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第十八話 ザダル・ラ・ニハク(成長期XⅤ)

【これまでのあらすじ】

宇宙船が旅立ち約500年が経った頃、ダフィタス人が住める環境にある星を見つけた。

星が見つかった!との報告で国民が歓喜に湧いている頃、各国の代表者と室内に置かれたリアルタイムで話すことが出来るスクリーンを通して首脳会議が行われた。

ニハク国の代表者はザダル・ラ・ニハクという人物。

幼少期から青年期、ザダルという人物を形成するのは何か?

~SIDE ユーグル・ロ・イハク~


俺の家の仕事は、情報操作だ。

分家はシステムエンジニア達がこの宇宙船の維持やメンテナンスを主な仕事としてやっているが……

本家は、その取りまとめと情報操作が主な仕事となる。

幼い頃から、スクリーンに映し出される人物がよく家を訪れている。

家の敷地内にスタジオがあり、そこで国民に向けてのニュースだったりの撮影をしている。

いかに好印象に写すか。

いかに威厳があるように持っていくか。

それを補足する映像に音楽………

この宇宙船の屋根いっぱいに張られたスクリーンに映し出される【空】という映像技術、それも我が家の仕事だ。

たかが屋根に張られた映像。されど映像。

それが国民にどういった影響を与えるか?

が、本家の主な仕事だ。

青空が広がる日は、活動的になることがエビデンスとして報告されている。

そこに、空調で僅かな風を起こし、体感までも爽やかを出す。

目から青空を……

肌に感じる風を……

耳からは動物の鳴き声を……

そうやって、国民が少しでも健やかに生活できるようにと調整されている。


逆に、暗い色の雲を映し出して照明も数パーセント暗くすると、外出を控えたりするらしい。

そんな日は、風も感じることがなく、動物の鳴き声も聞こえない。

すると『気が乗らない。』『なんとなく出かけるのを辞めた。』そんな意見が出てくるのだ。


そうやって国として大切な話がある日は、家に居るように天気さえもコントロールする。


そんなことを物心つく前から見ていた俺は、芸術に触れる機会が多かったのだろう。

絵画や彫刻など、芸術的なものが好きだった。

特に美しいものに惹かれた。

美しいモノだけを仕事として扱うのなら良い。

だけど、そこには色々な思惑があって………悪いことも良いことのように操作さえできてしまう。

それを知った時は、怖い仕事だと思ったものだ。


スクリーンに映し出される人達の中に首脳も居る。

俺の知る首脳は、無口であまり喋らない人だ。

そして温和な気のいいおっちゃんだ。

絵を描く俺の横に座り、じっと俺の絵を見てる。

絵が描き上がると、少しだけ口元を緩めて頭を撫でてくれる。

褒める言葉はないが、頭を撫でることで褒めてくれていると伝わる。

そんな空間が居心地良かったことを思い出す。

けどスクリーンの中の首脳は雄弁だ。

しかも、自信に溢れ威厳たっぷりに見える。

まったくの別人だ。

わざと偉そうに、国民が安易に意見が言えないように操作している。

小さい頃の俺は不思議で仕方なかった。

本当は温和な気のいいおっちゃんで、俺はその方が好きなのに、わざと嫌われるようにするなんて、なんで?って思ってたよ。

4歳くらいになった俺は、外に連れ出されることが多くなりスタジオでは遊べなくなった。

色んな疑問があったけど、スタジオの中でされる大人達の会話など、離れたからこそ分かることもあった。


そう言っても、幼い頃の俺はそんなこと知りもしないで、ただ美しいモノを求めていた。

けど、美しいモノの中にも闇があったりと恐怖が湧くことも徐々に分かってきた。

闇があるからこそ光が生まれる。

公園の木々の空に近い葉は、緑色が光って薄く見える。けど、根に近づくごとに陰ができて色が濃くなる。

陰を見るからこそ、光に輝く薄い緑が眩しくて輝いて見える。

キレイだと思うんだ。

そう、その闇があることで、美しさがあるのだということが分かった時だった。


現に目の前を笑いながら走ってる幼なじみのバイゼルとターフィー

ふたりは笑顔だけど、2人共が笑顔の奥に黒い何かを抱えている。

ふとした時の思い詰めた表情。

たまに見せる歪んだ笑顔。

だからこそ、今、走って笑い合ってるその笑顔はひかり輝いて見えるし、美しいと思う。

「キレイだよ。」と俺が言っても首を傾げて「そんなことはない。」って言ってる君達だからこそ、余計に美しいと思う。

そして儚さを感じてしまう。


誰かの何気ない言葉ひとつで、真逆に変わることを僕は知っている。

そうやって、あのスタジオの中では色々なことを話し合い作られているのだから。


僕が壊さないように………って思うから、僕の言葉ひとつで傷つかないように………って思うから、僕はあまり話すのが得意じゃない。


そして、できれば僕は嘘をつきたくないと思うんだ。

なるべくなら僕は僕に正直で在りたい。

父上のことは尊敬してる。

怖い仕事でもこの国の為だと夜中まで働いている父上のことを僕はちゃんと知ってるから。

だから、僕がその仕事を引き継ぐよ。

妹にはただのエンジニアの家系だと思わせておいた方がいい。

4つ下の妹は、きっと何処かに嫁ぐことになるのだから……


僕の将来の仕事は、嘘が多い。

この国のために、嘘さえも利用する仕事だ。

だけど、その中に輝くモノも一欠片ある。

本物の輝きは、決して嘘では隠せない。

そうだと僕は信じてる。

いや、信じていたい。


僕にその輝きがあるかなんて、分からないよ。

それって他人が見て感じるモノだと思うから。

だけど、僕はその輝くモノの近くに居たいと思うから、だから、なるべく嘘はつきたくないんだ。


そんな気持ちを知るはずもないバイセルもターフィーも、僕がなにも話さなくても受け入れてくれる。

公園の隅で画集を見ていても、絵を書いていても、何も言ってこない。

初めの頃は、お節介バイセルが「一緒に遊ぼう」なんて誘ってきたけど……

その屈託もない笑顔を見てると、なんだか毒気が抜けて、初めは遊具で遊んでみたけど、やっぱりつまらなくて………

途中で抜け出して、木の下で遊具で遊ぶ2人を見てたんだ。

同じ歳だというのに小さい体のターフィーを、まるで弟のように世話するバイセルと、兄の背中を追うようについて行くターフィーが素敵な絵に見えた。


また次の日も、そのまた次の日も………数ヶ月はお節介バイセルの屈託のない笑顔で「一緒に遊ぼうぜ」が炸裂したけど……

ある日、僕は半ギレで言ったんだ。


「僕は遊具で遊ぶより、絵を描いてる方が楽しいんだ! ほっといてよ。」


するとバイセルが悲しそうな顔をして

後ろのターフィーも悲しそうな顔をしてて


「俺らと遊ぶの嫌か?」


なんて聞くから


「遊ぶのが嫌じゃない。バイセルもユーグルもいい奴だと思ってる。けど、僕はそんな君たちを絵に描きたいんだ。」


そしたら、バイセルがぱぁって笑顔になって

後ろのターフィーも笑顔になって


「そっかー! なら、絵が描けたらみせてくれよな!」


なんて言って、バイセルはニカッとしたまた屈託のない笑顔を見せるんだ。

ほんと、参るよ。

それからかな……2人の絵を描くようになったのは……


バイセルもターフィーも知らないと思うけど、僕の私室には、君たちの絵が沢山あるんだぞ。

時折見せるバイセルの悲しみをおびた横顔も、ターフィーの怒っているのを隠す笑顔も……

ただ楽しいと笑い合う2人の輝く笑顔も……

僕は色んな顔を描いてきたんだ。

2人に見せるのは、花だったり公園の景色だったりで、

バイセルには


「俺らの絵を描くんじゃねーのかよ?」


って言われるし


ターフィーには


「僕、楽しみにしてたのにー」


なんて言われたけど、恥ずかしいじゃないか。



バイセルもターフィーも、それぞれに抱えているものがあって、バイセルはバイセルの強さで乗り越えようとしている。

野心なんて、そんな言葉を僕は使いたくないな。

だってそうだろ?

あんなお節介バイセルなのに、人に躊躇いなく手を差し伸べることができるお節介バイセルなのに……

そんなヤツが、人を押しのけても登りたいと願っているんだ。

それは、野心じゃなくて切望と言いたいと思う。

だから、僕は何も言わずバイセルがバイセルの思う道を歩けるように願っている。

そのための協力なんて、陰ながらするさ。

友達だろ?


ターフィーはレ家本家の次期当主だ。

僕は知ってるんだよ。いずれターフィーがする仕事を………

そして、ターフィーがそのことを知ったであろう日のことも。

あの日のターフィーの顔は、絶望に近い顔をしていたね。

何も言わず、僕の隣でずっと空を見てた。

僕も何も言わず、ずっと絵を描いていたけど本当はターフィーに何かを言った方がいいのか?ってずっと考えていたんだ。

けど、どうしたらいいのかあの時の僕には分からなかったし、なんか言葉にすると嘘みたいになる気がして。

いつもの様に、絵を描いて過ごしたんだけど……あの時の絵は我ながら見れたものじゃなかった。


僕は何もしてあげれないけど、それでも僕の隣に座ってくれるターフィー。

いつの日か、仕事として会うことにもなるだろう。

だけど、ただ隣に座ってるだけで、それでいいと思える時間を共有できる友達。

友達としての関係もずっと続けていけるといいと願っいるんだ。


学園に入って、次期首脳のザダル様のことは顔が整った奴だなーってくらいにしか思ってなかった。

無表情とか何とか色々聞くけど、そんな噂なんてどうでも良くて、興味がなかった。


けどあの日、あのカフェに入った瞬間、学園で見るザダル様の顔じゃなく……弟達に向ける瞳の輝きは本物で………

僕は、一瞬にして引き込まれてしまったんだ。


バイセルの思惑や、ターフィーの思惑も分かってはいたけど、実は本心からザダル様のことが美しく思ってしまって。

それには、弟君達の愛くるしさも加わることで成立した美しさで………

ずっと見ていたい。

出来れば絵に描きたい。とまで思っていたんだ。

そして、一緒にファンタジーランドに行こうって話になった時のザダル様のあの笑顔に僕の心は鷲掴みにされた。

なんだ!あの破壊力の笑顔は!!

それから、ザダル様を見るようになった。

初めは絵画の鑑賞のような感覚だった。

けど、学園でのザダル様は、あの輝きが半減してて………それがものすごく僕には勿体なくて。

輝きを半減させてる原因の陰口にもイライラしてて………

そんな奴らが、ザダル様と仲が良いからってランチに僕を誘うなんて馬鹿げてる。

分家は分家で、もっと良いポジションになろうとか向上心からの誘いなのは分かってるし、それは決して悪いものじゃないと思うさ。

けどさ、聞こえる所で陰口言うなよ!って思うんだよ。家帰ってからでいいだろ。


だから、そんなヤツら僕は相手にしないって決めてたんだ。

だって嘘つきたくないから。

バイセルもターフィーも上手くやれるだろう。

って放置してたら………よりによってザダル様が聞いちゃうなんて。

焦った。

あんまり走ったりしない僕が慌てて追いかけたよ。

けど、追いかけた甲斐があったね。

ザダル様のあの涙………美しかった………


だけど、それと同時に、ザダル様の父上である現首脳、僕の中では気のいいおっちゃんの顔が浮かんだんだ。

あの気のいいおっちゃんも、周囲から様々なことを好き勝手に言われた挙句に、威厳のある人物を演じることにしたのかな?って。

ザダル様には、そのままでいて欲しいと思った。

美しくて可愛くて……なんとも守っていきたいと思わせる人であってほしいと。

だから、ターフィーにもバイセルにも話した。

話すことが苦手な僕よりも上手にザダル様の心を癒してあげれるだろうから。


最近、よく笑ってるザダル様を見かける。

初めはぎこちない笑顔だったけど、今では自然な笑顔でクラスメイト達と楽しく過ごしているようだ。

けど、時折見せる怖い笑顔は………

まっ、それも魅力が増したんだけどね。

奥行きが出てきたっていうのかな?

ほんと、とても魅力的な人だ!


けど、僕にもその笑顔を向けてほしいなって言わないけど、思ってるんだぞ。

読んでくださりありがとうございます。


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