第2話 見知らぬ少女
ーー糞を頂戴いたします。
あの妙にダンディで気味の悪い声が脳に響く。酷い悪夢を見てしまったらしくよく眠れなかった。
とりあえず時間を確認しよう。学校に遅刻しないといいが。
「え‥‥?ここどこ?」
目を開けると見知らぬ天井。少なくとも自宅ではない。旅館に泊まっていて目が覚めたときの感覚に近かった。そんなことを考えていると俺の尻に激痛が走る。
「ああああああああッ!?」
「ーあ、気がついたのね。無事でよかった。とりあえず治癒魔法で傷はふさいでおいたけどまだ痛みはあるだろうから安静にね。」
そこには金髪の少女がいた。外国人かとも思ったが日本語が通じている。聞き間違いかもしれないが治癒魔法と言っていたことが気になる。
「ーー取り乱してごめん。まずここはどこ?君は?それと今治癒魔法って言っていた気がするんだけど‥‥‥俺の気のせい?」
「ちょっと質問が多すぎるわ。そんなに質問されたらわからなくなっちゃうでしょ?」
その金髪の少女は、ふぅ、とため息をすると両手を腰に当てた。怒らせてしまったのだろうか。
「ごめん、自分の状況が理解できていなくて困惑しているんだ。怒らせたなら謝るよ。」
「ーー別にいいわ。ものすごく酷い怪我だったもの。私の名前はアルシア。そしてここは私の家。ーーそれであなた名前は?」
金髪の少女の名前はアルシアと言うのか。日本の名前ではないので恐らく外国人なのだろうか。つい見惚れてしまうほど美しい。
うまく言葉に言い表せないが、日の光に照らされて輝く綺麗な髪と深緑色と表現するのがいいのだろうか、とても吸い込まれそうな瞳をしている。
年齢は同い年くらいだろうか。服装も茶色を基調としたドレスで、白の襟元や袖を見ると、ヨーロッパ系の人みたいだ。
「ーーちょっと人の話聞いてるの?」
「あ、ごめん。俺の名前は小崎 司。えっと‥‥アルシアさん?だよね。助けてくれてありがとう。」
つい見惚れて返事が遅れてしまった。
それにしても変わった家だ。とても現代の日本の家とは思えない。絵に描いたような窓の形に暖炉、机の上にはお洒落な燭台。窓からは木々が見えて木漏れ日が差し込んでいる。心なしか空気も綺麗な気がする。
まるでファンタジーの世界に来たみたいだ。
「ツカサって変わった名前ね。私のことはアルシアでいいわ。ーーそれにしてもあなたいったい何があったのよ。あんな悲惨な傷初めて見たわ。」
悲惨な傷‥‥?まさかこの子‥‥アルシアに尻を見られたのか‥‥?高校生にもなって‥‥?
小学校の頃友人の悪ふざけでズボンを下ろされたことがあるがそんなことは比にならない。
恥ずかしすぎて耳が熱い。
「ーー傷って‥‥もしかして俺の尻‥‥見たの‥?」
「当たり前じゃない。あなた私の買い物帰りに路地で倒れていたのよ。大量出血でそのまま死ぬ寸前だったのよ?それと、その‥‥とてもじゃないけど言葉にできない状態だったわ‥‥」
「ーーそれってなんか…その‥大丈夫だったの…?抵抗感とかほら‥ね‥‥」
「確かにいい歳した男があんな格好で倒れていたら流石に思うところはあるわ。でもいかにも死にそうって感じだったしブツのことなら私実家で馬飼ってるからほかの人よりかはそういうのいけるの。」
彼女が俺にした介抱を脳内再生するとあまりにも惨めな感情に包まれて涙が溢れそうだ。あのまま殺された方がまだマシだったかもしれない‥‥
とにかく今は一刻も早くこの場を去りたい。
「ーーそ、そろそろ家に帰らないと。介抱してくれてありがとう。」
ベッドから起き上がろうとしたが激痛でベッドに戻されてしまう。きっと俺は恥ずかしさのあまり見るに耐えない表情をしているのだろう。
「だから治癒魔法で傷はふさいだけど、まだ痛みはあるって言ってるでしょう?」
そんな目で俺を見るなアルシア。穴があったら入りたい。こんなところでなにをしているんだと自暴自棄になりそうだ。
「ーーそうだ‥その治癒魔法って‥その‥結局なんなの?」
「あなた治癒魔法知らないの!?結構常識だと思うのだけれど‥‥あなた今までどうやって生きてきたのよ」
おかしいのは俺かアルシアか。魔法なんて実在するわけが‥‥‥‥いやまてよ?
「ここはどこの国だ?」
アルシアは俺に呆れたような顔をすると
「どこって‥‥あなた本当になにも知らないのね。ここはフローリア王国よ?」
‥‥どうやら認めるしかないらしい。どこか中ヨーロッパ風の家にまるでヨーロッパ風のアルシアの服装。そしてなにより魔法がある。
‥‥ここはいわゆる異世界ファンタジーの世界らしい。
「そんな深刻そうな顔をどうしたの?お尻見られたのが恥ずかしいの?」
尻を見られたのはもちろん恥ずかしいとして異世界‥‥?これは喜ぶべきなのか悲しむべきなのか…。現実への未練はまだまだある。家族や友人も心配だし漫画の続きも気になる。異世界に来ても素直に喜べない‥‥
なんでこんなことになったんだ…。
ーー突然申し訳ないのですが、糞を頂戴いたします。
あいつだ。あのスカルトロールとかいうやつならなにか知っているはずだ。スカルトロールなんてとても現実の生き物とは思えない。
「ーーアルシア、突然だけどスカルトロールって知っているか?」
「なにそれ?普通のトロールなら知っているけどスカルトロールなんていうのは知らなーー」
そのとき、バゴンッ!とアルシアの家の扉を突き破り何者かが乱入してきた。
「なぁーんでワレがこんな尻拭いをしなくちゃならないのかねぇー。あのチビの頭にウジが沸いている‥‥でなければこんなヘマはしないハズだぁ‥‥。」
扉の破壊の影響で周囲に舞うホコリの中、カメレオン‥‥?のような頭をしているが人間のように二足歩行で歩いているし、ねずみ色のダボダボしたローブを着ている。これまたカメレオンのように巻かれた尻尾が生えている。ギョロギョロと落ち着きのない目玉。話すたびに口から謎の液体が垂れていて気味の悪い見た目をしている。
「おやぁ?ワレ、お二人さんラブラブ・スィーンを邪魔をしてしまった感じカネ?こんな真っ昼間からお盛んなのはよろしくないねぇ?」




