第一話 まだ「小十郎」じゃないけれど、主君(おし)のための楽園(てんごく)を作ります
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「景綱、お主……なかなか気が利くな。これほど見事な書状、徒小姓になりたての者が書いたとは思えん」
「恐れ入ります、輝宗様。すべては伊達家の未来のため、そして信長公への礼儀を失せぬための配慮にございます」
初仕事である「織田信長への鷹の献上に関する連絡書状」を提出すると、主君である伊達輝宗様はいたく感心した様子で俺の肩を叩いた。
ふふ……ふははは、当然です輝宗様!
前世のビジネスメールのノリで、先方の求める情報を完璧に整理した「超・親切設計」の書状。これを「たまたま気が利く新人」の体で提出し、輝宗様からの信頼度を最速で稼ぐ。
すべては3年後、我が唯一無二の主君――梵天丸様の守役に名乗りを上げるため。
あのお方の歩む道を、1ミリの砂利すら残さず平らに均すための方策だ。まだ見ぬ我が主君のためにブラック労働する毎日、最高すぎて脳汁が止まらない。
「景綱、本日の仕事は以上だ。城下へ行って少し羽を伸ばすがよい」
「ははっ。ありがたき幸せに存じます」
輝宗様から直々に暇をもらった俺は、すぐさま米沢の城下町へと音速で繰り出した。
もちろん、遊ぶためではない。これはゲームプランナーとしての、否、一人の限界オタクとしての「聖地巡礼先行ロケハン」だ。
(3年後、病を患い、片目を失って心を閉ざした梵天丸様が初めてこの町に一歩を足を踏み出した時……おいたわしい我が主君が『……楽しい』と微かにでも微笑んでくださるような『究極の楽園』になっていなければ、俺が転生してきた意味がないんだよ!!)
俺は懐のメモ帳(ただの紙の束)を取り出し、町並みを血走った目でチェックしていく。
「街頭の舗装が甘い。子供の柔らかい肌に傷がついたらどうする。即座に輝宗様に水路整備にかこつけて全面改修を提案だ。それから、食だ。あのお方の小さなお口に合う、極上のファストフードが必要不可欠……! そうだ、あのお方は後に『料理が趣味』になるほどのグルメ細胞の持ち主! 幼少期の食育こそが未来の独眼竜の骨肉を形成するのだ。ならば、添加物まみれの現代食ではなく、戦国の天然素材を活かしつつも圧倒的な多幸感を得られる悪魔的メニューを俺が裏で開発せねばならん!」
あのお方が『これ、美味いな』って小さな両手でおにぎりを持ち、お口のまわりをちょっと汚しながらモグモグ食べてくださる姿……想像しただけで白飯5杯はいける。絶対に流行らせる、俺の命に代えても――。
「よし、まずは醤油おかかだ。この時代の米沢の流通なら、上質な鰹節を手に入れるルートを今から開拓しておけば3年後に間に合う。ついでに味噌焼きおにぎりのバリエーションも増やすか。甘めのクルミ味噌なんてあのお方の好みにドンピシャのはず……っ!」
妄想が止まらない。
一人で市場の片隅で尊さに悶絶し、ハァハァと息を荒くしている俺を、通りすがりの町民たちが「なんだあの美青年、大丈夫か……?」という目で見ていくが、そんなものは知ったことか。
「待っていてください、梵天丸様。3年後、あなたが絶望の中でこの町を歩くとき、そこはあなたのための天国(楽園)となっています。歴史の逆風も、周囲の批判も、すべてこの俺が盾となって弾き返して見せる」
俺は懐の計画書を、指が白くなるほど強く握りしめ、前を見据えた。
(たとえ何が歴史を揺るがそうと、関係ない。3年後に出会う我が主君が、ほんの少しでも涙を流すというなら、この俺が、仕様書の神様すらブチ殺してすべてを完璧にコントロールして見せる。梵天丸様……あなたの右目は、この片倉景綱が、死んでも守り抜いて差し上げます……!)
まだ見ぬ主君への愛を狂気的なまでに煮詰めながら、片倉景綱の「裏方プロデュース」は、誰にも邪魔されることなく苛烈に加速していくのだった。
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