第9話 動く植木鉢
「やっとついたわよツカサ。」
怪しいカルト宗教砂王教の演説を離れて約4分くらい歩いた俺とアルシアは目的の場所に到着した。
「なんて書いてあるんだこの建物。 コ、コラシオン?」
「コラシオンじゃないわよツカサ。ルシオルよ。」
アルシアが連れてきたこのルシオルという建物はどうやら武器屋のように見える。店の前にはボロボロに錆びた剣が雑に樽の中に立てられている。よくわからない巾着袋も吊るされている。
「この…ルシオル?ってなんの店なの?武器屋さん?」
「武器屋…というより中古屋かも。色々なものが売ってるのよ?全部中古だけど…」
アルシアがここに俺を連れてきた意図は何となくわかる。バーで魔力が俺に無いことがわかったからなんとかしたくてここに連れてきたのだろう。
「アルシア、俺お金持ってないけど」
「私が少しあるから大丈夫よ。ツカサ好きなの選んで」
アルシアは俺に奢る気なのだろうか。できる限り借金はしたくないのだが…。もし奢ってくれたら俺の尻が治ったら働いて返そう。
店を見て回ると本当に色々な物が目に入る。店内は店とはいえないほど散らかっている。謎のポーションや明らかにガラクタのようなものがゴロゴロ転がっている。俺は古本屋とかガラクタ屋みたいなやつはまぁまぁ好きだったため、見て回るのは少しワクワクした。その中で一際目立つ商品を見つけた。
「アルシア…あれってなに?」
「あれって?」
俺が指差した方にアルシアが目をやる。そこにはテープのようなものでぐるぐる巻きに縛られた植木鉢のようなものがある。その植木鉢からは大きな草が生えている。まるで大根の葉みたいな。
「…ツカサ、アレはやめておいた方がいいと思うわ。」
アルシアが途端にいやな顔をする。アルシアがあんな顔するなんて珍しい。別に怒っているわけではなさそうだ。
その時店の奥からガタンと音がした。のっそのっそと腰の曲がったお爺さんが出てきた。店主だろうか。
「坊や、その植木鉢が気になるのかね」
「まぁ、異質なので少し気になりますね」
そのお爺さんは身体が物凄く大きかった。巨人と表現するのが的確だろうか。
「ーーあの鉢には『マンドラゴラ』が植えてある。稀少と言えば稀少なんじゃが、どうにも需要がないもんでのぅ。物珍しさに誰かが買ったんじゃろうがすぐにここに売りにきおった。」
そのお爺さんは腰を曲げ、歩きながらこちらに向かってきた。そのシワや髭の様子を見るにかなりのご高齢だろう。
そしてマンドラゴラ、確か聞いたことがある。引っこ抜くと物凄く叫び出すとか。
「ツカサ、マンドラゴラなんかに興味があるの?私…というか多分この世界の生物はみんなマンドラゴラを嫌っているわよ?」
「なんでそんなに嫌われてるの?やっぱ叫び出すとか?」
そのお爺さんがカタカタ動く鉢を棚から持ち上げる。その鉢の動きは手に持たれてもなお動き続けている。
「叫ぶ、というのはそうなんじゃが…この植物の叫び声は我々生物に秘められた魔力を震わせる。そうなると気分も悪いじゃろ。じゃから基本マンドラゴラを見つけたら処理するのが鉄則なんじゃが…」
「なんでそんなものを売っているんですか?」
そのお爺さんはしばらく黙り込んだあと、鉢を見つめてこう言った
「なんでなんじゃろうなぁ…。わしにもようわからんが、売られたものは基本買い取ってしまう性分なんじゃよ…。もしもわしが買い取らなかったらそれはきっと、すぐに処分されてまうじゃろ。それがどうにも嫌でな…」
「そのマンドラゴラ…買わせてくれませんか?」
俺の口からも信じられない言葉が出た。アルシアがこいつ正気かって目で俺を見つめてくる。"処分されてしまう"という言葉がなぜか引っ掛かる。
なぜこんなことを口走ったのだろう。お爺さんの自分語りに感化されてしまったのか、それはわからない。
「ちょ、ちょっとツカサ本気で言っているの!?」
「ふぉっふぉっふぉ。面白い坊やじゃのう。よし、これはわしからのプレゼントじゃ。精々大切にしてくれよ?」
「い、いいんですか!?」
お爺さんは笑顔でその植木鉢を俺に差し出した。その笑顔は旅に出る孫を見送るような、そんな優しい笑顔に見えた。
「ありがとうございます!」
俺はその植木鉢を大切に抱えながら店を出た。なんとなく、お爺さんが店を出るそのときまで手を振ってくれていたような気がした。でもそれは俺でもアルシアでもない。この植木鉢に対して。
「ツカサ、あんたそれどうすんの?絶っっっ対に引っこ抜かないでよ」
「わかってるよ。でも俺には魔力がないから防衛に使えるかも」
「もう、私はツカサの敵じゃないのに…」
なんて2人で笑い合いながら店を後にしてアンズーとセレアの待つバーへと足を進めた。外はすっかり夕暮れ時。カラスの声は聞こえない。街の雰囲気も昼間とは変わっていた。八百屋や肉屋などは店を閉め、飲食店や宿屋が盛んになっているように感じる。
「この街って結構宿屋とかあるんだね、それに店の種類も豊富だ」
「そうよツカサ。ここフローリア王国は各国への街道が整備されていて色々な王国からの貿易も盛んな国なのよ!」
そんな話をしている間にアンズーのバーへと繋がる路地に入った。昼間も静かで人通りの少ない路地は夜になるにつれて街明かりも薄れて少し怖く感じる。
「夜になってくるとこんな雰囲気になるんだ、ここにきて1週間くらいだけどはじめて知ったよ」
「ツカサ、ずっとお尻怪我してたもんね。」
「ハハッ。そうなんですね。その会話詳しく聞かせてもらってもよろしいですか?」
背後から聞き覚えのある声。どこかで聞いたことのあるダンディな声に冷や汗が止まらない。鉢を抱えているから手はもとから震えているが自発的な震えも感じる。動悸が激しくなり呼吸が浅くなる。
ーーそして俺は後ろを振り返った




