第13話 おねば
「ーーなんか、もうマンドラゴラとは呼べないな」
あんな話を聞いてしまい俺は、もうマンドラゴラと呼ぶことはできなくなっていた。なにか良い名前を考えてあげたいものだがどうしようか。
無難にポチやタマ。いや、それは違う。ならばマンドラゴラから名前を取ってドラやゴラ、マドラみたいな名前…もなんか違うな。
なんか大根みたいな形しているけど色は茶色なんだよな。里芋にも見えてくる。
里芋か、里芋と言えば変にネバネバしているんだよなぁ。ネバつき…ねばたろう、ねばーる、ねばすけ…おねば…
「ーーおねば」
「坊や。『おねば』とはなんじゃ?」
お爺さんとマンドラゴラの視線が同時に俺に向く。
「ーーおねばだ。お前の名前は今日から『おねば』だ!」
「ギャッ!ギャッ!」
こちらの言葉を理解しているのか、初めて名前を貰って嬉しいのかピョンピョンとその場で跳ねはじめた。頭の葉っぱが嬉しそうに動いている。きっと気に入ってくれたのだろう。
「ふぉっふぉっふぉっ。まさかマンドラゴラに名前をつけるなんてのぉ。そんな人間初めてみたわい。マンドラゴラ…いや『おねば』か。よい名前を貰ったのう」
「ギャァ!」
おねばが俺の胸に勢いよく飛び込んできた。その勢いで俺は地面に倒れこむ。その衝撃でガラクタが崩れて何個か俺に命中する。だがかつての尻の痛みに比べれば全然平気だ。
「いてててて…。何はともあれ、これからよろしくな。おねば。」
「ギャッ!ギャッ!」
俺はおねばを抱き上げる。大きな葉っぱが揺れ、手足をバタバタさせている。おねば、元気がありすぎる。
「さてと、それで坊や。なんでこの店にきたのじゃ?おねばの新たな鉢を買いにきたんじゃないのかのう?」
そうだった。おねばが俺に懐いているとはいえ、街中で騒がれると大変なことになる。おねばが安心できる鉢を探さないと。
「ギャッ!ギャッ!」
そんなことを考えていると、トコトコとおねばがなにかを持ってきた。それはカバンだった。年季ものだが厚手のレザー素材に金の金具がついている。少し小さめの冒険カバンと言ったところだろうか。
「これが欲しいのか?おねば」
おねばがカバンを持ちながらぴょこぴょこと跳ねている。キラキラとした白い瞳を俺に向けてくる。
「これ、いくらですか?」
俺はそのカバンを指差しながらお爺さんに値段を尋ねる。するとお爺さんは朗らかな表情で
「坊や。物珍しいものを見せて貰ったお礼じゃ。それはあげるよ」
「おねばの時も今回もそんなサービスしてもらうのは悪いです。ちゃんとお金は払います。」
まぁ俺の金じゃないけど。それでもここまで貰いっぱなしは人の善意に付け込んでいる感じがしてあまり気分がよくない。
「坊や。だからお金はいらなーー」
「払います。いくらですか?」
お爺さんは困った顔をしながら顎に手を当てて考えはじめた。
「強情な坊やじゃのう…ならば銅貨3枚でどうじゃ?」
「銅貨3枚…そんな安くて良いんですか?」
この世界のお金の価値はアルシアたちに教えて貰ったからだいたいわかる。約300円くらいだろうか。
「見たところしっかりとしたカバンなのに、そんな値段で…?」
「いいんじゃよ。このカバンはおねばが自分で選んだものじゃ。」
俺は銅貨3枚をお爺さんに支払いカバンを受け取った。背負ってみると意外にも軽い。
おねばが飛び跳ねて勢いよくカバンのなかに入る。急に背中に力が加わり思わず倒れそうになる。
カバンからはおねばの葉が飛び出ている。その中でモゾモゾと動いているのが背中に伝わってくる。
「今日は色々とありがとうございました。」
「坊や、おねばを大切にな。そしておねば。お前も元気でいるんじゃぞ?」
お爺さんの言葉に答えるようにカバンから飛び出たおねばの葉が揺れる。
カバン越しにおねばがはしゃいでいるのが伝わってくる。その温もりを感じながら俺はお爺さんと店を後にしてアルシアたちの待つバーへ足を進めた。




