第8話 勇者パーティー結成
【勇者の舎弟】
龍太とゼルがクゥちゃんをヤクザの事務所から救出した翌日
登園してくると、普段は真っ先に悪戯をしていた大門・寛太の様子が、今日は違う。
「来たわよ、皆、身構えて!!」
黒いアルファードから降りてきた寛太に気付いた教諭がそう言うと、他の教諭たちが一斉に動き出した。
まずは、手に取って投げられる物や、クレヨンなど、らくがきできる物を隠す。
あと、気の弱い子供は自分たちの背後に隠す。
最後に、自身も防護姿勢を取る。
この悪ガキは、大人になってから触れれば社会的に一発アウトな、大人の女性の胸を鷲掴みにしたり、お尻に向けて鋭い一撃を放ってきたりすることがあるのだ。
教諭たちは最後に、「先生、お願いします!!」とばかりに龍太を前面に押し出す。
彼がいる限り、悪ガキの寛太はすぐに無力化されるのだ。
「えっ?」
この日はいつもと違い、寛太の父親が一緒に降りてきた。
普段は送迎専属の人間が来ていたため、入園式の時以来だ。
「これは、先生、いつもうちのバカ息子が迷惑をかけてすまねぇな」
「い、いいえ」
スーツ姿なのだが、絶対にサラリーマンには見えない。
さらに言うと、車に乗っている運転手はいかにもチンピラといった感じの外見をしている。
「ん? あなたは?」
寛太を迎え撃つために玄関まで出て来ていた龍太が驚く。
「よう、坊主。お前、本当に園児だったんだな。寛太に聞いた時には半信半疑だったが」
「もしかして、寛太は?」
「ああ、俺の息子だ。俺に似て馬鹿で手が付けられないだろう」
そう言うと豪快に笑い、隣に立つ寛太の頭をガシガシと撫でる。
「り、龍太さん、おはようございます!!」
寛太が両足を肩幅に開くと、後ろで手を組み、上半身を深く前に倒して、そう言った。
「さ、さん?」
教諭たちが一斉に驚く。
「親父に、今日から龍太さんの下で男を磨けと言われました!! 俺を舎弟にしてください」
「し、舎弟?!」
確か、弟子のような意味だったはずだが。
「すまねぇな。いつもこいつが世話になっていたそうじゃねえか。これからも仲良くしてやってくれよ」
「まあ、仲良くするのは構わないが」
「友達のトイプードルのために、あそこまでできるんだ。ついでに男気ってやつも教えてやってくれよ」
それを言われると、いろいろと辛い。
「ほらっ、やっぱりクゥちゃんを見付けてくれたのは龍太君じゃない!!」
後ろで聞いていたあかりが、そう言っているのが聞こえる。
「龍太さん、よろしくお願いします!!」
昨日までとは別人のような寛太が、頭を下げたまま、そう言った。
「俺、どこまでも龍太さんについて行きますんで」
転生前の世界でも、こういうことは何度もあった。
勇者としてパーティーメンバーと旅をしていた時、いろいろな場所で魔物や魔族を退治し、人々に感謝をされた。
そうすると、救われた街や村の若者が、勇者の弟子にしてくれと言って寄って来たのだった。
もちろん、危険な旅の途中であるため、そのような余裕はないと言って断っていたが。
それでも、たまに諦めきれずに黙ってついて来る者がいた。
そういう者たちは、途中で撒いたり、魔法で眠らせて置き去りにしたりしたのだが、一人だけ、運が悪く魔獣との戦いに巻き込まれて命を落とした者がいた。
それはまだ若い男で、勇気と行動力だけはあったが、逆に言うと、それ以外は何もない普通の青年だった。
勇者ライナスたちは、森の奥に住み着いた巨大な魔獣を退治するために、何日も歩き回った。
そして、その弟子志望の男は、こっそりと勇者パーティーについて来て道に迷ってしまい、最悪なことに、その巨大魔獣と鉢合わせしてしまったのだった。
ライナスたちが魔獣の気配に気付いて駆けつけた時には、手遅れだった。
男は、大僧侶の蘇生魔法でも救えない状態、つまり食い千切られ、咀嚼され、胃袋の中に収まってしまっていたのだ。
魔獣を倒した後、男の靴や衣服の切れ端が周囲に落ちていたため、それに気付いたライナスは激しく後悔をした。
彼をもっと早く追い返すか、せめてこの森の中だけでも一緒に行動していれば、救えた命だ。
「勇者ライナス、僕を弟子にして下さい!!」
今でも、あの男のその言葉は耳に残っている。
「どうした、坊主?」
「ん? ああ、舎弟とかはさすがに無理だが、友達でよければ」
「おおっ、それで十分だ。よかったな、寛太」
「うっす、ありがとうございます、龍太さん!! 俺、親父に言われたんです。お前もああいう男になれ、ものすごく強いのに、弱い者にも優しくできるのが、真の男だって」
だったら極道なんか辞めてしまえと思うが、言わないでおく。
「ものすごく強いって……いったい、龍太君、何をやったの?」
後ろで美月がそう呟いたのが聞こえたが、聞こえなかったふりをする。
「まあ、うちの玄関の修理代分ぐらいは、面倒見てやってくれや」
「まあ、その程度でよければ」
「ねえねえ、龍太君はパーティーを組んだの?」
あかりがニコニコしながら、そう言ってきた。
「パ、パーティー?」
全くそのようなつもりはなかった龍太は驚いた。
「でも、寛太君を仲間にしたんでしょ?」
どうやら彼女には舎弟とは何なのかよく分からなかったので、そのように理解したようだ。
「私も、パーティーに入れてよ!!」
「何でそういう話になるの?」
龍太が戸惑っていると、
「あら、面白い話をしているわね」
あかりについて来た美月もそう言う。
「じゃあ、美月ちゃんも一緒に仲間だね!!」
「やりましたね、龍太さん。これで4人パーティーですよ」
「やりましたねって……」
まあ、ここで言うパーティーメンバーとは友達と同じ意味のため、断る理由もないのだが。
「まあ、いいか」
ただ、きっと家に帰ってゼルにこの話をしたら、バカにされるだろうなと思った。




