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第三話 ザダルとマグ

【これまでのあらすじ】

◯歴××××年

文明の発達により環境破壊が起こり、徐々に住めない環境となっていったとある惑星。

その名はダフィタス星。

ダフィタス星人は、星に残る者と宇宙船にて旅立つ者に分かれた。

宇宙船が旅立ち、約500年が経った頃、住める環境にある星を見つけたのだ。

その報告に、宇宙船内の人々は涙を流しながら喜んだのだった。

国民が歓喜に湧いている頃、各国の代表者と室内に置かれたリアルタイムで話すことが出来るスクリーンを通して首脳会議が行われた。

ニハク国の代表者ザダル・ラ・ニハクと、平民の青年マグとの出会いの第三話。

首脳会議が終わり、執務室の隣の私室へ移動しソファに座りひと息ついた頃、無愛想な男が入ってきた。


先程読み上げた手記の男の子孫になるマグだ。

マグは5世代目になる。

最後の最後まで先祖の手記を公表することを渋っていたマグ。

公表されたことが気に入らないのだろう。


「マグ、入ってくる時はノックをし許可を求めるよう言ったはずですよ。」


ザダルが注意をすると、無愛想ながらも

「……すみません。」

と小声で謝罪するマグ。


ユグドが案内したのは分かってはいるが、念の為に注意をしておく。

もうこれで何度注意をしただろうか?

マグは、平民で中枢とも呼べる場所に出入りなどできない身分で、しかも首脳の私室なのだ。

もう少し考えてほしいものだ。


ただ、このマグという青年は頭脳明晰な男なのだ。

しかし無口な性格のマグだ。

ノックをし許可を求めるということ自体が苦手なのだろう。

せめてノックぐろいしろ!と思うのだが、孫くらいの年齢のマグを見ていると、まぁいいか。と思ってしまうザダルもザダルだった。


「マグ、そこにお菓子があります。ソファに座って休んでいていいですよ。 少し休んだら、意見を聞かせて欲しいです。」


「……はい。」


素直にソファに座り、20歳を越した男が嬉しそうな顔をしてクッキーと紅茶を味わっている。

それを微笑ましく思いながらザダルはソファに座ったまま目を閉じる。

眠る気はない。

疲れた脳を休ませたい。そのために目を閉じ休みたかっただけだった。



マグは、自分がどうしてこの国の代表者であるザダルの私室にまで入って行けることになったのかと、今も不思議に思っている。

釈然としないが、ザダルの事は好きだと思った。初めて会ったのはマグの職場でだった。仕事の話を聞かれ、普段はどんな仕事をしているのか?という問いに、話慣れていないマグは、たどたどしく説明し出したのだが、ザダルは根気よく聞いてくれて「それは凄い!」や「それはどーしてそうなるんですか?」と、質問までしてくれ、マグがしている仕事に興味をもって聞いてくれた。そんなザダルとのやり取りに、マグは初めて会話が楽しいと思え、最後の方は普段より沢山話し、自分の思いまで話してしまうほどだった。

だからザダルからの呼び出しには快く応じるが、数回会議室のような部屋で会った後に私室での面談になってしまったのだ。それが何とも釈然としない。

だから、いつも扉の前で躊躇ってしまう。今日も躊躇っていると、ユグドさんが勝手に扉を開けてしまったのだ。

マグにだって、ドアをノックするなり入る時には「失礼します」なりの礼儀くらい知っている。まだ未熟とはいえ働いているのだ。

そりゃー毎回、自分が無礼な奴だと思われていると思えば不機嫌な顔にもなってしまう。

注意されるのも仕方ないとはいえ気持ちいいものじゃない。

それでも、ユグドが勝手に開けていると言わないのがマグらしいのだ。


このクッキーは、普段自分達が買うクッキーよりも甘さが多く固くはあるが生地は滑らかで美味しい。

まだ小さい頃に1度だけ食べたことがある。その時に、本当に美味しくて食べてなくなってしまうことが残念で、ゆっくりゆっくり味わって食べたことを思い出したクッキーだった。

母が何かの褒美として頂いたクッキーだと言っていたように思う。

母の功績なのに、母は子ども達に与えた。母が口にしていなかったことを思い出し、思わず「家族の分も頂いても良いでしょうか?」とねだることを言ってしまった。

後でしまった!と思ったが、今後国の代表者と会うこともないだろうと割り切ることにしたのだったが、何故か会っている。

そう思いながらザダルを見ると寝息が聞こえてきた。


マグは部屋の中を見渡した。

飾りなどはなく必要最低限の物しか置いていない部屋。

家具はきっと最高級品なのだろうがマグにはその価値は分からない。

目に付いたベッドに近づき枕と薄手の毛布を手に取る。

座った状態でソファの背に体を預けた体勢で眠っているザダルをゆっくりと横たえる。頭がソファに乗る前に枕を滑り込ませ、何とかザダルを起こさないように横たえることができた。

ソファも大きめなことが良かった。

足をソファに乗せても曲げさすことがない。優しく毛布をかけザダルが眠っていることを確認する。

自分がこのままこの部屋に居たら邪魔になるだろうか? 帰った方が良いのだろうか?と考えてみたが、ザダルの「後で意見を聞きたい」と言った言葉を思い出したマグは、元の位置に戻り静かに座った。



この様子を監視モニターから見ている男がいた。

ユグドだ。

ユグドに与えられた部屋はザダルの私室の隣の部屋になる。

誰も知らないことだが、首脳につく補佐のトップには、首脳の私室でさえ見張る役割が与えられている。

ザダルは正統な血筋の後見者であって、ザダルの身に何かがあれば国が乱れる。

それを阻止するためにはザダルにはプライバシーなどと言うものを捨ててもらわないといけなかった。

ザダルが家に帰宅したのなら自宅内までも監視することはない。

ただ、このニハク館に居る間のプライバシーはないのだ。

補佐兼護衛。自身の全てをかけて首脳を護りきること。それが、ユグドが受け継いできた家系の長にあたる者だけが知る秘密だった。

いつもの様に監視モニターで様子を伺っていたユグドだったが、一瞬ヒヤッとした。

ザダルが眠ってしまったのだろう。それを知ったマグが辺りを見回している。

隣の部屋に突撃することも一瞬よぎったが、様子を見ることにした。

ユグドが動いた先にはザダルのベッドがあり、枕と毛布を手に歩いているマグを見た時には、様子を見ることにした自分の判断が間違ってなかったと安堵した。

後は、ユグドが想像した通りの行動だった。

慣れた手つきでザダルが起きないように気をつけながらザダルを横たえる。

きっと小さい兄弟達にもしてきたのだろうとユグドは微笑んだ。

優しく毛布をかけ思案しているマグの顔を見て、きっと帰った方がいいのか迷っているのだろうとさらに笑みを深める。



ザダルは夢を見ていた。

初めてマグと出会った日のこと。


宇宙船全体がシステム化され、何処かで何かのエラーが起きればその部所は仕事が中断され修復されるまで待たなければならない。

修復された後は溜まった仕事に追われる日々となる。

500年もの間に、この宇宙船もエラーが繰り返され最近ではエラーが出る頻度も上がり、修復できるまでの期間が長くなってきていた。

その問題は、首脳会議でも共有され最重要度の事案になっていた。

宇宙船が壊れればダフィタス人が滅亡するのだから。

だが、ニハク国も含め何処の国も解決策が見い出せないまま数年が経っていた。


ある日、ユグドからの報告書を目にしたザダルは思わず立ち上がるほど驚いた。

とあるサプリメント工場のシステムエラーを、たった1日で修復した者が現れたと書いてあったのだ。

サプリメント工場は至る所にある。

突出した才能の持ち主が働く可能性の方が低い場所だ。

学園での成績によって、仕事も振り分けられるのが現実だ。効率よく宇宙船を維持していくために、個人としてある程度の選択の自由はあるが、国で仕事を決めていることも事実としてあった。

サプリメント工場の研究部門もあるが、それもすでに完成形に近いサプリメントの研究であって、国としてはもっと良くなればいいよね。くらいの位置づけだった。

要は、余り期待していないというのが本音だったのだ。


首脳自らその男に会いに行くのはどうか?と考えたし、官僚達からも反対されるだろうとも考えたが、最重要度事案の解決策が見つかるのなら正規の手順で進めていく時間が勿体ないと判断した。

官僚達にその旨を話すと、案の定反対された。

首脳自ら出向くことではないとのことだ。真っ当な意見だな。

だが、ザダルはそれを押し通した。

各国共通の最重要度問題であり、自分の目で確かめることが必要であること。

相手を出向かせるより現地に行って説明を聞く方が早期解決に繋がるとゴリ押しした。

官僚達だって宇宙船が壊れダフィタス人の滅亡を回避したいに決まっている。滅亡曰く、己や子孫達の死なのだから。

ユグドと護衛3名をつけることで了承された。

その為の準備に数日を要したが、それは我慢した。

本音は今すぐにでもその人物に会って真意を確かめたかった。

偶然の賜物なのか? システムエラーを理解した上での修復なのか? さて、どちらだ?

そんな思いでサプリメント工場に出向いたあの日、そこに居たのは目をまん丸くして何が起こっているか理解していないことを隠しもしない実直そうな青年だった。

緊張もあるだろうが、普段の仕事のことを聞けば、たどたどしくも誠実に話をしてくれた。研究部門で宇宙船内にある物質から体に必要な栄養素を新たに作ることを研究していると話してくれた。

マグと名乗る青年は、先輩達から自分達が生きていく上でサプリメントというものが、どれほど大切で供給されなくなったら宇宙船に住む人々が飢えて死ぬのだと教えてもらったこと。

サプリメントは食べ物としての意識が薄く、なんとなく飲みそこまで大切なものという意識がなくなっていたこと。

先輩達に教えてもらったことで衝撃を受け、重要な職業につかせてもらったと感謝していると話した。


ザダルは、サプリメント工場の研究部門に対して期待していなかった自分を恥じた。

この宇宙船の人達を守ろうと、自分達にもできることで日々努力をしている人がいることを心から嬉しく思った。

同士のような感覚になった。

ザダルは、自分ひとりで守っているように思っていたのだと気がついたのだ。

初めて会った自分に、サプリメントの重要性を知らなかったと恥じりながらも実直に話し、教えてくれた先輩達に感謝の言葉を心から話している青年と話していると、昔に忘れてしまった自分の中にあるこのニハク国を守っていこう。滅亡などさせない。必ず住める星を見つけよう!自分は無理でも、いつか子孫達に映像ではなく、本物の空を見せてやりたい!と熱く心に決めた日の気持ちさえ蘇ってきた。

この青年と話していると自分が忘れてしまっていた大切なものを思い出せる感じがして嬉しかった。

マグともっと話したい。と国の首脳としてではなく『ザダル』個人として思ったあの日のこと。

その日は結局、マグとの会話だけで終わりマグがシステムエラーについて何処まで理解しているか?ということは確認出来ないままで終わったことはザダルとユグドだけの秘密になった。

後日、ユグドにマグの母校より成績を取り寄せてもらい、2人して情報技術の理解度の深さと数学の成績の高さにあんぐりと口を開けることになったのだった。

そんな楽しい夢を見た。それから深い眠りに落ちていった。


徐々に覚醒していき、自分は眠ってしまったのだと気がつき目を覚ました。


久しぶりに深い眠りだったのだろう。今は何時で、何をしていたかさえ理解できずに起き上がった。

体が軽い。

頭もスッキリしている。

ふと見ると、毛布が体にかけてある。

そして目の前には困った顔のマグが居た。


あっ!マグを呼び出しといて寝てしまった。

「マグ……すみません。寝てしまいました。時間は大丈夫ですか? 私はかなりの時間寝ていたのでしょうか?」


「寝ていたのは2時間ほどです。時間は大丈夫です。」


「それなら何故、マグは困った顔をしているのでしょう?」


顔に手を添え確かめるように撫でながらマグが答える。

「困った顔をしていましたか? 困ったというより、ザダルさんがお疲れのようで、このまま居てもいいのか?と思ったり、でも、意見を聞きたいと仰っていたし帰ってしまう方が失礼になるのか?とずっと考えていました。」


「マグ……それは、すみませんでしたね。でも、意見を聞きたかったのは本当です。残ってくれて助かりましたよ。」


ザダルがそう答えると、マグはやっと笑顔を見せた。


「あと、マグはこの部屋に入って来た時、不機嫌そうでしたよ。何かありましたか?」


「え……あの…………何もありません。」


「マグの先祖の方の手記を公表するのが、やはり嫌でしたか?」


「それは恥ずかしかったから嫌だったのですが、あの様な形で公表してもらえて、きっと喜んでくれていると思います。なので、そのことは今は誇りにさえ思っています。」


「ではマグ………どうして不機嫌な顔だったのですか? 何か嫌なことでもありましたか?」


「………自分は、ザダルさんの私室に通される身分ではないと思っています。どうして私室に呼んでもらえるのかと釈然としません。だから、いつもドアの前で躊躇ってしまいます。すると…………すみません。これ以上は言えません。」


「そうでしたか。分かりました………そんなマグの気持ちも知らずに、ノックをしなさいとか注意してしまいましたね。すみません、マグ。」


「いえ、ザダルさんが謝ることではありません。ザダルさんは、教えてくれていることを分かっています。」


トントン。「ユグドです。」


「入ってきてください。」


「失礼します。」とユグドが入ってきて、テーブルにアイスコーヒーを2つ置いた。


「ユグド、マグがすぐに入らないからと言って、マグを強制的に入れるのはどうかと思いますよ。」


「はい。ザダル様の時間は有限です。この後も予定が入っております。少しでもマグくんとの時間を増やそうとした私の配慮でしたが気に入りませんでしたか?」


「ユグド………優秀ですね。さすが私の筆頭補佐です。」

ザダルとユグドがニヤッと笑いながら頷く。


「えつ?」

マグはそんな2人を見て呆気にとられたが、段々笑えてきた。


「マグくん、嫌な思いをしたと思っても隠さずに話してください。 ユグドみたいに、嫌な思いをさせてるのを分かっててもする理由があることもあります。何でも話してくださいね。」


マグは、この大人2人を心の底からカッコイイと思った。

そして、なんて素敵な人達なんだろうと思った。


そんなマグを横目に見ながら、ユグドは満足そうな顔をして退出した。


それからザダルは、マグに国民に避難訓練を定期的に行っていきたいこと。家庭ごとに避難時の備蓄を推奨させたいことを理由は明かさずに説明した。


「マグ、いい案はありますか?」


マグは、少し考え発言した。


「家庭ごとの備蓄が問題だと思います。日々食べる分に加え、備蓄に回す余裕がない家庭も多いと思います。だからと言って備蓄を国が全て賄うのは国の弱体化に繋がりますよね? それなら、避難訓練に参加した者には、備蓄品を安く販売するというのはいかがでしょう。 避難訓練も強制参加としても、真面目に訓練する人の方が少ないかもしれません。それなら定期的に行い、備蓄品が安く買えるために参加したとしても、何度も参加していたら身についていくのではないでしょうか?」


ザダルは、この一瞬でマグの頭の良さを垣間見た。

平民目線の意見を聞きたいと思っていたのは本当だったが、国庫を開けば、有事の際に対応できなくなることも念頭に置かなくてはならなくなる。

今が有事なのだと思えば、国庫を開くことに躊躇いはないが、弱体化することは間違いないのだから。

それを鑑みての意見だった。

数字に強い。


「マグ……意見をありがとうございます。官僚達と話し合ってみます。 今日は、本当に助かりました。久しぶりにクッキーのお土産を用意しますね。今日はお祭りです。ご家族と楽しい時間を過ごしてください。」


そう言うと、ザダルはユグドを呼び出し、マグに持たせるお土産の指示をした。


ユグドは、心得たとばかりにいつもより多いクッキーと茶葉をお土産に持たせてくれたのだった。


マグが退出し、ユグドが枕と毛布を片付けている時に話しかけた。


「それはユグドがしてくれたのでしょうか?」


ユグドは振り向きハッキリと答えた。


「違います。マグ君がしてくれたのでしょう。」


他人が同室に居るのに熟睡した自分にも呆れたが、寝ている間に、枕と毛布を用意してくれ横たえてくれたマグを思う。

心優しく、実直で、お土産を本心から嬉しそうに抱えるマグを好ましく思う。

何度か話している時に知ったのだが、お土産は全て家族に渡しているらしい。

家族にも食べさせてあげたい。そんな思いから、クッキーを持って帰っていいか?とねだるようなことをしてしまったと以前謝られた。

そんなマグだからこそ、傍に居ても熟睡できたのかもしれない。


それにしても本当に体が軽い。


「はるか昔に願った思いをマグとなら叶えることができるかもしれないな。」とザダルは心の中で呟くのだった。

読んでくださりありがとうございます。


これからも物語は進んでいきます。

面白いと思ってもらえましたら星をつけて頂けると嬉しいです。

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