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転生勇者とついでに魔王~異世界転生した勇者と柴犬魔王の凸凹コンビ~  作者: よしぞう


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第31話 決戦前

【戦闘跡】


 深夜の住宅街を、賑やかなサイレン音を響かせつつパトカーが駆け抜けていく。


 それを茂野・龍太とゼルが、他人の家の屋根の上から見下ろしていた。


 そしてサイレンが止まり、赤色灯が先ほど4人の黒づくめの男女を倒した場所で停まるのを確認してから、一人と一匹は移動を開始した。


 目的地は、ボスキャラのいるダンジョンならぬ屋敷だ。





「これは、一体何があったのですか?」


 パトカーから降りてきた警察官が、路上に倒れている、見るからに怪しい格好の四人の男女を見下ろしつつ、そう言った。


「それが、さっぱり分からないんだよ」


 通報をした住民の男性が、頭を掻きつつそう言う。


 遠くから救急車のサイレンも聞こえて来る。


 怖いので誰も介抱などしていないが、とりあえず4人の大人が路上で意識を失っているのだから、まあこれは当然だろう。


「ナイフにバール……強盗かって……これは拳銃じゃないか?!」


 警察官が、周囲に転がっている怪しいグッズに触れないように気をつけつつ、順番に見て回っていた。


 そして最初は何だか分からなかったが、切断された拳銃に気付いたのだった。


 それほど聖包丁エルグレイザに切断された拳銃たちは、異様な状態だったのだ。


「署に増援を要請しろ。これは単なる悪戯や喧嘩じゃないぞ」


 彼がそう言うと、パトカー内にいる同僚が慌てて無線機のマイクを手に取った。


「それにしても、こいつら何者なんだ?」


 学生などではなく、4人とも大人であることは間違いない。


 目出し帽を脱がせていくと、全員そこそこの年齢で、三人は男で1人は女だった。


 最初は死んでいるのかと思ったが、規則正しく呼吸をしているし、なんというか、ただ眠っているだけにしか見えない。


「とりあえず、危ない奴らみたいだから、手錠をかけておこう」


 怪我はしていないようだし、なにより、周囲には怪しい凶器がゴロゴロ転がっているのだ。


 いきなり目を覚まして、それらを手に取って暴れ出す可能性もある。


 二人の警察官が4人に手錠をかけ終えると、救急車が到着した。


 パトカーとは違うサイレン音が、ピタリと止められる。


「な、何ですか、この状況は?」


 救急隊員が放った第一声がそれだった。


 まあ気持ちは分かる。警察官たちも全く同感だからだ。


「呼吸、脈拍ともに正常。これはただ眠っているだけですね」


「でも、身体を揺すっても起きないんですよ。事情を聞きたかったのに」


「もしかしたら、何か薬でも飲まされているのかもしれません」


 状況はどうあれ、一度病院に連れて行って医師に診てもらう必要があるだろう。


 救急車1台に4人も乗せることはできないため、こちらも増援を要請する。


 その間に、4人の身体をさらに調べ、まだ凶器などを隠し持っていないか調べておく。


 すると、全員が小型の無線機とイヤホンマイクを身につけていた。


「こいつら、どこかの国のスパイか?」


 とても強盗が持つ装備ではない。


 その他は、身分を証明するようなものはなく、4人が持っていたスマートフォンもロックがかかっているため、中身を見ることができなかった。


 そこに増援のパトカーが鑑識を乗せて到着する。


「これは、拳銃ですか……」


 彼らも真っ二つにされた拳銃を見て、言葉を失ってしまった。


「レーザーで切断されたみたいだ?」


 そう言ってはみるが、現実にレーザーで切られた拳銃など見たことがないため、あくまでもイメージだ。


「こいつら、こんな壊れた拳銃を持って何をしていたんですか?」


「それなんですけど、この落ち方……まるで、ここで真っ二つにされたようにしか見えないんですけど」


「ここで? どうやって?」


「さあ?」


 警察官たちが周囲を見回す。


 当然だが、鉄の塊である拳銃を真っ二つにできるような物は見当たらない。


 彼らの視線が、通報した住民に向けられた。


「いやいやいや、家もそんな怪しい物、持ってないからね!!」


「まあ、それはそうでしょうけど」


 そう言って、全員で首を傾げたのだった。


「そもそも、この4人は何者で、誰にやられたんだ?」


 全く起きる気配がない黒づくめの4人組。彼らの体には、何者かと争った形跡がいたるところに残っている。


 最初は4人で殴り合いの喧嘩でもしたのかと思ったが、それだと足元に転がっているナイフやバールの説明がつかない。


 そのような物で殴り合えば、出血をするどころか骨が折れているはずだからだ。





【卓斗の覚悟】


 祖父江・卓斗は、自室の窓から家の庭を眺めていた。


 この街の市長である彼の父親は、昨日から家に戻ってきていない。


 おそらく市役所に泊まり込んでいるのだろう。


 母親は家の中にいるのか、出かけているのかすら分からなかった。


 この家で家族団らんの時間など存在しないのだ。


 皆が好き勝手にやりたいことをやっている。


 以前は大好きだった庭の噴水がライトアップされていた。


 今はそれを見ても何も感じない。それを言うなら、この立派な屋敷もそうだ。


 小学校に入学した頃までは、噴水のある手入れの行き届いた庭も、この屋敷も大好きで、いつも自慢をしていた。


 しかし、最近は何だか虚しく感じる。


 2階にある彼の部屋の下を、屋敷を警備している二人組の黒づくめの格好をした男が通り過ぎていく。


 この屋敷には、敷地内とその周辺に無数の防犯カメラと、侵入者を早期に発見するためのセンサーが設置されている。


 さらに常時4人の警備員が常駐していが、昨日からその人数が半分になっていた。


 おそらくその分、市役所の警備を厳重にしているのだろう。


 一体、彼の父親は何に怯えているのか?


 卓斗には何となく、その予想がついていた。


「こんばんは」


 突然、背後から聞き慣れた男児の声が聞こえてくる。


 卓斗は驚きはしたが、取り乱したりはしなかった。


「そろそろ来ると思っていた」


 そう言って振り返ると、子供部屋にしては豪華で広い彼の部屋の中央に、茂野・龍太と黒い柴犬が立っていた。


 ちなみに、彼は過去に黒柴犬ゼルにも会ったことがある。


 この一人と一匹は、この屋敷内に無数に設置されているセンサーに察知されることなく、さらに警備員に見つかることもなく、ここまでやって来たのだ。


 もし、どちらかに見つかっていたら、警報が鳴り響き、警備員に取り押さえられていたはずだ。


 いや、そう言えば、こいつ滅茶苦茶強かったな、と1年生の時の事件を思い出して苦笑いを浮かべる。


「驚かないんだな?」


 茂野・龍太が肩を竦めつつ、そう言った。


「驚いたに決まっているだろ。どうやってここまで入ってきたんだよ?」


 そう言いつつ、卓斗がカーテンを強く握りしめる。


 彼は何も知らない。しかし、龍太が何をしに来たかは分かっていた。


「室井の事故……あれをやったのは俺の父親だろ?」


 彼がそう言うと、龍太が少し驚き、そして顎を引くように頷いた。


「知っていたのか?」


「もちろん、何も知らなかったさ。しかし、今朝のお前と神崎の行動、そして今ここに来ているってことは、そういうことなんだろ」


 卓斗が、子供とは思えない疲れた表情でそう言う。


「祖父江・卓斗、お前の父親は裁かれなければならない。その結果、お前は今の生活を失うだろう」


 龍太のその言葉は重かった。


 それを聞いて、卓斗が思わず涙ぐむ。


 そして窓の外に目を向けると、噴水を眺めつつ涙を拭い、そして軽く頭を振って振り返る。


「仕方ないよ。以前ならお前に向かって怒鳴って物を投げつけていただろうけど、今はそれが当然だって分かるから」


 それを聞いて、龍太が自分の足元にいるゼルに目を向けた。


 黒柴犬はつまらなそうに欠伸をしている。


「父さんは家にいないぞ。昨日から市役所に泊まり込んでいる」


「そうか」


「市役所の市長室には金庫があって、そこには祖父江家の家宝が入れられているらしい。父さんにとっては、この家や俺よりも大切な物だ」


「家宝?」


「それを聞いて、見せてほしいとお願いしたことがあるけど、ものすごく怖い顔で睨まれた」


 一人息子に見せられない家宝。それは、子供には価値が理解できないような物なのか、それとも扱い方を間違うと大惨事になるような危ない代物なのか。


「代々受け継がれてきた物で、祖父江家の当主しか手にできない物らしい」


「なるほど」


 それが何なのか知りたかったが、見せてもらっていないのなら仕方がない。


 夜風がカーテンを揺らし、祖父江・卓斗の横顔を隠した。


「茂野、お前は何者なんだ?」


 もっともな疑問を卓斗が口にした。


「俺は、ただの小学生だよ。愛犬の散歩中のな」


「お前な……」


 そう言って、卓斗がゼルに目を向ける。


「カーペットにおしっこをさせるなよ。母さんに滅茶苦茶怒られるから」


 そう言われて、ゼルがウゥ~ッと小さく唸った。


「フッ、ゼルが『そんなことをするか、無礼なことを言うと貴様の血で真っ赤に染めてやる』って言ってるぞ」


 龍太がそう言うと、卓斗が笑った。


「茂野でもそんな冗談が言えるんだな」


 どうやら、今の台詞は龍太が考えて言ったと思われたようだ。


 もちろん、それをムキになって訂正などしない。


「じゃあ、俺は行くよ」


 そう言ってから、龍太は卓斗に向けて頭を下げた。


「ありがとう」


「もしかして、市役所に行く気か?」


「ああ、お前の父親は決して許されないことをした。だから、最初に言った通り、裁きを受けてもらう」


「小学生のお前が?」


「俺が、普通の小学生じゃないことは、お前も知っているだろう?」


「でも、市役所には大勢の警備員がいるぞ」


「だろうな」


「……」


「俺が言うのもなんだけど、危ない真似はするなよ」


「分かった」


 そう言うと、龍太とゼルがドアから部屋を出て行った。


 卓斗がその後を追って、廊下に顔を出す。


 しかし、長く真っ直ぐ伸びる廊下に、茂野・龍太と黒柴犬ゼルの姿はなかった。


「……?」


 本当にあの一人と一匹はここに来ていたのか? まるで幻のようだ。


 その後、卓斗は屋敷の防犯カメラの映像を調べたが、どこにも龍太とゼルの姿は映っていなかった。

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