↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者とついでに魔王~異世界転生した勇者と柴犬魔王の凸凹コンビ~  作者: よしぞう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/51

第12話 転生した聖剣

【聖剣転生】


 ある日、龍太が家のリビングで腕立て伏せをしていると、台所から母親のぼやき声が聞こえてきた。


「この包丁、もう駄目ね」


 どうやら夕食の準備をしていたのだが、なかなか思うようにいかないようだ。


 ちなみに龍太の母親は、特技:料理、趣味:料理という料理大好き人間で、プロ級の腕を持っている。


 料理好きが高じて、高校時代には料理研究部に、卒業後は調理師専門学校に進学し、卒業後は料理人に・・・・・なると思いきや、高校時代からの付き合っていた、龍太の父親と結婚をしてしまった。


 周囲からはなんて勿体ないと、反対とまでは言わないが色々言われたらしいが、本人は「私が料理が好きなのは、彼に美味しいって言ってもらうためだったから」と、言って、周囲の人達を赤面させまくったらしい。


 まあ、そのおかげで龍太は毎日、味&栄養バランスが完璧なご飯を頂けているわけだが。





「母さん、どうしたのですか?」


 龍太が筋トレを中断してそう聞くと、


「ちょっと包丁の切れ味が悪くて」


 と返事が聞こえた。


 なるほど、では包丁の攻撃力を上げよう、と考え、右手を母親が握っている包丁に向けると、頭の中で魔術の詠唱を始める。


 主に敵と戦う前に味方の武器にかける呪文だが、包丁も広い意味では武器と言えるだろう。


 しかし、そんな彼にゼルが飛びついてきた。


『待てぇええええい!!』


『何をする、ゼル?』


『馬鹿者、お前の母親の料理スキルは神レベルだぞ。もうあれは包丁の剣聖と言える。そんな者が使う包丁に攻撃力強化の魔術を掛けようものなら、まな板どころかキッチンまでも真っ二つだ』


『そ、そうか』


 ゼルの説明を聞いて、龍太が冷や汗を垂らしつつ右手を下ろした。


 言われてみれば、以前、包丁の一振りで玉ねぎがみじん切りになっていたな。


 危うく、母親をキッチンバスターにしてしまうところだった。


「これはもう買い替えるしかないわね」





 翌日、龍太を幼稚園まで迎えに来た母親は、彼を連れたまま近所のホームセンターに立ち寄った。


 龍太と手をつないだまま、台所用品コーナーへとやって来る。


 そこには、お手頃価格の包丁がズラリと並んでいた。


「どれにしようかしら」


 母親が、一本ずつ見比べていく。


 その時、龍太は陳列棚の片隅、ひときわ地味なパッケージの中にある一本の包丁に目を止めた。


「これは……」


 一本1000円の無名メーカーの包丁。


 しかし、そこから懐かしい魔力の波動を確かに感じる。


「間違いない。聖剣エルグレイザ」


 龍太がそう呟くと、包丁が微かに光を放った……ような気がした。


『おおっ、我が主、勇者ライナスよ。この時をどれほど待ちわびていたことか……』


『本当に、お前なのか?』


『無論です。あの魔王城での戦いで、私もあなた様と同じように転生の魔法陣に巻き込まれ、この世界に転生をしたのです。今は「万能ステンレス三徳包丁」、そしてセール品です』


『い、いろいろと苦労があったようだな』


『もちろんです。しかし、それは全て勇者と再会するため。他人に買われないように、存在を消す魔法を使っていました』


 その結果、売れ残ってセール品になってしまったというわけだ。


「あら、龍太、どうしたの?」


 そんな彼のところに母親が近付いてきた。


「母さん、この包丁がお勧めです」


 母親に包丁を勧める幼稚園児。


「これ? 何だか安いわね」


 そう言って、聖剣包丁をケースごと手に取る母親。


「きっと、切れ味は良いし、何より母さんが使えば、魔王すら倒せそうです」


「まあ、龍太ったら」


 幼い息子の冗談に、笑って答える母親


『もちろん、私に切れない物はありません』


『いや、母さんが使うときは、切るのは食材だけにしてくれ』


 その夜。


 茂野家のキッチンから、トントントンと小気味の良い音が聞こえてくる。


「なに、この包丁、すごく使いやすい」


 母親がそう言う。


 まあ、魔王すら一刀両断にする元聖剣ですから。


 龍太が心の中だけでそう言いつつケージの方を見ると、ゼルがガタガタと震えている。


『き、貴様、何という物を買ってくるのだ?!』


 その聖剣エルグレイザに一刀両断にされた元魔王が怯えている。


 この日のおかずは、龍太の大好物、特製フワフワハンバーグだった。


 皿の上に立ち昇る湯気と、ジワッと溢れ出す肉汁の香り。


『おのれ、なまくらの分際で、なんと旨そうな物を……』


 ゼルの皿にも、玉ねぎ抜きのハンバーグが入れられている。


『フンッ、駄犬には勿体ない。さあ、勇者よ、思う存分味わってください』


『お前たち、案外仲が良いな』


『私の喜びは、勇者と共にあること。あと、母君の包丁さばきは凄いですね。力をセーブしなければ、まな板までみじん切りにするところでした』


 聖剣包丁に力をセーブさせるほどの腕前とは、一体……。


 ちなみに、聖剣エルグレイザは勇者にしか使えないはずだったのだが、あれは制約があったわけではなく、純粋に聖剣自身の好みやプライドの問題だったようだ。


 かくして、異世界の聖剣は、最強の包丁として第二の人生を歩み始めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。