第43話 クラブ活動紹介
まず金髪生徒会長の恵理巣が生徒会室に入り、続いて龍太、あかり、美月、最後に副会長の谷川徹が入り、ドアを閉めた。
「まずは……」
クルリと振り返ると、瀬戸恵理巣が龍太に向き直った。
「お礼を言わせてもらいます。一昨日の夜は助けてくれてありがとう」
彼女が二人のナンパ男に絡まれていたときのことだろう。
「俺は犬の散歩をしていただけです。あの二人は勝手に転んで逃げていった」
「そういうことにしておくけど、普段からああいうことをしているの?」
そのせいで、犯罪は犯していないものの、喧嘩ばかりしているなどと噂されることもあるのだが。
「まあ、たまにそういうことはあります」
「面白い人ね。そこで提案なんだけど……」
「何ですか?」
「生徒会に入らない?」
彼女がそう言うと、あかりと美月が驚いた。しかし、一番過剰に反応したのは谷川徹だった。
「な、な、何を言っているのですか、会長?! 選挙もなしにいきなり生徒会に入れるなんて!! そんなこと、できるわけないでしょう!!」
「そんなことぐらい知っているわよ」
恵理巣は耳を押さえながらそう言い、さらに龍太に向けて続けた。
「生徒会役員は全校生徒による選挙で決まるから、いくら私でも勝手に役員にはできないわ。でも、執行部員なら誰でもなれるのよ」
「執行部員?」
龍太が首を傾げる。
「要するに、生徒会のお手伝いをしてくれる生徒のことよ。運動会や文化祭のような学校行事のときには、私たちだけでは手が足りないから。そして、行事のとき以外でも、必要とあればいつでも参加してもらえるわ」
要するに、常駐の雑用係のようなものだ。
そう説明され、龍太が返事をする前に美月が彼の前に立った。
「龍太君に、いったい何をさせる気なのですか?」
鋭い視線を金髪の生徒会長に向ける。
「いろいろよ。今の生徒会は男子生徒が副会長しかいないから、力仕事とかをお願いしたいわ」
「それなら、もっと体の大きな生徒がいると思うのですけど」
「そういう子は、すぐに運動部に引き抜かれてしまうのよ。だから、こうしてクラブの勧誘が始まる前に声をかけさせてもらったわけ」
「……」
これなら、生徒会長がいきなり新入生に声をかけた理由としては納得できる。
「決めるのは龍太君だよ」
あかりがそう言った。
「確かにそうね」
そして、全員の視線が龍太に集中した。
すると、龍太は恵理巣に向かって頭を下げた。
「申し訳ないが、断らせてもらいます」
「龍太君……」
あかりと美月の表情が明るくなった。
「理由を聞かせてもらってもいいかしら?」
「部活に入りたいので」
まさに、身も蓋もない理由だ。
しかし、それを邪魔する権利は生徒会にはない。
「そう。別に、部活をしながら兼務してもいいのだけど」
「中途半端なことはしたくない」
「まあ、一度でオーケーがもらえるとは、こちらも思っていなかったから」
「ええ~、また誘う気なんですか?」
あかりが露骨に嫌そうな表情でそう言った。
「当たり前でしょ。私は諦めが悪いのよ」
そう言うと、瀬戸恵理巣は含みのある笑みを浮かべたのだった。
【クラブ説明会と再会】
この日は午前中で授業が終わり、午後から体育館で部活の説明会が行われた。
龍太たちも体育館シューズに履き替え、ぞろぞろと体育館へ入っていく。
そこにはパイプ椅子がずらりと並べられていた。特に座る場所は指定されていなかったため、龍太、あかり、美月の三人は並んで座っている。
「二人は何の部活に入るか決めているのか?」
彼がそう尋ねると、あかりが答えた。
「私はチア部がいいかなぁ~」
「明るくて楽しそうだし、体を動かす部活をしたいし」
そう言う彼女の胸を、美月がじっと見つめた。
「まあ、男子たちには喜ばれそうね」
と、呟く。
「美月はどうするんだ?」
龍太がそう聞くと、慌てて姿勢を正した彼女が答えた。
「私は茶道部か文芸部かな」
「美月ちゃんは本を読むのが好きだもんね」
ちなみに、茶道や書道は子どもの頃から習っているため、かなりの腕前だ。
「そういう龍太君はどうなの?」
美月にそう聞かれ、龍太は少し考え込んだ。
「それなんだよなぁ~」
龍太にしては珍しく、歯切れが悪い。
というのも、中学時代にいろいろあったからだ。
中学時代、彼は剣道部に入っていた。
理由は、剣技には自信があったし、この世界の剣道に興味があったからだ。
そもそも、剣術を武道として心身を鍛えるために役立てるという考え方が気に入っていた。
しかし、異世界で魔王を一刀両断した彼に敵う者など、日本中どこを探しても存在しない。
身体能力の高さはもちろんだが、無意識のうちに龍太の体には魔力が流れており、その能力はさまざまな面で人間離れしていた。
能力向上の魔術など使わなくても、竹刀でコンクリートの壁を破壊することさえできる。
「さすがにこれは、真面目に鍛錬をしている者たちに申し訳ないな」
彼は剣道部に入部してから、そのことに気づいた。
洗練されすぎて完全にスポーツ化しているとはいえ、剣道は剣技の修養に役立っていた。
何より、実際には龍太の能力がチートすぎて、彼自身の鍛錬にはあまりならなかったものの、一生懸命に練習に打ち込む生徒たちと一緒に過ごすことは楽しかった。
そして、同じ部活の仲間たちのためにも勝たなければならないと考え、試合では勝ち続けた。
しかも、そのすべてが一本勝ちだ。対戦相手は龍太に対して手も足も出せないまま、瞬殺されていく。
彼が勝てば、剣道部員たちはもちろん、応援に来てくれた生徒たちも喜んでくれた。
そして、気がつくと一年生で全国大会に出場し、そこでも一本勝ちを続けることになった。
そうして、ついにそれは起こった。
全国大会の個人戦準決勝でのことだった。
相手は剣道の名門校に通う三年生で、実家も有名な剣道場という、まさに人生のすべてを剣道に捧げてきたスーパー剣士だった。
龍太と同じく、一年生のときから全国大会に出場しており、一年生のときには個人戦で全国三位、二年生のときには優勝している。
今年も優勝するのは彼で間違いないだろうと言われていた。
そんな大会に、突如として現れたのが、文字どおり異次元の強さを持つ新人、茂野龍太だったのだ。
そして、試合はやはり一撃で終わった。
優勝候補の三年生は、龍太の超高速の初撃を防ぐため、「始め!」の合図とともに竹刀を横に構えて半歩下がり、龍太が空振りした瞬間に反撃に転じるつもりだった。
しかし、その初撃を避けることができなかった。
小手を叩かれ、竹刀を手から落とした相手の顔を、龍太は生涯忘れることができないだろう。
物心ついた頃から竹刀を握り、ひたすら鍛錬に打ち込んできたというのに、龍太の振るった竹刀は、彼のプライドを完膚なきまでに打ち砕いてしまったのだ。
試合後の礼も忘れ、その場で泣き崩れた対戦相手を見て、龍太は激しく後悔した。
これはフェアではない。
異世界で得たチート能力を持つ自分が、日々汗まみれになりながら鍛錬を積んでいる生徒たちと同じ道場に立っていることは、彼らに対する冒涜だ。
そう痛感した龍太は、決勝戦を辞退して不戦敗となり、さらに退部届を提出した。
もちろん、剣道部の顧問教師は必死になって彼を引き留めようとしたが、龍太は「申し訳ありません」と言って、ひたすら拒み続けた。
それ以降、ほかの格闘技系やスポーツ系の部活には近づかないようにしていた。
さらに言えば、体育の授業などでは力をセーブし続け、絶対に本気を出さないようにしている。
「文科系にしようと考えている」
「ええ~っ、もったいないよ。インターハイを目指そうよ。野球部に入ったら、甲子園だって狙えるのに」
あかりがそう言った。
確かに、龍太が野球部に入れば、ピッチャーとして大リーガーでも打てないような投球をし、バットを握れば申告敬遠以外、どのような球でもホームランにしてしまうだろう。
それでは、中学の剣道部での失敗を繰り返すことになる。
「龍太君は目立ちたくないのよね」
美月がそう言うと、龍太は苦笑いを浮かべながら頷いた。
その後、体育館のステージには各クラブの先輩たちが順番に上がり、自分たちの部活動をアピールしていった。
自分たちの成果を誇らしげに紹介するクラブ、笑いに走るクラブ、あまりやる気がなくグダグダになるクラブ。個性あふれる発表を見て、新入生たちは一喜一憂していた。
「以上でクラブ活動紹介を終わります」
最後に、生徒会長の瀬戸恵理巣がステージに上がり、そう言った。
龍太のことを狙っていると分かっているため、あかりと美月は身構えたが、このときは何も言わなかった。
「入学式のときにも聞いたと思いますが、我が校は文武両道を旨としています。ですから、皆さんにもどこかのクラブに入り、授業以外でも自らを磨く努力をしてほしいと思います。もちろん、生徒会を目指してもらっても大丈夫です」
そう言って、誰の挑戦でも受けるとばかりに胸を反らした。
「それでは、これ以降は各クラブを自由に見学してください。あと、先輩たちは強引な勧誘をしないように」
こうして、クラブ説明会は終わった。
あかりはチア部へ、美月は文化部の見学へ行くというので、三人は別行動を取ることになった。
「さて、どうするか」
体育館から出て、校舎に向かって歩きながら、龍太がそう呟いた。
そのときだった。
「茂野」
後ろから呼び止められた。
足を止めて振り返ると、そこには祖父江卓斗が立っていた。
彼が小学三年生のときに転校して以来、久しぶりの再会だった。
「祖父江卓斗、久しぶりだな」
龍太は少し緊張した面持ちでそう言った。
当時、市長だった祖父江金五郎が失脚したのは、龍太が原因である。
「ああ、元気そうで何よりだ」
「お互いにな」
「俺は、あの夜のことを後悔していない。しかし、お前には恨まれても仕方がないと思っている」
普通の人間なら、小学生が市役所に殴り込みをかけ、警備員たちをなぎ倒し、市長を失脚させたなどと言っても、誰も信じないだろう。
実際、騒ぎを聞きつけて駆けつけた警察は、市長と警備員たちが仲間割れをして共倒れになったと判断した。
祖父江金五郎や警備員たちが口をそろえて、
「小学生と柴犬が、十階の窓から侵入してきたんだ」
と言っても、警察はまったく信用しなかった。
しかし、卓斗は父親たちの供述を信じていた。
「恨んだりするものか」
卓斗は肩をすくめて笑いながらそう言った。
ハンサムに育った彼がそんな仕草をすると、妙に芝居がかって見える。
「もちろん、感謝もしていないけどな」
「そうか」
とりあえず、市長の息子としてわがまま放題に育っていた彼は、父親が逮捕されたことで人並みの苦労を経験し、真っ当に育ったようだ。
「まさか、こんなところで再会するとは思わなかったよ」
「そうだな。まあ、これからも適度に仲良くやっていこう」
そう言うと、二人は軽く手を上げて別れた。
龍太と卓斗がそれぞれ違う方向へ歩いていくと、近くにあった自動販売機の陰から、長身の男子生徒が音もなく姿を現した。
それは、前生徒会長の天野静流だった。
彼は遠ざかる龍太の背中を見つめながら、クックックッと喉の奥で笑った。
「あれが噂の茂野龍太か」
そう呟くと、再び音もなくその場を離れたのだった。




