第二十二話 ザダル・ラ・ニハク(成長期ⅩⅨ)
【これまでのあらすじ】
宇宙船が旅立ち約500年が経った頃、ダフィタス人が住める環境にある星を見つけた。
星が見つかった!との報告で国民が歓喜に湧いている頃、各国の代表者と室内に置かれたリアルタイムで話すことが出来るスクリーンを通して首脳会議が行われた。
ニハク国の代表者はザダル・ラ・ニハクという人物。
幼少期から青年期、ザダルという人物を形成するのは何か?
【決まった道を行く者と外れる者②】
~SIDEザダル つづき~
頭では理解していたつもりだった。
我々ダフィタス星人を滅亡させてはいけない。
そして、このニハク国民の滅亡もだ。
頭では分かってたんだ。
けど、心の何処かで大丈夫だと思っていた。
こんなに平和なのだから………そのうち住める星が見つかればいいだけだと思っていた。
僕は平和なこの国を平和のまま維持したら良いと思っていた。
その平和は、代々の首脳と家名持ちの本家が作り上げてきたものだった。
もちろん、そこに父上である現首脳と現本家当主達も含まれる。
ライドやマルサを見る。
彼らが独身なのは、仕事が忙しいからだと勝手に決めつけていた。
滅亡させないためには、子孫繁栄が必須である。
そのためには、彼らも結婚をする必要があった。
彼らは、結婚するおおよその年齢まで決められていたのだ。
仕事をし、人材を育てる。
そこまでして、役目をひとつ終えたとなる。
それから、自分達の子孫を残す。
その時に、なるべく血が濃くならないようにと他家の分家より年頃の妻を迎えることとなる。
自分の好き嫌いで結婚はできない。
それは『ニハク』と家名がつく家の本家に決められた定めだった。
もちろん、僕もだ。
頭では分かってる。分かってるんだ。
けど………気持ちが追いつかない。
恋愛などしたことがない。
だけど………だけど………仲のいい家族に憧れた。
温かい家庭を築きたいと漠然と思っていた。
だけど僕だけではなく、この国を支える中枢の者たちは皆、その定めを受け入れてきたのだ。
そして、家業を継ぐという定めも。
ラ家は、ニハク国首脳を育て国の運営等全ての責任を担う
リ家は、執事業と諜報業
ル家は、護衛業と治安業
レ家は、研究業と裏稼業
ロ家は、研究業と情報業
ヤ家は、財務業と外交など
ユ家は、医療や福祉や公共事業など
ヨ家は、食品・衣類など生活に関わること全般
リ家・レ家・ロ家は、公になっていない仕事もあった。
けど、ラ家からロ家までは、その公になっていない仕事を連携している。
諜報員が情報を得て、治安部隊が動くのか……それとも裏稼業として制圧するのかを連携して判断する。
もっと言えば、他国絡みになれば首脳から外交官へと指示を出すか、首脳とレ家との仕事とするか………
そして、その情報をロ家は操作し国民に平和に過ごしてもらうようにする。
この事は、例えレ家であっても本家しか知らない。
だからこそ、絶えず人材不足だとか………
その中で、なるべく子孫を残し、国を支えてきたのだ。
ザダルはもう何も言えなかった。
けど、聞きたいことは出来た。
「父上………ターフィーとユーグルは家業のことを知っているのですか?」
聞いておきたかった。
知った上でターフィーとユーグルと向き合いたかった。
彼らとは、ただの友人で居たかった。
一緒に国を支えていく者達と思えば心強く思う。
だけど、もう……ただの友人ではなくなってしまう。
彼らはどう思ったのだろうか?
家業を知った時、悩んだのだろうか?
その定めを恨んだりしなかったのだろうか?
彼らと話がしたい。
「学園入学前には話したと報告があった。すでに家業の見習いから始めているだろう。」
と、父上の声が少し落ちたトーンで耳に届く。
「そっそうですか………知った上で………」
ターフィーとユーグルは知った上で僕と普通に友人として接してくれていた。
それがなんとも悲しかった。
彼らに僕はどう見えていたのだろう?
何も知らない子どもに見えていたのだろうか………そんな風に心が擦れていく感覚に襲われる。
その時、ターフィーのあの手の温もりを思い出した。
あまり笑わないユーグルの綺麗な笑顔を思い出した。
僕が落ち込んでいる時に、励ましてくれたあの時の温もりも笑顔も確かにあった。
己の役割を知ってても友人として僕を心配してくれる気持ちが確かにあったのだ。
そう確かにあったのだ。
ザダルは、父の子どもで居させてやりたかったという言葉の意味を知った瞬間だった。
「ザダルよ。レ家の者とロ家の者は、後日時間を作るとせよ。今日はリーリア嬢を呼んでいる。若い女性を遅い時間に出歩かせる訳にはいかない。けど、この件は、急を要した。別室に待たせてある。まずはリーリア嬢と話をするように。ユ家とは、婚約者として世間に知らせるなども決めて報告せよ。」
有無を言わせない物言いだった。
もう父上である首脳はこちらを見ていない。
決定事項ということかと理解した。
しかし、ユ家と話して僕が決めていいと父上は言った。
それがザダルには信頼されているようで嬉しかった。
そして不思議と父上の気持ちが分かった。
きっと父上もそうだったのだろう。
そして、母上も………
少しの間、ザダルは書類仕事をする父親の姿を見つめた。
ザダルは決意した。
父上と母上のような夫婦にはならないと………
リーリア嬢がどんな人なのかは分からない。
けど、温かい家庭を築く。
ひとつくらい、決まった道を歩かなくてもいい。
マーサのように、笑ってほしいから笑う。そうやってリーリア嬢に寄り添っていたら、いつか仲のいい家族を築くことができるかもしれない。
そう思い、ザダルは笑みを浮かべた。
~SIDE ザウル・ラ・ニハク首脳~
俺の言葉に少し目が大きくなった息子を見る。
驚いたのだろう。
俺の言動が変わったくらいで驚いたことを悟られるなんて、まだまだだなぁと可愛く思う。
あの学園長が素質ありと言った息子は、確かにデキが良いと思う。
故意に外の繋がりを断っていたにも関わらず、家で働く者たちの仕事が知りたいと言ったザダル。
それからは、護られる立場というものを理解した行動に変化したと聞く。
自然と胸を張り前を見据える息子の立ち振る舞いに笑みが溢れそうになる。
しかし息子はこれから、また大人にならなければならなくなった。
ヨ家本家令嬢の軽率な言動のせいで………
リーリア嬢には申し訳ないと思っているが、ザダルに知らせるのを遅らせたのは俺のワガママだった。
報告書に書かれた弟達を可愛がるザダルを、そのまま優しい子で居させてやりたかった。
首脳になる研修期間に入れば、弟達とも顔を合わすのは僅かだろう。
様々な問題に対応するだけで日が暮れる。
そして、この国の先駆者達は、相当な覚悟をもって宇宙船に乗り込んだのだ。
俺の先祖もそのひとりだ。
ダフィタス星人を滅亡させないために、長い年月に宇宙船で起こることを想定して細かいことまで定めとしてきた。
先駆者たちは、暴力や殺人、横領や国の滅亡……宇宙船内で無いとは思うが戦争が起こることも想定して様々な取決めを自分達に課してきた人達だ。
その覚悟と決断には脱帽する。
だが、俺は本来のんびり屋だ。
争いごとなんて大嫌いだ。
静かな環境で好きな本でも読んで過ごしていたい。
分単位で動くとか胃がキリキリするし、次から次にと持ち込まれる仕事に、ほとほと疲れ果てている。
唯一の楽しみは、報告書で知る息子たちの生活を想像することくらいだ。
そんな俺でも、今日の報告に一瞬手が止まった。
『その時が来てしまった』
そう思った。
先代首脳より初めてこの国の話を聞いた日、俺は友人達に裏切られた気持ちになった。
自分だけが何も知らず、友人達は家業の重責を感じながらも笑い、学生というその時間を楽しもうとしていた。
そんな友人達が大人に見えて、自分だけが子どものようで………
何故教えてくれなかった!
何故除け者にした!
と、酷く落ち込んだ。
今なら分かる。
少しでもその子どもである時間を過ごさせてやりたいと思ってくれたのだろう。
俺は、本当に周りに恵まれた。
今も、本来の俺の性格を知ってて、仮面を被った俺に合わせてくれる友人ばかりだ。
そんな友人にザダルも巡り会えたらいいと思った。
ザダルが首脳となり、孤独に耐えられなくなった時、誰かひとりでもザダルに寄り添ってくれる友人が居ることを願った。
そういえば、ザダルの友人であるユーグルには会ったことがある。
ユーグルの父であるロ家当主は、俺の友人だ。
数少ない俺が俺で居られる場所だ。
スタジオの控え室。
そこは俺が首脳という仮面を外せる場所だった。
そこに、あいつの息子は平然とした顔して絵を描いていた。
周りの大人達の騒然としたやり取りを一切気にせず、黙々と絵を描き続けていた。
その筆を走らせる音が何とも心地よくて、ずっと隣に座っていたことを思い出す。
ユーグルの父である俺の友人は、よく喋り商人になればいいのでは?と思うような奴だったのだが………面白いものだな。
そんなことを言ったら、俺の息子のザダルも、こんなにデキがいいなんて、友人達からしたらビックリだろうな。
報告では、幼少からの教育で無表情を貫くザダルには、なかなか友人ができなかったと聞く。
ザダルに対して悪く言うものも多かったと………デキが良すぎて疎まれることもあったのだろう。
俺は、無口だが家庭教師の言うことを聞かない子どもだった。
親からの愛情を求めて、反発した。
大人しく無口だが、嫌なことはやらなかった。
そんな俺だったから、学園に入った時は色々と苦労した。
勉学の面も、マナーなどの教養の面も色々………だから、ザダルには俺よりも早くに家庭教師をつけた。
ザダルが真っ直ぐに家庭教師の言うことを聞くなんて思ってもなかった。
そして、俺とは真逆で物覚えも良いなんて、分かるわけないだろ?
この国を首脳として護っていくこと。
そして、それは自分だけではなく家名付き本家と連携していること。
極秘でなければならないこと。
その意味………頭のデキがいいザダルは、すぐに理解したようだ。
そして、やはりだった。
「父上………ターフィーとユーグルは家業のことを知っているのですか?」
友人達を気にかけるザダルの言葉に、嬉しさと哀しさが混じる。
友人ができたこと。
その友人達を大切に思っていることが嬉しかった。
けど、やっぱりもう少しだけ………もう少しだけ何も知らず友人達と楽しく過ごす時間を持たせてやりたかった。
ヨ家の令嬢のせいでと思うと苦々しいモノが込み上げてくる。
ザダルはこれから矢面に立つのだ。
今後のザダルの立場を思うと辛さが増して顔が歪みそうになる。
そんな思いを隠すように書類仕事に没頭した。
ザダルが夫婦仲改善計画を考えているなど、全くもって想定外だった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
次からは、ザダルとリーリアの話になります。
楽しみにしてもらえると嬉しいです。




