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転生勇者とついでに魔王~異世界転生した勇者と柴犬魔王の凸凹コンビ~  作者: よしぞう


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第38話 転生勇者の入学式

【生徒会副会長】


 生徒会室にいるのは、会長の瀬戸恵理巣だけではなかった。


 事務机でノートパソコンのキーボードを、指の残像が見えるほどの超高速で打ちまくっていた男子生徒が、彼女が窓際で微笑んだのを見て手を止めた。


 彼は生徒会副会長で、名前は谷川徹という。黒縁眼鏡をかけ、髪をきちっと七三に分けているその外見は、まるで昭和のサラリーマンのようだった。


 性格もその外見のイメージどおり真面目で、勉強も当然のようにできる。


 副会長は立ち上がると、瀬戸恵理巣の隣に並び、彼女の視線の先を目で追った。


「あの明るい雰囲気の新入生は、市長のお嬢さんですね」


 彼は、会長の視線が龍太の左右にいる女子に向けられていると勘違いしているようだ。


「そして、あの髪の長い新入生は、室井総合病院の院長の娘です」


「あの二人が……」


 教職員の間では、かなり話題になっていた二人だ。


 親が権力者で、本人たちは美少女。もし不埒な男子生徒が失礼なことをすれば、直後に親が怒鳴り込んできて、学校側の管理責任を問われるかもしれない。


「そして、あの二人の間にいる男子生徒は問題児ですよ」


 副生徒会長は、フンッと小さく鼻を鳴らしてそう言った。


「問題児? そういえば……」


 恵理巣も、教師たちと雑談をしているときに、そのような話を聞いたことがあった。


「ええ、あの男子は街のあちらこちらで喧嘩ばかりしているそうです」


「でも、そのような問題児なら、この学校には入れないでしょう?」


 仮にも、ここは進学校だ。


 偏差値も高く、優秀な入学希望者が毎年大勢受験している。そのため、問題児などは受験の土俵にすら上がれず、不合格になっているはずだった。


「それが、いったいどのような手を使っているのか分かりませんが、一度も事件になっていないのですよ」


「それって、どういう意味?」


 喧嘩は暴行に当たるはずだ。怪我人が出ていれば、さらに傷害というおまけまでついてくる。これは立派な犯罪行為である。


「これは聞いた話なのですが、あの男子は一切自分から攻撃せず、相手の攻撃をひたすら避け続けるだけらしいのですよ」


「えっ?」


 恵理巣の頭に、昨夜の光景が浮かんだ。


 あのときも、龍太は自分からは一切手も足も出さず、相手の攻撃を避け続けていた。


 そして、不良たちは勝手に転んだり壁にぶつかったりして、ボロボロになっていったのだ。


「もしかしたら、事件にならないようにお金で相手の口を封じているのか、それとも、あの二人の親の権力で揉み消しているのか……」


 神崎あかりと室井美月の親が後ろ盾となり、龍太を庇っているのかもしれないというのだ。


「そんな馬鹿なこと、あるわけないでしょう」


 しかし、そのようなことをして事件が明るみに出れば、そのときに受けるダメージは重大なものになる。


 特に、市長が娘のボーイフレンドの喧嘩を揉み消したりしたら、大スキャンダルだ。


「そもそも、喧嘩をしたことが分かっていて事件になっていないということは、警察がそう判断しているのよね?」


 そもそも、被害届が出されていないのだろう。


「それはそうですが……」


 相手の攻撃をひたすら避け続け、こちらは一切手を出さずに自爆させる。


 そのようなことができるということは、相手より圧倒的に強いということだ。


 プロの格闘家なら、数人の不良など簡単に返り討ちにできるだろう。だが、それも正当防衛として反撃すればの話だ。


 昨夜の龍太は、その正当防衛による反撃すらしていなかった。


「でも、勉強はできるようです。入試の成績も、確かトップだったはずです」


「へぇ~」


 恵理巣は面白いと思った。


 勉強ができる正義の味方。まさに、そのような人間が実在するとは。





「あの三人は仲が良さそうだけど」


 彼女がそう言ったときには、龍太たちの姿は校舎の陰に入って見えなくなっていた。


 ただ、権力者の娘であり、美少女でもある二人が、登校初日にいきなり仲良くなったとは思えない。


「幼馴染だそうです。私のクラスメイトが彼らと同じ中学の出身で、噂に聞いたことがありました。なんでも、幼稚園からの付き合いだとか」


「それはまた、年季の入った幼馴染ね」


「私のクラスメイトの話では、神崎さんと室井さんは、あの外見ですから、先輩後輩や同級生を問わず、男子たちからかなりモテたそうですが、誰が告白しても瞬殺で断られたとか」


「その原因が、彼だと?」


「はっきりとは分かりませんが、どうやらそうらしいです」


 羨ましい限りだと、副会長の表情が語っていた。


「まったく、また問題児が増えましたね」


 彼がぼやくようにそう言った。


「それは……まあ、しょうがないわね」


 恵理巣も同意した。


 この学校には、すでに何人か影響力の強い生徒がいるのだ。


 もちろん、金髪の生徒会長である彼女は、その筆頭だったが。


【新しいクラス】


 龍太たちは校舎の前を歩き、正面玄関前に到着した。


 そこには、1組から順番にクラス名簿が張り出されている。


 あかりがそれを指さしながら、自分の名前を探し始めた。


 それを尻目に、龍太は目を少し細めて魔力を込めた。


 サーチの魔術が発動し、自分の求めているものがすぐに見つかった。


 彼は1年1組で、あかりと美月も同じクラスだった。


 しかし、あえて何も言わず、探しているふりを続ける。


 こういうものは、自分で見つけたときのほうが喜びも大きいからだ。


「あったわ」


 そう言ったのは美月だった。


「えっ? どこどこ?」


 3組の名簿を見ていたあかりが驚いた。


「1年1組よ」


「うそ?!」


 どうやら、あかりは1組から順番に自分たちの名前を探していたが、見つけられずに3組まで進んでしまったようだ。


「私とあかり、それに龍太君も一緒だわ」


 普段はクールな美月が、少し興奮気味にそう言った。


「やったぁ~!! 三人一緒だ!!」


 あかりも飛び跳ねて喜んでいる。


 過去には三人がバラバラのクラスになったこともあるため、とても嬉しいのだろう。


「楽しくなりそうだな」


 龍太も笑顔でそう答えた。


 このあと、彼らは校舎の中に入り、1年1組の教室へ向かった。





 ドアを開けて中に入ると、教室内にいた男子生徒たちの視線が一斉にあかりと美月に集中した。


「おおっ、可愛い!!」


「俺はなんてラッキーなんだ!!」


「猛勉強して豊成に入って良かったぁ……」


「えっ、ここって芸能人クラスだっけ?」


 健康的でスタイル抜群の神崎あかり。そして、長い黒髪に白い肌という、日本人形のような美しさを持つ室井美月。


 そんな二人が揃っているのだから、男子たちが喜ぶのも無理はないだろう。


 そして、二人に続いて龍太が教室に入ると……。


「ああん? なんだ、あいつ?」


「二人と馴れ馴れしくしやがって、一体何者だ?」


「たまたまだよな? 偶然、廊下で一緒になっただけだよな?」


 龍太もそれなりにスタイルが良く、顔もハンサムなのだが、男子たちは納得がいかないようだ。


 まるで、ネクロマンサー(死霊使い)に操られた悪霊や死霊がうじゃうじゃといる墓場のような空気になる。


 龍太は思わず、呪いから精神を守る魔術をかけそうになった。


 ちなみに、その防御魔術は、嫉妬に狂った男たちにはまったく効果がない。


 教室の正面の黒板には、席順が書かれた紙が貼られていた。


 さらに、各机にも名札が置かれているため、自分の席はすぐに見つかる。


 席順は出席番号順だった。苗字の一文字目を五十音順に並べているため、茂野と室井は自然と席が近くなり、神崎だけがかなり離れることになる。


 このときも、龍太と美月は隣同士の席だった。


「いつも思うけど、私だけ仲間外れみたい」


 あかりがそう拗ねるが、こればかりはどうしようもない。


「そうだ、同じ苗字になれば!!」


 そう言いかけた彼女の口を、美月が素早く手のひらで塞いだ。


「そういう問題発言は、時と場所を選ぶようにって、いつも言っているでしょう」


「はぁ~い」


 そんな馬鹿な会話をしていると、予鈴が鳴り、担任の教師が教室に入ってきた。


 若い男性で、人の良さそうな優しい雰囲気をしている。


「皆さん、初めまして。私がこのクラスの担任の吉岡勉です。どうぞよろしく」


 ニコニコと微笑みながら、そう自己紹介をした。


「それでは、入学式の会場である体育館に移動してください」


 彼にそう言われ、生徒たちが席から立ち上がると、ぞろぞろと廊下へ出ていった。


【再会】


 体育館には、新入生たちが整列していた。


 新品の制服を着た彼らは緊張した面持ちで、さりげなく周囲を見回している。


 知り合いはいないだろうか? 友達になれそうな人はいないだろうか? 皆、自分より賢そうに見える。おっ、あの子、可愛いな。逆に、あっ、格好いい男子を見つけた……などなど。


 楽しい高校生活を送るために、まず必要なのは友達である。


 教師たちもそれが分かっているので、落ち着きのない新入生たちを見ても注意などはしなかった。


「それでは、入学式を開始します」


 司会の女性教師がそう言うと、新入生たちは口を閉じ、正面の壇上に注目した。


「それでは、私立豊成高等学校校長より、式辞をお願いいたします」


 そう言われ、渋いロマンスグレーの初老の男性が壇上に上がった。


 校長先生というより、ミュージカル俳優のような雰囲気だ。渋いおじさんが好きな女性たちからは、さぞかしモテることだろう。


「新入生諸君、入学おめでとう」


 声も外見のイメージどおりで、聞き取りやすく、それでいてよく響く。


 しかし、その後の式辞はお約束の長話だった。


 新入生たちが校長の話の冒頭で何を言っていたのか忘れてしまうほど長々と話したあと、校長は満足げに言った。


「以上、諸君の楽しく充実した高校生活を心から祈念し、式辞とします」


 そう言って、ようやく話を終えた。


「校長先生の話って、なんでこんなに長いんだろ?」


 あかりがそう言うと、その前に並んでいた美月が、


「きっと、教育基本法か校則で決まっているのよ」


 と答えた。


 ほかの生徒たちも、やれやれと肩や首を回している。


 そんな中、龍太だけは微動だにせず、正面を見つめていた。


 さすがは校長先生だ、とてもためになった、と一人で感銘を受けている。


 彼の前世では、国王や将軍が演説をしているときに、少しでも気の緩んだ態度を取ったり、言葉を聞き逃したりすると、不敬罪として、ひどい場合には死罪すらあり得た。


 そのときの緊張感が、いまだに抜け切れていないのだった。

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