん! 世界で一番かっこいい、お父さんだけの右腕だよ」

アロンは興奮で目を輝かせながら、「明日の昼前には小型の魔導シリンダーを作って、さっそく試してみよう」と約束した。

――翌日の昼過ぎ。

お父さんは書斎で資料作りに取り組んでいたが、どうにも身が入らない。そわそわと右腕の袖を見つめてしまう。

そこへ、約束通りに工具とパーツを抱えたアロンがやってきた。

作業が始まる。

アロンはお父さんに右腕の指を順番に動かすよう頼み、その動きに合わせて『収縮する糸』を皮膚の上に一本ずつ仮止めしていく。糸を幾重にも重ね、束にして、失われた本物の筋肉の代わりを形成していくのだ。

緻密な作業を何度も繰り返したのち、その束の隙間へ、午前中に作り上げたばかりの七つの小さな魔導シリンダーを慎重に繋いでいった。

まだ、皮膚はない。

剥き出しの細い金属筒と、複雑に編み込まれた不思議な糸の束が、お父さんの肘の先に不格好に取り付けられているだけの状態だ。

アロンは工具を置くと、額の汗を拭い、息を呑んでお父さんの顔を見上げた。

「お父さん……少し、動かせる?」




つづく

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