↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者とついでに魔王~異世界転生した勇者と柴犬魔王の凸凹コンビ~  作者: よしぞう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/51

第28話 売られた喧嘩を買う転生勇者

【奇跡の理由】


 救急車とパトカーが事故現場に到着すると、警官たちが野次馬の前に立って壁をつくり、救急隊員がストレッチャーを押してミニバンの前に回り込んできた。


 彼らは、前部分が無茶苦茶に潰れた……いや、切り刻まれたミニバンを見て、残念だけど、これは生きていたら奇跡だ、と考えていた。


 酷い表現だが、もし命が助かっても、一生普通の人と同じ条件で生活はできないだろう。


 事故の被害者は女子小学生だという通報を受けていたため、本人はもちろん、親御さんの気持ちまで考えてしまう。


「救急隊です。大丈夫ですか?」


 お約束としてそう言いつつ、ミニバンの前に回り込んでくると、


「えっ?」


 そして、二人の救急隊員が驚いて立ち尽くす。


 一秒たりとも無駄にできない状況のはずなのに、二人が顔を見合わせて眉を寄せている。


 事故の被害者は女子小学生が一人だけと聞いていたのだが、そこには男子小学生もいた。


 さらに、その男の子が女の子を抱きしめている。


 ちなみに、救急車とパトカーが到着すると同時に、龍太は聖包丁エルグレイザを家に帰していた。


「き、君は?」


 救急隊員が恐る恐るといった感じで声をかけてきた。


「俺はこの子の同級生です。呼吸、脈拍ともに異常はありません。腕や足に複数箇所の擦り傷と打撲があり、現在は意識を失っています」


「えっ? ホントに?」


 そう言って二人がゆっくりと近付くと、確かに男の子に抱きかかえられている女の子は、ほとんど外傷がない。


 服はボロボロで、ランドセルも原型が分からないほど潰れているというのに、それらを身につけていたはずの本人は、一見すると無傷にすら見える。


「お願いします」


 龍太がそう言うと、自分たちが何のためにここに来たのか思い出した救急隊員たちが、仕事に取りかかった。





「……ん……」


 微かな呻き声とともに、美月がゆっくりと目を開けた。


 最初に見えたのは天井と照明、そして消毒液の臭いと、柔らかいクリーム色に塗装された室内だった。


 見覚えがある。


 それは、彼女の父親が院長をやっている総合病院の病室だ。


「私……生きてる?」


 両手を顔の前に持ってくると、掌を二度三度握ったり開いたりする。


 微かに肩や腕が痛んだので病衣の袖を捲ると、包帯が巻かれていた。


 手当をされているということは死んでいないわね、と妙な納得をする。


 それと同時に、記憶がフラッシュバックした。


 緩いカーブを外側に膨らむように、ミニバンが猛スピードで近付いてきた。


 少し前を歩いていた龍太とあかりを狙っているように歩道に上がり、そのまま突っ込んでくる。


 すると、龍太があかりを抱きかかえて、驚いたことにそのミニバンを軽く飛び越えた。


 しかし、驚いている場合ではなかった。


 ミニバンは横転し、壁にぶつかりつつ、そのままの勢いで美月に向かってきたのだ。


 避けるどころか、悲鳴を上げる暇すらなかった。


 目の前にミニバンが迫り、そこで意識が途切れる。


 動悸と呼吸が尋常ではないほど激しくなり、全身から汗が噴き出す。


 両手で胸を押さえ、身体を守るように布団の中で丸くなった。


 その時、ドアが開いて、誰かが入ってきたが、そのことにすら気付かない。








「美月、美月!!」


 それは彼女の母親だった。


 ずっとつきっきりで看てくれていたのだろう。運悪く、たまたまトイレに行っていた時に娘の意識が戻ったのだ。


 母親は娘を抱きしめつつ、ナースコールのボタンを押す。


「美月、大丈夫よ。大丈夫だから」


「お、お母さん」


 涙を流しながら、美月が彼女の顔を見る。


 そこへ、今度は父親が看護師を連れて駆け込んできた。


 普段はいつも冷静で、病院内で医師や看護師が慌てていたら、患者さんたちが不安に感じるだろう、とよく言っていたというのに。


「美月、良かった」


 彼は愛娘の手を握ると、涙を流して喜んでいる。


「奇跡だ。本当に……あれだけの事故で、軽い打撲と擦り傷だけで済むなんて」


 そう言う彼の隣で、美月もよく知る看護師も嬉しそうに笑っている。


「えっと……お父さん、お母さん……」


「どこか痛いところはないか? 苦しくないか?」


 二人の顔を見て安心した美月が、少しずつ平静を取り戻していく。


「龍太君とあかりは?」


「二人とも無傷だった。美月に付き添って救急車に乗ってこの病院まで来ていたんだけど、夜になったから帰ってもらったんだよ」


「そう……」


「事故を起こした運転手が一番重傷で、今もICUに入っている」


 ミニバンの前面とビルの壁に挟まれながら、ほぼ無傷だった美月に比べて大違いだ。


 その時、美月は思い出した。


 身体が無茶苦茶になり、痛みどころか何も感じられなくなっていた時、突然、身体が温かくなった。


 そして、微かに見えたのは、彼女を抱きしめている龍太の顔だった。


 奇跡?


 きっと違う。


 彼だ。


 龍太がまた助けてくれたんだ。


 美月はそう確信していた。


「意識が戻ったら、お巡りさんが話を聞きたいと言っていたから、明日、落ち着いたら来てもらうよ」


「学校……」


「少しお休みをしよう。大きな事故だったからね。身体を徹底的に検査をしないと」


 驚くほど外傷は軽いが、脳や内臓にダメージがないとは言い切れない。


 そもそも、あの事故現場を見て、こんな掠り傷で済むなど通常はあり得ないのだ。


「龍太君とあかりちゃんは、また来るって言っていたから」


 母親が、彼女を安心させるために優しい笑顔でそう言った。





【事故直後】


 美月を収容した救急車に、龍太とあかりも一緒に乗せられ、室井総合病院へと連れて行かれた。


 二人が友達を心配し、一緒に自分たちも連れて行ってほしいと申し出たというのもあるが、悲惨な事故現場に居合わせた二人も、念のために診察しておいた方が良いと判断されたためでもある。


 救急車の中で救急隊員たちは、美月の手足などに湿布を貼ったり、その上から包帯を巻いたりしていたが、それ以外は怪訝な表情で首を傾げる以外、何もしていない。


 精密検査を受けていないため断定はできないが、それほど美月の怪我は軽かったのだ。


 病院では、龍太とあかりも身体をいろいろと調べられたり、医師からの問診を受けたりしたが、こちらは掠り傷すらなかった。


 その後、救急車についてきた警察官から事故の時の状況についていろいろと質問をされたが、こちらも、親友が巻き込まれた事故を目の当たりにしてショックを受けている小学生相手に、あまり詳しい事情を聞くのは酷だろうということで、かなり言葉を選んで短い時間で終わっている。


 確かにあかりはかなり動揺しており、事故を思い出させる内容の質問をすると、言葉に詰まり涙ぐんだが、龍太の方は、冷静沈着に淡々と受け答えをしている。


「 あの短い時間でよくそこまで観察できたね?」


 と、警察官が逆に怪しんだほどだ。


 要は、龍太がテレビやネットで知った知識を元に、想像を膨らませているのではないだろうかと疑ったのだった。


 ただ、彼の説明は事故の状況とピタリと当てはまっていたため、かなり信憑性は高いと判断されている。


 しかし、龍太は肝心な部分は惚けて誤魔化していた。


 それは、壁に猛スピードで衝突し、完全に潰れていたミニバンの前面が、レーザーか何かで切り刻まれていたことだ。


 レスキュー隊のエンジンカッターでも、あそこまで車のボディーを綺麗に切ることはできない。


 その部分だけは龍太も、


「僕が駆けつけた時には、あの状態でした」


 と言って誤魔化している。


 その後、警察から連絡を受けた龍太の両親とあかりの母親が病院まで、まさに血相を変えて駆けつけてきたため、事情聴取は打ち切られた。





 家に帰るまで龍太は、ずっと母親に抱きしめられていた。


 運転をしている父親も、


「本当に大丈夫か? 怖かっただろう? 偉かったな」


 と何度も言っている。


 両親に心配させてしまい、申し訳ないと心から思っていた龍太は、ひたすら二人を安心させ続けた。


 しかし、心の中は氷のように鋭く、そして冷たく冴えている。


 それは転生前の世界で、強い敵と戦う前の心境に似ていた。


 家に入ると、龍太はいかにも愛犬に会いたかったとばかりに、自分の部屋に駆け込む。


 黒柴犬のゼルもケージから飛び出すと、尻尾を力いっぱい振り、龍太に飛びついてその顔を舐め回す。


 微笑ましいその光景を見て、両親が子供部屋のドアを閉めると、一人と一匹は急に騒ぐのを止め、ベッドの上で向かい合って座った。


「で、どうだった?」


 冷めた声で龍太がそう言う。


『あの怪しい二人は、移動しながら誰かに電話をかけておったぞ』


 とゼルが思念波で答える。


『襲撃についての報告か?』


 ここからは龍太も思念波での会話をする。


『うむ。あのクゥの飼い主を殺すのに失敗したと、ハッキリ言っていた』


『そうか』


『そして……市長にどう言い訳すればいいか悩んでいたな』


『やはり神崎議員の娘であるあかりを狙ったわけか……愚劣な』


『勇者よ、まずいことになったぞ。こういう場合、襲撃を命じた者は目的を達するまで意地になって、さらに襲撃を繰り返してくる。次はもっと大胆に、容赦なくな』


『ああ、分かっている』


 前世では、卑劣極まりない魔王の手下たちに何度同じようなことをされたことか。


『どうする、勇者よ?』


『決まっているだろう』


 そう言うと、龍太が目を細めてニヤッと笑った。


『こういう時、この世界ではこう言うらしいぞ。“売られた喧嘩は買うぞ”とな』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。