第十四話 ザダル・ラ・ニハク(成長期XI)
【これまでのあらすじ】
宇宙船が旅立ち約500年が経った頃、ダフィタス人が住める環境にある星を見つけた。
星が見つかった!との報告で国民が歓喜に湧いている頃、各国の代表者と室内に置かれたリアルタイムで話すことが出来るスクリーンを通して首脳会議が行われた。
ニハク国の代表者はザダル・ラ・ニハクという人物。
幼少期から青年期、ザダルという人物を形成するのは何か?
閑話 リーリア(前世の記憶と現実と)
自宅に帰るとお母様が焦った顔で早足で近寄ってくる。
心配をかけてしまったわ……
「遅くなり申し訳ございません。」
と謝ったのだけど、お母様の焦りは
「リーリア、ル家のマルサ様がいらっしゃってるの。あなたに謝りたいと……何があったの?」
とまったく違った焦りでしたわ。
あー、確かに泣いてしまいましたわね。
けど、私……今、それどころではありませんのよね。
どうしましょう。
「とりあえず、マルサ様をお待たせするのは良くないわね。早く応接室へ行きなさい。」
と、お母様に急かされ、考えが纏まらないうちに、マルサ様との面会をすることになったのです。
私の顔を見るなり
「リーリア嬢、私の顔が怖かったのでしょう。申し訳なかった。」
とマルサ様は頭を下げ謝罪をされた。
「はっ?」
と、思わず声が出てしまい、慌てて口に手を当てたが言ってしまったものは返らないのだ。
「ん?」
と、マルサ様は頭を上げ、私の顔を見て首を傾げる。
「マルサ様のお顔を怖いと思ったことはございません。」
「えっ?そうなのか?」
「はい………むしろ、マルサ様の瞳は雄弁で見ていると面白いと言いますか……楽しいと言いますか……」
「……………………はい?」
「あっ、あの……本当に怖いとかではありませんので、謝罪して頂くこともないのです。なのに、わざわざ足を運んで頂きまして、こちらこそ申し訳なく思います。」
「では、何故、涙を流されたのでしょうか?」
「そっそれは………言わないといけませんか?」
「私もザダル様の護衛として今後のこともありますので……できれば教えて頂きたいと思うのですが。」
「そうですよね………ちなみに、ザダル様はこのことはご存知ですか?」
「いえ、知りません。」
「そうですか。では、きちんとお話できるまで数日頂けませんか?」
「分かりました。しかし、ザダル様の護衛の任が終わってからになりますので、夜分にお伺いすることになりますが大丈夫ですか?」
「はい。私から母に伝えます。母から父に伝えてもらいますので、大丈夫です。」
「それでは、3日後にまた来ます。」
とマルサ様はおっしゃられて帰って行かれました。
玄関までマルサ様をお見送りした後、私はお母様に3日後にマルサ様が再度訪問なさることを告げ、詳細は明日話すと約束し、なんとか自室へと無事帰還することができたのだった。
その日、自室へと戻った私は、自分の中にある前世の記憶を再度見直そうと思っていたのだったが……マルサ様の突然の訪問により、自分のこの気持ちを当の本人に話さなくてはならなくなった事で、羞恥やら困惑やらでパニックとなったのだった。
『ねぇ、教えて!あなた、子育てもして人生経験豊富でしょ。こんな時、どうしたらいいの? ねぇったら、ねぇ!答えてよー!! 』
と、心の中で叫び、前世の彼女を呼び出そうとするけれど、いっこうに出てきてくれない。
何度となく呼んでみるのだが、出てくる気配がない。
『もうっ!役たたずーーー!!!』と心の中で叫びながら、疲れ果てて眠りに落ちてしまったのだった。
~SIDE マルサ~
ザダル様の許嫁、リーリア嬢。
ユ家のひとり娘であらせられる。
宇宙船にてダフィタス星を飛び立ってから、実は出生率が下がっている。
ストレスなのか?体の変化なのか?子どもが出来にくくなっており、様々な政策により婚姻数は横這いか年によっては増加の時もある。
それなのに、出生率が減少しているのだ。
子どもの数まで規制するのは、さらに減少させると首脳や官僚達の考えにより、中枢で働く者のみ子どもを多く産むようにと周知されている。
それで夫婦仲が良くなるのであればいいのだが、妻以外の者に産ませるアホも出てくる始末に、首脳は苦笑していたとライドから「あくまでも噂ですからね!」と何気に念を押されたが、きっとどっかの誰かさんの事実なのだろう。どうでもいいけど。
そのユ家は、中枢で働く者のひとりである。
その子どもはひとり。
何が言いたいかというと、その落とし前じゃないけど、今回の許婚の件であるのだ。
たまたまザダル様と同じ歳ということもあるし、上位の『リ家』『ル家』は除外。仕事内容的に、首脳の伴侶は難しいし、血が濃すぎるのだ。
『レ家』『ロ家』にはザダル様と歳の離れた令嬢しかおらず、分家は?と話も上がったが、それならば、『ヤ家』『ユ家』『ヨ家』の本家ではどうか?という話になった時、『ユ家』がひとりしか子どもが出来ず、しかもザダル様と同じ歳だということで話がまとまったと聞いた。
『ユ家』の当主は、これでユ家が滅んでしまうではないか!と猛反対したそうだが、お子が複数人産まれれば、ユ家の跡取りとして育てれば良いとの首脳の言葉で承諾したらしい。
俺はそのことを聞いた時、娘の気持ちより『家』なんだな〜って、ぼやっとだが思ったんだよな。
確かに、この宇宙船が壊れてもダフィタス人は絶滅する。
そして、ここまま出生率が下がって子どもが産まれない状況が続いたら、いつかダフィタス人は絶滅する。
だからと言って、国民に義務として出生率を上げるなど愚策も愚策だと思う。
色々な意味で、そんなことさえ犠牲にしてでもダフィタス人を……この宇宙船を守ろうとしている中枢に居る者達の精神力には脱帽する。
だからユ家当主の娘の気持ちより家を守ろうとする考えに、同意は出来ないが嫌悪もなかった。
自分もその中のひとりではあるが、こんな子どものうちから許婚を決められているザダル様やリーリア嬢には、なんと言ったらいいのかと思う。
許婚が決まったのは、ザダル様が3歳の時だった。
まだ可愛い盛りのザダル様。
将来の伴侶を周りの大人が勝手に決めている。
そんなこととは知らずに、ライドに「あちょぼ」とねだっていた。
きっとリーリア嬢もそんな可愛い女の子だったと思う。
ザダル様が6歳の時、休日にライドに使いを頼まれたことがあった。
たまたまユ家の近くだったから、将来のザダル様の伴侶を見ておこうとそっとユ家を偵察したのだった。
その時は、リーリア嬢と思われる女の子が、庭の木に登り飛び降りるのを繰り返していた。
スカートさえ履いていなかった。
顔には土をつけ……いや、顔だけじゃないな。全身に土をつけ、庭を走り回り、木に登り飛び降りる。
全身を使って目いっぱい楽しんでいる健康優良児。
それがリーリア嬢への第一印象だった。
俺は嫌いじゃない。むしろ好印象だった。
だけどライドに話すと「……………そうですか………」と黙り込んでしまった。
それからザビル様やザリル様がお生まれになって忙しい日々と共に、リーリア嬢のことは頭の片隅に追いやってしまっていた。
もうすぐ学園に入学するという話になって思い出したくらいだったのだ。
その時にライドから「リーリア様のご様子を見てきてください。リーリア様は、ザダル様が許婚であると知っています。安易にザダル様に近づく様なご令嬢ならば排除してもらって構いません。」とお願いでも指示ではなく、あれは本気の命令だと感じた。
あの全身を使って目いっぱい楽しんでるリーリア嬢がどんなご令嬢に成長なさっているのか?と俺は密かに楽しみだった。
しかし、浅考でザダル様に近づくような令嬢だったなら、俺も心を鬼にすることは決まっている。
そう思い入学の日を迎えたのだが、リーリア嬢の姿がないのではないか?と思うほど雰囲気が変わっていた。
いや、本当に居ないんじゃないか?って実際探したのだ。ちょっとキョロキョロしたぞ。バレてないと思うけど。
少し俯きがちに大人しく歩く姿は、あの日に見たリーリア嬢の面影がまったくと言って良いほどなかった。
所作もマナーも洗練されており、髪も手入れが行き届いており顔の作りはあの日見たご令嬢が少し大きくなったと思わせるものだ。
パッと見たら、儚げで大人しいご令嬢だろう。
だけど、俯きがちで自信のなさが伺えるのが何とも暗さを醸し出していた。
あの日の輝く満面の笑顔と、楽しそうに走るキラキラした瞳は何処に行ったのか?
上を向く土を着けた顔は何処に行った?と、残念に思った。
リーリア様はザダル様に近づくことも、話しかけることもせず、毎日を大人しく本を読んだりして過ごされている。
ライドにそう報告したら
「そうですか。それは良かった。」
と、安心したようだった。それからリーリア嬢をザダル様の伴侶として受け入れ出したのはどういうことだ?と思ったが、俺の中ではリーリア嬢への興味はなくなってしまっていたのだった。
数年が経ち、ザダル様が14歳の時リーリア様と同じクラスになった。
その頃のザダル様は、男子学生との交友に積極的になっていたのは良いのだが、無表情からくる誤解や誹謗中傷に悩んでいるようで、情緒不安定になることが多くなっていた。
それでも周りのクラスメイトは、ザダル様の無表情によって気づくこともない。
仲良くなった者だけが、ザダル様を心配して声をかけてくれたりしていた。
俺も落ち込んでいるザダル様に声をかけてあげたいと何度思ったことか……自分の立場では、それは違うのだ。自分の感情を抑え壁に徹する。
そんな時、リーリア嬢の視線に気づいたのだ。
ザダル様を見て、自分を見て悲しそうな顔をした。
リーリア嬢も気づいているのか?と思った。
それからは、視線を合わせないように観察した。
ザダル様が本当に楽しんでいる時は、リーリア嬢も嬉しそうだった。
たまに、ザダル様ではなく俺を見てるような気もするが、わざと視線を合わせないようにしているため、確信はない。
ともかく、将来伴侶となるお方がザダル様の気持ちを汲み取っていると分かった時の喜びは、何物にも変えられないものだった。
俺の中で、リーリア嬢からリーリア様に変わった瞬間だった。
そして、そのことをライドに報告した。
ライドから衝撃の事実を聞いたのが、その日の事だった。
それは、
「マルサ、絶対に表には出してはいけない話です。守れますか?」
から始まった。
ザダル様の母上であられる首脳夫人は、首脳が仕事漬けの日々に耐えきれず、仕事だと子ども達に言って遊び歩いているというのだ。
夫人は、学園時代に目立つ存在で同級生だけではなく、上の学年や下の学年にまで交流があり……中枢から離れた場所で噂にならない(しない)者だけを集めて日々遊んでいる。
首脳はもちろん知っている。
「噂を流させない配慮をしているなら放っておけ。
構ってやれない私が、あいつの遊びを止めるなど出来るはずもない。」とのことらしい。
ただ、救いは、豪遊してるだけで異性関係はないのが救いだということだった。
だから学園で目立つような性格の女性は、ザダル様達が寂しい思いをした母上と同じような方を伴侶と迎えるのか?とライドは拒否反応が出たというのだ。
目立つことが好きな方は、やはり周囲からチヤホヤされないと満足できないのではないか?というのがライドの見解だった。
それを聞くと確かにと思うが、リーリア様は目立つというのではなく、おひとりでも楽しむことを知っているお方なのだ。
大人しく本を読んで過ごしてると言う俺の報告で、安堵した顔のライドを思い出しながら、俺は、
「リーリア様なら大丈夫だと思うぞ。ザダル様の無表情を見破ったお方だからな!だからと言って、ザダル様に擦り寄ってくるようなお方でもない。安心しろ!」
と言ったのだ。
するとライドが
「マルサがそこまで言うのですね。やっと心から安心しました。」
と言うではないか。
その信頼の大きさに俺は、やっぱりコイツには敵わねーなって思うのだった。
それから日々が過ぎ、ザダル様が無表情から脱するという衝撃的な変化を遂げた。
キッカケは『ヤ家』のマーサだ。
ふざけた奴だが、何かと憎めない男だ。
周りのことを良く見ている。
マーサと言えば、約1年前も俺の心を揺らした男だ。
その頃のリーリア様は、落ち込んでいることが多かった。
そんな中でも、特に落ち込んでいる日だった。リーリア様に、何かマーサが話しかけたのだ。
リーリア様はザダル様の将来の伴侶となるお方だ!リーリア様が、落ち込んでいる時に話しかけるんじゃない!!と心の中で威嚇してみるものの、そんなモノは通じるはずもなく………マーサと楽しげに話すリーリア様の表情を見ていると、何とも言えない気持ちになった。
このままだと、リーリア嬢の心がマーサに向かうんじゃないか?と急に不安になった。
そんなことは止めてくれ!と、今にも走り出したい気持ちを必死に抑えた。
リーリア様とマーサとの会話が終わった。
何だかリーリア様の雰囲気がずっと昔に見かけたあの頃に戻った気がした。
俺が見かけた土を全身に着けて走り回ってるリーリア嬢………木から飛び降りるリーリア嬢………その姿が目の前に浮かんだのだ。
けど、リーリア様なのだ。もうリーリア嬢ではない。と思った瞬間にマルサの中のリーリア嬢は消えた。
それがものすごく悲しくて………なんだか寂しくて………本当は泣きたかった。
だから、少し下を向いたままになった。
リーリアが、そんなマルサの瞳をジッと見ているとは思いもしなかったのだ。
それからというと、リーリア様の雰囲気が少し変わったのだ。
行動は変わっていない。
いや、変わったな………
ザダル様を見て、俺を見る……そんなルーティンが行われるようになったのだ。
なにがどうした?と首を傾げそうになるが耐える。
そして、マーサのグループにザダル様が入るようになると、ザダル様も変わったのだ。
あのマーサという男は何者なのだ?と警戒を強める。
しかし、ザダル様が楽しそうなのだ。
そして、笑った。
それも昔のように自然な笑顔だった。
男子学生ばかりのグループ内での出来事だった。
女学生は居ない。
『あー、良かったー! こんなザダル様を見られたら、変なのが寄ってくるじゃねーか!!』
と内心で安堵したが、数日後にはそれが現実となるのだった。
女学生の前でのザダル様の笑顔は、男子学生達といる自然な笑顔ではなく、微笑むという必殺技だった。
初めて見た時は、驚いた。そして、
『なんでこーなった!!!』と戸惑って、ライドにどう説明するんだー!って困った。
その時、リーリア様も同じように驚いていたのは間違いない。
二度見してたからな。うん。
それからというもの、ザダル様の周りには女学生達が蔓延り………甘ったるい声で「ザダルさまぁ。」と媚びを売る。
モテるのは仕方ない。
だけどさーなどとグダグダ思考を巡らせていると、ふと視線を感じた。視線とは少しずらして観察する。
リーリア様だった。
リーリア様の目が「うわぁー」って引いてる。ドン引きしてる。ヤバいです!ザダル様。
『あー、もうなんでこーなった!!』
女学生がザダル様に気軽に話しかけるようになってからも、リーリア様はザダル様に話しかけることはなさらなかった。
リーリア様の知らないところで(ライド)リーリア様の評価は爆上がりしてる。
でも、俺もライドと同じ気持ちだ。
けど、なんだかリーリア様は、何かを悩んで居るんだよな………それは、何かは分からない。
だからこそ、リーリア様のことが気になった。
ある日、マーサ達のグループとふざけ合ってるザダル様のところに女学生達が押し寄せたことがあったが、あまりのふざけように、女学生達がドン引きしてて笑えた。
けど、リーリア様だけは微笑ましい目でザダル様を見て、周りの反応に首を傾げていらしたのだ。
そんなリーリア様に俺は、やっぱりこの人だ!って思ったんだ。だから油断した。
リーリア様と目が合ってしまった。
俺と目が合うと、リーリア様はそそくさと何処かに行ってしまったのだ。
こんなイカつい奴と目が合ったら嫌だよなーって、ちょっと……いや、かなりショックだった。
ある日、ザダル様はとあるクラスの前で立ち止まった。
そこにはマーサが居て、俺に外で待機と指示を出した。
クラスの扉の前で待機していると、リーリア様が通りかかった。
本当は何かに悩んでるリーリア様を元気づけたかった。けど、俺には気の利いた言葉なんて思いつくわけもなく……
「ザダル様をよろしくお願いいたします。」
なんて言ってしまったんだよな。
そしたら、「どうしてそんなことを言うのですか?」って泣きそうな顔で言うんだ。
イカつい俺に話しかけられて怖がらせた?と思ったんだけど、どうしてそんなことを言うのか?って聞かれても、どう答えていいのか分からない。
俺は、ザダル様の伴侶はリーリア様だ!って思ったんだ。だから……
そのまま言った方がいいのか?
でも、クラスの中にはザダル様がいらっしゃる。
万が一にも聞かれたらまずい。
こんなこと言うんじゃなかった!という後悔も押し寄せてきた。
すると、リーリア様のライトブラウンの瞳から大粒の涙が溢れてきた。
何も言えない俺を置いて、リーリア様は走り去ってしまった。
ザダル様を送り届け、ライドを捕まえ大まかに説明し、俺はどうしたらいい?って相談した。
こーゆー時のライドである。
こーゆー時にしか使い道がないとも言う。
ライドからは「マルサの厳つい顔で怖がらせたのでは? そのどうしてそんな事を言うのか?って言葉は気になりますが、こんな所で話していても分かりません。とにかく謝罪して真意を聞くしかないでしょう。」とぶっきら棒に言われた。
適切なアドバイスだけど…………言い方!!
だから、こーゆー時にしか使い道がないとも言う。と言ってやるんだ。ふんっ!
ライドに外出する旨を伝えてユ家に向かう。
リーリア様は、まだご帰宅されていなかった。
大粒の涙を思い出す。
『俺、嫌われてるのかなー? そんなに怖いかなー?』
なんて、へこみながら待っていると、リーリア様がご帰宅された。
謝罪すると俺の顔が怖いなんて思っていないと言うではないか。
しかし
「はい………むしろ、マルサ様の瞳は雄弁で見ていると面白いと言いますか……楽しいと言いますか……」
ねぇ、それってどーゆーこと?
読んでくださりありがとうございます。
面白いと思ってもらえましたら星をつけて頂けると嬉しいです。
感想やコメントも頂けると励みになります。




