第9話 魔王も勇者もいない世界
【勇者も魔王もいない世界】
日曜日の朝は、ある意味、龍太にとっては神聖な時間だった。
雷轟戦士サンダーヴァルカンが放送されるからだ。
まだ赤ん坊の時に、これを見せられ、それ以来、毎週欠かさず観ている。
しかし、どれほど人気があっても、最終回はやってくる。
悪の組織の本部に単身乗り込み、傷つきながらも戦い続けるサンダーヴァルカン。
そして、ついにボスの部屋での決戦。
圧倒的な強さを誇る敵に苦戦するが、何度倒れても立ち上がり、戦い続ける。
卑怯な罠も、数の不利も、サンダーヴァルカンを止めることはできない。
『これで終わりだ、ファイナルファイアーヴァルカン!!』
『ギャアアアア!!』
ついに、ボスを倒した。
崩れ落ちる悪の組織の本部、その外でサンダーヴァルカンの仲間たちが待っている。
『サンダーヴァルカン!!』
『まさか、あいつが死ぬわけがない!!』
『馬鹿野郎!! 悪の組織をやっつけても、お前が死んじまったら意味がないだろうが!!』
その時、朝日を背に、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくるシルエットが見える。
ちなみに、崩壊した悪の組織の本部とは全然違う方向だ。
誰かが近付いて来ることに気付いた仲間たちが顔を上げる。
そして、変身を解いた主人公が大きく手を振ると、全員が彼に向かって駆け出した。
ここでオープニングテーマが流れ、これまでの激しい戦いの日々がダイジェストで映し出される。
そして最後に、大きな「完」の文字。
「……。」
龍太は、テレビの前で片膝をつき、深々と頭を下げた。
勇者がこの世界を救ったのだ。
「俺がもう少し大きければ、一緒に戦えたのに、実に口惜しい」
『勇者よ、貴様、それ本気で言っておるのか?』
隣で一緒にテレビを観ていた黒柴犬のゼルが、半眼になりながらそう言う。
『当たり前だ。彼はこの世界を救ったんだぞ』
思念で龍太がゼルにそう言った時、突然、テレビから聞こえる音楽が変わった。
『ハーッハッハッ!! スポーツのルールを無茶苦茶にして、世界中を混乱させてやる!!』
サッカー場で金属バットを振り回す怪人。
その時、
『そんなことは、この俺が許さねぇ!!』
『誰だ?!』
『俺の名前はギャラクティック・ストライカー!! 世界のスポーツは俺が守る!!』
次回、新番組、スポーツ戦士ギャラクティック・ストライカー!! スポーツマンシップが燃えるぜ!!
というテロップが派手に表示される。
「な……なんだと?」
龍太の目が点になった。
「おかしい、戦いが終わったはずなのに、来週からまた新たな戦いだと? サンダーヴァルカンはどうした? 実戦経験が豊富な彼の方が、そのギャラクティック・ストライクバッターアウトよりはるかに強いはずだぞ?」
『ギャラクティック・ストライカーな』
そう思念で言うゼルに、龍太が顔を向ける。
「も、もしかして……」
『やっと分かったか。これは娯楽だ。前の世界でも芝居はあっただろう? あれをテレビで流しているだけだ』
『で、では、この世界に魔王はいないのか?』
それを聞いて、ゼルが、
『失礼な奴だな。ここにいるだろうが』
『ああ、そういえばいたな。一匹だけ』
その後で、二人が、ハァとため息をつく。
『そうか……この世界にはゼル以外に魔王はいないのか。では、俺はこの世界で何を目標にすればいいのだ? 前の世界では、生まれた時から魔王を倒す勇者として育てられていたのだぞ』
わずか3歳にして、生きる目標を失った龍太。
『勇者よ、お前は何を望む?』
『皆が笑顔で暮らせる世界だ』
それを聞いて、ゼルが、そんな世界、反吐が出るぜ、とばかりに舌を出す。
しかし、すぐに真顔に戻ると、
『その平和な世界に、お前の居場所はないのか? お前の存在が、すでに誰かを笑顔にしているとなぜ気付かない』
『俺が……誰かを笑顔に?』
そして、思い出す。
両親や美月やあかりたちの笑顔を。
あと、ついでに寛太も。
「そうか、忘れていた。俺もこの世界の一部なのだな」
そう呟くと、小さな自分の手を見つめた。
『そういうことだ。戦う相手がいないのに、無理して戦う必要はない。だったら、平和を楽しめ。我は正直言って全然楽しくないがな』
『嘘つけ。お前も結構、今の暮らしを気に入っているだろうが』
ニヤッと笑うと、龍太が思念でそう言い、そして、あることを思いついた。
『そうだ。最近よくニュースで見る、トラ〇プやプー〇ンでも倒しに行くか、あいつらはかなり魔王っぽいぞ』
『それは駄目だ!!』
龍太に、ゼルが激しく突っ込む。
『そ、そうか、駄目か』
少し残念そうな龍太を見て、ゼルが、
『お前の方が魔王に見えてきたぞ』
と、思念で呟いた。




