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プロローグ

この度は数ある作品の中から選んでいただきありがとうございます

「戦国時代、最もエモい主従は誰か?」


もしそんな問いを投げかけられたら、俺は徹夜明けの充血した眼を見開き、デスクを叩き割らんばかりの勢いでこう即答する。


「伊達政宗と片倉小十郎景綱。これ以外の回答は歴史の修正対象だ。異論は一切認めない」


俺の名前は近藤こんどう。しがないゲーム制作会社でディレクター兼シナリオライターをやっている、30代のサラリーマンだ。

そんな俺に、先日とんでもない仕事が舞い込んだ。

クライアントは、「仙台県」の観光振興課。

依頼内容は、若年層に仙台県の歴史と魅力をPRするための女性向け恋愛シミュレーションゲーム(乙女ゲーム)の制作だった。


タイトルは『猫と竜の輪舞曲ロンド』。プレイヤーは愛嬌抜群の女の子「猫姫ねこひめ」となり、伊達政宗をはじめとするイケメン家臣たちと絆を深めていくゲームだ。

最初は「まあ、伊達政宗を今風のクール系イケメンにして、お決まりの胸キュンストーリーを作ればいいだろ」と、極めてビジネスライクに考えていた。

だが、県側の担当者が


「ぜひ伊達家を支えた素晴らしい家臣たちも魅力的に描いてください!」


と満面の笑みで手渡してきた資料一式を開いた瞬間、俺の人生の歯車は狂い始めた。

……いや、底なしの沼に真っ逆さまに突き落とされたのだ。







「な、なんだこれは……。なんだこのクソデカ感情のパラダイスは……っ!」


調べれば調べるほど、伊達家臣団のキャラクター性と関係性が濃すぎる。










―――


《 俺を狂わせた伊達家臣団の尊いポイント》


伊達成実だてしげざね

政宗のいとこで、生涯政宗の背中を守り続けた最強の武闘派。兜に「決して後ろに退かない」毛虫をあしらう男気も最高だが、何より文禄年間に突如「家出(出奔)」しているエピソードがエモすぎる。

あんなに政宗LOVEだった男が、外交のすれ違いや待遇への不満から拗ねて高野山に引きこもり、他国からの甘いスカウトをすべて「政宗様以外に仕える気はない」と突っぱねる。最終的に片倉小十郎の熱い説得で帰参するとか、どんな極上のツンデレだ。シナリオのメインイベント決定である。





片倉小十郎景綱かたくらこじゅうろうかげつな

この男のスペックを前に、俺は語彙力を完全に喪失した。

病で右目を失い、醜いと塞ぎ込んでいた幼い政宗(梵天丸)に対し、「ならば、その右目、私が抉り出して差し上げましょう」と自らの手で抉り、彼をコンプレックスから救い出した「竜の右目」。

秀吉から「大名にしてやるから直臣になれ」と直接口説かれても、「私の主君は政宗様ただ一人」と一蹴する。政宗がやらかす数々の炎上案件の裏で、胃に穴をあけながらすべての泥を被り、彼を「奥州の覇者」に押し上げた最強のナンバー2。







「これ、実質『小十郎ルート』こそがこのゲームの真髄じゃん……。政宗様にとって、小十郎だけが唯一無二の『目』であり『盾』なんだ……!」


気づけば俺は、伊達主従の美しさに脳髄まで焼かれていた。

企画書はいつの間にか


「主君を全肯定してその身を捧げる、男たちの究極の信頼関係を味わうルートです!」


という、担当者の狂気が滲むものへと変貌。

深夜のオフィスでキーボードを叩きまくり、俺は小十郎のシナリオに魂(と寿命)を削って文字を打ち込んでいた。


「はぁ……尊い。政宗様の危うい美しさを一番近くで支える小十郎になりたい。いっそ俺が小十郎になって、あの暴れ馬な主君をこの手で、これでもかと甘やかして守り抜いてやりてぇよ……」


限界オタクの独り言が、静まり返ったオフィスに虚しく響く。

マスターアップ直前、不眠不休の5日目。

ふと、視界がぐにゃりと歪んだ。キーボードの隙間に吸い込まれるように、俺の意識は急速に暗闇へと沈んでいった。

――それが、俺の「前世」の最期だった。







「……景綱、景綱! 起きぬか、このうつけ!」


激しい頭痛とともに目を覚ます。

背中に感じるのは、安物の煎餅布団と、妙にひんやりとした古い畳の感触。

鼻をつくのは、カビと埃、そしてお香の匂い。

(あれ? 会社のデスクで寝落ちしたんじゃ……?)

起き上がろうとして、自分の手に違和感を覚えた。

短い。細い。

そして、目の前にある水盆に映り込んだ自分の顔を覗き込み、俺は絶句した。

そこにいたのは、俺がゲームの立ち絵用に


「とにかく涼やかで、どこか影のある美青年にしてください!」


とミリ単位で注文をつけた、若かりし頃の片倉小十郎(景綱)の姿より少し幼い姿だった。


「うそ、だろ……」


頭に直接、本来の「景綱」としての記憶と、前世の「歴史オタクのゲームプランナー」としての記憶が濁流のように流れ込んでくる。

ここは天正元年(1573年)。俺は17歳。

つまり、のちに「独眼竜」となる梵天丸様が本格的に心を閉ざし、俺がその「守役」に任命される約3年前の世界。

障子の向こうから、のちに政宗の乳母となる、俺の歳の離れた実の姉・喜多きたの呼ぶ声が聞こえる。


「景綱! 輝宗様(政宗の父)がお呼びだぞ。徒小姓としての初仕事、遅れるでない!」


心臓が、ドクンと大きく跳ね上がった。

(本当に……俺が梵天丸(伊達政宗)さまに使えるようになったのか……!?)

歴史の知識はある。ゲームのシナリオライターとしての「見せ場」の構築力もある。そして、主君や同僚たちへの愛なら、戦国一の自信がある。

だったら、やることは一つだ。

将来3年後に出会う我が主君・梵天丸様が、誰に何を言われようと我が道を突き進めるよう、世界で一番強くて、世界で一番甘い環境を今から俺が全力でセッティングしてやる!

歴史の逆風も、周囲の批判も、すべてこの俺が盾となって弾き返して見せる。3年後に運命の出会いを果たすその日まで、やれる仕込みは全部やっておくんだ!


「はい、喜多姉上! すぐに参ります!」


俺は、小さく微笑んだ。

待っていてください、政宗様。

3年後、あなたのその右目の代わりに、この片倉小十郎が、この世のすべてを見通してあなたを天下へ導いて差し上げます――!

ご視聴いただきありがとうございます。

私なりの「推し活」としてマイペースに投稿しているため不定期更新になりますが、気長にお付き合いいただけますと幸いです。

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