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第7話 砂塵伝説


「ーーさてとツカサ。セレアも部屋に戻ったことだし、これを読んでみろ。」


 アンズーは振り返るとバックバーから3本の酒を取り出して慎重にカウンターの上に置いた。3本の瓶は右から緑、青、茶と並んでいた。


「アンズー、それくらいなら読めるよ。右から『クラウン・ストレイン』『ネビュラ・ヘイガー』『ヤーベン・ドール』でしょ?別に酒の名前覚えてもなぁ…」


「そんなことないわよツカサ。お酒の名前を読むことだって立派な勉強よ?それにあなた、絵本も読めるようになったじゃない。次はこれを読んでみてよ」


 アルシアはそう言うと、下から歴史書を出してきた。今まで読まされた絵本なんかとは厚さが違う。正直読みたくない…

 俺はこの数日間、店の手伝いをしながら文字の勉強を続けていた。そのお陰で少しは文字が読めるようになってきた。あと無駄に酒の知識も少々…。


 ーーバーン!と勢いよく奥の扉が開かれる。セレアの着替えが終わったらしい…が、正直露出度も変わらないしさっきまでの服となにが違うのかわからない。色が少しオレンジよりになったくらいだろうか。


「着替えてきたわよー…ってなんでそんな歴史書なんか出してるのよ。」


「ツカサはこの世界のこと、なんにも知らないから勉強しているの。ね、ツカサ」


 ドスンとアルシアが歴史書を俺の前に置く。ずいぶん年期の入った本のようだ。古本屋で嗅いだことのある、独特な香りがする。横から本が黄ばんでいるのがわかる。

 

「ヤーベン…なんて書いてあるんだこれ?」


「『ヤーベン王の砂塵さじん伝説』。結構有名な話よ?」


 ヤーベン…どこかで聞いたことがある名前だ。アルシアが目前の酒瓶を指差す。そこには茶色の瓶が置いてあった。


「あの酒は確か…あ、なるほどね」


「ツカサ気が付いた?ヤーベン・ドールの名前の由来はこの『ヤーベン王の砂塵伝説』からきているのよ。」


 突然、どこからか高貴な花の香水のような香りが漂ってくる。嗅いでいると変な気分になってきてしまいそうな香り。

 その香りの源はすぐに見当がついた。その瞬間、肩に豊満な何かが乗った感覚がある。


「うげっ。よりにもよってアルシア。あんたなんで教える歴史がヤーベンなのよ…。もっとマシなのあるでしょ?」


「ヤーベンはなにかまずいんですか?…あと、その…当たってます…」


 セレアの顔が、物凄く面倒くさいものを見たような顔になっていた。俺も大量の課題の山を見たとき、多分こんな顔をする。多分意味は違う。


「ヤーベンってツカサぁ。あんたなにも知らないのね?」


「知らないから勉強してるんですよ…。あと当たってます。」


 セレアの距離感が近すぎる。これが酒屋を運営する人の距離感なのだろうか。というか呼ばれ方がいつの間にか呼び捨てになっている。


「いいツカサ。ヤーベン王を崇拝するやつらはハッキリ言って頭のネジがイカれてるわ。亡きヤーベン王の意思を継ぐだの帝国の再建だの王の復活だのと、頭おかしいこと言っているやつの集まりよ。」


 頭のおかしい宗教…あのカレオトキシンたちと関係があるのか…?しかし、この世界にもカルト宗教なんてものあるんだな。


「この街にもそのヤーベン王の宗教…あー『砂王教さおうきょう』だっけ?そいつらが街にいるからあんまその話題出さない方がいいわよ」


「お姉ちゃん…そういう危険があるからこれから教えるんでしょ!」


 すると、カウンターの奥で酒棚を整理していたアンズーがパンッと手を叩く。その音に俺含めた3人がアンズーの方へ視線を移す。


「ツカサ、そういやお前ここ数日でいくらか尻の調子よくなってきたよな。動けるか?」


「まぁ、そこまで激しくは動けないけど普通に歩く程度なら」


 アンズーは腕を組みながらセレアの方へ目をやる。


「セレア、アレをツカサにやってあげてくれ。」


「えーなんでよぉー。アレ疲れるのよぉー…」


 アレ、とはなんのことだろう。そんなことを考えていると、突然セレアが俺の身体を触ってきた。緊張して体温がカーッと上がるのがわかる。なにを考えているんだこの人は。俺はまだ未成年だぞ。


「ちょ、ちょっとセレアさんなにを…」


「ちょっと動かないでツカサ」


 すると、俺に触れているセレアの手が青白く光だした。なにかの魔法だろうか。だが体調になにも変化は感じられない。


「驚くなツカサ。これがセレアの得意な才能を発見する魔法だ。なんか名前あったっけ?」


「別に、いちいち魔法に名前なんかつけちゃいないわよ。魔導書にはなんて書いてあったかしら…忘れたわ」


 触られて緊張する…。カレオトキシン戦のアルシアの風の刃の攻撃もそうだったけどみんないちいち魔法の名前なんて気にしていないのかな。


 確かに試験とか検定の勉強のために専門用語覚えても、実際働き出すとそんな一言一句使うことも無いって学校の先生が言っていたような…


 するとセレアが目を丸くして

「ツカサ!あんた魔力が全然ないよ!?」


 この空間のみんながギョっとした目で俺を見つめる。あまり視線を向けられることがないので少し緊張する。


「ツカサ魔力ないの!?」


「お、お前どうやって今まで生きてきたんだよ…」


 アルシアには驚かれるし、アンズーに至っては開いた口が塞がらない様子。


 そもそも男子高校生に魔力があるわけないだろ。

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