第十九話 ザダル・ラ・ニハク(成長期XⅤI)
【これまでのあらすじ】
宇宙船が旅立ち約500年が経った頃、ダフィタス人が住める環境にある星を見つけた。
星が見つかった!との報告で国民が歓喜に湧いている頃、各国の代表者と室内に置かれたリアルタイムで話すことが出来るスクリーンを通して首脳会議が行われた。
ニハク国の代表者はザダル・ラ・ニハクという人物。
幼少期から青年期、ザダルという人物を形成するのは何か?
~SIDEマルサとリーリア (リーリアの涙のワケ)
とうとうマルサと会う日となった。
3日って、あっという間ね………
お母様には、とにかく大したことではないから安心するようにとだけ言って誤魔化したけど、きっと信じてないわね。
扉の外で聞き耳を立てるような、はしたない真似はしないとは思うけど………うーん………お母様だからなぁ。
そんなことを考えつつ、どう話したものか?と悩んでいるうちに、学園も終わり帰宅する。
自室に入り、部屋着ではなくマルサ様を迎えるにあたり無礼にならないような服に着替える。
夕食の時間となり、サプリメントと野菜がたっぷりと煮込まれたスープを頂く………なんだか落ち着かなくて、大好きな具沢山なスープの味さえ分からない。
マルサ様が来られるまで自室に戻り、前世のワタシに話しかけるが、あれから何も言ってこない。無視である。
何度も話しかけるが、一向に返事が返ってこない。
こんな時くらいアドバイスくれたっていいじゃない!って少しウルッとしてしまう。
すると
『思ってること、そのまま言えばいいのよ。』
と、頭の中でワタシからのメッセージがくる。
思ってることそのままって………と戸惑っている間に、マルサ様が到着されたと連絡を受け、応接室に向かう。
「夜分遅くになって申し訳ない。」
と、マルサから声をかけてくれる。
「こちらこそ、待って頂きありがとうございます。」
と、本日まで時間をかけたことに対する謝罪とお礼の気持ちを言葉にし、時間も時間だからと挨拶もそこそこに本題へと促される。
リーリアは、ワタシの助言通りにすると腹をくくった。
「マルサ様………私、恋愛という感情が分からないのです………でも、失礼かと思いますが、マルサ様がザダル様の後ろで控えていらっしゃる時の、マルサ様の目が………何と申しますか………雄弁でいらして………それが………見ていて面白いですし、何よりもその優しい目でザダル様を見ている所を見るとホッコリすると申しますか………それで、ついついおふたりを見てしまっていたのですが、それを友人に見られまして………それで…………」
「……………はい。それで?」
「………それで………友人が……私がマルサ様のことを好きなんだと………」
「え?………はっはい?」
「あっあの………先程も言いましたように、私はまだ恋愛がどういうものか分からないのです………だから、私はマルサ様のことを好きなのだろうか?と悩んでいました。私は、ザダル様の許嫁なのは分かっています。ザダル様のことも………またまた失礼を承知で申し上げますが………初めは怖いお方なのかしらと思っていまして………許嫁を辞退できないものか?とまで考えたりもしていました。けど、ザダル様とマルサ様との何気ないやり取りを見て、怖いお方ではなく優しいお方なのだろうと思うようになったのです。最近では、ザダル様の気持ちのない笑顔より、心から楽しそうに笑っているお顔を見ると安心すると言いますか、そんな風にも思えるようになりました。 でも………」
「でも?」
「私は……ザダル様のことを好きなのか分かりません………そして、マルサ様のことも好きなのか分かりません。………もう好きって何?って考えることさえ疲れてしまって………そんな時に、マルサ様からザダル様のことをよろしくお願いしますと言われまして………申し訳ございません、それで思わず涙が出てしまったという訳でして………」
「………………………なるほど……………分かりました。本当にリーリア様には、大変な心労をおかけした。申し訳ない。」
マルサは、幼い頃より許嫁だと言われ、周囲の大人から自然とザダル様を意識するように持っていかれた少女の心の苦しさに胸が痛んだ。
自然と誰かを好きになり、恋愛を学び大人へと成長したら良かった。
けど、この目の前の少女は………あの日泥だらけで走り回っていたキラキラと輝く瞳で上を向いていた少女は………ザダル様の許嫁になったことで、どれだけの重荷をその細い肩に背負ったのだろうか?と苦しくなった。
だけど、許婚に対して真摯に向き合おうと努力するまっすぐなリーリアの思いを聞けて嬉しくも思ったのだ。
そして何よりも、自分が思っていたようにザダル様のことをよく見てくれていることが何よりも嬉しかった。
自分に対しての感情は、恋愛ではないとマルサはすぐに答えを出していた。
「リーリア様、私めに対する感情は恋愛ではございませんよ。」
とマルサはニッと笑った。
「………えっ? そうですの?」
「はい。きっと、俺がザダル様に向ける目を好意的に思っただけでは? そーですねー、リーリア様が思ってる気持ちと私が思ってる気持ちが一緒だったから嬉しかったとか、そんなんじゃないですか?」
「……………そうかもしれません。………あっ!バーサさんが弟のマーサを見るような目で………それが微笑ましくて…………そうです! ザダル様って、なんか弟みたいなんですよね。ほっとけないと言いますか………何でも出来る人なのに不器用って言いますか………そんなザダル様を見るマルサ様の目がバーサさんにそっくりで、微笑ましかったんですの、私。
ふふっ。周りの女の子達が、ザダル様がおふざけになってる姿が嫌だと言うのですけれど………ザダル様のあの笑ってるお顔は本当に楽しそうで、見てると嬉しくなるのですけれど………女の子達に囲まれてる時に見せる笑顔って、ほんと腹立つお顔で………見てると殴りたくなっちゃうんですのよね! どうして、あんな顔なさるのかしら?って戸惑っていた時に、マルサ様も戸惑った目をされていて………そうです!嬉しかったんですの。スッキリしましたわ!」
「そうですか。良かったです。………ところで、マーサ様とは仲が良いのですか?」
「マーサとは、幼なじみですの。小さい頃にお家にお呼ばれしたり、我が家にも遊びに来てくれたこともあります。 7歳頃から勉学など忙しくなりまして、それから疎遠になっていましたが、この前声をかけていただき、懐かしかったです。」
「そうだったんですね。不躾なことをお聞きしました。私も理由がハッキリしましたし、それでは失礼します。」
と、マルサ様は帰っていかれた。
リーリアは、恋愛ではないと分かって、なんだかスッキリして………マルサ様を母とふたりで玄関ホールで見送った後は、今日はよく眠れると久しぶりの熟睡を堪能しようと自室へ戻ったのだった。
リーリアの母は、リーリアが想像したように扉に耳をつけ中のやり取りをちゃっかりと、そして、しっかりと聞いていた。
聞きながら涙ぐむ。
盗み聞きしながら、2歳の頃に病で死にかけたあの娘が、今は恋とは何かと悩んでいる。
1度呼吸が止まってしまったが、奇跡的に助かり、それからは徐々に回復していき、3歳の頃には庭で服を泥だらけにして走り回るまでに健康になった娘。
周囲の者に、女の子らしく育てるようにと苦言を言われても……あの日、娘の息が細くなり徐々に血の気もなくなり、いつ動かなくなってもおかしくないと覚悟をしろと言われ、心が追いつかないまま亡くなったと言われたあの衝撃を思えば、目の前で満面の笑みで走り回る娘の魂の輝きを止めることなどできないと拒み続けた。
許嫁の話を夫から聞かされた時も、猛烈に反対したのだが、それだけは認められなかった。家の存続にも関わると言われてしまったら何も言えなかった。
どうしてなのかリーリアを出産した後、妊娠する事がなかったのだ。
私のせい……私のせいでリーリアに………
年相応に恋愛に悩んでいることに安堵しつつも、許嫁という立場だからこその苦しみを娘がしていることに心の中で謝るのだった。
私のせいで、ごめんなさい。
そして、その悩みを聞き受け止めてくれたマルサ様に感謝をした。
家を守る夫人として玄関ホールにて帰宅するマルサ様に挨拶し、見送る。
「では、夜分遅くにお邪魔した。場を作って頂き感謝する。」
とたげマルサ様は仰ったが、目を赤くした私を見てゆっくりと頷いてくれた。
リーリアが今後首脳夫人となったら、頻繁に会えなくなるだろう。だが、マルサ様のような方が近くに居てくれるのならば、少しは安心できると思えたのだった。
ユ家を後にしたマルサは、なんとか堪えた笑いを一気に吐き出すように笑った。
さすがだ!リーリア様!!
ザダル様の作り笑顔に頬を染めるではなく、殴りたくなると………
本当に殴られたら困ってしまうし、勿論止めるけれど
………いや、リーリア様になら殴られてもいいかもしれないな………あっ、ライドが許さないかー
あー、ほんと面白いっ!
初めは礼儀作法にならった会話だったが………最後はリーリア様の素で話せて良かった。
変わってしまったと思っていたが、そうじゃなかったことが分かって、今回、リーリア様と話せたことは僥倖だったかもしれん。
それに、リーリア様は気づいていないが、ザダル様が楽しそうに笑っていると嬉しくなるって………それってザダル様のことを………
マーサのことは幼なじみだと言っていたし気にしなくていいだろう。うん!
そんな風に思いながらマルサはニヤニヤと笑顔でコンポットに乗り込む。
その様子をヨ家のミユリ・ヨ・ユハクが見ているなんて気づかなかった。
「……………マルサ様とリーリアってお付き合いしてるってこと? マルサ様のあの浮かれたご様子………ふーん………リーリアがマルサ様と付き合うってことは、私がザダル様とお付き合いするチャンスが巡ってきたってことよね!! 最近、根暗なリーリアと離れようかと思ってたけど、使い道があるなら傍に居ることを許してあげるわ! ふふっ。ザダル様が私のモノになるのも時間の問題ねー! 将来は首脳夫人として、ニハク国のトップに君臨するのも夢じゃないわね!! あー、楽しみだわー。」
~SIDE 幸美
ふぅ………マルサって護衛が大人で良かったわ。
しかしリーリアちゃん、相変わらず鈍いのよね。
鈍いのは人のこと言えないんだけどね。
しかし、ザダルくんが楽しそうだと嬉しくなるって……そんな風に思える人が許婚だなんて、本当に良かったわね。
ザダルくんはまだ知らないってことだけど、いい子っぽいし……なるようになるわよね。
しかし初めはどうしようかと思ったものよ。
こんなに可愛いリーリアちゃんの将来を勝手に大人達が決めちゃうなんて、どうしてやろうかしら?なんて真剣に悩んだもの。
けど、リーリアちゃんからの視点しか分からないけど………ここ宇宙船なのよね。
初めて知った時は驚いたものだわ。
宇宙船とは分からないくらいに時間の経過があって、施設や学園にも木々が植えられていて、凄いわよね!
あのサプリメントだけで食事が終わるのは味気ない気もするけど………食料を維持するにはサプリメントの方が良いのかもね。地球にも宇宙食ってあったしね。
それにしても、この宇宙船のみんなが住める星が見つかったら良いのだけどね。簡単じゃないわよね………地球も温暖化が進んでいて、なんだか他人事じゃないのよねぇ。
けど、私はあくまでもリーリアちゃんの前世。
出しゃばるのは良くないわ………でもねー、リーリアちゃんにはお友達が居ないのよ。
相談したくても相談できないって、この年齢の女の子には酷なのよ。
思わず声かけちゃったけど………ほんと、話せる人が居てくれたらと思うわぁ。
読んで頂き、ありがとうございます。
ここまでの数話は、ザダルを取り巻く人々のお話が中心になってました。
次回から話が進んでいく予定です。
評価してもらえたり、コメントしてもらえると嬉しいです。




