第十話 ザダル・ラ・ニハク(成長期 Ⅶ)
【これまでのあらすじ】
宇宙船が旅立ち約500年が経った頃、ダフィタス人が住める環境にある星を見つけた。
星が見つかった!との報告で国民が歓喜に湧いている頃、各国の代表者と室内に置かれたリアルタイムで話すことが出来るスクリーンを通して首脳会議が行われた。
ニハク国の代表者はザダル・ラ・ニハクという人物。
幼少期から青年期、ザダルという人物を形成するのは何か?
「ねぇザダル様、今度のお休みって空いてる? リコル様達と新しくできたカフェにでも行こうって話しているのだけど、一緒に行きません?」
「ちょっとミユリ様、抜けがけはダメよ。ザダル様、私達も次のお休みに演劇でもと思ってて、チケットがありますの。一緒にどうかしら?」
などと、クラスメイトの令嬢達からの熱烈なアピールに
「うーん。次の休みは予定が入っているんだ。祖父母が来る日なんだよ。ごめんね。」
と、優しい笑顔で応えるザダル。
「それは仕方ないわね。また誘いますわ。」
「残念だけど、仕方ないわね。ザダル様、空いてる休みはいつ?」
「学園が休みでも、何かと忙しくってね。誘ってくれて嬉しいよ。ありがとうね。」
ニコッとザダルが笑顔を見せれば、顔を赤くして嬉しそうに、ザダルに我先にと話しかける令嬢達。
そんな風景を遠くから見つめるひとりの令嬢が居た。
~SIDE マルサ~
ザダル様の学園生活も6年目に入り、今年で16歳を迎える。
昨年クラスメイトになった者の中に、ザダル様に影響を与える者が居た。
休み時間には常にクラスメイト達を笑わせ、和やかな雰囲気を作り出すムードメーカー。
自分が学園生だった頃にも、そーゆー奴が居たこともあったし、楽しい奴だなぁと思って微笑ましく見ていた。そいつとランチの時間を一緒にするようになってから、ザダル様が少しずつ変わっていったのだ。
令嬢達に囲まれるザダル様を見る。
『なんでこーなった!!!』
と頭を抱えそうになるが、そんな素振りは一切出さずに自分は壁だと気配を消し続ける。
ザダル様が女性にモテるのは必然だろう。顔も整っているし、背も高くなり、相変わらず学年首位をキープなされ今学年も学年代表だ。体術も学年上位だ。最近では、体格差が出てきて、細い体格のザダル様には不利な相手も出てきたが、それは仕方ないし、ザダル様は護られるお立場なのだから問題ない。
だけど……だけどさ……モテすぎだろう。
あの整ったお顔がニコッと笑った時に可愛くなる。
そりゃモテるよな。そーだよな。分かる。分かるよ。
だけどもさーーー
なんだろな。この違和感。
ザダル様は、ご令嬢達と問題を起こしたことはない。
ご令嬢達に対しても優しく対応しているが、一緒に出かけたことなどないし、お話されることは学園内……むしろクラス内だけだ。
ランチの時に男子のクラスメイト達と一緒に居るにも関わらず割り込んで来る猛者もたまには居るが、ザダル様より、他のクラスメイト達が相手になってくれて、そんな時は笑顔で聞いてるだけだ。
あの『ヤ家』のマーサがいい仕事するんだよなー。
何気にザダル様からご令嬢達を引き離してくれているんだ。自分から話に入っていって会話を盛り上げて自分に注目をするようにもっていってる。
初めは『ヤ家』のご子息じゃなかったら、突き飛ばして捕獲している所だったよ。あれは、ほんとビックリした!
けど、まぁ、今では感謝してるよ。うん。ご令嬢達からザダル様を護ってくれてるしな。
それよりも、問題がないことが問題なのだ。
ライドには報告しているが、問題がない為にザダル様に何も言えない。
『女性にモテ過ぎるのは止めてください』
だなんて、モテない俺のひがみの何物でもないように思われかねない。
そして、男の学友達の前ではバカ騒ぎに乗ってザダル様のふざけた様子を見た時には、マルサは自分の目を疑った。
徐々に男の学友達の前で、笑いを取るようになり………大口を開けて笑っている。
そんな風景を遠巻きに見ていた学友達も気軽にザダル様に話しかけるようになり
「ザダル様、面白い人だよな。」
「ザダル様といると楽しいよな。」
などと聞こえるようにもなった。
それは喜ばしいことだ。
そのキッカケを作ったのは、あのマーサなんだよなぁ。それを思うと感謝していいのか迷いが出てくるのが何とも言えない。
しかし、ここぞという時や学園長などと会う時は、笑顔だが決して心を読ませないザダル様。
無表情ではなく、心を読ませない笑顔を身につけたザダル様………最強なのだ。
だけど、何か違和感があるのだ。
ほんとこれ、どーしたらいいんだ?
なんかこの違和感が気にって仕方ないんだよな………
また頭を抱えそうになったが、護衛として壁に徹するマルクであった。
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約1年前、14歳になったザダルは新学年を迎えた。
最近、祖父の体調が芳しくなく、毎週のように訪れていたのが、月に2回となり………今では月に1回会えるかどうか?という状態だった。
月に1回の弟達とのお出かけは続けている。
お気に入りは、演劇鑑賞と音楽鑑賞だ。
貸切にしなくてはいけない遊園地は、今のところ行けていない。
貸切にするのに自分達だけというのも気が引ける。
バイデル達と一緒にと思っていたら、数年が経ってしまったという状態だった。
最近では、弟達も学園に通い出し学園で友人ができたようで、月に1回のお出かけ以外の休日は友人達と遊びに出かけたりして留守の時もある。
弟達に友人ができた事は嬉しく思うのだが、正直少し寂しいと思う。
だけど、何故かザダルはバイデル達以外の学友達と出かけようとは思わなかった。
弟達にも護衛がついている。自分が出かけなければマルサは弟達のどちらかに付くことできるというのもあったが、何より、ずっと笑顔を作り続けることが、こんなにも大変なことだと思わなかった。
ザダルは知っていたのだ。
無表情なことで陰口を言われていることや、関わりづらく思われていることを。
初めは、名前も覚えていない学友からの耳打ちだったと思う。
「ザダル様、知っていますか? 無表情なことで怖がられているんですよ。」
そんな言葉だったと思う。
それから、学友達とのランチを終えクラスに戻ろうと思ったのだが、食堂の片隅にユーグルが居たことを思い出し戻った時のことだった。
「ザダル様、相変わらずの無表情だったな。」
「誘ったのは俺らだけど、嫌なら来なきゃいいだろ?って思ってしまうよな。」
「あんな顔して居られると楽しいものも楽しくなくなっちゃうよね。」
つい先程まで一緒に楽しくランチの時間を過ごしていたと思っていた学友達の会話だった。
学友達と楽しくランチをして学園生活を満喫してると思っていたザダルにとってショックな出来事だった。
そのまま引き返したザダルを後ろから追いかけてきたユーグルが
「気にしなくていいよ、ザダル様。ザダル様は、そのままで充分尊いのです。」
と意味不明なことを言われたが
自分を気にして追いかけてくれたことが嬉しかった。
その時、不覚にも涙ぐんでしまったのだ。
弱さを見せてしまったことに家庭教師から言われた
「決して弱さを見せてはいけません。」
という言葉を久しぶりに思い出し、はっとした。
けど、そんなザダルにユーグルは
「大丈夫! 涙も素敵だから…………そのうち遊園地でもファンタジーライドでも行こう。またバイデルにもターフィーにも声かけとくよ。」
と言って背中をポンっと1回軽く叩いてニコッと笑ったのだ。
その笑顔は本物だった。とても素敵な笑顔だった。
ザダルは心からユーグルの笑顔が綺麗だと思った。
それから学友達の笑顔や言葉が本当なのか?を見極めようと意識しだした。
意識すると、嘘ばっかりだった。
醜く歪んだ笑顔に見えた。
次期首脳だから言い寄ってくる者ばかりだった。
ザダルと居て楽しくないけど何か得になればと無理して笑う笑顔。
その笑顔を見ていると発狂したくなるような感情が湧いて出そうになる。
そのうち、だんだん全ての笑顔が嘘に見えてくる。
気が狂いそうになった。
そんな時、ターフィーがザダル専用コンポットの前でザダルを待っていた。
ユーグルから聞いたと心配顔で話しかけてきてくれたのだ。
「大丈夫? 気にするなと言っても気になっちゃうよね。」
頷くザダルに
「僕……こんなやり方しか思いつかないから、失礼になったらごめんよ。」
と言って、ターフィーはザダルの両手を握った。
「ふふっ。ザダル様、手が冷たいね。」
と優しい笑顔のターフィー。
その優しく包み込むような笑顔に、凍えて固まりかけた体が陽だまりの暖かさにホッと息をつけるような、そんな感覚がした。
僕はこんなにも気を張っていたんだと思った。
そして、
「周りの人達は、本当のザダル様を知らないだけだよ。僕達もまだ全て知ってる訳じゃない。だけど、あの人達よりは知ってる。僕はザダル様が好きだと思ってる。だから、気にしないで。」
と優しい笑顔。
全てを包み込むような笑顔のターフィー。
体の強ばりがターフィーが包んでくれた両手からほぐれていって全身に血が通い出した気がした。
ほんと陽だまりの中に居るように心地いい。
ザダルを好きだと言ってくれた。
だから気にするなと伝えてくれるために、待っていてくれたターフィー。
それから数日後、バイデルが帰りがけに慌てたようにザダルのクラスに入ってきた。
「良かった。間に合った!」
と息を切らしたバイデル。
何事かと思ったが、バイデルは何も言わずにザダルの肩をポンポンと2回優しく叩いて出て行ってしまった。
あ然としたが、ふと気づいた。
まだクラスにはクラスメイトが残っている。
皆が聞き耳を立てている中、何も言えなかったのだろう。
けど、ザダルのことを気にかけ走ってきてくれたことが嬉しかった。
言葉はなかったけど、バイデルの思いは伝わった。
ポンポンと叩かれた肩が温かい。優しい温かさだ。
廊下に出てバイデルの背中を探した。
颯爽と歩くバイデルの背中が逞しく見えた。
自分を本当に気にかけてくれるバイデル達が居ると思えば、学友達からの陰口も耐えることができた。
無表情を貫く日々。
それでも、心が沈む日が多くなったり、嫌な気持ちに囚われることが長くなったりと、ザダルの心を不安定なものにした。
そんな日々を送っていたある日、初めて誘われたグループとランチをした。
いつものことだ。
僕は僕で有益な情報を貰えたらそれでいい。
そんな風に思っていた。
だが、そのグループは少し違った。
いや、1人だけ違う雰囲気の人が居たのだ。
その人の名前は、マーサ・ヤ・ルハクと言った。
『ヤ』がミドルにつくネームは『ラ』『リ』『ル』『レ』『ロ』の次に重要なポストについている家と言われている。
『ニハク』を名乗れるのは『ラ家』『リ家』『ル家』だけであり、その他の家は『ルハク』など様々になってくる。
自己紹介でそのグループの中では1番重要なポストにあるマーサなのだが、とにかく煩い。
常に場を盛り上げるように騒いでみたり、ふざけたことを言っては笑わせようとする。
そんなマーサに対して、ザダルは初めは驚きと同時に嫌悪を感じた。
(煩いなぁ。もっと静かに話すことできないのかなー?)
(どーして会話してるのに割り込んでくるんだろ?邪魔だなぁ。)
などと、心の中で呟きながらも顔には出さずに無表情で対応していた。
そんな集まりが数回になった頃、
「ザダルさまぁー、ほんとキレーな顔だよね。でもさー、ずーっと無表情だと顔の筋肉固まらない? 大丈夫? ちゃんと口開くぅ?」
と言いながら、クイッと顔を両手で挟まれ、マーサの方に向かされ、顔を両手で挟んだまま頬を優しくムニムニされた。
その時のマーサの瞳が何の悪気もなくって。
ほんとに顔の筋肉がかたまるんじゃないか?って考えてるだけのような顔で。
ムニムニとマッサージされてる頬が、なんだかこそばゆくて………驚きと同時に笑けてきて、思わずプっと笑ってしまったのだ。
すると、ザダルの顔を見て目をまん丸くしたマーサが、ふと優しい笑顔に変わり
「ザダルさまぁー、笑った顔可愛いね! そっちの方がいいよ。うん。」
と満足したように言って、颯爽と他の人の所に行ってしまった。
周囲に居た人達からも
「ザダル様、笑っていた方がいいですよ。」
「ザダル様、笑顔がいい感じです。」
と、なんだか雰囲気までもが優しくなって。
居心地の悪い場所だったはずなのに、一瞬で居心地のよい場所になった。
そのことをキッカケに、徐々にだが、そのグループでランチをする時は、ザダルも笑顔で話したりできるようになっていった。
ある日、空と言われてる宇宙船の天井が赤とオレンジの間を行ったり来たりしているような色合いになっている時、教室にひとりで佇むマーサをザダルは見た。
笑っていなかった。
初めて………そう、きっと初めてマーサの笑顔じゃない顔を見た。
空の色合いも相まって1枚の絵画のように見えた。
マーサは細身で高身長だ。
足も長く、かっこいい体型をしている。
そして何より整った顔をしていた。
そんなマーサに見惚れていると、ふとマーサがこっちを向いた。
すると、いつもの屈託のない笑顔で
「ザダルさまだぁ。どうしたの?」
と、コテンと顔を傾げて聞いてくる。
何とも言えず、固まっていると
「寂しくなっちゃった? 送って行こうか?」
なんて、ちょっといたずらっ子の様な顔をして言い出したマーサに
「なぁマーサ、教えてくれないか? どうしてマーサはいつも笑ってるんだ? みんなを笑わせているんだ?」
と思わず聞いた。
後ろに控えてるマルサに、教室の外で控えるように指示を出し、ザダルはマーサと向き合った。
マーサの気持ちが知りたいと思った。
あの絵画のような美しさにアテられたのかもしれない。
ユーグルの言っていたことが少し解った気がした。
「僕だって、ずっと笑ってる訳じゃないよー。でも、そーだなぁ。ザダル様は楽しくないのと楽しいのじゃ、どっちがいい?」
「楽しい方がいい。」
「そうだよね。俺もそう。………きっとみんなそう。けどさー、心の中がトゲトゲしてたり………ズーンってなってたりしてたら、楽しくないよね。でもさー、そーゆー楽しくないこともきっと必要なんだと思うんだよね。」
「嫌なことも悲しいことも必要ってこと?」
「上手く言えないけどさ。人と関わっていく上で、そーゆーことって多少の差はあれ、誰にでも起こってさ。そして、それでも生きていくんだと思うんだ。」
「うん。」
「俺、それでも、そーゆー時でも自分が楽しく居たいんだよ。俺のワガママね!」
「へっ?」
「ははっ。そう。ワガママなんだよ。自分が楽しく居たいから、落ち込んでる人には寄り添いたいし。嫌な気分な人には笑顔になってもらいたい。そうしたら、俺も幸せだし、楽しいだろ? だからだよ。」
「あの時、あんなことして僕を笑わかしたのは、僕がつまんなさそうにしてたから?」
「うーん。つまんなそうって言うより、心の中で悪口言ってなかった? そんな気持ちだと楽しくないよね?って、そんな感じ。」
言い当てられたザダルは何も言えなかった。
「ザダル様はさー、口に出さないから出す人より良いと思うよ。けど、思ってることって、雰囲気とかそーゆーのに出てるんだよね。それと、なんだか悲しそうだったのも感じたんだ。それでね、笑ってほしかった。人を笑したり楽しい気持ちにするには、自分が笑ってないとね! でも、それは俺のためだから!」
「…………そっか。」
「うん。誰も聞いてこないから、こんな話したのザダル様が初めてだよ。」
「そうなのか?」
「そうだよ。だから、うん…………聞いてくれて嬉しかった。ありがとうね!」
と照れた顔が今度は可愛くて…………
そして、素直に『ありがとう』と言ってもらえたことが嬉しくて………
「僕も! 僕も答えてくれてありがとう。」
と、自然と笑顔で言っていた。
優しく笑うマーサは、
「やっぱり、ザダル様は笑ってた方がいいよ。ザダル様の笑顔を見ると、なんだか分かんないけど安心する。じゃあね!」
と言って帰って行った。
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