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転生勇者とついでに魔王~異世界転生した勇者と柴犬魔王の凸凹コンビ~  作者: よしぞう


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第27話 決して容認できない犠牲

【命の重さ】


 妙な気配だ。


 教室の窓から外に目を向けつつ、龍太がそう呟いた。


 朝のホームルームが終わった頃に、校門の前に1台の車が停まった。


 学校の屋上には、思念体になったゼルがいる。そのため、些細なことでも龍太に思念で伝えてきている。


 ちなみに黒柴犬のゼルの身体は、家の自分のケージの中で丸くなって寝ている。


 要は暇すぎるので、思念だけで外をうろついているのだ。


 そして、特に興味を引くものがなければ、龍太が通っている小学校の校内か、その周辺で時間を潰している。


 不審車両の情報は、そのゼルからのものだった。


 運転席と助手席には私服姿の男が乗っているのだが、車内からずっと学校の方を見張っているらしい。


 黒板の前では担任の男性教師が授業を進めている。


 ただ、クラスの全生徒にはタブレットが配られているため、昔のように、


「はい、〇〇君。前に出てきて、この問題を解きなさい」


 などということはしないが。


『ゼル、動きはあったか?』


 龍太が思念で元魔王にそう問いかける。


 思念波によ通話は、あまり遠くまでは届かない、基本は肉声が届く範囲ということで、ようは大声で叫んだら聞こえる範囲ということだ。


 今も普通の人には見えないが、ゼルは窓のすぐ外にいた。


『いいや、だからこそ怪しいと言える』


 確かに黒柴犬の言う通りだ。


 用事もなく校門の近くに車を停め、ずっとその車内にいるのだから当然だ。


 目的はなんだ?……普通に考えれば……。


 そう考えると、龍太が少し離れた席に座っている神崎・あかりの後ろ姿に目を向けた。





 1年生の時、色々と目立っていた龍太は、何者かの監視対象になっていた。


 しかし、あれ以降、自分の行動のために家族や担任に迷惑をかけることを恐れた彼は、少しだけ目立たないように控えるようになった。


 そのため、今さら再び龍太がターゲットになったとは思えない。


 となれば、今この街で一番ホットなのは、市長と神崎議員、つまり、あかりの父親の対立だ。


 そうこうするうちに、この日の授業が終わった。





 6時限目の授業が終わると、そのままホームルームが始まる。


「じゃあ皆、車に気を付けて帰るんだぞ」


 担任の教師がそう言うと、生徒たちが「はいっ」と返事をした。


 龍太はランドセルを背負って、あかりへと近付いていく。


 せめて校門を出るまで、彼女と行動を共にしようと考えていたのだ。


 しかし、その時――。


『勇者よ、奴らが動いたぞ』


 ゼルの思念波が頭に響いた。


『助手席の男がどこかに電話をしている』


『どうやら悪い予感が当たったようだな』


 そう返事をすると、赤いランドセルを背負っているあかりに声を掛ける。


「あかり、今日は一緒に帰ろう」


「えっ? でも龍太君の家、反対方向だよ」


 その通りだった。


 校門を出ると、あかりは右に、龍太と美月は左に曲がる。


「母さんから、お遣いを頼まれていてね。あかりの家の近くのスーパーで買い物をするんだ」


「ふぅ~ん、まあ、私は嬉しいから良いけど」


 そこに美月も近付いてきた。


 そして、二人のやり取りを聞いて、


「じゃあ、私も……」


 と言いかけるが、


「今日だけは駄目だ」


 龍太に拒まれてしまった。


 普段とは違う余裕のないその声と表情に驚く美月。しかし、賢い彼女は、すぐに彼が何か隠していると悟った。


 そして、こういう時に我儘を言うような彼女ではない。


「分かったわ。じゃあ、また明日ね」


 理由を問いただしたりせずに、微笑みながらそう言って離れていく。


「どうしたの、龍太君?」


「ん? だって、帰り道が逆だろ。寄り道は良くないから」


「でも、龍太君も」


「俺は、男だから」





 龍太とあかりが並んで校門から外へ出た。


 ゼルが言っていた位置に、白いセダンが停まっているのを確認する。情報通り、運転席と助手席には男が座っている。


 その車内の二人の男の視線は、龍太ではなく、あかりに向けられていた。


 やはり、狙いはあかりか……。


 最初は誘拐目的かと思ったが、男たちの視線には明らかに殺意が込められていた。


 不審車両に背を向け、歩道を歩いていく。


 何も知らないあかりは無邪気に、今日あった面白いことを龍太に向けて話し続けている。


 他には不審車両や人間はいないな……。


 念のために歩く速度を調整して、他の下校中の生徒たちから距離をとる。


 少し離れて美月がついてきているのが分かった。


 勘の鋭い彼女は、先ほどの龍太の態度から、何か起こると察したようだ。


 逆効果だったか。しかし、これだけ離れていれば、何があっても巻き添えにはならないだろう。


 ゼルの思念体は、龍太以外には見えないが、今は道路の反対側を歩いている。


 実体がないのに足をチョコチョコ動かしているのが、何とも滑稽だった。


 その時、そのゼルから思念波が届いた。


『来るぞ。前から猛スピードの車が近づいてくる』


 ここは、緩いカーブの外側だ。今の位置からは、その接近中の車は見えないが、エンジン音は聞こえてきた。


 龍太は、その音に気付いて、あかりの背後で足を止めた。


 そして、自身の体内の魔力を高め、次々と魔術を構成していく。


 身体強化、筋力強化、さらに知覚と敏捷力も高める。


 今の彼は9歳の子供でありながら、オリンピックに出る超一流アスリートよりも身体能力は高い状態になっていた。


 そして、見えた。


 タイヤを鳴らしながら、シルバーのミニバンがカーブの向こうから姿を現す。


 今の龍太には、その運転席に座る男の顔までハッキリと見えた。


 自分の父親よりも年配で、工場で働く人がよく着ている作業着姿だ。


 目が血走り、その視線があかりに向けられている。


 しかし、その表情は怯えているようにも感じられた。


 誰かに命じられているのか? それとも、家族を人質にとられでもしたのか? 分からないが、好きでこのようなことをしているわけではないようだ。


 ハンドルを切りつつ、さらにアクセルを踏み込む。その目と口が大きく開かれ、何か叫んでいる。


 あかりが悲鳴を上げるが、それとほぼ同時に龍太があかりを背後から抱きかかえた。


 ランドセルごとお姫様抱っこをされた彼女が驚くより早く、龍太がジャンプをする。


 驚いたことに、龍太は彼女を抱えたまま3m近く飛び上がっていた。


 その足元をミニバンの屋根が猛スピードで走り抜けていく。


 それを余裕で飛び越えると、龍太が着地をした。


 しかし、助かったと安心する余裕などなかった。


 あかりをその場に降ろすのと同時に、振り返って走り出す。


 シルバーのミニバンの運転手は、ターゲットであるあかりを見失った直後にパニック状態になり、アクセルを緩めないままハンドルを車道側に切ったのだ。


 そのままビルの壁に衝突するはずだった車体が大きく傾き、そのまま横転、そしてその勢いのまま歩道の上を滑っていく。


 その先には、突然のことに悲鳴を上げることもできず、立ちすくんでいる美月がいた。


「美月!!」


 そう叫ぶ龍太の目の前で、彼女の姿と横転したミニバンが重なり、そのままビルの壁に激突する。





「ああっ!! くそっ!!」


 龍太が横転したままビルの壁にめり込んでいる車体に飛び乗り、さらにその向こう側へと降りる。


 美月の姿は完全に見えなくなっていた。


 ただ、車体と壁の隙間から赤い血が流れ出してきている。


 龍太はミニバンの車体に両手を添えると、力いっぱい引いた。


 もちろん、横転した車を動かそうと思ったらレッカーが必要だ。


「エルグレイザ!!」


 右手を上に掲げてそう叫ぶと、そこに光に包まれた包丁が出現する。


 彼は迷わずに、それを縦横に振り回した。


 鉄製のボディーが薄紙のように切り刻まれ、最後に龍太が力いっぱい蹴り飛ばすと、車体全体がずれた。


 その隙間をさらに聖包丁エルグレイザで切り開き、そしてやっと美月を見つける。


 彼女は咄嗟に両腕で頭を庇ったのだろう。両腕が元の形が分からないほどグチャグチャになっている。


 顔は原型を留めていたが、血まみれで、さらに顔色は真っ青を通り越して紫色になっている。


 下半身も、両足が両腕と同じような状態になっている。


 しかし、この時点で彼女はまだ生きていた。


 ただし、1分後には確実に死ぬ。そのような状態だ。


「生きてる!! ヒーリング(回復)!!」


 そんな状態の彼女を抱きしめると、龍太がフルパワーで治癒魔術をかける。


 勇者と言えども、死者を蘇らせることはできない。


 それができるのは、元の世界でもパーティーにいた大僧侶だけだった。


 しかし、膨大な魔力を持つ勇者がかけるヒーリングは、生きてさえいれば、どのような状態の人間でも回復させることができた。


 美月の体で特に致命傷と思われる傷から、見る見るうちに回復していく。


 失われた部位の肉が盛り上がり、逆に周囲に飛び散っていた肉片や血液が消えていく。


 これは、それらをエネルギーに変換して、彼女の体に戻しているからだ。


「頑張れ、美月。冥界の王の甘い囁きに耳を傾けるな。そこはまだ君が行く場所ではない」


 美月を強く抱きしめたまま、龍太がそう言い続けた。


 傷は回復しても、精神が死ぬことがある。


 それを繋ぎ止めるために、彼は必死で祈った。


 ほんの数分で、美月の身体は元の状態に戻っている。


 打撲のあとや擦り傷は残っているが、それは内臓や骨などの回復が優先されているからだ。


 龍太が振り仰ぐようにして、ミニバンの運転席に目を向ける。


 フロントガラスは全面にひびが入り、さらに内側が真っ赤になっていた。


 標準装備になっているエアバッグは作動しておらず、さらにシートベルトもドライバーの身体をシートに固定しなかったようだ。


 どうやら運転手も死ぬことが前提だったようだが、問題は本人がそれを知っていたかどうかだ。


「うっ……」


 腕の中の美月が、微かに呻き声を上げた。


「美月!!」


 それに気付いた龍太が、彼女の顔に視線を落とす。


 微かに睫毛が震え、微かに目が開く。


「り、りょう……た……」


「良かった」


 それを見て、龍太が笑顔を浮かべる。


「もう、大丈夫だ」


 彼がそう言うと、美月の目が再び閉じられる。


 その時、周囲にいる大人たちとあかりが近付いてきた。


 遠くから救急車とパトカーのサイレン音が聞こえてくる。


 龍太が視線をミニバンとビルの壁の間に向けると、学校の前に停まっていた不審車両が猛スピードで走り去っていくのが見えた。


 警察と鉢合わせしたくないのだろう。


 そして、その逃げていく不審車両の屋根の上には、思念体化したゼルが乗っている。


 龍太以外には見えないが、屋根の上に四本足で立つ黒柴犬を乗せているのは、かなり異様だった。

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