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第11話 落ち着ける酒場

 目が覚めると木の天井が見えた。横の窓からは薄く日光が差し込んでいて鳥の鳴き声が微かに聞こえてくる。


「昨日は確かアルシアと買い物に行って……そうだ」


 思い出した。昨日の夜、スカルトロールに襲われたこと、アルシアが瀕死の重傷だったこと、マンドラゴラのお陰でスカルトロールを撒けたこと。


「それで、その後どうなったんだっけ。アルシアを担いで歩いて…」


 ーーコン、コン、コン


「ツカサ?起きたか?昨日は大変だったな…身体は大丈夫そうか?」


 アンズーが心配そうな顔をしながら部屋に入ってきた。俺の事よりもアルシアだ。アルシアは俺を守るために戦ってくれた。アルシアは無事なのだろうか。嫌な想像が頭をよぎる。


「アルシア、アルシアは大丈夫なのか?あとあの…マンドラゴラもどうなった?スカルトロールはー」


「待て待て。ツカサ、お前の気持ちもわかるが一旦落ち着け。まずアルシアは無事だ。安心していい。確かに致命傷だったがお前が運んでくれたお陰でセレアの回復魔法で一命は取り留めた。今は部屋で休んでる。」


 アルシアが生きていてよかった。本当に、本当によかった。少しは安心できたかな。

 このままここにいて良いのだろうか。確かにアンズーは良い人だ。こんな俺にも優しくしてくれるし、セレアも格好は奇抜だけど悪い人じゃない。なによりアルシア。彼女にこれ以上迷惑はかけられない。

 

「アンズー、ごめん。俺のせいでアルシアを巻き込んで迷惑をーー」


 バシッとアンズーが俺の背中を笑顔で叩く。でも俺の目に映るアンズーの笑顔はどこか作り物のようだった。


「なに謝ってんだよ。生きてたんだし良いじゃねぇか……と言いたいところなんだがな……」


「大丈夫だよアンズー。心配しなくても俺はここを出ていくつもりだよ。これ以上みんなに、特にアルシアを危険に巻き込むわけにはいかない。」


 本当は1人で生きていくあても無いのに。まだ文字も少しだけ読めるようになった程度でなにが出ていくだ。でも実際出ていかなくてはならないとは思っているし、ここにいると罪悪感に潰されそうだ。


「ーーツカサ。ここを出て行くったって、いったいどこに向かうってんだ。それにお前、1人で生きていけんのか?」


「……」


 ぐうの音も出ないほどの正論だ。本当、アンズーの言う通りだ。俺だってここを出て行きたいわけじゃない。でも出ていかなくてはならない。


 朝の日差しが窓から差し込んで、部屋は暖かい空気で溢れている。でも、俺とアンズーの間だけにはその暖かさは流れてこない。


 そうだマンドラゴラ。アレはどうなったのだろう。植木鉢にいないと叫び続けるはずだが、声が聞こえない。少なくとも近くにいるのならあの特徴的な奇声のひとつも聞こえてもいいはずなのに。


「ーーそうだアンズー。マンドラゴラ…あの叫ぶ植物はどこに行ったのかわかる?」


「あーあの植物な。1階の空き瓶の中に土入れて押し込んでるから安心しろ。しかしお前なんでマンドラゴラなんて買ってきたんだ?ありゃ俺たちの天敵だぞ」


 そうだ。マンドラゴラの奇声は魔力を震わせる。スカルトロールに対抗できる強力な武器だがアルシアたちを傷つける武器でもある。


「本当にごめんアンズー。俺が来たからこんなことになってしまった。本当に申し訳ない。」


 ただ謝ることしかできない。自分ではどうすることもできない無力感が襲う。ただ、俺が出ていくことしかアルシアたちを救う手段は無い。


「ーー確かにそうだ。お前が来たことが原因でアルシアは瀕死の重傷になり、俺もセレアも夜にマンドラゴラの奇声で苦しめられた。」


 俺が顔を下げるとアンズーは俺の頭を掴んでため息をつく。アンズーの手は怒りだとかそう言ったものではないことはわかった。


「でもな、アルシアはアルシアの意思でお前を助けた。そこだけは勘違いすんなよな。多分お前いま俺に言ったことをアルシアに言ったら「私がやりたくてやってるんだからねぇ~」って言い出すぞ。絶対に。」


 アンズーがアルシアのモノマネをするが全然似ていない。むしろ挑発しているような言い方に思わず笑ってしまった。でも俺はやはり出ていかなくてはならない。それがアンズーとの約束だからだ。


「でもアンズー。俺はもう尻治ってきたし約束通り明日辺りにでもここを出ていくよ。」


 アンズーが目を丸くして俺を見つめる。まるで、そんな約束した覚えがないみたいな顔をしている。


「そんな約束したっけか?俺はそんな約束した覚えないぜ。それにお前いつまでも下なんて向いてるもんじゃないぜ。アルシアが余計心配するだろ?」


 直接言葉にはしていないが、アンズーが俺にまだここに居てもいいと言ってくれているような気がした。俺は申し訳ないと思いつつも残念なことに嬉しさが勝ってしまった。まだ俺はここにいてもいいんだと。そう思ってしまった。


「ツカサ、お前たいした怪我してないんだから歩けるだろ?あのマンドラゴラどうにかしてくれよなぁ。すっごい目で俺のこと見てくるからさぁ」


「わかったよアンズー。マンドラゴラの新しい鉢は今度買ってくるね。」


「ツカサ……お前なにニヤニヤしてんだ?気持ち悪いぞ」


 朝の暖かい光が差し込んでくる。俺はベッドから飛び降りて部屋を出た。目の前にはいつもの風景がある。日当たりが悪くて昼間でも薄暗い店内、ボロボロのカウンターやテーブルに椅子。こんな状況で不謹慎だけど凄くここが落ち着く…と思っていたらどこからか視線を感じる。しかも相当強烈な。


 横のテーブルに目をやると瓶の中から大根の葉が生えている。もしやと思い瓶を覗くと、そこには物凄い形相でこちらを見つめるマンドラゴラがいた。

 瓶にいるため顔が透けて見える。しかしこの大根くらい太いやつをどうやって瓶に詰め込んだのだろうか…。

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