第十ニ話 ザダル・ラ・ニハク(成長期Ⅸ)
【これまでのあらすじ】
宇宙船が旅立ち約500年が経った頃、ダフィタス人が住める環境にある星を見つけた。
星が見つかった!との報告で国民が歓喜に湧いている頃、各国の代表者と室内に置かれたリアルタイムで話すことが出来るスクリーンを通して首脳会議が行われた。
ニハク国の代表者はザダル・ラ・ニハクという人物。
幼少期から青年期、ザダルという人物を形成するのは何か?
閑話 リーリア(許嫁ってなんだろな?)
私はリーリア・ユ・マハクと申します。
『ユ家』は、辛うじてニハク国の官僚や研究職の者達が通う学園に入学が可能な家ではありますが、一定の学力がなければ、落とされるという末端な家でもあります。
ですが、ユ家の本家の長女ということもあり、それなりのマナーと教育は幼い頃から施されてきました。
私が7歳の時のことです。家長の父から、とあることを聞かされました。私には許婚がおり、その方との婚姻が決められているとのことでした。
家同士と言いますか………国からの許可と言いますか………首脳や官僚達からの要請の元、許婚が決まっていると。
そしてその許婚は、まだ私が許嫁であることを知らないのだと。
だから、幼なじみ達に話したらダメ!家族だけの秘密だと言われました。
それを聞いた私は、正直申し上げますと
『なんじゃそりゃ』でしたわ。
許婚などと言われてもピンと来ないってものです。
許婚ってお友達と何が違うの?なんて思っていましたわ。
だからお母様に
「許婚ってなーに?」
って聞いたのです。
お母様は
「そのうち分かるわ。」
って…………… そのうちっていつ?
そのお話があった数日後には、家庭教師が来るようになり………様々なことを学ぶことに時間が割かれるようになりました。
それまでの私は、それはお転婆な女の子でした。庭の木でどこまで登れるか挑戦してみたり、木の上から飛び降りるのにどこまで高いところから飛べるかの挑戦してみたり。あら?いつも木に登っていますね。おほほ。
ともかく、怖いもの知らずだったのです。
違う言い方をするならば、内弁慶でしょうね。
当時は、そんなことさえ思いもしませんでしたけど。
家庭教師が来だして、マナーや勉学に護身術など様々なことを学んでいくうちに
『私ってダメな子なのかしら?』
と思うようになりました。
だって、
「リーリアさんの許婚であらせられるお方様は、とうの昔に覚えていらっしゃいますよ。」
って事ある度に言われるのですもの。
家族には
「リーリアは可愛いね。」「リーリアは賢いね。」
って褒めてもらってばかりの子どもが、いきなり誰かと比べられ、ダメだと言われる。
だんだん自信なんてものはなくなっていきました。
それでも、許婚という言葉の意味が分かった日のことは覚えております。
そして、その時の気持ちは忘れることができません。
いずれ首脳の妻になるのだと………この国を支え守る人を支える立場になるのだと分かった時………一番初めに感じた気持ちは嬉しさでした。
『私が国の役に立てる』
そう思ったのです。
私は、この国が好きです。
よく、おばあ様から、ダフィタス星の話を聞きました。
星が壊れていく前の豊かな星の話です。
おばあ様も、当時子どもだった頃におばあ様のお祖母様に話してもらった話だと言って、それはそれは懐かしそうに楽しそうに………けど、たまに寂しそうに………それでも目を瞑り思い出を話してくれるお顔はとっても優しいお顔でした。
私もいつか、そんな景色を見てみたいと思いました。
そして、その星に住むニハク国の国民は、とても穏やかな気質で、勉学にも熱心で、ありとあらゆる技術を駆使して星を守ろうとした国民なのだと教えて貰いました。
そんな国に生まれたことを誇りに思いなさいと頭を撫でられたことが鮮明に蘇ります。
将来この国を、そして私達が生まれ育っている宇宙船を守っていくお方を支えていけるなんて、なんて素晴らしいことだと胸が高鳴ったことを覚えております。
けど、すぐ後から
『こんな私が、そんな大変なことが出来るのかしら?』
『私なんかより、もっと適した方がいらっしゃるのでは?』
って思ってしまうのです。
あの時の胸の高鳴りを忘れることはありませんでしたが、どうしても、私がそんな大変なことをできるとは思えず、俯き下を見ることが多くなった頃には、幼なじみとの関係も変わり、私はいつも誰かの後ろをついて歩くようになっていました。
7歳までは、手を繋ぎ隣で一緒に走ったり、おやつを食べていたのですが、あの日から幼なじみが前を歩き、私が後ろからついて行くという関係性ができていました。
幼なじみは、『ヨ家』の本家令嬢のミユリ・ヨ・ユハクと申します。
ミユリとは、物心がついた頃にはお互いの家を行来するくらい、仲良く遊んでいました。
私はお転婆でしたし、ミユリも気が強いタチで……ライバルというか、お互いに負けず嫌いと言いますか……よく様々なことを張り合ったものです。木登りとか。
7歳から勉学などで忙しくなっても、休日には会っていました。
ただ、ミユリからの木登りのお誘いに、私が頷かないのがミユリは不満だったらしく、庭で大人しくお茶を飲んで会話を楽しむだけというと、時間を持て余すことが度々あり……会う頻度は少なくなっていきました。
私も本当は木登りしたい。ミユリと走り回って遊びたかったのです。
でも、毎日のように『何故できないのですか』と言われ『ダメですね』と言われ続けた私は、お母様にも自分の気持ちを言うことが怖くなっていました。
だから、ミユリと遊べる時も、マナー通りの受け答えしかできなかったのです。
気の強いミユリは、「何故リーリアがこんなつまらない子になったか知らないけど……仕方ないわね、私が守ってあげるわ。」と言ったのです。
それからミユリは、私の前を歩くようになりました。
私は、いつも張り合って笑いあっていたミユリも大好きですが、顔を上げることも出来なくなった私を守ると言ってくれた優しくて頼もしいミユリも大好きです。
そして、とうとう学園に入園する日が来ました。
私は、初めて自分の許婚のお顔を見るのです。
将来婚姻する相手のお顔も何も知らないなんて、どういうことでしょうか?
現首脳をスクリーンで見かける限りでは、整ったお顔をしていますが、とっても無愛想で威厳があると言えば良いのでしょうが、悪く言うならば偉そうです。
許婚も偉そうなお方だったらどうしましょう。と思っていると式が始まりました。
私の許婚であるザダル様は同じ歳とのことで、一緒に入園生として並んでいます。
が、なんと申したら良いのでしょう……整ったお顔に綺麗な立ち振る舞い。
まるで世界が違うと言いましょうか、近寄り難い雰囲気なのです。
後ろには体格の良い護衛を伴い堂々と歩く姿は、同じ歳とは思えません。
やはり親子というように、ザダル様も偉そうな方なのかしら………
『この方が私の許婚? 絶対ムリ。どう考えてもムリ!』
というのが、初めてザダル様を見た私の感想です。
ミユリや他の女学生達は、整ったお顔のザダル様を演劇の役者さんを目にするように頬を赤らめ、キラキラした目で見つめていらっしゃいましたが、私にはムリです。
格好良いとは思いますが、一緒に会話するとか怖すぎです。
あの無表情なお顔も怖い。
あーーーー、本当にどーしましょう。
許嫁って辞退すること出来ないのでしょうか?
そんなことしたら、我が家の立場が悪くなるとかあるのでしょうか?
この学園では、末端な我が家です。
私のせいでユ家に迷惑がかかるなんて、ダメよね。
本家だけではなく分家からも何を言われるかを考えると体が竦む。
と、入園して1年くらいは、そんなことをずっと悩んでおりました。
入園して3年ほど経った頃でしょうか?
怖いもの見たさと言いますか、自分が許嫁という立場であるというのもあって、どうしてもザダル様のことが気になってしまうのです。
ザダル様は、私の存在など知りはしないということも分かってはいるのですが、気になるものは気になります。
ミユリなどは、ザダル様のことを『今日のザダル様』と言って、ご友人達と何処で何をされていたなどと話し、その時のお顔が格好良いとか美しいとか………まるで役者さんのファンのようになってしまいました。
ミユリがザダル様のことを楽しそうに話す度、私の心はギュッと締めつけられるような感じがします。
どうして胸がギュッとなるのか、自分では分かりません。
でも、そのギュッとなることが辛くって、私はその会話には入らないようにしました。
その頃には、私はひとりで本を読んで過ごすことの方が多くなりましたので、まったく支障はなかったのですけどね。
学園では、ミユリが他の友人達と話す傍らで私はひとり本を読んで過ごす。ミユリが登下校の時は声をかけてくれ、ミユリの後ろを歩き、一緒のコンポットで帰るというのが日常になっていました。
気が強く元気なミユリは、クラスの中でも人気者です。私の自慢の幼なじみなのです。
いつ頃からか分かりませんが、目立つミユリの後ろに居る私のことなど気にも留めないのか、クラスメイトの女学生達も私の前を歩くことが当たり前のような態度をいたします。
ミユリは良いのです。私を守ると言って前を歩くミユリの背中を見るのは嬉しく思うからです。
だけど、他の女学生達は違うのです。
『家の位』とは別に『私』という個人を下に見ているように思うのです。現に私の前を歩くクラスメイトの中には、本家ではなく分家の方々もいらっしゃいますし。
分家の方々は本家があるからこそ、この学園に通えるのです。
それが、どうして下に見られないといけないのでしょうか?
家の方針で7歳より家庭教師から勉学を教わり、私の気持ちなど考慮されずに許嫁にされて、本家、分家も含めての『家』を守るため悩み続けております私を下に見る。それがとても腹が立つ。
けども、腹は立っても何も言えない自分が居ます。
そのことが一番腹が立つ。そして、そんな自分が嫌いに思うのです。
そう思えば思うほど、顔を上げられなくなる。
そして、益々自分が嫌いになる。
そんな頃、ヤ家のマーサが声をかけてきました。
「あれ?リーリア? 久しぶりだねぇ。…………元気そうじゃないねー。 木登ってなさそうだけど、どーしたのぉ?」
「久しぶりですわね。話すのなんて、何年ぶりでしょうね。って、木登ってなさそうって、いくつだと思ってますの?」
「あはは~、リーリアなら、おばあちゃんになっても登っててもおかしくないよぉ。うちにある木覚えてる? 初めて会った時に登ったでしょう? 特技見せてあげるって言ってさー。」
「あの木! ……覚えてる。懐かしいですわ。私が登ったあと、マーサも登ってきて、それを見た家政婦達が悲鳴を上げて…………ふふっ、散々怒られましたね。」
「そうそう。僕がリーリアを誘ったって初めは思われててねぇ、それがリーリアが登って僕を誘ったと分かった時の皆の顔ったら………ぶはっ。」
「あははっ。みんな目をまん丸くして固まってましたね………あははっ。」
「…………良かった。リーリアが笑った。」
「えっ。」
「リーリア。実は、前からリーリアに気づいてたんだぁ。けど、雰囲気が変わってしまってて、話しかけられなかったんだよ。ごめんね。」
「そうだったのですね。何も謝ることではないですよ。気にかけてくれて嬉しく思いますわ。ありがとう、マーサ。」
「うん。リーリアが昔と変わってないって分かって、僕も話せて良かったよ。 じゃぁまたねぇ。」
マーサとの会話は一瞬でした。
けど、昔を思い出せれたことで、本来のリーリアに戻れたような気がしたのです。
それが、私にとってどれほど大きなことだったか、マーサは知らないでしょう。
マーサは、マーサ・ヤ・ルハクといって『ヤ家』の次男だ。ご嫡男ではないが将来この国を支えていく者には変わりはありません。
マーサは幼い頃は、とっても甘えん坊で兄のバーサさんから離れないような子どもだったそうです。
物事の飲み込みも早く、運動神経も良い。
そんなマーサは、将来は有望だと言われているにも関わらず、兄の後ろばかり追う次男坊だったそうで……
それを何とかしたいというヤ家当主からの願いで、私がマーサの遊び相手として選ばれたと後で知りました。
当時の私は、そんなことはまったく知らず、ただ、お呼ばれしたお家の庭に、大きな登りがいのある木を見つけてテンション爆上がりでしたの。
早く遊びたくってソワソワしている私に、優しく微笑んで「もう少ししたら遊べるからね。もうちょっと我慢してね。」って頭を撫でてくれるマーサのお兄様のバーサさんに『こんなお兄ちゃんが居たらいいなぁ』って憧れのような思いを抱いたのを覚えています。
それからは、子ども達は遊んでおいでという大人達の言葉をキッカケに早速庭に出て、マーサを置き去りにして木に登り、満足とばかりに木の上から見る景色を堪能して、ふと下を見ると、目をまん丸くしたマーサが居たのです。
そんなマーサに「マーサもおいでー!気持ちいいよー!」って呼んだんだのよね。
マーサは木登りが初めてだったみたいで、なかなか登って来れなかったから、一旦下に降りてマーサのお尻を押しながら右手をあの窪みにかけると良いとかアドバイスして、なんとか二人で登りましたの。
苦労して登った木の上からの景色は、やっぱり最高で。
ふたりで「キレイだねー。」って景色を堪能して、バーサさんがお兄ちゃんって羨ましい!って言う私の言葉でマーサとの距離は一気に縮まりました。
マーサとは、バーサさんの話で盛り上がり、私の羨ましい!羨ましい!の連呼を満足気に聞くマーサのお尻をよく叩いたものですわ。
ほんと、懐かしい。
マーサとの子どもの頃の出来事を思い出し、ふと体から力が抜けた時、顔を上げることが出来たのです。
その視線の先には、クラスメイトに囲まれるザダル様がいらっしゃいました。
相変わらず無表情ですわね。と思ったのですが、後ろに控える護衛の方が気になったのです。
護衛の方は、授業の間はクラスの横にある待機室にいらして、登下校と休憩時間の時はザダル様の後ろで護衛されています。
初めは戸惑いましたけど、月日と共に皆様慣れてきて、護衛の方が居らしても普段と変わらず過ごすことができるようになりました。
その護衛の方の瞳がとっても悲しそうだったのです。
読んでくださりありがとうございます。
面白いと思ってもらえましたら星をつけて頂けると嬉しいです。
感想やコメントも頂けると励みになります。




