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転生勇者とついでに魔王~異世界転生した勇者と柴犬魔王の凸凹コンビ~  作者: よしぞう


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第36話 高校生になった転生勇者と、可愛い幼馴染たち

【これまでのあらすじ】


 勇者ライナスは、魔王ゼルザ・ネクロヴァルとの最終決戦に勝利した直後、魔王が敗北したときに備えて準備していた転生の魔法陣の暴走に巻き込まれ、異世界転生をしてしまった。


 そして、現世において茂野・龍太として転生した彼は、同じく転生してきた魔王ゼルザ・ネクロヴァル、現世では黒柴犬のゼル、さらに勇者装備の一つであり、現世では包丁に転生した聖剣エルグレイザと再会する。


 さっそく、この世界の魔王を討伐するべく勇者として修業を始める龍太。しかし、現世には魔王のような人間はいても、本物の魔王はいないことを知り、途方に暮れてしまう。


 そのような中、幼稚園で知り合った幼馴染の総合病院院長の娘・室井美月、市議会議員の娘・神崎あかり、ヤクザの組長の息子・大門寛太と、友情を育みながら成長していく。


 しかし、平穏なはずのこの世界で事件が起きる。


 地脈の力を操ることができる一族の子孫にして市長である祖父江・金五郎が巡らせていた陰謀に巻き込まれ、幼馴染の室井美月が命を落としかけてしまったのだ。


 それに激怒した龍太は、今では相棒となった元魔王のゼルと共に夜の市役所に乗り込み、祖父江・金五郎を撃退する。


 市長は、駆けつけた警察によってそれまでの悪行が発覚したため失脚し、街に平和が戻った。


 こうして転生勇者の茂野・龍太は、平和な異世界でのやり直し人生を再開するのだが、自身の能力はこの世界では目立ちすぎるため、周囲の人々に迷惑をかける可能性があると考え、可能な限り大人しくするようにしていたのだった。


【新たなるスタート】


 日本の入学式といえば、満開の桜である。


 どこの学校でも、必ずと言っていいほど目立つ場所に桜の木が植えられており、新入生と保護者たちが校門や桜の木の下で記念撮影をするのがお約束になっていた。


 こればかりは、外国の学校では味わうことができない。


 ほとんどの国では、夏休み明けの9月に入学式を行っているからだ。


 真新しい制服に身を包んだ新入生たちが、緩やかな坂道を校門に向かって歩いていく。


 その中に、ひときわ目立つ2人がいた。


「あ~っ、晴れて良かったね。これも私の日頃の行いが良いからかな?」


 そう言って、神崎あかりが笑顔で両手を広げる。


 活発な性格は相変わらずだが、身長は伸び、それに合わせて体のラインも周囲の視線を集めるほどに成長していた。


 要するに、めちゃくちゃ可愛いのだ。


 そして、その隣には、


「本当ね。あかりは受験勉強で苦労したから、喜びも倍増よね」


「いやぁ~、頭の良い幼馴染を持つと、ついていくのも命がけだよ」


「命がけって……」


 あかりとはある意味正反対の、魅力的な外見の女の子が立っていた。


 彼女の名前は、室井美月。


 腰まで届く長く艶やかな黒髪を春風になびかせながら、微笑んでいる。


 その姿には大人の女性のような落ち着きがあり、あかりが元気いっぱいのアイドルだとするなら、彼女は美貌の女優といった感じだ。


 どちらか一人だけでも目立つというのに、その2人が並んで歩いているのだから、周囲の新入生たちが思わず足を止め、2人に目を向けるのも無理はない。


 そして、そんな美少女2人の少し後ろを歩いているのは、転生勇者の茂野・龍太だ。


 彼も年齢の割に落ち着いた雰囲気で、よく鍛えられた体は逞しく、アスリートのように引き締まっている。


 顔もハンサムと言っていいレベルなのだが、前を歩く2人が規格外すぎるため、どうしても見劣りしてしまう。


 要するに、釣り合いが取れていないということだ。





「そういえば、寛太は残念だったね」


 あかりが少し歩く速度を落とし、龍太の右隣に並びながらそう言った。


「そうね。彼もあかりみたいに頑張れば良かったのに」


 そう言いつつ、美月も龍太の左隣に並ぶ。


 絶世の美少女2人に左右を挟まれながら、龍太は苦笑を浮かべた。


 実は、龍太たちが今目指している高校は、かなり偏差値の高い進学校なのだ。


 そして、彼らの幼馴染である大門寛太は、別の公立高校へ進学している。


「まあ、寛太は高校を卒業したら、父親のところで働くらしいからな。それまでに人生経験として、いろいろバイトをしたいって言っていたし」


 大門寛太の父親は、世にいう反社会的組織、通称ヤクザの組長だ。


 以前は、ヤクザのお手本のような悪事をいろいろと働いていたのだが、12年前に発生したある事件を機に、かなりソフト路線へと経営方針を切り替えていた。


 ちなみに、その12年前の事件とは、あかりの愛犬であるクゥちゃんが迷子になったときのことだ。


 偶然、寛太の父親がクゥちゃんを保護していたのだが、それを誘拐されたと勘違いした龍太と元魔王のゼルが組事務所に殴り込みをかけ、幼児1人と黒柴犬1匹で組員たちを全員倒してしまったのだった。


 それ以降、組員たちは、


 俺たちって一体……何をしてきたんだろう……。


 と、仕事に対する情熱を失ってしまったらしい。


 それに、同じ街にいる幼児と黒柴犬の逆鱗に触れたら、今度こそ命がないかもしれないと思うと、何をするにしてもビクビクして腰が引けてしまう。


 そのため、組自体は解散していないものの、随分と雰囲気が変わってしまった。


「まあ、寛太なら、どこに行ってもすぐに友達ができるだろうし、引っ越したわけでもないから、いつでも会えるさ」


 龍太がそう言うと、2人は、


「そうね」


 と、軽く流した。


 どうやら、あかりも美月も寛太のことを友達だとは思っているが、それほど寂しいとは感じていないようだ。


 そのくせ、龍太が進学校を受験すると聞かされると、必死になって受験勉強をしていた。





「そういえば、私たちが通う高校には、彼も入学するって聞いたけど」


 美月が耳にかかった髪を指先でかき上げながら、そう言った。


「あっ、それ、私も聞いたよ」


 あかりもそう答える。


 2人が言う「彼」とは、


「祖父江・卓斗か……」


 そう、元市長・祖父江金五郎の息子にして、彼らが小学生だった頃の同級生だ。


 そして、彼の父親を市長の座から引きずり下ろし、刑務所に送り込んだのは、小学3年生だった龍太と、その愛犬ゼルだったのだ。


 そのこと自体、龍太は一切後悔していない。


 金五郎は非道を重ね、ついには龍太の家族まで狙おうとした。


 なにより、神崎あかりの父親を脅迫するために、わざと交通事故を起こそうとし、美月を巻き添えにしてしまった。


 あのとき、その場に龍太がいなければ、美月は間違いなく命を失っていたはずだ。


 そもそも、当初の標的は、目障りな市議会議員の娘である神崎あかりだった。彼女を龍太がかばったため、その後ろにいた美月が事故に遭ったのだ。


 最悪の場合、あかりも美月も命を失っていた可能性すらある。


 そのため、祖父江・金五郎には、犯した罪を償ってもらっただけなのだ。


 しかし、父親が逮捕されたことにより、その息子である祖父江・卓斗の家庭はバラバラになってしまった。


 彼は転校し、確か祖父の家に預けられたと聞いている。


 その後も腐ることなく、真面目に自己研鑽を続けていたのだろう。入学試験のとき、彼が同じ高校を受験していると聞き、


「卓斗なら合格するだろう。そうか、高校で再会できるのか」


 と、内心楽しみにしていた。


 楽しみにしてはいたのだが、それでもやはり、少し気まずい。





「あ、あれって彼じゃない?」


 美月が50メートルほど先の校門を指さして、そう言った。


 龍太とあかりが目を向けると、一人の男子生徒の背中が見えた。


 祖父江・卓斗は、父親に似ず、細身で長身のイケメンだった。


 元々、小学生の頃から整った顔立ちをしていたのだが、当時は性格が悪すぎたせいで、皆から嫌われていただけだ。


 直接話していないため、性格がどう変わったのかは分からない。しかし、遠目に見た感じでは、昔のようなトゲトゲした印象は受けない。


 一見すると、クール系男子だ。


 校門で案内をしていた先輩の女子生徒が彼を見て少し驚き、頬を赤く染めながら、横目で彼の後ろ姿を追っている。


「何かモデルみたい」


「元々、見た目は悪くなかったのよ。悪いのは性格だけで」


 あかりと美月は、冷めた目でそんなことを言っている。


「まあ、元気そうで何よりだ」


 そんな2人を見て肩をすくめながら、龍太はそう言った。


【新キャラ】


 校門の前には、「入学式」と達筆な文字で書かれた看板が立てかけられている。


 そして、その校門には「私立 豊成高等学校」と書かれた金属プレートが埋め込まれていた。


 今日は、学校はまだ春休みだが、上級生たちが手伝いに来ている。


 おそらく、生徒会の役員や各クラスの委員長たちだろう。


 校門には、2年生の男子生徒と女子生徒がそれぞれ一人ずつ立っていて、校門から入ってくる新入生たちに、


「真っすぐ進んでください! 正面玄関前にクラス分けが貼り出されています。自分が何組なのか、そこで確認してください!」


 と、声をかけている。


 そのとき、校門前がざわついた。


 驚いた先輩2人が目を向けると、めちゃくちゃ可愛い女子と、めちゃくちゃ綺麗な女子が並んで校門を通過していった。


 もちろん、それはあかりと美月で、その2人の間には龍太もいたのだが、転生勇者も現実の美少女たちにはかなわないようだ。


 完全にスルーされている。


「えっ、さっきの男子もそうだけど、今年の1年生ってレベル高すぎない?」


 さっきの男子とは、祖父江・卓斗のことだ。


「くそっ、1年早く生まれすぎた!」


 先輩2人が思わずそうつぶやく。


 急に新入生たちが憎らしくなってきたようだ。


 先輩たちだけでなく、新入生たちも、2人に気づいた者から足を止めて驚いている。


「ところで、あの2人の間にいる男子は何だ?」


 そして、龍太に気づくと、急に冷めた表情になった。


「何だか複雑な心境だ」


 それに気づいた龍太が、苦笑いを浮かべながらそう言った。


 これは今に始まったことではない。


 元々、2人は可愛かったが、年齢を重ねるごとに、どんどん魅力が増していった。龍太の魅力度がカンスト(最大値)した後も、彼女たちは成長を続けている。


 そうなれば、いつも一緒にいる龍太が周囲からどう見えるか。


 中学時代は、そのせいでいろいろな人間に絡まれた。


 面と向かって、


「お前、神崎(もしくは室井)と、どういう関係なんだ?」


 と詰め寄られるのは、まだましな方だった。いきなり不良っぽい連中に喧嘩を吹っかけられたり、悪い噂を広められたりしたものだ。


 しかし、そのどれも、彼のHPやMPを1ポイントたりとも削ることはできなかった。


 時には靴や体操服を隠されたこともあったが、龍太の能力をもってすれば、すぐに見つけることができた。ノートや教科書に落書きをされたり、破られたりしていても、魔術で簡単に直すことができた。


 しかし、そんな彼でも、ときどき怒ることはあった。


 それは、あかりや美月に告白して断られた男子や、2人に嫉妬した女子が嫌がらせをしたときだ。


「ねえねえ、あかりちゃん。俺たちってお似合いだと思うんだよね。どう、付き合ってみない?」


「室井さん、ずっと君のことが好きでした。俺の恋人になってください」


 2人は知らない人からのメールは絶対に開かないし、知らない番号からかかってきた電話にも絶対に出ないため、告白は直接するしかない。


 そして、今どきの子供は、直筆のラブレターを書くという発想がない。


 中学生になり、男子も女子も色気づき始めると、あかりと美月はそれぞれ屋上や校舎裏に呼び出され、よく告白されていた。


 しかし、まったくタイプの違う2人だが、お断りの返事だけは同じだった。


「ごめんなさい。私、好きな人がいるの」


 その好きな人が誰なのかは、誰の目にも明らかだった。


 いつも2人と一緒にいる幼馴染の茂野・龍太だ。


 そして、この3人(+寛太)のことを幼稚園や小学生時代から知っている男子は、どれほどあかりや美月に恋焦がれても、絶対に告白しようなどとは考えなかった。


 それこそ、レベル1の勇者がいきなりラスボスに戦いを挑むよりも勝率が低いからだ。





 2人に告白し、見事に断られた男子が、肩を落として泣きながら帰っていけば、それで終わりなのだが、中にはその返事に納得できず、


「俺(もしくは僕)のどこが茂野に負けているんだよ?!」


 と食い下がる者もいた。


 すると、それまで外見だけは申し訳なさそうにしていたあかり、もしくは美月が、急に怒り出す。


「全部よ!!」


 と怒鳴られるのだ。


 それ以降、振られた腹いせに龍太に八つ当たりしたりするのだが、こちらには何をしてもまったく効果がない。


「辛かったんだな。でも大丈夫、時間が癒やしてくれるから」


 龍太にどれだけひどいことを言っても、肩をポンポンと叩かれ、慈愛に満ちた目でそう慰められて終わるのだ。


 それはそれで何だかムカつくので、暴力に訴える者もいた。しかし、振り回した拳や足は龍太にかすりもしない。それどころか、子猫にじゃれつかれた人間のように、笑顔でなだめられてしまう。


 中学時代には、振られた腹いせに暴走族をけしかけられたこともあったらしい。しかし、龍太は自分はもちろん、暴走族たちにすらかすり傷一つ負わせることなく、追い払ったことがあった。


 それ以降、彼に対する直接的な報復行為は行われなくなっている。


 仕方がないので、振られた男子たちは、自分を振ったあかりや美月に仕返しをしようと、悪い噂を流したりし始めた。


 そうした者たちには、振られた男子だけでなく、モテまくる2人に嫉妬した女子たちも含まれている。


「室井って普段はクールだけど、男の教師には色目を使うらしいぜ」


「神崎って市議会議員の娘だからって、先生たちからえこひいきされているよね」


 などなど、根も葉もない誹謗中傷が、口伝いやSNSで広められていく。


 さらに言うと、それだけでは効果が薄いため、さりげなく2人の目や耳に入るようにする。


 それを知った2人が怒るなり泣くなりすれば、少しは彼らの溜飲も下がったかもしれない。しかし、あかりはまったく気にした様子もなく笑い飛ばし、美月は完全に無視した。


 そのような反応をされると、噂を広めた側の行動は、どんどんエスカレートしていく。


 龍太の出番はここからだった。





 2人の私物を盗んだり隠したりしても、本人たちがなくなったことに気づく前に、龍太が見つけ出して元の位置に戻しておく。


 中には、ノートや教科書を破ってゴミ箱に捨てた者もいたらしいが、こちらも不思議なことに、本人たちが気づく前に、何事もなかったかのように元の状態で元の位置に戻っていた。


 さらに言うと、それらを破って捨てた者の教科書やノートには、


『これは警告だ。次は報復するぞ』


 と書かれていたらしい。


 ほとんどの者たちは、この段階で怖くなり、あかりや美月、さらには龍太に近づくのをやめる。


 しかし、諦めきれない者が、龍太は無理でも、2人の女子になら有効だろうと考え、実力行使に出た。


 1人、もしくは数人で2人を待ち伏せし、脅そうとしたのだ。


 しかし、彼らは全員、龍太に叩きのめされてしまう。


 彼は、自分が誰に襲われても、襲撃者が疲れて飽きるまでひたすら攻撃を避け続けていた。しかし、あかりと美月に対して同じことが行われそうになったときは、相手が泣いて謝るまで、徹底的に体に教え込んだ。


 中途半端に済ませると、次はより悪質になって再挑戦してくることが分かっているからだ。


「いいか。今後、二度とあかり(もしくは美月)に近づくな。近づけば、次は無警告でこうだぞ」


 そう言って龍太が、近くのコンクリートの壁や、場所によってはアスファルトの路面に拳で穴を開ける。


 さすがに顔のすぐそばでそれをやられたら、もう逆らえる者はいない。


 ちなみに、壊された壁やアスファルトも、当然、龍太が修理している。


 そうしたさまざまな体験を積んできたため、今、校門前で自分に向けられている視線に驚いたりはしない。





「正面玄関って……あっちだ」


 あかりがそう言って、校舎の方向を指さした。


「ええ、そこに看板も立っているわね」


 美月が校舎の手前にある案内板を指さして、そう言う。


「ホントだ。いやぁ~、親切だねぇ~」


「いや、案内の先輩もそう言っていただろ」


 龍太が呆れながらそう言うと、3人は校舎の前を歩いていった。


 そんな彼らを、じっと見つめている人物がいた。

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