↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者とついでに魔王~異世界転生した勇者と柴犬魔王の凸凹コンビ~  作者: よしぞう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/52

第45話 勇者の剣道

【剣道部】


 部活動見学の時間、龍太が体育館のそばを歩いていると、武道場が見えてきた。


 そこでは剣道、柔道、空手、レスリングなど、格闘技系のクラブが活動している。


 入部するつもりはないが、興味がないわけではなかった。


 異世界では、人間族は圧倒的な力を持つ魔物や魔獣と戦っていた。


 そのために魔術が編み出され、魔力を込めた武器が開発されてきたのだ。


 なにより、貧弱な肉体で強大な敵と戦うために、剣技や体術も進歩していった。


 残念なことに、それらの技術は人間同士の戦いにも活用されたが、対人戦闘技術は未発達だったため、無骨な力押しになることが多かった。


 その点、魔獣や魔族が存在しないこの世界では、対人戦闘の技術に特化している。


 相手が人間の場合は、戦いながらも知恵を働かせなければならないのだ。


 わざと隙を見せて相手を誘い込み、攻撃を仕掛けてきたところをカウンターで一本取ったり、フェイントで相手を惑わせて隙を作ったりする。


 そうした技術が発達したのは、おそらくスポーツとして体系化され、進化してきたためだろう。


 生きるか死ぬかの真剣勝負では、よほどの熟練者でなければ、冷静に戦うことなどできない。


 戦いの練習とは、敵と殺し合うための練習である――そんな世界からやってきた龍太にとって、現世の武道は、真剣に取り組んでいる選手たちには申し訳ないが、どこか微笑ましく感じられるのだった。





「剣道部です! 練習試合をやっています! 見学していってください、面白いですよぉ!!」


 武道場の入口では、女子剣道部員がプラカードを振りながら、そう呼びかけていた。


 そして、目の前を通りかかった龍太に駆け寄ってくる。


「ねえねえ、君! 剣道経験者でしょ?!」


「えっ? なぜ分かったのですか?」


「身のこなしが只者じゃないって感じだったから!」


 もちろん、これは口から出まかせである。


 彼女は龍太の前にも、眼鏡をかけたガリガリの新入生に、まったく同じことを言っていた。


「見学していってよ!」


 別に剣道が嫌いになったわけではないので、龍太も少しは興味があった。


「では、ちょっとだけ」


 そう答えると、武道場へと入っていった。


 板張りの剣道場には、十人ほどの部員と五人の見学者がいた。


 龍太は、女子部員に案内されて、その中へと入っていく。


 剣道場の中央には白いテープで試合場が区切られ、そこで練習試合が行われていた。


 審判も剣道部員らしく、道場内には顧問の姿は見当たらない。


「始め!」


 審判が、左右の手に持った赤と白の小旗を同時に振り下ろしながら、そう告げた。


 よく見ると、試合をしている部員の背中には、それぞれ赤と白のたすきがつけられている。


 二人は同時に気合が入った掛け声を上げ、足を踏み込むと同時に竹刀を振るった。


 ダンッ、ダンッ、と床を踏み込む音と、竹刀同士がぶつかり合う音が剣道場に響き渡る。


「すごい……」


「ちょっと怖いね」


 見学に来ていた女子の新入生たちが、小声でそう言い合っていた。


 確かに、ゲームならボタン一つで相手を攻撃できるが、ここでは全身を使って攻めたり、防いだりしている。


 なにより、床が踏み込まれるたびに、室内の空気が振動しているように感じられた。


 試合が一分ほど続いたとき、二人の竹刀が、ほぼ同時に相手の面を打った。


「やめ!」


 審判がそう告げ、赤い小旗を上げる。


「面あり一本! 勝者、赤!」


 そう宣言すると、二人の剣道部員は道場の中央で向かい合い、礼をした。


 しかし、それを見ていた龍太が、ぽつりと呟いた。


「ん? 今のは白の方が、わずかに速かったぞ」


 その声は、試合が終わって道場内が静かになっていたため、審判を務めていた上級生の耳に届いてしまった。


「おい、素人が口を挟むな!」


 上級生は、機嫌を損ねた様子で龍太を睨みつけた。


「いや、確かにほぼ同時に見えたが、白の人の方がわずかに速かった」


 別に悪気はなかったが、こういう場面で空気を読めない龍太も譲らない。


「もしかして、お前は剣道経験者か?」


 審判をしていた上級生が、そう言いながら龍太に近づいてきた。


 それを見たほかの部員たちが、慌てて駆け寄ってくる。


「ぶ、部長! 相手は一年生ですから!」


 どうやら、審判をしていたのは剣道部の部長だったようだ。


 ちなみに、剣道部や柔道部では、部を代表する生徒を主将と呼ぶことが多いが、豊成高校では部長と呼んでいるらしい。


 サッカー部や野球部などでは、部長やキャプテンと呼ぶこともある。


「中学時代に少しだけやっていた」


「それで、俺の審判にケチをつけようっていうのか?!」


「ぶ、部長、落ち着いてください!」


「安心しろ。別に怒っちゃいない」


 いや、どう見ても滅茶苦茶、怒っているだろう。


「自分の腕に自信があるようだな。ちょうどいい、体験していけよ」


 剣道部の部長は、今年の新入生の中に、中学時代に剣道で好成績を残した者がいないか、事前に調べていた。


 しかし、今、目の前にいる男子は、その名簿に含まれていなかった。


 おそらく、アニメやネットでおかしな剣道の豆知識を身につけた、お調子者なのだろう。


 彼は龍太をそう判断していた。


「ぶ、部長! 相手は新入生ですよ!」


 部員の一人が慌てて止めに入る。


「き、君も、駄目だよ。剣道では審判の判定が絶対なんだから」


「分かっている。だから、試合結果を覆せなどとは言わない。しかし、目の前で誤審が行われたのなら、指摘しなければ審判はそのことに気づかないだろう」


「てめぇ……俺に説教しているつもりか?」


「き、君! 部長は去年のインターハイで個人戦三位だったんだよ! 今なら間に合うから、謝って!」


「部長、落ち着いてください! 大人げないですよ!」


「新入生に怪我でもさせたら、大問題になります!」


 部員たちが口々にそう言う。


 しかし、龍太は一歩も引かなかった。


「ならば、なおさら引けないな」


「ん、だとぉ?!」


「人間は、自分が一番強いと勘違いした瞬間に、成長が止まる」


 このとき、部長は完全にキレていた。


 彼は、自分自身の実力を否定されたというよりも、素人に剣道そのものを軽く見られたように感じていたのだ。


「おい、誰か、この新入生に防具と竹刀を貸してやれ!」





 何で、こんなことになったんだ……。


 そう考えながら、龍太は防具を身につけ、右手に竹刀を持っていた。


 他人の防具はかなり汗臭かったが、龍太は特に気にしなかった。


 異世界では、血まみれになりながら何日も連続で戦い続けたことが、何度もあったのだ。


 あの時は、用を足す暇もなかったので、全て漏らし、汗と、血の匂いと混ざりあって、それはもう恐ろしい異臭を放っていた。


 道場の端に立つと、反対側には部長がいた。


 彼も防具を身につけ、竹刀を持っていたが、面はかぶっていない。


「面はかぶらないのか?」


 龍太がそう尋ねても、部長はフンッと小馬鹿にしたように鼻で笑った。


「そうか。では、自己責任ということで」


 龍太がそう答える。


 二人は道場内に入り、まず一礼する。


 さらに竹刀を構え、しゃがんで蹲踞の姿勢を取ってから、立ち上がった。


「部長、お願いですから、怪我だけはさせないでくださいよ」


 審判を務める副部長が、そう懇願した。


「うるさい。さっさと始めろ」


「はぁ……。君も、危ないと思ったら逃げていいからね」


 今度は龍太に、小声でそう言ってくる。


「分かった」


 もちろん、逃げるつもりなどなかったが、龍太は素直に返事をしておいた。


 気がつくと、剣道部の部員や見学者だけでなく、柔道部や空手部の部員たちも、野次馬として集まってきていた。


「なになに、あいつ、またキレたの?」


「いいぞ、いいぞ。これで剣道部に入る新入生が減る!」


 どうやら、剣道部の部長はキレやすいことで有名らしい。


 周囲の者たちも、呆れた様子で見守っていた。


 もっとも、暴力事件などを起こせば、部活動が停止になったり、下手をすれば廃部になったりする。そのため、そこまで無茶なことはしていないようだったが。


「それでは……始め!」


 副部長の掛け声と同時に、部長が一気に踏み込んだ。


 竹刀の切っ先が、真っすぐ龍太の喉元へと突き出される。


 まずは突きで転倒させるつもりらしい。


 しかし、龍太は難なく半身になってそれをかわすと、左手一本で竹刀を振り下ろした。


 竹刀の先端は、部長の頭頂部からわずか数ミリのところで、ピタリと止まった。


「へっ?」


 あまりの速さに、部長は何が起こったのか理解できていなかった。


「当てないと一本にならないなら、このまま振り下ろすが?」


 龍太は、呆然とする部長に淡々と告げた。


「ひ、ひぃいいい!」


 部長は情けない声を上げながら、腰を抜かした。


「な、何が起こったんだ?」


「あいつ、まるでコマ落ちしたみたいに瞬間移動したぞ!」


 見学者や野次馬たちが、ざわめいた。


 その時、


「なんだ? どうした?」


 そう言いながら、剣道部の顧問が道場に入ってきた。


 四十代半ばの小太りな男性教師で、一応、学生時代には剣道をやっていたものの、部長ほどの好成績は残せていなかった。


「おい、部長。またキレて、何かやらかしたんじゃないだろうな?」


 そう言いながら見学者を押しのけてきた顧問は、その場で固まった。


 道場の中央では、部長が情けない格好で腰を抜かしている。


 そして、その目の前には、面を外した新入生が立っていた。


 誰がどう見ても、剣道部の部長が新入生に負けたようにしか見えない。


「き、君は?!」


 顧問は、面を外した龍太の顔を見て驚いた。


「えっと……確か、そうそう! 茂野龍太君じゃないか! うちの学校に入学していたのか?!」


 その声を聞いて、部員たちも驚いた。


 もちろん、彼らは龍太のことなど何も知らない。


 彼らが驚いていたのは、顧問の態度の方だった。


「せ、先生は彼を知っているのですか?」


 副部長が尋ねると、顧問は何度も頷いた。


「ああ。彼は中学一年のとき、剣道の試合ではすべて一本勝ち。それも、開始から一秒もたたずに相手を倒し続けた超有名人だったんだ」


「う、嘘だろ……。」


「当然、一年生で全国大会にも出場した。そこでも瞬殺で一本を取り続けていたんだが、決勝戦には出なかった」


「なぜですか?」


「いや、それは分からない。怪我をしたとか、いろいろな噂が流れたが、結局、それ以降は剣道をやめたとしか聞いていない」


 そう説明すると、顧問は龍太に近づいた。


「もしかして、高校生になって、また剣道をやる気になったのか?」


 もしそうなら、これほどうれしいことはない。


 部長を倒したということは、彼の剣道の実力は今でも超一流ということになる。


「いいえ、違います」


 しかし、龍太はきっぱりと答えた。


「ええっ?! それはなぜ?」


「一身上の都合です」


「な、何それ?! 滅茶苦茶気になるんだけど?!」


 この後、顧問にしつこく勧誘されたものの、龍太は礼を言って防具と竹刀を返すと、剣道場を後にしたのだった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。