第五話 ザダル・ラ・ニハク(成長期 Ⅱ)
【これまでのあらすじ】
宇宙船が旅立ち約500年が経った頃、ダフィタス人が住める環境にある星を見つけた。
星が見つかった!との報告で国民が歓喜に湧いている頃、各国の代表者と室内に置かれたリアルタイムで話すことが出来るスクリーンを通して首脳会議が行われた。
ニハク国の代表者はザダル・ラ・ニハクという人物。
幼少期から青年期、ザダルという人物を形成するのは何か?
両親を始め、周囲の大人達に怒りを覚えたザダルは、手始めに弟達との時間を作ることにした。
弟達との時間を奪われたのだ! その時間をこれから取り戻してやる!
学園は、5日通ったら2日の休みがある。
6歳と5歳になった弟達も家庭教師が付き、学問や護身術などの授業が始まっている。
しかし、弟達はザダルよりも習う科目数は少ないようで余裕があることが分かった。
そこを利用し、学園が休みの時は美術館や演劇鑑賞や音楽鑑賞など、大人から反対されにくいものを選び出かけることにしたのだ。
ザダルにとっては、弟達と出かけたり一緒に過ごすことが目的であり、その内容は何でも良かった。
弟達が何処か行きたいと要望があったら、それに応えようとも思っていた。
ただ、問題は経済的なことだった。
出かけるにしてもお金がかかる。
小遣いとしてもらっているお金はあるが、さすがに弟達の分までザダルが全て支払うには足りない。
10歳のザダルにはお金を稼ぐということもできないし、小遣いを増やしてほしいと両親に頼むのも、なんか負けた気がして言い出せなかった。
そんな時、執事長のライドが
「美術館など教養を高めることに使う費用は、必要経費の内です。」
と、出かける度に3人分のお金を渡してくれた。
美術館などの帰りに寄るカフェでのお茶代まで入っていた。
その時、少しだけ、ほんのすこーしだけライドが神に見えた。
~SIDE ライド~
私、ニハク家の執事長を務めるライド・リ・ニハクと申します。
リ家の一家は、家名に『ニハク』と名乗れる名家であります。
そして、リ家というのは代々ニハク家の執事を生業とした一家であります。
執事を生業と言いましても、執事は表の顔、裏の顔は暗部も担っております。
私の兄は、長兄というのもありますが、優秀で首脳の専属補佐という役職になるべくしてなった人です。
執事としての能力は勿論のこと、護衛の役割もあり戦闘能力が兄は桁違いに強いのです。
私は兄ほど優秀ではありませんが、ニハク家を任される立場となり、この家を滞りなく回し、ニハク家の皆様を守っていくことに誇りを持って携わってきました。
ザダル様がお生まれになっても、ニハク国の首脳でありニハク家の当主様は、ご帰宅されることは極わずか。
その奥様もお仕事と仰ってますが、半分はご友人方との時間を優先されているご様子。
ニハク家の運営全般を私が担っている現状でございます。
ザダル様がお産まれになり、奥様も育児に携わると思っていたのですが、月日が経つにつれ、お仕事という交友?交遊?に勤しまれることが多くなりました。
子ども部屋でひとりで遊ばれるザダル様のことは気がかりですが、執事として一定の距離を保つことが私の務めと思い心を鬼にしなければならない事が、1番辛かったことであります。
3歳になったばかりのザダル様が、ニハク国特有の薄い茶色の髪をフワフワとなびかせて、ニハク家特有のコバルトブルーの綺麗な瞳をキラキラさせながら
「ラード、いっちょにあちょぼ。」と仰った時には、あまりの可愛さに悶絶しそうになりましたが、リ家の家訓でもある、『近づきすぎてはならない。親しい者が死んだ時の悲しみを与えてはならない』という言葉が頭を過りました。
有事の時には私は、命をかけてザダル様をお守りするのです。
その時に、私のためにザダル様が心を痛めることになったとしたら……と思うと、私は、どうしても……どうしても……一辺倒なお応えしかできませんでした。
ザダル様に「あちょぼ」と誘って頂きお断りすること数回、そしてある日泣かれてしまいました。
その日を最後に誘って頂けることはなくなり、距離を感じることになりましたが、それで良かったのだと自分に言い聞かせる日々でございます。
ただ、私も両親に遊んでもらった覚えがなく、もっと上手くお応えできれば良かった。と後悔が押し寄せてくるのは、ザダル様の愛らしい「ラード、いっちょにあちょぼ。」が聞けないからでしょうか。
夜になり、屋敷の戸締りの確認と暗部につく者たちからの報告や連絡等を行い、最後にザダル様の部屋に行き、ザダル様が蹴った掛布団を直し私の仕事は終わります。
ザダル様の布団を直すひと時が私が私である唯一の時間。ザダル様が産まれてから毎日してきた私が出来る一欠片の愛情。
ある日、いつもの様にザダル様の部屋に行き、掛布団を直し私室へ戻ろうと思ったのですが、寝つきが悪く、庭の見回りでもと思い屋外に出た時でした。
幼なじみで護衛の役職につくマルサ・ル・ニハクと鉢合わせいたしました。
マルサのル家は代々護衛の役職を担う一家で、よく鍛錬も一緒に行ったものです。
そのマルサとたまに会えば、ザダル様の整ったお顔に薄い茶色のフワフワな髪がよく合っていて、コバルトブルーの瞳がキラキラと輝き、拙い言葉で「ラード」と呼ばれる嬉しさを自慢したものです。
マルサは「俺の名前など知らないだろうなー」と少し不貞腐れながらも、私の後悔を見抜くように「何かあったのか?」と聞いてきました。
ほんと、幼なじみというモノは侮れません。
マルサに、ザダル様とのやり取りを自慢するように……しかし、終いには心の内を話してしまいました。
執事失格です。
だから私は、首脳専属補佐などにはなれなかったのでしょうね。
マルサに「子ども好きなお前には難儀なこったな。けど、ザダル様が首脳になる頃には、お前の気持ちは理解してもらえるんじゃないか?」と言われました。
そうですね。
でも、その時には、私はザダル様のお傍には居られませんね。
やはり、今夜は眠れそうにありません。
それから、ザダル様の弟君のザビル様がお生まれになり、更に1年後にはザリル様がお生まれになりました。
ザダル様も順調にお育ちになって、5歳を迎えました。
家庭教師達が屋敷に出入りするようになり、護衛のマルサも私も、目を光らせる日々を送るようになり、慌ただしくも賑やかな日々を過ごしておりました。
ザダル様は、理解力が高いようで、家庭教師達も絶賛しており、私事のように誇らしく思うのですが、夜遅くまで机に向かうザダル様を私は知っております。
弟君達を可愛がり、とても大切にされている様子が微笑ましかったのですが、徐々にザダル様の表情がなくなっていくことの寂しさを感じてなりませんでした。
私も表情は他人に悟られないように訓練されましたので、理解はしています。
ですが……ですが……あまりにも早くないですか?と家庭教師につっかかりそうになりましたが、致し方ないことなのだと、ザダル様の御身を守る為だと我慢いたしました。
ザダル様が弟君達を膝に抱え、頭を撫でている所を見かけますが、無表情に見えますが私には分かります。
ザダル様の目がとても、とっても優しいのです。
一目では分かりません。
それほど、ザダル様の表情を読ませない訓練は完璧です。ですが、生まれた時から見てきた私には分かるのです。
この事は自慢しても良いと思うのです。
マルサを捕まえて自慢してやりましょう!
10歳になったザダル様が学園に通いだしました。
最近、ザダル様の様子がおかしいことが気になり、学園に潜伏している暗部に確認すると、学年代表として立派にお過ごしとのこと。
喜ばしいことですが、5歳の頃から家庭教師によって学習されているザダル様。
学年代表に選ばれるなど当たり前のことであります。
ただ、綺麗なコバルトブルーの瞳の奥に、何か冷めたモノが宿るように感じるのは私だけでしょうか?
そうこう考えていると、ザダル様が「弟達と美術館に行きたい」と仰りました。
美術館を貸切にする手配や、護衛の手配、立ち寄るカフェの手配など頭の中で算段をつけていると、何か浮かない顔のザダル様。
ふと呟くように「美術館の入館料っていくらするんだろう?」という声が聞こえてきました。
あぁ、ザダル様はご自分の小遣いの範囲内でやり繰りしようとなさっているのだと分かり、心が温かくなりました。
教える前からしっかりとした金銭感覚をお持ちであることが誇らしくもあり、切なくもありました。
ワガママなど言ったことのないザダル様からの「弟達と美術館に行きたい」という願い。
私はハリキってお手伝いさせて頂きます。
でも何故、急にそんなことを思いついたのでしょうか?
読んでくださりありがとうございます。
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