第16話 最強の守役、家では妻に頭が上がらない件
この度は数ある作品の中からこの作品を選んでいただきありがとうございます。
小田原征伐を命がけのパフォーマンスで乗り切り、伊達家の存続を果たした米沢城(のちの岩出山城)。
昼間は「一切目の笑っていない営業スマイル」で天下人・秀吉や諸大名相手に完璧なコンプラ&情報戦を繰り広げている片倉小十郎景綱だったが、深夜、自邸に帰るとその鎧が完全に剥がれ落ちていた。
「うぅ……矢重……今日の政宗様も、白装束をお召しになられたお姿が尊すぎて命がいくつあっても足りん……」
居間の畳に突伏し、頭を抱えて呻く景綱。
そこに、淹れたての温かいお茶と手ぬぐいを持って静かに現れたのが、景綱の妻・矢重であった。
「はいはい、あなた。本日もお疲れ様でございました。ほら、お顔を拭いてお茶をお飲みなさい」
矢重は、景綱がどれほど外で「冷酷無比な智将」「狂気の過保護守役」と恐れられていようと、一切動じない。
前世が社畜プランナーだった景綱の「限界オタク丸出しの愚痴」を、大きな母性でまるごと受け止める最強の妻であった。
「……矢重、政宗様は無事に秀吉の難詰を退けられたぞ。だが次は葛西大崎の一揆、さらには朝鮮出兵と、秀吉の気まぐれに付き合わねばならん。我が主君に指一本触れさせぬため、私の脳のメモリ(前世知識)が足りん……」
ズルズルとお茶をすする景綱の頭を、矢重は優しく撫でた。
「あなたは昔から、政宗様のことになると自分の命すら顧みなくなりますからね。右目を切り落とされたあの日も、帰ってきたあなたの着物が血だらけで、私は肝を冷やしましたよ」
「うぐっ……あれは主君の未来のために必要なコストで……」
「言い訳はいりません。政宗様をお輝かせたいのは結構ですが、あなたが倒れたら誰が政宗様をお守りするのです? あなたがご自分を大切にしないなら、私は実家に帰らせていただきますからね」
「そ、それだけはご勘弁をッ! 矢重殿に捨てられたら私のQOL(生活の質)が崩壊してしまう……ッ!」
普段、敵の大名や秀吉すら手玉に取る景綱が、妻の矢重の前では完全にタジタジである。
◇
翌日。景綱の屋敷に、愛姫様が手料理(お菓子)の差し入れを持って遊びにやってきた。
「矢重さん、いつも景綱を支えてくれてありがとうございます。これ、政宗様と一緒に作ったのですよ」
「まあ、愛姫様! なんと愛らしい……! 政宗様とご一緒に作られたのですか!」
笑顔で歓談する愛姫様と矢重。
その様子を陰からコッソリ見守る景綱は、深く感涙していた。
(尊い……! 愛姫様と我が妻の女子会、空間の幸福度(多幸感)がカンストしている……! 史実では愛姫様が京の屋敷に人質として送られる際も、矢重が侍女として同行し、裏で完璧に護衛・メンタルケアを行う予定だ。……我が妻、優秀すぎて頭が上がらん……!)
◇
そこへ、政宗様がドタドタとやってきた。
「景綱ー! 秀吉からまた面倒な書状が届いたぞ! 例の『伊達の黒母衣隊(ド派手な騎馬軍団)』の演出プラン、相談に乗れ!」
「はッ、政宗様! ただちに参ります!」
さっきまで妻の膝元でデレデレしていた景綱は、一瞬で「一切目の笑っていない完璧な守役」の顔に戻ると、背筋を伸ばして立ち上がった。
矢重はそんな夫の背中を、クスッと笑って見送る。
「行ってらっしゃいませ、あなた。政宗様を、世界で一番格好よくして差し上げなさいね」
「――ああ、任せておけ!」
主君の前では冷徹な参謀、家では妻に頭が上がらない夫。
夫婦の温かい時間の中で、景綱の脳裏にふと、まだ政宗様が当主になられたばかりのあの日(息子の重長が生まれた日)の出来事が蘇るのだった――。
【システムメッセージ】
『片倉家の夫婦事情(矢重姫の登場)』が完了しました!
※景綱の精神安定度が『最大値』に回復しました!
※愛姫様と矢重姫の『奥方同盟(最強の裏方)』が結成されました!
ご視聴いただきありがとうございました。




