↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者とついでに魔王~異世界転生した勇者と柴犬魔王の凸凹コンビ~  作者: よしぞう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/51

第6話 クウちゃん捜索

【クゥちゃんを救え】


 ある日、龍太が幼稚園に行くと、いつも元気に走り回っている神崎・あかりが、ポツンと遊戯室の端で膝を抱えて座っていた。


 何かあったのか?


 そう思って近付いて行くと、彼より先に来ていた美月が声をかけた。


「おはよう、あかりちゃん。何かあったの?」


 しかし、あかりは俯いたまま何も答えない。


 まさか、家が盗賊の襲撃でも受けたか?


 確か、あかりの父親はこの街の権力者だったな、と龍太は思い出す。


 そこに、あかりと一番仲の良い教諭が近付いて行き、


「どうしたの、あかりちゃん?」


 と優しく声をかけた。


 すると、あかりが顔を上げる。


 それと同時に両目から涙が溢れ出し、


「クゥが、いなくなっちゃったの……ウワァアアアア」


 と号泣しだした。


 クゥ?


 確か、彼女が飼っているトイプードルの名前のはずだ。


 泣きながらあかりが話した内容によると、彼女は昨日の夕方、母親と一緒に散歩をしていたらしい。


 そしてこの前、龍太とゼルが彼女と会ったあの公園に着いた時、花壇に綺麗な花が咲いているのを見付けた。


 しゃがんでその花を見ている時、あかりの手からクゥのリードが離れてしまう。


 タイミングが悪いことに、その時、彼女と一緒にいた母親は近所のおばさんと挨拶をしており、二人の方を見ていなかった。


 そして、急にクゥが走り出し、そのまま公園から飛び出して行ったのだった。


「もしかして、誰かに連れて行かれたのかも」


 あかりの説明を聞いた美月がそう言った。


「クゥちゃんはトイプードルなのよね。とても人気がある犬種だわ」


 それを聞いて、あかりがさらに号泣しだす。


「だ、大丈夫よ。そうだ、迷子犬の貼り紙とかしたら?」


 教諭がそう言うが、あかりは、


「クゥちゃ~ん、クゥちゃ~ん」


 と名前を呼びながら泣き続けている。


 そんな彼女を見て、龍太は考えていた。


 この世界には魔物や魔族はいない。


 しかし、その反面、自動車やバイクなど、魔力を使わずに動く鉄製の乗り物が走り回っている。


 クゥちゃんのあの小さな体では、それらと接触したらひとたまりもないだろう。


 神崎・あかりは友人だ。


 ここは、俺が動くしかないだろう。


 母親と一緒に幼稚園から自宅に戻ると、龍太はゼルを探した。


 そして、リビングのカーペットの上で、ビロォ~ンと伸びた姿勢で爆睡している黒い柴犬を見付ける。


 こいつ、本当に転生魔王か?


 平穏無事な第二の人生、いや、魔王生を満喫しすぎだろう。


『おい、ゼル。起きろ』


 龍太が思念で話しかけると、ゼルが、


『うう~ん、もう食べられぬわ』


 と、どれだけ格好つけても、間抜けなお約束寝言を言う。


『あっ、保健所の職員さんが網を持ってうろついてる』


『な、何だと?!』


 ゼルが飛び起きた。


『なんだ、勇者ではないか。質の悪い冗談はよせ』


 思念波が聞こえなければ、子犬が前脚を踏ん張って背伸びをした後、ピョコピョコと歩いて近付いて来るという、とても愛らしい姿だ。


『ゼル、手を貸してくれ』


『断る。何故、魔王たる我が勇者の頼み事など聞かねばならんのだ』


『この間、公園で会ったトイプードルのクゥちゃんが、行方不明になった』


『それがどうした。ゴブリンかオークにでも食われたのだろう』


『この世界には、そのどちらもいない』


『ならば、放っておいても戻って来るだろう』


 そう言うと、ゼルはピョンとソファーの上に飛び乗り、そこで丸くなる。どうやら、まだ寝足りないようだ。


 それを見て、龍太は、


『チュールチュールワンコチュール』


 と、ひたすら犬や猫が細長いチューブの切り口を舐めるCMソングを心の中で歌う。


 それを聞いて、ゼルの耳がピョコっと立ち上がった。


『手を貸してくれれば、今度、母さんと一緒に買い物に行った時に、おねだりをしてやる』


『な、なん、だと』


『俺は、滅多におやつを欲しがらないからな。きっと買ってくれるぞ。俺の両親は、子供の我儘に飢えているのだ』


 それは、あまりに聞き分けが良すぎる子供を持った親の、贅沢すぎる悩みと言えるだろう。


『皆、旨そうに舐めているなぁ~。さぞかし美味しいのだろうなぁ』


『わ、分かった。そこまで言うなら、我の力を貸してやらんこともない』


 元いた世界の人類は、こいつに滅ぼされかけたというのに……本当にチョロいな。


 そう思ったが、黙っておく。


『ありがとう、恩に着る』


 母親に、ゼルの散歩に行ってくると言うと、ゼルと一緒に家を出た。


『臭いを追えるか?』


『貴様、誰に物を言っている』


 ゼルは、公園で会った時のクゥちゃんの臭いをしっかりと記憶していた。


 一度、公園まで行き、そこから臭いを辿る。


『ここまで一直線に走っているな』


 そこは、公園の側にある信号のある交差点だった。


 龍太が周囲を見回す。


『おそらく車だな。知り合いの犬でも乗っていたのだろう。そして、駆け寄っている間に車が走り出し、それを追いかけているうちに、あかりから離れてしまった』


 一人と一匹は、クゥちゃんの臭いを頼りに、小走りで移動していく。


 すると、近くにある繁華街に入り、そこから迷走しだす。


『ここまで来て、あかりとはぐれたことに気付いて、公園に戻ろうとしたのだろうが、どんどん間違った方向へ向かっている』


 そして、ゼルの足がピタリと止まった。


『ここで、臭いが薄くなった。誰かに抱きかかえられたな』


『追えるか?』


『おい、貴様。何度も同じことを言わせるな。我は魔王ゼルザ・ネクロヴァルなるぞ』


『分かった、分かった。悪かった』


 そうは言ったものの、そこからのゼルの足取りはかなり慎重になった。


 そして、一軒の古いビルの前で足を止める。


『ここだ』


 龍太とゼルが同時に、そのビルを見上げた。


 三階建ての鉄筋コンクリート建築。


 ただし、窓は全てすりガラスで、さらに分厚いカーテンで覆われているため、人影すら確認できない。


 店舗や企業名を示すものはどこにもなく、ただ、やたらと監視カメラが多く設置されていた。


『何となく、小さな魔王城のような雰囲気だな』


『しかし、あの雌犬の臭いは、確かにここへ入っている』


『魔法使いもシーフも神官もいない状態でダンジョンに入るなど、前の世界なら自殺行為だが』


『フンッ、魔王と勇者のパーティーだぞ。無敵ではないか』


『そうだな。躊躇う理由はないな』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。