第17話 あの日、主君に救われた命と、夫婦の誓い
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深夜の片倉邸。
行燈の柔らかな光の中、景綱と矢重は静かにお茶を啜っていた。
ふと、奥の部屋からすやすやと寝息を立てる幼い息子(のちの片倉重長)の気配が漂ってくる。
その寝顔を愛おしそうに見つめていた矢重が、ふっと懐かしそうに微笑んだ。
「……あの子が生まれたときのこと、覚えていますか、あなた?」
景綱がお茶を飲む手を止め、気まずそうに視線を泳がせる。
「うぐっ……や、矢重殿。その話は……」
「忘れるはずがありませんわ。天正12年……政宗様が十七代当主に就任されたばかりの頃です。わが家でこの子が生まれたとき、あなたが何と言ったか」
矢重の目が、ジト目になって景綱を睨みつける。
◇
――天正12年(1584年)。
長男(重長)を出産したばかりの矢重の枕元で、景綱は小刀を握り締め、青ざめた顔で絶望していた。
『……許せ、矢重。そして、生まれたばかりの我が子よ、許してくれ……!』
『あなた!? 一体何を言っているのですか!?』
『政宗様には……まだ跡継ぎ(男子)がお生まれになっていないのだ! それなのに、臣下であるこの片倉小十郎に先に男児が生まれるなど、あまりにも不敬! 滅相もないことだ! この子は……私の手で間引き(自害)させる……!』
『なっ……!? 正気ですかあなた!? 自分の子ですよ!?』
主君を推し進めるあまり、前世の狂気的な忠義心とコンプライアンス(?)が暴走した景綱は、本気で生まれたばかりの赤子を殺そうとしていたのだ。
だが、その狂行を止めたのは――知らせを聞いて飛んできた、当時18歳の政宗様であった。
『バカ者がーーーーーッ!!』
部屋の障子を叩き破らんばかりの勢いで踏み込んできた政宗様は、景綱の手から小刀を引ったくり、景綱の頭を思い切り殴りつけたのだ。
『政宗様……! なぜ私をお止めになるのですか! あなた様より先に男子を得るなど、この景綱、申し訳なさすぎて腹を切る覚悟で……!』
『黙れ戯け(たわけ)!』
政宗様は、まだへその緒がついたばかりの赤子を優しく抱き上げると、景綱を強く睨みつけた。
『俺のために子が殺されてたまるか! この子は宝だ! 伊達の……俺たちの未来の宝だ! 今すぐその愚かな考えを捨てろ、景綱!』
『政宗様……』
『この子は大切に育てよ! そして俺に将来、跡継ぎ(我が子)が生まれた時には、この子を俺の子の右腕として添えさせるのだ! それが俺への本当の忠義だろうがッ!』
主君のあまりにも大きく、温かいお言葉。
景綱はその場に崩れ落ち、涙を流しながら畳に額を擦り付けたのだった。
◇
「……あの時は、政宗様が飛んできてくださらなかったら、私はあなたを刺してでもあの子を守るつもりでしたよ」
昔話を終え、クスッと悪戯っぽく笑う矢重。
景綱は頭を下げ、深く深く恐縮した。
「……反省している。あの時の私は、政宗様への愛と恐縮さで完全に正気を失っていた。……政宗様は、私の狂気すら受け止め、我が子の命まで救ってくださったのだ」
景綱はそっと胸に手を当て、自室の窓から見える青葉山(のちの仙台城)の夜空を見上げた。
「あの日、政宗様に救われたあの子の命……いずれ我が子もまた、政宗様の跡継ぎをお支えする立派な『竜の右目』に育て上げて見せる。……それが、主君への生涯の恩返しだ」
「ええ。私も全力でお手伝いしますわ、あなた」
微笑み合う景綱と矢重。
主君の圧倒的な器の大きさと、片倉家の絆がさらに深まった、静かな冬の夜であった。
【システムメッセージ】
『片倉重長・間引き未遂の回想』が完了しました!
※政宗様の器の大きさに、景綱の忠誠心が『測定不能(無限大)』に上昇!
※未来の「鬼の小十郎(片倉重長)」育成フラグが成立しました!
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