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第十三話 ザダル・ラ・ニハク(成長期X)

【これまでのあらすじ】

宇宙船が旅立ち約500年が経った頃、ダフィタス人が住める環境にある星を見つけた。

星が見つかった!との報告で国民が歓喜に湧いている頃、各国の代表者と室内に置かれたリアルタイムで話すことが出来るスクリーンを通して首脳会議が行われた。

ニハク国の代表者はザダル・ラ・ニハクという人物。

幼少期から青年期、ザダルという人物を形成するのは何か?

閑話 リーリア(許嫁ってなんだろな?②)


ザダル様の護衛であらせられる マルサ・ル・ニハク様。

実は、女学生から人気があったのです。

いつもは、ザダル様の護衛というお立場で存在感を消していらっしゃいますが、よく見てみるとお顔立ちも良く…………何より、引き締まった体に鍛え上げた筋肉。

男性の逞しい腕など、まだ女学生の年頃の私達には刺激が強く。

皆様、口には出さずいらっしゃいましたが、とうとう誰かが言葉に出してしまったようで。

一旦出てしまった言葉は、なかったことになりません。

『その逞しい腕でギュッと抱きしめてもらいたい』

という乙女の言葉は、秘め事のように………しかし、確実に女学生の間を駆け巡りました。

「もう同級生の男などお子ちゃまに見えて、恋愛感情など湧きませんわ!」

誰とは申しませんが、そう頬を赤らめて拳を握り言い切ったとあるご令嬢もいらっしゃいます。


ザダル様の無表情な鉄壁バリアにて女学生達は近づけず………でも、マルサ様なら………

そんな思惑もあり、いかにマルサ様に近づけるか?というテーマを真剣に話し合うグループがあちらこちらに。

私ことリーリアは、ひとり読書を嗜むと思われておりますが、幼少の頃にはお転婆でして………本を嗜む素振りをしておりますが、皆様の噂話はちゃんと聞いておりますのよ。

私のことなど、誰も気に留めないようですけどね。

この数年で、実は様々なことを知ることができました。

何処の家の誰それは、何処の家の誰それと仲良くしているだとか、どういった趣味があるだとか。

今後の役には立つか分かりませんけども、目の前のミユリ達【ザダル様親衛隊】の話を聞くよりは、私の心がギュッとなりません。

なので、クラスメイト達の噂話を聞き続け、知らぬ間に情報通となってしまっただけですの。

誰に話すわけでもありませんけどね。


おっと、話がそれました。


そんな陰では人気のマルサ様ですが、その瞳が悲しそうなのです。

あの日に気づいてからというもの、気になって仕方ありません。

ザダル様の無表情が男子学生達に評判が良くないことは知っています。そのことで悩まれているのでしょうか?

マルサ様は、ザダル様を見る時に本当に優しい目をしていらっしゃいます。

まるで、バーサ様が弟のマーサを見るような……そんな優しい目を。

ザダル様は、なるべくマルサ様を見るようなことは致しませんが、それでも私は見たことがあるんですの。

ザダル様がマルサ様に話しかける時は、無表情の中でも強ばったお顔が一瞬安堵したようなお顔になるのです。

信頼というのでしょうか? いつも傍で護ってくれているマルサ様を見るザダル様の瞳も優しくて………

『偉そうにしてない』と思ったのです。

言葉数は少なくても、命令ではなくお願いとして話しかけるザダル様。

無表情だけど決して冷たいお方ではないのだと、その時思いましたの。

それからというもの、私の中で『ザダル様とマルサ様』というペアが気になり出しました。

そう、その2人の関係性が愛おしく思うのです。

そして、気になりだして見れば見るほど、マルサ様の瞳は雄弁で……

驚いたり困ってたり、喜んでたりと段々分かるようになってきましたの。

そうすると、見てるのも楽しくって……ついついマルサ様を見すぎていたようです。

ある日、ミユリから

「なーんだ。リーリアはマルサ様が好きなのね。応援するね!」

と言われてしまったのです。

「えっ………ちっ違うから」

と否定しても

「いいの、いいの。分かってるから!」

と言って本気にしてくれません。

そして、その時分かったのです。

私はザダル様の許嫁であり、いづれ婚姻することが決まっている。

幼なじみで友人であるミユリが、どこまで本気でザダル様のことを思っているのか分かりません。

けど、本当に好きだったのなら………

だから、ミユリがザダル様の話をする度に心がギュッとしたのだと。

私には、まだ誰かを好きと思ったことがありません。

私に話しかけてくれる男子学生はいませんし、幼なじみのマーサは、小さい頃に遊んだ幼なじみって感じでお互い恋愛対象ではないでしょう。

だって木登りとバーサ様のお話しかしてませんもの。

ザダル様のお顔や立ち姿など、キレイだとは思うけどキレイ過ぎて別世界って感じだし。

初めは、無表情なザダル様が怖かったし。

けど、ザダル様は本当は優しい人かもってやっと思えるようになって………それは、マルサ様とのやり取りを見ててだし。

そしたらマルサ様の瞳の雄弁さがとても面白くって……それって好きってこととは違う気がするのよね。

でもね、少し思うの。

マルサ様みたいな人がお相手だったら良かったな。って………えっ?これって好きってことなのかしら?


それからというもの、私はマルサ様が気になって仕方ありません。

本当にこの気持ちは恋心というものなのでしょうか?

『誰か教えてーーー!!!』

と心の中で叫んでみても、誰かが答えてくれるわけもなく……時間だけが過ぎていきます。

そうこうしているうちに15歳になり、周囲ではお付き合いされる方もぽつぽつと現れるようになりました。

そして、ザダル様も変わられたのです。

男子学生の友人とよくお昼休憩の時に一緒にいらっしゃる姿を見かけるようになりました。

初めは無表情でしたが、それでもザダル様の瞳は楽しそうにしていらしたのです。

なんだか私も嬉しくなって、マルサ様を見るとマルサ様もなんだか嬉しそうに見守っていました。

その光景が微笑ましくって、穏やかな気持ちになるのです。

けど時が経つと、ザダル様の瞳は悲しみが増えていって………時には怒った目をしているザダル様も見られて、私はなんだか悲しくなったものです。

マルサ様も心配そうな目でザダル様を見つめていらっしゃいました。

そして、今度はザダル様が段々と微笑みの人となっていったのです。

もうあ然としましたわ。

マルサ様は無表情で気配を消していましたけれど、その瞳は雄弁です。

困惑し、驚き、戸惑い。

えぇ、よく分かりますわ。私もです。

【ザダル様親衛隊】の皆様は大喜びで、ここぞとばかりにザダル様の周りに侍こっていらっしゃいます。

その中にミユリが居るのを見ると私の心は、またギュッとなり………見ていられなくなるのです。

けど、ザダル様のあの微笑みはいったい何なのでしょう。

まったく笑ってないではないですか!!

キレイなお顔が台無しです。

私、あの微笑みを向けられたら殴ってますわ、確実に。

なのに、ザダル様親衛隊の皆様は頬を染められて……いったいどういうことでしょう?

まだマーサ達と居るザダル様の笑顔の方が自然で素敵だと思うのですが、ザダル様親衛隊の皆様にはふざけ過ぎててイヤと不評なのも分かりません。

首を傾げていると、視線を感じました。

マルサ様と目が合ってしまい、ビックリしてそそくさと逃げてしまいましたわ。


けど、あのおふたりを見つづけている私のこの気持ちは、恋心なのでしょうか?

ザダル様を見守るマルサ様のことを私は好きなのでしょうか?

なんだか違う気もしますけど、でも、あのおふたりが気になるのも事実。

思いきってお相手がいらっしゃる方々に『誰かを好きになるってどんな感じですの?』って聞いてみようかと思ったこともあります。

けど、いつもひとりで居る大人しい子という私のポジションが邪魔をします。

話しかけやすいミユリに聞けたならいいのですが、本気でザダル様を好きだと言われたなら………私はどうしたらいいのか分からなくて………ミユリには聞けないのです。

ほとほと疲れて、もう『好き』なんてどうでもいいと思ったある日。とあるクラスの前に、マルサ様が立っていらっしゃいました。

クラスの中にはザダル様がいらっしゃるのでしょう。

私が素早く通りすぎようとした時、マルサ様が

「ザダル様をよろしくお願いいたします。」

と仰られ……私を見て優しく微笑んだのです。

思わず私は、マルサ様を見て

「どうしてそんなことを言うのですか?」と言ってしまいました。

マルサ様はキョトンとした顔をなさった後、みるみるうちに困った顔をなさって。

私はマルサ様を困らせたかったのではないのです。

ただ、自分の気持ちが分からないのをずっと悩んでいるのに、もしかしたら、マルサ様を好きかもしれないのに……ザダル様をよろしくお願いいたします。なんて……私が許嫁であることなんて、マルサ様が知ってて当たり前なのに。

なんだか、それも悲しくって……気持ちがぐちゃぐちゃになって……マルサ様の前で涙を見せてしまいました。

その日は、ミユリが他の友人達と帰ることになっていて幸いでした。

化粧室で泣いた目を冷やし、お母様にバレないように化粧を直し、足早に学園を去りました。

けど、押さえつけたはずの悲しみが段々と湧き出てきて堪えきれなくなり、コンポットから途中下車をしました。

空は段々と赤に灰色と青が混ざった色になり、あと少ししたら深い紺色となり、紺と黒が混ざりあっていくのだろうと、コンポット停留所の近くの公園のベンチで空を見ながら溢れてくる涙をそのままにして、ただ座っていました。

その時です。

私の中から声が聞こえてきました。

「たくさん悩んでいいのよ。たくさん泣いていいの。」

と………

そして、ブワッと本当にブワッとこの世界じゃない記憶が私の中に流れ込んできたのです。

どれだけの時間が経ったのか分かりませんが、知らない世界の記憶が流れ込みきった後、私は分かってしまったのです。

それは、私の前世の記憶なのだと。

私は、その世界で生きて死んだ人の記憶が今、流れ込んできたのだと一瞬で理解しました。

私の前世の方は、家庭を持ち子宝に恵まれ子育てを頑張ってきた女性です。

母としての幸せがあるけれど、夫には恵まれなかった。ワンオペ育児という言葉は分かりませんが、その夫は、仕事ばかりで家庭を顧みず、その女性に家事も育児も全て任せっきりな夫だった。

きっと、そーゆーことがワンオペ育児と言うのでしょう。

そして挙句には他に女性を作り……すったもんだ果ての中年離婚。

女性ひとりで子育てをし、家庭を守ってきた妻にする酷い仕打ちに、私の前世の女性の夫だとしても腹が立ちました。

そして、ふと気づきました。

我が家『ユ家』と変わらないではないか!!!と。

お父様は、仕事が忙しく家のことは全てお母様任せなのです。

私は、7歳の時に話があるとお父様の執務室に呼び出されたあの日から、そういや会っていません。

他に女性が居るのかは分かりませんが、もしお父様がそんなことしていたらと思うと……絶対容赦は致しません。お母様が許したとしても私が許しません。

前世の彼女は、子ども達が成人し巣立った後、自分の生活をしていく為に働く日々。

唯一の楽しみは、アイドルと呼ばれる男性グループの推し活。アイドルという言葉も推し活という言葉も分からないけど、歌ったり踊ったりと、確かに見どころがあって素敵だと思うわ。夢中になるのも分かりますわ。

ある日、通勤中の車と呼ばれる乗り物を運転している途中に事故で亡くなったのだと分かりました。

ご自分で車という乗り物を操れること自体が凄いと思いましたが、日々の生活でも、たくさんの料理を作っている姿も驚きました。

この世界では、サプリメントで日々の食事は済ますことができるし、お掃除も掃除ロボットのハウスクリーナーのボタンを押すだけでキレイになるし……そういえば、当家には家政婦が居るけれど、いったい何をしているのかしら?

それよりも、あのキラキラ輝くようなお菓子達はいったい何? どんな味がするのかしら? 色々興味が湧いてきて、自分の中に存在する知らない世界にワクワクし出した時

「もう遅いわ。早く帰りなさい。」と優しい声で嗜められました。

自分の中にある前世の記憶の戸惑いと興味とでプチパニックを起こしそうでしたが、確かに夜になってしまったと、私は急いで帰宅しました。

帰宅後に、マルサ様が待っているなど誰が想像できるというのでしょう。



読んでくださりありがとうございます。


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