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転生勇者とついでに魔王~異世界転生した勇者と柴犬魔王の凸凹コンビ~  作者: よしぞう


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第7話 組事務所攻略

3階建ての怪しいビルに、一人と一匹が近付いて行き、ガラス張りの扉を開けようとする。


 しかし、鍵がかかっていた。


 扉の横にはインターホンがあるが、龍太の身長では届かない。


『どのみち、今の幼児の身体では、まともに相手にされないだろう』


『それに、まともな話し合いができる相手とは思えん』


『ならば』


 そのビルは、世に言う反社会的組織の組事務所だった。


「おい、事務所の前に犬を連れたガキがいるぞ」


 監視カメラのモニターを見ていた、ゴリラを擬人化したような男がそう言った。


「散歩か? 糞とかしてないだろうな?」


 ゴリラ男と一緒にモニターを監視していたパンチパーマ男がそう言った。


 この部屋は、同業のライバル組織からの襲撃に備えて、正面玄関の側にある。


 ここが普通のビルなら、受付や守衛室がある位置だ。


「ちょっと、追い返してくるわ」


 ゴリラ男がそう言って立ち上がった。


「止めとけって。最近のガキは皆、防犯ブザー持ってるから、下手に脅したら鳴らされるぞ」


 そうなれば、保護者が警察に通報して、面倒臭いことになる。


 まったく、何でヤクザがガキに怯えんといかんのだ。


 などとブツブツ言いながら、防犯ガラスの入った扉に近付いた時、突然、それが内側に吹き飛んだ。


 まるでダンプカーに突っ込まれたような勢いで、両開きのドアが蝶番から外れている。


「フゴォオオオオオ!!」


 ゴリラ男が、扉の残骸と一緒に、正面玄関のホール内を吹き飛んでいく。


「な、殴り込みか?!」


 パンチパーマ男が警棒を手に取って飛び出してくる。


 最近は、ヤクザも迂闊に拳銃など使えない。


 下手に銃声などさせようものなら、すぐに警察が押し寄せてくるからだ。


 玄関ホールに出ると、扉が完全になくなっていた。


 そして、床一面に飛び散ったガラスの破片を踏みしめつつ、幼児と子犬が入ってくる。


「な、何が一体?」


 まさか、この一人と一匹が扉を破壊したとは思わなかったので、彼は警戒しつつ龍太に近付いてくる。


「おい、ガキ。ここは危ない、さっさと帰れ」


 しかし、このような緊急事態だというのに、その子供、茂野・龍太は平然としていた。


「質問に答えろ。昨日、ここにトイプードルのクゥちゃんが連れてこられたはずだ」


「な、何? クゥちゃん?」


「どこにいる?」


「何訳の分かんねぇこと言ってやがる!!」


 その頃になって、奥の部屋や上の階から、ゾロゾロと厳つい男たちが集まってきた。


「何事だって?! うぉ、何だこりゃ。ダンプでも突っ込んだのか?」


「おい、五里、どうした? 誰にやられた?!」


「どこの組のもんだ? これをやったのは?!」


 その人数は10人。


 そして、その視線が龍太とゼルに集中する。


「なんだ、そいつら?」


 シーンと静まり返る組事務所の玄関ホール。


「これだけいれば、誰か知っているだろう。トイプードルのクゥちゃんはどこにいる? まさか、食べたりしていないだろうな?」


「だ、誰がトイプードルなんか食うか!!」


 組員たちが一斉に怒鳴った。


「そうか。なら教えろ。クゥちゃんは今どこにいる?」


「な、何でこのガキ、こんなに堂々としているんだ? 俺達が怖くないのか?」


「俺なんか、自分の子供にすら怖がられているのに」


 そんな彼らに、龍太とゼルがゆっくりと近付いていった。


 しかし、ヤクザの皆さんは、まだ彼らを襲撃者だとは思っていない。


「どうやら、扉だけ壊して逃げて行ったみたいだな。おい、カメラに何か映っていなかったか?」


「そ、それが、何も」


「そんな訳あるか。現に扉が粉々になってるだろうが」


「映っていたのは、こいつらだけです」


 そう言って、パンチパーマ男が龍太とゼルを指さした。


「何を言ってる。こんなガキどもに……いったい……何が?」


 気が付くと、龍太が目の前、正確には身長差があるため、太腿の前にまで近付いている。


「お、お前、まさか……」


 直後に、龍太がパシッと男の足を払うように蹴った。


 本来なら、こんな小さな子供の蹴りなど、痛くも痒くもないはずだ。


 だというのに、その男は、その場で180度体を回転させて、床に頭をぶつけた。


 さらに、それと同時にゼルの姿が消える。


 正確には本当に姿が消えたわけではなく、人間の視覚では捉えられないほどの超高速移動をしたのだ。


 小さな子犬の頭突きをまともに腹に受けた男が、数メートル吹き飛んで、壁に背中を強打する。


「こいつらだ、殴り込んできたのは?!」


 この日、日本にいる約1万9000人のヤクザたちにとって、悪夢が顕現した。


 地方の小さな組事務所とはいえ、仮にも看板を掲げたヤクザに、3歳児と生後半年の子犬が殴り込みをかけてきたのだ。


 さらに言うと、次々と床や壁に叩きつけられていくのはヤクザばかりだ。


 ものの1分も経たないうちに、玄関ホールは気を失ったヤクザたちで埋め尽くされてしまった。


『ゼル、クゥちゃんはどこだ?』


『3階の一番奥だ』


『では、行くか』


 一人と一匹が階段を上っていく。


 3階に上がると、廊下の奥に3人のヤクザたちが立っていた。


 おそらく、彼らの背後の扉が組長の部屋だろう。


『親衛隊か』


『気をつけろ。あいつら、武器を持っているぞ』


 明らかに相手は戸惑っていた。


 それはそうだろう。白昼堂々、殴り込みをかけてきたのが、まさか3歳の幼児と子犬なのだから。


「か、かしら、何ですか、あのガキどもは?!」


 一人が短刀、世に言うドスを両手で構えつつ、そう言った。


「俺に分かるわけがないだろう!!」


 かしらと呼ばれた、一際厳つい外見の男は、右手に拳銃を握っている。


 もう一人のヤクザは木刀を構えていた。


 ここが、彼らにとっての最終防衛ラインなのだろう。


「おい、ガキども!! ここに何しに来やがった?!」


 かしらと呼ばれた男がそう怒鳴った。


「俺達は、トイプードルのクゥちゃんを捜しに来ただけだ」


 殺傷能力のある武器を構えたヤクザたちの前だというのに、全く怯えた様子を見せずに龍太がそう言う。


「く、クゥちゃん……もしかして組長が拾って来た、あの犬か?」


 それを聞いて、龍太がゼルに目配せをした。


 間違いなく、あの扉の向こうにクゥちゃんがいる。


 そして、こういう場合、こちらの対応が遅れれば、そのクゥちゃんが人質、いや、犬質にされかねない。


『速攻で行くぞ』


『分かった』


 龍太とゼルが同時に動いた。


 まず龍太が走り出したかと思うと、まるでワイヤーアクションのように壁を走り、さらに最後は天井を蹴って、そのまま、かしらと呼ばれた男に襲い掛かる。


「こいつ、猿か?!」


 そう叫びつつ、手に持っていた拳銃の銃口を向けようとするが、あまりに動きが速すぎて追いつかない。


 さらに言うと、相手が大人のヤクザなら躊躇なく引き金を引けたかもしれないが、さすがに幼児相手だと躊躇してしまう。


 そして、龍太の方は、戦いにおいてそのようなものは一切感じない。


 異世界では、人間の子供や女性の外見をした凶暴なモンスターもいたからだ。


 龍太が、かしらの側頭部を蹴り飛ばして、卒倒させた。


「かしら?!」


 そう叫んだ木刀を持った男の顔面に、ゼルが体当たりをして転倒させる。


「な、何なんだ、こいつら?!」


 ドスを持った男がそう叫んで、手に持った凶器を振り回すが、龍太は軽々とそれを避け、やはり彼も蹴り飛ばす。


 こうして、最終防衛ラインの3人も瞬殺されてしまった。


『フッ、ゴブリン以下だな』


『そう言ってやるな。彼らは人間なのだから』


 そして、龍太とゼルは、ボスの部屋へ通じるドアに向き直った。


 ドアを開けて中に入ると、まず正面に『大門組』という黒地に金色の文字がでかでかと書かれた額縁、そして、その前に座る恰幅の良い男が目に入った。


 大きな執務机が男の前にあるため、拳銃などの凶器を手に持っていても、龍太たちからは見えない。


「驚いたな。本当に子供じゃねえか」


 手下を全滅させられたというのに、恰幅の良い男、大門・文二は冷静そのものだった。


 楽しそうに笑いながら、目を細めている。


「うちの組も焼きが回ったな。まさか、幼児と子犬にやられるとは」


「俺達は、普通の子供と犬じゃない。だから安心しろ」


 龍太がそう言うと、今度は声を上げて笑う。


「ところで、ここにトイプードルのクゥちゃんが世話になっているはずだ」


「そうか、クゥって言うのか」


 そう言うと、ゆっくりと立ち上がる。


 すると組長はクゥを膝の上に乗せていたらしく、それを抱き上げている。


『まずいぞ、勇者。雌犬を盾にされたら』


『ちょっと待て、様子が変だ』


 思念でそう話してから、組長に注目する。


「昨日、組事務所の前で、迷子になってクンクン泣いていたんでな。とりあえず保護したんだが、お前達の飼い犬か?」


「俺の友人のペットだ」


「そうか。わざわざ迎えに来てくれて助かった」


 そう言うと、組長がクゥちゃんを足元の床の上にそっと降ろした。


 当のクゥちゃんは、龍太たちと組長を交互に見て戸惑っている。


「さあ、帰んな」


 そう言われ、トコトコと龍太たちの方に近付いてくる。


 クゥちゃんは、ゼルを見て怯えると、龍太の側に駆け寄ってきた。


「本当に、保護しただけだったようだな」


「当たり前だ。俺は人間には厳しいが、犬には優しいんだ」


 龍太とゼルは、クゥちゃんがこの建物に拉致されたと思ったから殴り込んできたのだが、どうやら勘違いだったようだ。


「えっと、色々とすまなかった」


 玄関を破壊し、組員たちを全員倒してしまったことを謝る。


 それを聞いて、組長がフッと笑った。


「随分と素直じゃねえか。ちゃんと謝れる子供は、将来立派になるぜ。その若さで喧嘩も強いし、どうだ坊主、将来うちの組に入らねぇか?」


「俺には、この世界を悪の手から守るという使命がある」


「ケッ、つまらない使命だな」


 その時、回復した組員たちが、開いたままになっていたドアから怒涛の勢いで駆け込んできた。


「親父!! 無事ですか?!」


「組長、そのガキは危険です!!」


 口々にそう怒鳴りつつ、龍太たちと組長の間に並んで壁を作る。


 ゼルがグルルルルと唸り、クゥちゃんが怯えるが、龍太は平然としていた。


「何人来ようがお前達では、俺には勝てない」


「やかましぃ!! 幼児にやられて黙って帰せるか!! 俺達は極道だぞ!!」


 かしらが、拳銃を構えつつそう凄んだ。


「お前等、やめねぇか!!」


 組長がそう怒鳴るが、


「いいや、親父。例え子供でも、殴り込んできた以上は敵だ!!」


『おい、どうする?』


 ゼルが思念でそう聞いてきた。


『逃げるのも蹴散らすのも簡単だが、さすがにこれ以上、暴れるのは申し訳ないな』


 すっかり舐められているとも知らずに、組長とかしらは揉めている。


『よし』


 龍太は決意すると、抱き上げていたクゥちゃんを一番近くにいた組員に、


「すまないが、この子を頼む」


 と言って渡した。


 組長の盾になろうとしてはいたが、さすがに自分を一撃で失神させた相手に近付かれて、相手がびくつく。


「な、なんだてめぇ」


 と、口では言いつつも、素直にクゥちゃんを受け取った。


 すると、龍太はかしらに向き直り、


「おい、中ボス」


「誰が中ボスだ?!」


「このままでは引っ込みがつかないと言うなら、付き合ってやる。かかって来い」


「お、お前、本当に幼児か?!」


「どうした、武器は何を使っても構わないぞ」


「止めてくれ、この銃で自分を撃ちたくなるから!!」


 そう涙目になりながら叫ぶと、かしらは手に持っていた拳銃を組長の執務机の上に置いた。


「さっきは油断をしたが、お前なんぞ、素手で十分だ」


 幼児相手に、いい歳こいたヤクザが、とても情けないことを言う。


「かかってきやがれ!!」


 そして、そう怒鳴った直後に、顔面を蹴り飛ばされて吹き飛んだ。


 体が宙を舞い、組長の執務机の上に白目をむいて倒れ込む。


「か、かしらぁああああ!!」


 組員たちがそう叫ぶが、彼は失神していた。


「凄いな、全く見えなかったぞ」


 組長がそう呟いた。


 彼自身は空手と柔道をやっていて、それなりに自信があったが、それでも龍太の動きを目で捉えることができなかった。


「坊主、お前、世界を狙えるんじゃねぇか?」


「俺は世界を狙ったりはしない。守るんだ」


 組長の言葉を違う意味に捉えた龍太がそう言いつつ、クゥを預けた組員へ近付いていく。


 彼が手を差し出すと、組員は顔色を真っ青にして、すぐにトイプードルを返した。


「では、用が済んだので、これで失礼する」


 そう言うと、龍太が歩き出し、ゼルもついていく。


「待ちな、坊主」


 そんな彼らを組長が引き留める。


「まだ何か用か?」


「名前ぐらい名乗っていけよ」


「……そうだな」


 そう言うと、龍太とゼルが振り返る。


「俺は茂野・龍太、そしてこいつがゼルだ」


「ほぅ、まさか本当に名乗るとはな」


 自分で尋ねておきながら、組長が少し驚く。


「迷惑をかけたからな。礼儀だ。あと、俺に仕返しをすると言うなら、いつでも受けて立つが、家族や友達に手を出したら、貴様たち全員、冥界送りにするからな」


 そう言いつつ龍太が目を細めると、組長たちが思わず息を飲んだ。


 決して、それが脅しではないと分かったからだ。


「分かった分かった。そんなことはしない、約束する」


「そうか、邪魔したな」


 最後にそう言うと、一人と一匹が再び歩き出した。


「ふぅ……なんて目をしやがる。あれは何人も葬ってきた人間の目だぞ」


 彼らの姿が見えなくなると、大きく息を吐き、組長がそう言った。


 ハッキリ言って、幼児に対して抱いてよい感想ではない。


 そして、何かを思い出す。


「茂野・龍太……どこかで聞いた名前だと思ったら……」





 組事務所を出ると、龍太とゼルは捜索を開始した公園へ戻ってきた。


 すぐにでもクゥちゃんを神崎・あかりの家に連れて行きたかったが、よく考えたら、彼女の家がどこにあるか知らなかったのだ。


「どうする、どこかに繋いでおくか? いや、駄目だな。今度こそ攫われるかもしれない」


 龍太がそう言った時、ゼルが、


『あの女の声がするぞ』


 と、思念で言った。


「なに?」


 そう答えつつ、耳を澄ますと、確かに幼い女の子の声が聞こえてくる。


 周囲を見回すと、公園に神崎・あかりと、この間会った父親の姿が見えた。


「クゥちゃ~ん!!」


 どうやら、彼女は幼稚園から家に帰ると、すぐに愛犬を探していたようだ。


 父親はそれに付き添っている。


「ほら、お前の御主人様だぞ」


 龍太がそう言うと、クゥちゃんをそっと地面に降ろす。


 すると、トイプードルは不安げに彼とゼルの顔を見てから、自分の名前を呼ぶあかりの方に向けてトコトコと歩き出した。


「あっ?! クゥちゃん!!」


 そして、公園に入ると、すぐに見つかる。


「ワァ~ッ!!」


 と泣きながら駆け寄るあかりと、そんな彼女に抱きしめられ、顔をペロペロと舐めるクゥちゃん。


 父親の神崎・誠司も、娘の前ではとても言えなかったが、半ば諦めていたのだろう。微笑みつつ、その光景を眺めている。


「もぅ、クゥちゃん、どこに行ってたの? 心配したんだよ!!」


 あかりがそう言うと、クゥちゃんが、龍太たちがいた方を振り返った。


 その視線を追って、二人も顔を向けるが、そこには誰もいない。


「誰かがここまで連れて来てくれたの?」


 そう言いつつ、さらに周囲を見回すと、少し離れた角を曲がる、一人の男の子の後ろ姿がチラッと見えた。


「パパ、ちょっとクゥちゃんをお願い」


 あかりがそう言うと、クゥちゃんを父親に託して走り出す。


 そして、男の子の後を追ったが、もうそこには誰もいなかった。


 しかし、彼女には、今の男の子が龍太だったような気がして仕方がなかった。




 龍太とゼルが組事務所を壊滅させた翌日。


 幼稚園に着くなり、あかりが龍太に駆け寄って来た。


 そのままの勢いで、彼に抱きつく。


 これがあと10年後だったら、周囲が騒然となるような行為だが、幼児がやると、とても微笑ましい。


「クゥちゃんが、クゥちゃんが帰って来たの、ありがとう、龍太君!!」


「それは良かった。でも、何で俺にお礼を言うの? 何もしていないよ」


 別に照れているわけではない。


 ただ、勘違いとはいえ、ヤクザの事務所に殴り込んで、全員をノックアウトしたなどと、とても正直に話せないだけだった。

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