第七話 ザダル・ラ・ニハク(成長期 IV)
【これまでのあらすじ】
宇宙船が旅立ち約500年が経った頃、ダフィタス人が住める環境にある星を見つけた。
星が見つかった!との報告で国民が歓喜に湧いている頃、各国の代表者と室内に置かれたリアルタイムで話すことが出来るスクリーンを通して首脳会議が行われた。
ニハク国の代表者はザダル・ラ・ニハクという人物。
幼少期から青年期、ザダルという人物を形成するのは何か?
楽しい休日を過ごし帰宅したザダル達。
お出かけ用の服から部屋着に着替える際に入浴も済ませ、あとは夕飯のサプリメントとスープを頂いたら自由な時間となる。
まだ小さい弟達はすでに眠りについているだろう。
普段は、本を読んだり学園の勉強の進み具合に合わせて復習したりする時間なのだが、ザダルはライドに早速ファンタジーランドについての話をしようと思っている。
ライドの許可が出なければ、学園に行った時に今日の話はなかったことにしてほしいと謝らなければならないからだ。
ライドを探してリビングや応接室など、思い当たる場所を見て回るのだが見当たらない。
諦めかけエントランスホールを通った時、何処からかライドの声がした。
「ファンタジーランドですか!! それは私も一緒に行き〇△✕△〇…………ぐむっ 何をするんですか!」
「声が大きいって!」
(あっ!この声はライドとマルサの声だ)
それからは、ライドとマルサが何やら話してるのは分かるのだが、何を言ってるのか聞き取れなかった。
(今日の報告かな? マルサからファンタジーランドの件はライドに伝わっているようだし、時間を空けて声をかけたらいっか。)
ザダルは飲み物をもらうために、今度は家政婦を探して歩き出した。
~その頃のライドとマルサ~
屋敷のエントランスに入るザダル様達を見届けたマルサは、護衛達へと向き合い本日の任務完了を告げ、任を解いた。
護衛達は、敬礼後護衛官室へと戻っていく。
マルサは、執事長のライドとの情報共有の仕事が残っているし、何より次の護衛の段取りなどを決めなくてはいけない。
次はファンタジーランドかぁ。
ザダル様もザビル様もザリル様も喜ぶだろうなーと、想像するだけで嬉しくなる。
だけど、ファンタジーランドは広大な敷地面積であり入園者数も膨大だ。
護衛をすることを考えると頭が痛いことでもあった。
貸切じゃないと安全は保証できない。
その打ち合わせをしなくてはならない。
経費として貸切が可能なのだろうか?
どうか可能であってくれ!!!と、そこはザダルとマルサの気持ちは一緒だった。
ザダル様達のお迎えを終え、家政婦達に入浴や着替えなどのお世話の指示を出したライドは、自室へ戻ると2つのカップに紅茶を入れ、マルサが待つエントランスホールの脇にある隠し部屋へと向かう。
そこは、執事長・護衛長という『長』がつく者と暗部の限られた者しか知らない小部屋だ。
一見、壁に見えるが屋敷の中からも入ることができ、屋敷の外からも入ることができる。
但し、鍵は限られた者しか持てないし、何よりその部屋の開け方も鍵を開けたら入れるという訳ではないのだ。
そんな重要機密な部屋のドアが少し開いていたなどと誰が思うだろう。
そして、その声をザダルが聞いてしまっていたなどと誰が思うだろう。
ザダルが執着せずに立ち去ったことで、この2人の首は胴体と離れことなく過ごせることが決まったのだった。
そんなことだとはつゆとも思わず
「本日のザダル様達は楽しんでおられましたか?」
と自分でいれた紅茶を飲みながらマルサに尋ねる。
「おおっ! 演劇鑑賞は3人とも楽しめたようだ。 演目が変わったら、また演劇鑑賞に行かれても良いと思うぞ。」
と猫舌のマルサも紅茶を啜りながら答える。
「そうですか、それは良かったです。だからでしょうか? お帰りになった時のザダル様のお顔が、普段よりも更に輝いて見えたのですが。あまりの眩さに一瞬クラっとしました。」
「あぁ。もちろん。それもあると思うが、カフェでご学友達と鉢合わせしたんだ。 お前に話してるように、普段のザダル様は学友達との交流はないに等しい。だけど、今日は、ご自分から隣のテーブルに着くように誘われてだな。」
「それは、本当ですか!! その者達はザダル様にとって良い影響を与える者達ですか??」
「まぁ落ちつけって! 男ばかりの3人組だったんだが、2人は問題ない。俺の勘だから確証はないが、1人は注意しておいた方がいいように思える。」
「はぁ。では、学園でその1人の方がザダル様に近づかないように護衛としてキッチリ仕事してください。」
「だから、まだ話は終わってねーんだって。その学友達とザビル様とザリル様が楽しく話されてな。カフェでの雰囲気は、とっても和やかなものだった。」
「なら良かったではないですか。」
「あー、そーなんだけどよ。それから、ザダル様が学友達に遊園地に弟君達を連れて行きたいから、どんな所か教えてほしいと言われてな。」
「遊園地ですか………」
「んでな、遊園地も良いがファンタジーランドをおすすめするって、学友のひとりが言い出してだな………」
「ファンタジーランドですか!! それは私も一緒に行き〇△✕△〇…………ぐむっ 何をするんですか!」
「声が大きいって!」
「すみません。興奮してしまいました。」
「一緒に行きたいと思うのは分かるぞ。けどよ、現実的にファンタジーランドでの護衛っていうと貸切くらいしないと護りきれない。貸切って可能なのか?」
「時間はかかるでしょうが、貸切にすること自体は可能だと思います。 ただ、そこまでの費用は私の範疇を超えています。首脳の許可が要るでしょうね。」
「だよな……… 連れてってやりてーんだよな。すっげー嬉しそうだったんだよ、ザダル様。 ザビル様とザリル様はどんな所か想像もつかない感じで、いつも通り兄上と一緒なら楽しい!って感じだけどな。」
「そうなんですね。なんとかしたいですね………少し時間をください。兄にかけ合ってみます。」
「あの筆頭補佐の怖ぇー兄ちゃんにか? そうか、よろしく頼むわ。」
(ほんと、俺の貯金がなくなるかもだ!頼むーーー)
「ええ。ファンタジーランドなら私も一緒に行きます。1人でも護衛が多い方がいいでしょう。」
「そりゃそうだが、一緒に行きたいってだけじゃねーのか?」
「ザダル様達の心と体を健やかに保つことが私の役目です。 護衛が1人でも多く居た方が良いと判断したまでです。」
(もっともらしいこと言ってますが、一緒に行きたいって当然じゃないですか。何言ってるんでしょうね、マルサは。美術館も博物館も演劇鑑賞も………
留守番してる私の気持ち分かります? その上ファンタジーランドなんて! 許せません!!)
「俺の方も、今日話しかけてきた学友達が何処のご子息達が調べておくわ。学園に行ったら向こうから話しかけてくると言っていたし、隣のクラスだと言っていたからすぐに分かると思う。」
「ええ、お願いします。お疲れ様でした。」
「おお。くれぐれも兄貴には上手いこと伝えてくれよ。よろしく頼むな。」
「はい。ではまた。」
人の気配がないか探りつつ、隠し部屋を離れる。
ライドは、首脳筆頭補佐である兄にどう話したら許可が下りるよう働きかけてくれるか?を考えながらザダルの部屋へと歩く。
すると、ライドを待っていたようにザダルが部屋から顔を出し手招きするではないか。
(やばい。可愛いすぎるって!)
と、心の中で悶絶しながら
「ザダル様、何か御用でしょうか?」と問いかける。
ライドが部屋に入るのを確認しつつ、ザダルはソファに座り
「ライド、ファンタジーランドという場所を知っていますか?」
と、話しかけた。
「はい。存じております。」
「僕は来月にでも、そのファンタジーランドに弟達と行きたいと思っています。今日、学友達とカフェでそんな話になりました。僕はファンタジーランドという所がどんな施設かも知りません。話を聞くと、とても楽しそうで是非弟達を連れて行ってあげたいと思ったのですが、芸術鑑賞ではないようなので、経費としては無理でしょうか? 無理なのであれば、入園料など必要な金額を知りたいのです。お小遣いをどれだけ貯めたら行けるか知りたいですし、教えてくれた学友達が案内すると言ってくれてますが、あまり待たせるようであれば、一緒には行けないとお断りしないといけません。」
「……………………………………」
ライドは絶句した。
経費が下りなかったら、小遣いを貯めてでも弟君達を連れて行こうとしているザダルの気持ちに感動をした。
しかし、ご自身が護られる立場であることが当たり前になりすぎて、人混みの中に身を置く危険性には全く無頓着になっている危うさを目の当たりにした。
「…………ライド?」
「ザダル様、申し訳ございません。今から少し厳しいことを申し上げます。」
「…………わかった。」
(えーーー、やっぱりダメなのかなぁ)
「ザダル様。お金に関しては、執事長の私の仕事です。ザダル様やザビル様やザリル様にとって必要なことであれば、交渉したり様々な方法を考え可能にすることも私の仕事であります。なので、お小遣いを貯めてなどと考えるよりも、もっと大切なことがザダル様は考えないといけません。
ザダル様達ご兄弟は、特別なお立場な方々なのです。特に次期首脳となられるザダル様は、首脳の次にそのお体も含めて全てが特別なのです。
ファンタジーランドに関して申し上げますと、膨大な敷地面積を有する施設でございます。入園者数も膨大です。ザダル様ご兄弟にあたる護衛の数は限りがあります。限りある護衛で膨大な人混みの中の護衛には限度というものがあります。すると、ファンタジーランドを貸切にするという案が1番安全だと判断致します。その費用をザダル様に負担して頂くという考えよりも、ご自身が護られるお立場であるということを自覚して頂きたいのです。」
ザダルは言葉が出てこなかった。
ライドが来るまでの間、ザダルなりに許可を得ようと考えたのが、さっきの話だったのだ。
弟達と出かけることにお金の負担をかけないようにしたら許可が出るかもと、その努力をすることを見せたら許可が出るかもと考えたのだ。
だけど、そうではなかった。
自分は護られる立場………そのために、何処かに行くにも護衛が必要………確かに常に護衛が居る。
それは、執事長のライドが居ることが当たり前と同様に当たり前になっていた。
護衛達を僕は振り回していたのだろうか?
僕のワガママに付き合わしていたのだろうか?
迷惑をかけていたのだろうか?
まさか、ファンタジーランドを貸切……もしかして……
「ライド、美術館も博物館も貸切にしたの? 他の人が居なかったから変だとは思っていたけど……」
「左様でございます。本日の劇場は、VIP対応のある劇場ですので一般客もおりますが、出入口はVIP専用となっており鑑賞される部屋も個室となっており護衛しやすい部類になります。カフェも上流階級用のカフェですので、客も限られた者しか来ませんし、空間も広く配置されております。
ザダル様達のテーブルの両隣ごと予約として空けておけば、護衛しやすいと護衛長と判断致しました。
しかし、美術館や博物館はお金を払えば誰でも出入り自由です。誰がどんな形でザダル様達を狙うのか分かりません。ならば、経費がかかっても貸切にするのは当然なこと。それほど、ザダル様や弟君達は大切なのです。」
「…………分かりました。みんなに迷惑をかけないように出かけることを辞めた方が良いですね。」
「!! ザダル様、それは違います。芸術に触れたり、弟君達とのお時間を大切にされることも、とても大切で重要なことだと思っております。決して迷惑をかけるなと言っているのではないのです。私が言いたいことは、ザダル様は、護られるお立場であること。それを自覚して行動して欲しい。ただ、それだけでございます。ニハク家に勤める私達は、迷惑などと思ったことはございません。少なくとも、私と護衛のマルサは絶対に迷惑などと一度として思ったことはございません。」
ザダルは、ライドのその言葉が心にじわっと染みてくる感覚がしていた。
ゆっくりゆっくりと言葉ひとつひとつが、心に染み込んでくる。
涙が頬をつたう。
僕の知らない所で、僕の願いを叶えようと様々な手配をしてくれたりしていたんだ。
僕達が安全に楽しめるように、色んなことを考え準備して今まで仕えていてくれたんだ。
ずっと、ずっと………僕にはお祖父様とお祖母様とザビルとザリルだけが味方だと思っていた。
ライドもマルサも、仕事だから傍に居るのだと思っていたんだ。
僕が次期首脳だから、仕事として仕えているだけだと思っていた。
けど、なんだろう。
こんな真剣なライドの顔は、決して仕事だから仕えている訳じゃないと言っているようで………
僕が、僕達が大切だから仕えているんだと言われているようで………
そして、心はもうそのことを感じているようで………
でも、頭がついていけなくて………
ただ、ただ、涙が頬を次々とつたう。
やっと出た言葉は
「ライド……ありがとう。」
~SIDE ライド~
ザダル様をまた泣かしてしまいました。
無表情なザダル様は、整った顔を歪めることもなく綺麗なコバルトブルーの瞳から静かに流れ落ちる涙は、まるで宝石のようで………
泣かしてしまったという罪悪感を感じつつも、あまりにも綺麗で言葉が出ませんでした。
だけども、泣かしてしまってでも分かってほしかったのです。
私達が、ザダル様達のことを大切に思っていることを。
お立場がお立場なだけに危険が多いことを。
大切な人だからこそ、護りたいと心から思っていることを。
だから、罪悪感は感じても後悔は致しません。
たとえ、ザダル様に嫌われたとしても。
そう覚悟をしていた私に
「ライド……ありがとう。」
ザダル様の言葉に下を向きそうになった私は、思わず顔を上げました。
私を見るザダル様の瞳がとても優しくて、そして瞳の奥にあった冷めた色が温かい色に変わっているように思えて、思わず私も涙が出そうになりました。
くっと歯を食いしばり涙は抑えることができましたが、ザダル様の言葉にお応えするように、胸に手を当てて最上級の礼を致しました。
その時に、ザダル様に見えないように泣きそうな顔を隠したことは気づかないで頂きたいと願うばかりです。
……必ずファンタジーランドに行きましょうね。弟君達と一緒に……
読んでくださりありがとうございます。
面白いと思ってもらえましたら星をつけて頂けると嬉しいです。




