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第12話 疎まれた植物

 ーーやはりおかしい。あの大根サイズのマンドラゴラがビールの中瓶にすっぽりと入るはずがない。どこか破壊をされた痕跡もない。ただストッキング芸のような顔をしたマンドラゴラが俺を見てくる。きっと出してほしいのだろう。


「ごめんな、出してやりたいけど叫ばれると困るからさ。それに出し方もわからないんだ。お前どうやってそこ入ったんだ?」


「あらツカサ起きたの?怪我とかは大丈夫なの?」


 奥の部屋からセレアが起きてきた。相変わらず奇抜な服装をしている。マンドラゴラの瓶がさっきよりもカタカタと震えている。


「そのマンドラゴラ貰ったんだって?アルシアからきいたわよ~。昨日は本当にうるさかったから魔法で瓶に入れちゃった~。」


 セレアさんは朝っぱらから酒を飲んでいる。俺はともかくアルシアが大怪我しているはずなのに呑気すぎないか?


「セレアさん、朝っぱらから酒って大丈夫なんですか?」


「うっさいわねぇ~。アルシアの治療で寝てないんだからまだ私にとっては夜みたいなもんよ~」


 セレアがフラフラと歩いてカウンターに倒れ込む。


 カタカタカタカタカタと、瓶が震えて小刻みに動いている。見ていてなんだか面白い。パリン、と嫌な音がする。セレアがこちらを振り向きすごい顔でその落ちて割れた瓶を凝視する。

 

「ちょっとまってまってまっーー」


「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!」


*  *  *  *  *


「ーーツカサにセレア。これはどういう状況だ?」


 険しい顔で耳を塞ぎながらアンズーが俺とセレアを睨む。俺たちの足下にはドテドテドテドテと囲むようにグルグルと叫びながら走るマンドラゴラがいる。走るたびに頭の葉がふさふさと揺れる。

 奥の扉が開き不愉快そうな顔をしながらアルシアがでてきた。


「アルシア、歩いて大丈夫なの?」


「心配しないでツカサ。お姉ちゃんが一晩看病してくれたから平気よ。…でもこれはどういう状況なの?すごく気分が悪いわ。」


 確かにこのマンドラゴラをなんとかしないと俺は平気でも皆が平気じゃない。どうしよう…早くしないとセレアが限界そうだ。酒の飲みすぎに加え徹夜、マンドラゴラの鳴き声で吐きそうになっている。


「ツカ…サ…。とにかく、暗くて狭いところへ…オロロロロロロロロ……」


「セ、セレアーーッ!」


 アンズーがセレアのもとへ駆けつけ肩をゆっくりとさわる。暗くて狭いところ…考えろ、考えるんだ俺…。

「ギャッ!?」


 俺は暴れるマンドラゴラを掴んで奥の寝室へ向かい布団を被る。そうするとマンドラゴラは叫ぶのをやめた。俺はマンドラゴラを抱きながら


「お前あんま叫ばないでくれよ。お前が叫ぶとみんなの気分が悪くなるんだ。お前はなんでそんなに叫ぶんだ?」


 マンドラゴラが俺の腕のに頬を擦りよせる。どういうわけかこのマンドラゴラは俺に懐いているように見える。なんだか可愛く見えきた。


 俺はマンドラゴラを布団に巻いて抱きながら1階に降りた。布団越しにも動いているのがわかる。布団の上から飛び出た頭の葉が視界を塞いで前がみにくい。


 1階に戻ると皆ぐったりしてテーブルに倒れこんでいる。


「みんな…こっちは鳴き止ませたけど大丈夫そう?」


「よ、よくやったなツカサ。少なくともセレアが気を失った。まぁ睡眠不足もあるんだろうからよ、このまま寝かせてやってくれ」


 あのアンズーがここまでぐったりするなんて……恐るべしマンドラゴラ。


「ツカサ、そのマンドラゴラはどうするつもりなの?そのまま布団で抱いておくわけにもいかないでしょ?」


 アルシアの言う通り、布団のまま持ち歩くのには無理がある。なにか新しい鉢でも欲しいけど金がない。


「ツカサ、そのマンドラゴラを買った店に行くってのはどうだ?その店主ならなんかサービスしてくれるんじゃないか?」


「それもそうだね。じゃあマンドラゴラを買った店に行ってみるよ。あ、俺1人で大丈夫。気合いで頑張るから2人はここで休んでいて」


 2人が俺を心配そうに見つめる。もちろん道はわからないが何となく道は覚えている。特に砂王教の演説していた場所の少し奥。それだけでも十分だ。


「ツカサ、お前一応これ持っていけ。お小遣いってやつだ。」


 アンズーがポケットから数枚の金貨を取り出し俺のズボンのポケットにいれる。


「ありがとうアンズー。じゃあ行ってくるよ。」


 そういって俺はマンドラゴラを抱えて街に出た。今日も街は賑わっている。記憶を頼りに街を進んでいくと昨日は砂王教の演説が行われていた広場に出た。

 移動の最中、マンドラゴラは布団の中でブルブルと震えていたのが手に伝わってくる。頭の葉が萎れているからきっとガヤガヤした場所が苦手なのだろう。


 そんなことを考えていると錆びた剣が樽に突き刺さった見覚えのある店が見えてきた。

 俺はマンドラゴラを抱えながら店の扉を開く。


「すいませーん…ってうわっ!?」


 店内に入るとマンドラゴラが俺の腕を飛び出し店を勝手に歩き回る。しかし叫びはしなかった。

 そして、店の奥からあの大きなお爺さんがゆっくりと顔を出した。


「ーーいらっしゃい。……って坊やじゃないか。そしてそこにいるのはマンドラゴラじゃな。見たところマンドラゴラの鉢が壊れて手付かずになってしまった、と言ったところかの?」


 ピタリとお爺さんに言い当てられてしまった。図星で言葉がでない。


「いいんじゃよ。マンドラゴラは難しい植物じゃからな。それにここフローリアは人通りも多いしマンドラゴラは安心しないじゃろうな。」


「マンドラゴラの扱い方を知っているんですか?」


 お爺さんはガラクタの並ぶ店内をちょこまかと動き回るマンドラゴラを見つめる。その瞳は孫を見つめる祖父のよう。


「……わしは思う。マンドラゴラは喜んでいるんじゃないかと。」


「喜んでいる…?」


 お爺さんの顔を見上げるようにして思わず聞き返す。そのお爺さんの顔は嬉しそうな顔をして俺に語り出した。


「マンドラゴラは知っての通りこの世界の生物全体から毛嫌いされておる。人類種族はもちろん、魔獣や精霊からもあまりよくは思われておらんじゃろう。産声をあげれば周囲の生物が嫌な顔をする。例え顔のない植物だとしても、マンドラゴラにはなんとなくわかるのじゃろうな。」


 お爺さんは淡々と話を続ける。その視線の先にはガラクタを見て動き回るマンドラゴラの姿が映っていた。


「それに、マンドラゴラは別のマンドラゴラに会ったこともないんじゃろう。実際、誕生の原理もまだ解明されておらん。マンドラゴラは見つけたら即処分されておるからのぅ。マンドラゴラは植物であると同時に精霊とも言われておる」


 マンドラゴラがガラクタをとても楽しそうに漁っている。頭の大きな葉が嬉しそうに揺れている。その姿を見るだけで感情が伝わってくる。


「きっと人や生物の感情が読めるんじゃろう。だからきっと、声を聞いても嫌な顔をしても自分を捨てなかった。そんな坊やに出会えて嬉しいんじゃろうな。」


 お爺さんの話が終わる頃には視界が潤んでいた。目が熱く頬に涙が伝う。ガラクタの中で動き回るマンドラゴラに、俺も視界が釘付けになっていた。


 ーーードテドテドテドテとマンドラゴラが俺に近寄ってくる。葉っぱがゆさゆさと揺れていて口は縦に裂けている。口の横には目があって、俺たちで言う白目の部分が黒く、黒目の部分が白い。大根の下の部分が2つに割れて足のようになっている。横には手のような根が生えている。所々にひげ根が生えていておじさんの足みたいだ。


 気が付いたら俺もお爺さんと同じでマンドラゴラから目が離せなくなっていた。


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