第四話 ザダル・ラ・ニハク(成長期 I)
【これまでのあらすじ】
宇宙船が旅立ち約500年が経った頃、ダフィタス人が住める環境にある星を見つけた。
星が見つかった!との報告で国民が歓喜に湧いている頃、各国の代表者と室内に置かれたリアルタイムで話すことが出来るスクリーンを通して首脳会議が行われた。
ニハク国の代表者はザダル・ラ・ニハクという人物。
幼少期から青年期、ザダルという人物を形成するのは何か?
ザダルの家は特殊だった。
そう気がついたのは学園に通いだしてからだったのだが。
ザダルの生家、ニハク家では両親が居ないことが日常だった。
家に居るのは、昼間は執事と家政婦と家庭教師達と護衛の者達。夜間は執事と警備の者だけだった。
一番身近なのは執事長のライド。
ライドは父親専属の執事の弟らしい。
おじさんと言うにはまだ若く、兄のように慕うには歳が離れていた。
家の中のことはライドが居れば滞りなく回り、何不自由なく育った。
ザダルが生まれた時には、ライドは執事長という立場であり、居て当たり前の存在だった。
だが、あくまでも主人の息子と執事という関係を崩さないライドのことを、ザダルは慕うわけでもなく居て当たり前の人物として認識していた。
幼い頃のザダルにとって家族のようで家族ではない存在。
だけど、幼い頃はかまって欲しくて
「ラード、いっちょにあそぼ。」
と誘っても、
「ラード、ぼくあちょびたいの。あそぼうよ……… うっうっ……えーん……」
とただを捏ねても泣いても
「ザダル様、私は執事です。仕事がありますので。」
と困った顔で断られるばかり。
次第と執事のライドと距離を置くようになった。
まだ親に甘えたいお年頃のザダルにとって、父親は朝と夜のニュースで、たまに映像として見ることがある人物で、自分の父親なのだという感覚よりも、この人たまに家に居るよね。って感覚だった。
そんな父親が家に居る時は、決まってこの宇宙船を維持していく意義だったり、その為にはどうしたら良いかなどの教えだったりで、父親というより家庭教師の先生の1人のような感じだった。
一緒に遊びに行くなど皆無で、父親と一緒に居たいとか、遊んでもらいたいなどという感情さえ出てこないことが当たり前で、父親というものはそういうものなんだと思っていった。
ライドに遊んで貰えなかったという経験もあって、諦めていたというのが本心だったかもしれない。
母親は幼い頃から仕事が忙しいようで、父親ほどではないにしても、夕ご飯の時間に一緒に居ることがほとんどなかった。
「貴方は将来、この国のトップとしての役割があるのだから、しっかり勉強なさい。」と口癖のように言う母親のことを嫌だなぁとは思うのだが、もっと一緒に居たい。甘えたい。という感情が決してなかった訳ではなかった。
しかし母親がいる間は、産まれて間もない弟達に母親との時間を譲っていた。
まだ幼い弟に我慢させることが嫌だったのだ。
ザダルは兄として弟達が可愛いと思っていたし、なるべく弟達との時間を大切にしたかったのだが、5歳になる頃には、家庭教師の数も増え、勉学に時間を取られるようになり弟達との時間も徐々に減っていった。
ザダルは孤独だった。
しかし、そんなザダルの心を支えてくれたのは祖父母の存在だった。
祖父母は少し離れた別邸に住んでいるのだが、毎日は来れないとしても週に1日は来てくれた。
昔話をするように、宇宙船の初代の人達の思いやダフィタス星の話を聞かせてくれた。
勉学ではなく、あくまでも祖父母と孫としての会話の延長として、会話を通じで知識を教えてくれたことで素直にその教えを受け入れることができた。
ザダルの基本的な性格は人見知りだった。
人と関わってきたのが、弟達と祖父母だけと言ってもおかしくない状況なのだ。
執事と家政婦と護衛は、家には居るが一歩引いた所に居る存在。
家庭教師達は、あくまでも先生だった。
ザダルは、頭の良い子だ。そして、素直な子だ。
教えた事はある程度理解するし、分からなかったことも次の講義までには分かるように復習し理解していた。
頭が良く、手のかからない良い子。というのが家庭教師達からの評価だった。
『分からないことは自分で調べて分かるようになるのですよ』という祖父母からの教えを忠実に守っていただけだった。
そして、何より器用だった。
マナーの時間では、1度教えれば小さい手ながらにもカラトリーを使えるようになり、体を動かすことが得意なのか、護身術では才能を発揮した。
それがアダとなったのか、ザダルは周囲の大人達から『放っておいても大丈夫』という認識をもたらしてしまったのだ。
ザダルの心の成長は、祖父母と弟達だけだった。
他人との関わり方など教えてもらった事がないザダル。
思慮深いザダル。
何事も無難にこなしてしまうザダル。
弟達を可愛がるザダル。
祖父母を大切に思うザダル。
人と関わることが嫌いというより、むしろ好きだったのだ。
ただ、どう接していいのか分からなかった。
自分の思いを考えてから話そうとすると、すでに話が変わっていることがよくあった。話についていけなくなるのだ。
そのため周りの話を聞く方が多かった。
そして、家庭教師から感情を顔に出さないという教えを忠実に守ったザダル少年は、無表情で自分のことは話さない少年となった。
だからこそ父親や母親との少ない時間では、自分を出すことができずに孤独を感じていた。
『お父様もお母様も、僕のことはどうでもいいのかな? 僕の気持ちはどうでもいいのかな?』
ザダルの考えや気持ちを聞くこともなく、一方的に話す父と母を見ては、そんなことを感じ、悲しくなった。
だけど、僕はお兄ちゃんだから……… 将来は首脳になるから……… と、気持ちを押し込めてきた。
そんなザダルだったが、祖父母にだけは甘えることも、思ったことを素直に言うことができた。
祖父母はザダルが話すのを待ってくれたし、話し出したら最後まで聞いてくれた。
ザダルのことを分かっくれるのは祖父母だけだと思っていた。
ザダルにとって、自分を理解し無条件に愛してくれる人達。それが祖父母の存在だった。
弟達は、ザダルに屈託なく抱きつき、甘え、色々なことを要求してくる。
そして、そんな弟達が可愛くて仕方なかった。
「兄上、遊ぼう。」「兄上、一緒におやつ食べよう。」
少ない時間をやり繰りして、弟達の要求に応えると「兄上、大好き!」と笑顔でくっついてくる弟達がたまらなく可愛かった。
『僕の弟達が宇宙一可愛い。』と心の中で呟きながら膝に乗せた弟の頭を撫でることがザダルの癒しなのだ。
傍から見たら無表情な少年が、笑顔の弟達の頭を撫でているのだが、ザダルの心の中では満面笑顔なのだ。
『はぁ、癒される~ ずっと、このぷくぷくした体のままだったらいいのになぁ。』
ザダルにとっての家族は、祖父母と弟達だった。
その頃のザダルは、その幸せで満足だった。
弟達や祖父母を通じて、人との愛情を学んだザダルだったが、学園に通い出してからは新たな苦悩が訪れた。
学園は、10歳になると身分に応じた学園に各々が通うこととなっていた。
ザダルも例外なく学園に通う。
身分は最上級の学園だ。
学園内では、必要な学問と体力作りや護身術が学べる。
そこに身分は関係ないとされていた。
がそもそも、身分に応じた学園に入るのだ。
その学園に通うものは、それ相応の者達ということになる。
首脳の長男。将来の首脳という立場のザダルに言いよってくるのは、その立場を利用しようとする者だったり、逆に近寄り難く思って避ける者だったりで友人と呼べる学友は現れなかった。
自分の立場を嫌という程感じるものの受け入れるしかなかった。
何よりザダルが愕然としたのは学問のことだった。
学園で習うものは、ザダルが5歳から家庭教師から習ったもので、すでに知っていることばかりだった。
入学してから初めてのテストで、首位になった者が学年代表となるのだが、ザダルは全教科にて満点を出し学年代表としての立場になった。
学友達は
「さすがザダル様、次期首脳は頭が良いのですね。」
「やっぱり出来が違うのですね。」
などと褒めてくれたが、距離を置かれる存在となったのも感じていた。
そして、次期首脳だから出来て当たり前と思われていることも感じていた。
ザダルからしたら、初めて教わることではなく全て復習なのだ。
出来て当たり前のことを褒められても嬉しくなかった。
それよりも、弟達との時間を割いて勉学に費やした時間は何だったのだ?という思いがフツフツと湧いて、それは次第に怒りに変わっていった。
学園に入ってから勉強してもいいものだったのなら、僕もそれで良かったのではないか?
ザダルだって天才ではない。
理解力はあったとしても、覚えることに苦労したものも多くある。
努力して覚えてきたものだ。
しかも5歳という幼少期にだ。
もっと弟達と一緒に過ごすことも遊びに行くことだって出来たはずだ。
それを、それを………なんで???
ザダルは気づいてしまった。
大人の卑しい画策に。
首脳の息子が……次期首脳となる息子の成績が良くなかったらメンツが……父親、首脳のメンツが潰れると。
そのために、ザダルに5歳から家庭教師をつけ、学園で教わることを前もって習わしておく。
そんな大人の画策に気づいたザダルは大人を信じられなくなっていった。
『僕から弟達との大切な時間を奪ったこと許さない』
読んでくださりありがとうございます。
面白いと思ってもらえましたら星をつけて頂けると嬉しいです。




