第十七話 ザダル・ラ・ニハク(成長期XIV)
更新が遅くなりました。
ごめんなさい。
【これまでのあらすじ】
宇宙船が旅立ち約500年が経った頃、ダフィタス人が住める環境にある星を見つけた。
星が見つかった!との報告で国民が歓喜に湧いている頃、各国の代表者と室内に置かれたリアルタイムで話すことが出来るスクリーンを通して首脳会議が行われた。
ニハク国の代表者はザダル・ラ・ニハクという人物。
幼少期から青年期、ザダルという人物を形成するのは何か?
~SIDE ターフィー・レ・ロハク~
僕は『レ家』長男であり嫡男として生まれた。
いずれは、レ家の当主として本家、分家を取りまとめないといけない。
『レ家』と『ロ家』は、宇宙船の開発から携わる技術職の名門という位置づけなのだが、分野が違うだけで同じ技術職の生業だ。
システムエンジニアと呼ばれているが、それは分家が主な仕事となっている。
本家はシステムエンジニアの仕事だけではない。
開発し、維持し、改良していく。その全ての取りまとめをしないといけないのだ。
あと、技術の秘匿も………
その秘匿とする仕事が本家の主な仕事と言ってもいい。
僕には兄弟はいない。
本当は弟が生まれるはずだったのだが死産だったらしい。
それから、母はもう子どもが産めない体になった………そして、母は壊れた。
「こんな家に嫁ぎたくなかった!」
「私の赤ちゃんを返して!」
と泣き叫ぶ母を覚えている。
初めて母が泣き叫ぶ姿を見た時は、僕は何も知らなかったから………
僕だけじゃダメ?
赤ちゃんには会いたかったけど、僕だって居るよ?って思って悲しかった。
それから母は部屋に籠るようになって、今では部屋から出てこない。
それは本家だけの秘密だ。
周囲が僕の母親だと思ってる人は、母の妹だ。
似ているという理由で、妻のフリをしてくれている。
外ではレ家本家当主夫人の役割をこなし、家の中では姉の傍に寄り添い、面倒を見てくれてる。
事情を知ってる者たちからは、正式に妻に迎えてはどうか?と言われてるらしいが、父が首を立てに振らないようだ。
母のことを大切に思っているのだろうか?
僕には父が何を考えてるのか、まったく分からない。
あまり話したことがないから………
叔母は、外では僕を大切にしている良き母だけど、家ではろくに話したことがない。僕は嫌われているみたいだ………もちろん、甘えたこともない。
でもこのことは、秘密なんだ。
町中で親子連れを見たり、幼なじみのバイセルやユーグルと遊ぶ時、それぞれの母親に甘えたりしている姿を見ると、発狂したくなった。
本当は、気持ちのままに怒りをぶつけたかった。
罵ったり殴ったりしたら、スッキリするのかな?って思うんだけど、でも、バイセルやユーグルと遊べなくなるのも嫌だったし、何より僕はバイセルやユーグルよりも体が小さくて、殴りかかったところで逆に殴られる未来が見えて我慢した。
僕はバイセルやユーグルよりも1年近く遅くに生まれたから仕方ないんだと言われたけど、ドジっ子だとその時の印象のまま今に至るから不本意ではある。
そんな僕に父は、ひとりっ子の僕が当主になった時、支える存在としてバイゼルを紹介したと言ったんだ。
気に入らなければ、他にも分家から連れてくるとも言ったんだ。
ユーグルとは、同じ当主として今後もつき合いがある為、幼少の頃から遊ばせておいたとも言われた。
大人からしたら僕たちは、ただの幼なじみではないらしい。
大人の思惑はこんなものだ。
だけど僕たちは、ただの幼なじみなんだよ。
当主だとか、本家だとか分家だとか関係ない。
ただの幼なじみで、ただの友達なんだ!ざまーみろ!
僕がそう決めてるんだから、そうなんだ。
バイゼルは、はじめて会った時から面倒見がいいヤツだった。
バイゼルはもう覚えてないかもしれないけど、バイゼルが僕の手を取って「遊ぼうぜ」って笑いかけてくれたんだよ。
僕は僕と同じ子どもと遊んだことがなくて、どうしたらいいか分からなくて……
一緒に遊びたいのに声もかけれなくて……そんな時「遊ぼうぜ」ってニカッと笑って手を引いてくれたバイゼルが、憧れたお兄ちゃんみたいで、頼もしくってカッコよくって……すぐに大好きになった。
子どもの頃の僕は体が小さくて、走るのも遅いしボールも思うように投げれなかった。
バイゼルは、そんな僕に合わせて走ってくれたんだ。
けど、バイゼルは合わせて走ってるって気づいてないんだよね。
手を繋いでてバイゼルが自分のペースで走ると僕が転びそうになるんだ。すると慌てて僕の隣に戻るんだ。それを繰り返してるバイゼルが面白くって笑っちゃうんだけど、そんな僕を見て「楽しいなー!」ってまたニカッて笑うんだ。
ボールを投げても、バイゼルの所に飛んでいかないことの方が多いのに、嫌な顔もせずにつき合って遊んでくれるのは、バイゼルだ。
ボールの投げ方を教えてくれたのもバイゼルだ。覚えているかい?
ユーグルなんて、早々にどっか行っちゃって公園の隅の木の下で画集を見ていたよ。
けど、ユーグルのそのマイペースが僕は楽だったんだ。
嫌なことは嫌だとハッキリ言ってくれて、好きなことには他の人の目なんて気にせず没頭する。
けど、誰かが困ってたりするとさりげなく手を貸したりする優しさもあるユーグルの傍にいると、僕は落ち着けれるんだ。
僕が隣に座っても、気にせず画集を見てるユーグル。
何も話す訳じゃないけど、時がゆっくり流れてる感じがして、僕はこの時間が本当は好きなんだ。
バイゼルもユーグルも、優しくてまっすぐなんだ。
僕は、母や父に甘えたりすることができない苛立ちよりも、幼なじみ達と遊んでる楽しさの方が大きくなっていったんだよ。
だから、バイセルとユーグルは僕の補佐や当主同士じゃなく幼なじみなんだ!
そう僕が決めたんだ。父に何を言われたとしても。
『レ家』と『ロ家』は、技術の情報を秘匿しなければならない。
もし漏洩したら、国の情報が他国に流れてしまう。
その為には、『リ家』の暗部より暗殺の指示が出た際には暗殺も厭わない。
ロ家が治安を守る。それでも犯罪は消えない。
裁かれることと、そうでないものがある。
表立って公表できない犯罪。
それの最後の後始末。それがレ家本家の重要な仕事。
暗殺を成功させるためには情報操作もする。
情報操作は、ロ家本家の仕事……将来、ユーグルとはそういう関係になる。
詳しくは分からないけど、きっとバイゼルのお父さんがお酒ばかり飲むようになったのは、その事と関係してると僕は思ってる。
だからバイゼルが野心を抱いていても僕は良いんだ。僕は、恨まれても仕方ない家の息子に生まれたんだから。
だけど、大好きなバイゼルを離してあげないんだ。
幼なじみというポジションを使ってでも友達でいたい。
ごめんね………バイゼル。
優しい人になりたくても、僕はきっと優しくない。
本当に優しいなら、こんな汚い世界からバイゼルを遠ざけるはずだもの。
バイセルが本家当主になったら、こんな仕事をしなくてはいけなくなる。
こんな汚い仕事、バイセルには似合わない。
だから、バイセルを本家当主にはしてあげれないんだ。
でも、バイセルの手を離すこともできない。
僕は、意気地なしだね。そして、優しくない。
バイセルやユーグルのように、優しい人になりたいよ……
ユーグルが美しい絵画に惹かれる気持ちが何となく分かるんだ。
できれば僕も美しいモノや優しいモノに囲まれていたい。
その優しいモノが、僕にとってはバイゼルだったんだよ。
木漏れ日の中、木にもたれかかり静かに本を読んだり絵を描くユーグルの姿は、1枚の絵画の様で……
僕にとって初めて美しいと思ったモノは、ユーグルだったんだよ。
ユーグルがどこまで家のことを知っているかなんて知らない。
お互いそんな話はしないから。
ユーグルが今知らなくても、そのうち知ることになるだろう。
その時も、このままの関係で居られたらいいな。
ユーグルとのあの時間がなくなるのも、僕は本当に困るんだ。
僕が素で居られて、息ができるのはあの時間の中だけだから……
僕は当主になったら人殺しをすることになる。
そのことを知った時、母が壊れたことに納得したんだ。
きっと母は、そんな家だとは知らずに嫁いできたのだろう。
叔母が僕に関わらないのも頷ける。
だって怖いよね……いつ殺されるか分からないって思ったら………
僕は、成長とともに体も大きくなって走るのも速くなった。
同じ歳のバイゼルやユーグルと1年近く誕生日が違うから小さい頃は差が出ていたみたいだ。
今では、バイゼルより速く走れる。
暗闇に紛れることや効率のいい殺し方や、証拠隠滅の方法……そんなことを学園に入る前には学んでいた。
そして、僕は目立たないために全てのことに可もなく不可もないように立ち回るよう言われてるんだ。
それが、この国を陰で支えるレ家本家当主の役割になるのだと言われた。
ザダル様と初めて会った時、バイセルがザダル様を利用しようとしてることなんて、すぐに分かったよ。
それでいいと思った。
バイゼルが、レ家本家当主じゃなく、政治の中枢に行けるのなら、その方が良いと思ったんだ。
そしたらさ、ザダル様はバイゼルと同じような匂いがして。温かい匂いがしたんだ。
驚くことに、ザダル様の可愛い弟君達の方が、僕と同じ匂いがしたんだ。面白いね………
ザダル様は無表情で、話すまでは周りの大人達と同じで偉そうだったり、人を使うことや人の犠牲になることが当たり前に思ってる人なのかも?って思ってたんだ。
心がない人なのかも?って。
だから、近づかないようにしてた。
けど、違ってた。
バイゼルのように優しい人だった。
心から弟達を可愛いと思ってる良いお兄ちゃんだった。本物のお兄ちゃんを見せてもらったって思ったんだ。
だから、興味が湧いたんだ。そしたら徐々に好きになっていったよ。
そして、バイゼルがザダル様と一緒に居ることを心から願った。
優しいふたりが作るこの国ならば、僕達のような存在さえ意義があると思えたんだ。
バイゼルとザダル様が居る世界なら、暗い世界に居る僕達も少しは明るい世界に居られるかもしれないって思ったんだ。
バイゼルのために、ザダル様を知ろうとはじめは思ったのに、ザダル様を知れば知るほど、好きになっていった。
心優しいザダル様………この国のために矢面に立たされるお人。
何かあれば、ザダル様が非難の対象となる。
はじめは、こんな優しい人で大丈夫?って思ったんだ。
けど、限られた自由の中でザダル様なりに一生懸命足掻いていることが分かった。
ずっと家から出ることもできずに、外で遊んだこともない。
常に周りには大人が居て見張られてる。
護られてるって言ったら聞こえはいいけど、僕には見張られてると見えてしまう。
その中に居ても、自分を失わない強さがあった。
弟達との時間を取り戻すんだ!ってちょっと悪そうな雰囲気を出して言うザダル様が可愛く思えた。
してもらった事を、当たり前とせずに「ありがとう」と言えるザダル様に心底驚いた。
どんな教育をしたら、こんな素直な人に育つんだ?って同級生ながらに思ったよ。
きっとザダル様のおじい様とおばあ様のおかげなんだと分かった。
それに、執事さんや顔が怖いけど目が優しい護衛の人………そして可愛いけど、ちょっと僕と同じ匂いがする弟君達………ザダル様の周りには、きっとザダル様を思っている人達がいるんだね。
ザダル様は、放っておけないって思わせる何かがあるように思う。
それにアテられたのは、僕も同じ。
ザダル様の無表情のことで、悪口を言うヤツらは本当に見る目がないね。
ってか、そこまで親しくないから悪口が言えるんだろう。ザダル様を知ったら悪口なんて言えなくなるよ?
けど、やっぱり聞くとムカムカするし気持ちいいものじゃない。
ある時、珍しくユーグルが話しかけてきたんだ。
「ザダル様がとうとうご自身の悪口を聞いちゃった」って……
「それで、涙を流していらした。その涙が本当に美しくて………はぁ。 あの美しさをターフィーにも見せたかったよ。」
まぁ、後半はいつものことだから流すとして、涙を流したなんて許せないよね。
どいつだ? 僕、忘れないからね!覚えておいてね?
あの時、ザダル様を慰めたかった。
けど、いつも注目されてるザダル様………僕なんかに慰められてる所なんて見られたら迷惑になる。
人目のつかないところを考えた挙句に、ザダル様専用コンポットで待ち伏せすることを思いついた。
嫌がられるかも?と思ったけど、そんなことなくて良かった。
ザダル様の顔は無表情だけど、その瞳には悲しみが宿っていて………見てすぐに僕も悲しくなってしまった。
僕らしくないと自分でも思ったよ。
ザダル様の手を握るなんて………でもね、本当に元気になってほしかったんだ。
これからザダル様は、もっと大変なことを成し遂げないといけない立場になる。
負けてほしくない。いつまでも今のように輝いてほしい。
僕は、好きだよ。真っ直ぐに生きようと足掻くザダル様が………だから、どうか………
そんな思いだった。
あれ?
マーサ達と関わるようになって、ザダル様の雰囲気が変わった。
よく笑うようになったのは良かったけど………
女学生達に囲まれてるザダル様の微笑みって、笑ってないよね?
はじめてザダル様が怖いって感じたよ………あれー??
けど、怖さも携わったザダル様も素敵だから、まぁいっか。
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