↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルケミストのアロンは母さんを探す旅に出る!  作者: 一雲一人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/20

第13話『かつての勇者と少年の鉄の馬』

「僕のスクーターに積んであったアトミック・ウォーターの球をね。母さんの風魔法で、ゲートの真ん中にシュッて投げてもらったんだ」

アロンは得意げに胸を張った。

「タイマーの計算は、一回爆発させて確認してたから、ピッタリだったでしょ?」

「アトミック……ウォーターを、その歳で制御したというのか……? いや、それ以前に、その魔導シリンダーの構造は……」

割れた眼鏡の奥で、お父さんの目がこれ以上ないほど見開かれる。

我が子の顔と、見たこともない赤いスクーターを交互に見つめ、完全に思考が追いついていない。

そんな夫を見て、ラーテルは小さくため息をついた。

呆れたような、けれど誇らしげな笑みだった。

「そういうことよ、あなた。あなたが何年もかけて解けなかった空間理論を、うちの息子は旅の途中で、あの赤い鉄の馬に乗りながら解き明かしちゃったの」

「……」

「さあ、今度こそ片付けて帰るわよ? それとも……また私に治療されたい?」

「……降参だ」

お父さんは残った片手を上げた。

「まったく……誰に似て、こんな規格外に育ったんだか」

「あなたと私に決まってるじゃない」

ラーテルは楽しそうに笑った。

大陸の空を、二つの影が並んで駆け抜けていく。

一つは、風の衣をまとって滑空するラーテルの箒。

もう一つは、魔導シリンダーを心地よく響かせながら進む、アロンの赤いスクーター。

「気持ちいいーっ!」

アロンが風に向かって叫ぶ。

その横顔を、ラーテルは愛おしそうに見つめていた。

家を出てから、もうすぐ半年。

その間に、息子は自分で考え、自分で魔導具を直し、そして空まで飛べるようになった。

母親として、誇らしくないはずがない。

「あ!」

アロンが突然、地上を指差した。

「母さん! 見えてきたよ!」

「ん?」

「あそこ! 僕が三日間お世話になったダースミ村!」

のどかな田園風景の中に、レンガ造りの家々がぽつぽつと並んでいる。

村の一角。

ひときわ頑丈そうな家の前には、すでに人だかりができていた。

「……何かあったのかな?」

「さあ?」

ラーテルが首を傾げる。

だが、その答えはすぐに分かった。

「お前はいったい、どこから降ってきたんじゃ!」

「いや、だから私にも分からんのだ!」

地上から、聞き覚えのある怒鳴り声が響いてくる。

「……父さん」

アロンが頭を抱えた。

「また何かやってる……」

二人は速度を落とし、エドワードの家の前へゆっくりと降り立った。

トンッ。

スクーターのタイヤが地面に着く。

アロンはエンジンを止めると、ヘルメットを外して駆け出した。

「お爺さん! ただいま!」

勢いよく扉が開く。

現れたのは、白髪交じりの無骨な髭を蓄えたエドワードだった。

「アロン……!」

その顔に浮かんだのは驚きだった。

そして次の瞬間には、安堵の笑みへと変わる。

「あの赤い鉄の馬を直して、本当に生きて帰ってきやがったか。大したガキだ」

「だろぅ?」

アロンが胸を張る。

「僕、ちゃんと――」

その時だった。

エドワードの視線が、アロンの隣へ移った。

ラーテル。

その姿を見た瞬間、老人の表情が凍りついた。

「……まさか」

一歩。

エドワードが前へ出る。

「お前……ラーテルか?」

「ええ。久しぶりね、エドワード」

ラーテルは昔と変わらない、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「……やっぱり、お前か」

エドワードの顔に、驚きと懐かしさが入り混じる。

「まさか、アロンの母親がお前だったとはな……」

「え?」

アロンが固まった。

「……どういうこと?」

母を見る。

エドワードを見る。

もう一度、母を見る。

「お爺さん……母さんのこと、知ってるの?」

「知ってるも何も――」

エドワードは豪快に笑った。

「昔、わしらと一緒に世界を救うために旅をした仲間じゃよ」

「…………え?」

アロンの口が、ぽかんと開く。

「世界を……救った?」

「そうじゃ」

「母さんが?」

「そうじゃ」

「お爺さんが?」

「そうじゃ」

「二人が一緒に?」

「そうじゃ!」

「ええええええええっ!?」

アロンの叫び声が村中に響き渡った。

そしてなぜか、その後ろにいた父親まで、

「ええええええええっ!?」

と叫んだ。

「あなたまで驚くの?」

ラーテルが呆れた顔をする。

「いや、だって……聞いてないぞ!」

「言ってないもの」

「なぜだ!」

「聞かれなかったから」

「……」

父親は絶句した。

エドワードは腹を抱えて笑い出す。

「はっはっは! なるほどな! お前の息子も大概だが、夫婦になっても相変わらずじゃ!」

「相変わらずって……」

アロンは呆然としたまま、母を見る。

今まで、自分の母親はただの優しい母親だと思っていた。

風魔法が得意で、料理が上手くて、少しだけ怖い。

それだけだと思っていた。

なのに――。

「母さん……昔、勇者パーティーにいたの?」

「ええ」

ラーテルは静かに頷いた。

「でも、その話は……今日はここまで」

「え?」

アロンが聞き返す。

ラーテルは笑っている。

けれど、その笑顔の奥に、一瞬だけ寂しそうな影が見えた。

「続きは、夜にでも話しましょう」

エドワードが鼻を鳴らす。

「いや、今夜は長くなるぞ。こいつの昔話は、酒が入らんと始まらんからな」

「ほう……」

父親の目が輝いた。

「それはぜひ聞きたい」

「あなた、飲みすぎないでよ?」

「分かっている」

その言葉を聞きながら、アロンは赤いスクーターを振り返った。

長かった旅が、ようやく終わった。

母親にも会えた。

父親も戻ってきた。

そして――自分の母親には、自分の知らない過去があった。

「……世界を救った、か」

アロンは小さく呟く。

その夜。

エドワードの家では、三十年前の冒険の話が始まった。

だが――。

アロンはまだ知らなかった。

その昔話の中に、自分の旅にも繋がる「ある出来事」が隠されていることを。

そして、それを知った時。

アロンは再び、赤いスクーターに乗ることになる。



つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。