第二十一話 ザダル・ラ・ニハク(成長期XⅤIII)
【これまでのあらすじ】
宇宙船が旅立ち約500年が経った頃、ダフィタス人が住める環境にある星を見つけた。
星が見つかった!との報告で国民が歓喜に湧いている頃、各国の代表者と室内に置かれたリアルタイムで話すことが出来るスクリーンを通して首脳会議が行われた。
ニハク国の代表者はザダル・ラ・ニハクという人物。
幼少期から青年期、ザダルという人物を形成するのは何か?
ご無沙汰です。
【決まった道を行く者と外れる者】
~SIDEザダル~
僕は帰宅後、マルサとライドと話をしようと思っていた。
それが、父上からの呼び出しがあるなんて……
なんでこんな時に?と思ったが、こんな時だからなのか?とも思えた。
そして、この呼び出しにライドまで付いてくると言い出した。
確かにライドは僕の専属執事である。だが母上が留守がちな事を考慮して、外出などの護衛はマルサに任せて、普段は家を優先してくれている。
不思議に思いライドの顔を見ると、和かに微笑んではいるが、ダメとは言わせない……言えない威圧が全面に放出されている。
それならばと思い
「マルサは家の護衛にする? 話は帰ってからになるだろうし。」
と言えば
「いえ、私も行かないといけない事だと思いますので。」
と言うではないか………
今日になって、僕の知らない何かが動き出したような、今まで除け者にされていたような、やるせない気持ちが生まれる。
新たに生まれた気持ちを持て余している間に、他の護衛達に通達し、警備体制を整えたマルサとライドが準備が整ったことを報告してくる。
僕は何とも言えない気持ちのまま、はじめて父上の呼び出しに応じることになった。
僕は首脳館へと足を踏み入れた。
首脳館と言っても、学園の行事で来る表向きな建物の裏口という場所だった。
こんな場所は、僕は初めてだった。
入口から入って、かなり奥に通された。
関係者だけが入れる場所で、セキュリティで守られ警備の者も複数居た。
この時、僕は父親の職場という所に初めて来たのだと思った。
いずれは僕が仕事をする場所となる。
頭では分かっていた。
けど実際に来ることになり、なんとも妙な感じがした。
先程感じた、やるせない気持ちが膨れ上がる。
『僕は何も知らないのだな……』
そんなことを思いながら、周囲を伺う。
さらにその奥にある場所に案内された。
それは、どうも首脳の私室であるようだ。
そこには、応接セットと執務机があり小さいながらもキッチンも設備されており、ベットまである。
華美な装飾は一切なかったが、なんとなく落ち着ける空間だなとザダルは思った。
父上がここで多くの時間を過ごしていることは明白だった。
落ち着かない気持ちを隠して、言われた通りソファに座る。
すると、父上が
「ザダル、急な呼び出しで驚いただろう?」
と言うではないか。僕は、その言葉に驚いた。
家でも父上は、気難しそうな態度や雰囲気……口数も少なく取っつきにくい人。それがザダルが思う父上であった。
朝・夕のニュースで、たまにスクリーンに写る首脳は、偉そうに胸を張り眼差しは鋭く、声も張り断定的は物言いをする人だ。
良く言えば、頼りがいがある。
悪く言えば、周囲の話など聞いてはくれないだろうと思わせる。
ザダルもそう思っていた。
僕の気持ちなど、どうでもいいのだろうと……
だから、この急な呼び出しのことなど、父にとっては当たり前で、相手が何を思うかなど気にしないと思っていたのだ。
それが、僕のことを気にかけるような物言いに正直驚いた。
「驚いたというより、何があるのかと思いました。」
と素直な疑問をぶつける。
「そうか…… 他の者から聞くよりも、私から説明した方が良いと思ってな…… それで呼び出した。」
珍しく歯切れの悪い言い方をする父上をザダルは疑うような目で見つめる。
『この人、本当に父上? 違う人じゃないの?』
と本気で疑いそうになる。
目の前に居るこの人は、本当に自分の父なのだろうか?
その疑問を解消しないと先には進めない。
「あの………父上、普段と違うのですが………何かありましたか?」
「そうだな。普段の私とは違うだろう。
ザダルが知ってる私は、首脳としての私であって本来の私ではない。今はザダルの父親として話したいと思ってな……だからこそ、この部屋へと呼んだのだ。この部屋の中では、本来の私で居られるからな。」
声に張りはなく、はにかんだ様に少し笑う父上の様子にザダルは絶句した。
自分は今まで何を見ていたのだろうか?
いや違う………何を見せられていたのだろうか?
僕が知ってるのは首脳としての顔………じゃあ今は、父親としての顔?
今まで家に居る時も父親の顔ではなかった。
それで今頃になって父親として話がしたい?
何を言ってるんだろう?
頭の中がぐちゃぐちゃになっていく……心の中も色んなモノで溢れそうになる。
叫び出したくなる。
ザダルはひとつ息を吐き、感情を抑えた。
今は呼び出された要件を聞いた方を優先した方がいい。そう思った。
聞く体勢が整ったとばかりに、父上の顔を見る。
すると父上は、
「ザダル、今日学園でマルサが何やらトラブルに巻き込まれたらしいな。」
なんて言うではないか。
つい先程のことなのに、知っているという事実に驚愕する。
表情を崩すことはなかったが、流石に眉は動いたらしい。
「驚くのは無理もない。お前にはマルサ以外の者もつけているからな。」
などとシレっと言われる。
後ろに控えるマルサもライドも知っていたようだ。
「そうですか。 それで父上はマルサのことで私に話があるのですか?」
「マルサのことと言うよりも、リーリア嬢のことだ。」
「リーリア嬢? 私は話したこともないご令嬢ですが?」
「リーリア嬢は、お前の許嫁だ。」
「はっ?」
「うん。そういう事だ………」
「 ………………………… 」
い・い・な・ず・けって何だっけ?
あー、勝手に決められた婚約者のことか……
ふーん、そう。
で、そういう事ってなに?
そんなんで分かるわけないだろ?
ザダルの雰囲気が徐々に険悪なものへと変わっていく。
そこに、ライドが慌てて割り込んできた。
「発言をお許しください。」
険悪になっていく息子を面白がる目で見つめていたザダルの父であり首脳のザウルは、眉を片方だけ上げてライドを見返す。
「なんだ?」
「この件に関しまして、私共はザダル様に何一つ話しておりません。一から説明して頂くようお願い申し上げます。」
と、胸に左手を添えて腰を折る。
そんなライドを見てザウルはひとつ頷くと、やっとこれまでの経緯を話し出したのだった。
そこに、マルサからのリーリア嬢に対しての数日間のやり取りも加わり徐々に自分が何も知らされず今まで生きてきたことを実感する。
大人達の手によって全ての物事が決まっていた。
そして、自分の結婚相手まで………
心は乱れ、何か言いたいのに何も言葉が出てこない。
ただ、父親として話すと言った男の顔を睨みつけた。
悔しかった。
父親というならば、何故もっと話をしてくれない?
何故相談もなしに全てが決められている?
何故僕は何も知らされない?
言葉にはできない感情が思考を止める。
悔しくて、やるせなくて顔が歪む………
その時、父上の低く落ち着いた声が響く。
「ザダル………お前は、他の家の者が何の仕事をしているか知ってるか? 早い者ならば、家業の仕事を教わり出してもおかしくはない。 誰か、お前に家の話をした者は居るか?」
「……………………」
ザダルは答えられなかった。
悔しさがより増してくる。
答えは『知らない』なのだから………その時、ザダルは初めて父親から目を逸らし俯いた。
情けなさが込み上げ涙が頬をつたう。
泣くもんか!と思えば思うほど、涙が溢れてくる。
「顔を上げよ、ザダルよ。………お前が何も知らないのは、俺のせいだ。 俺がお前の耳に入れないようにと通達したからな。」
「なぜ?」
思わず問いただすような口ぶりをしてしまう自分に嫌気がさす。
「お前をまだ子どもで居させてやりたかった。知れば、お前はお前ではなくなるかもしれん。この俺のように……… だから、お前に何も知らせなかった。」
子どもで居させてやりたかった?
家族で何処も出かけたこともないのに?
僕の話など聞いてもくれなかったのに?
知らなければ子どもで居られる?
知ったなら、自分で居られなくなる?
様々な疑問と思いがザダルの涙を止め、頬につたう涙もそのままに父上の顔をまっすぐに見た。
父上のその目は、優しくもあり哀しくもある目だった。
「ザダル………これからは首脳として、この国の話をする。 お前は次期首脳として、全てを受け止めよ。」
優しさは消え、鋭さと厳しい目に変わったザダルにとって『いつも』の父親がそこに居た。
そして、この国の抱える問題と、各家の役目。そのために、どれ程の覚悟と犠牲をもって国を支えてくれている者達の存在を知った。
本当に知らなかった。
この国が他国から狙われていることも、首脳の命が代々狙われていることも………
この血筋を消したいヤツが居ることで僕達は家から出られなかったことも。
公にはしていない犯罪も年々増加になり、犯罪者が他国に渡っていることも、何も知らなかった。
そんな情勢の中で強い首脳を演じることを決めた父上のことも。
そして、友人達の家業の存在も………まさか、そこまでしてこの国を……この宇宙船を守っていくと決めた大人達が居るということを、僕は何も、本当に何も分かっていなかった。
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