page9:昼食
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私の現場CCはうまくいったりいかなかったり。結果、体感6割くらいで狙い通りになった。
力を使うと圏が発生する。それはつまり、相手がキャリアなら気付かれる可能性があるということだ。不意に濃いものを張ってしまうとマズい。
しかしながら、狙って薄ーく張るのは感覚的に大変難しい。そっちに意識がいくと、いつのまにか試合の展開が進んでいたり、相手の動きには対応が間に合わなかったりする。
耳を澄ました時に限って、音の取捨選択をミスってあの体育館履きの音が耳に突き刺さった時は死ぬかと思った。
でも結局、寶川さんに褒められる、ため息を吐かれるを繰り返してなんとか勝ち越したということだ。ならば1日目にしては悪くないだろう。
特に大きな動きを見せることなく、昼休みの時間になった。
さぁ、ここからが問題だ。
なんとか姉川さんか佐藤さんに近づかなければならない。しかし、このクラスの連中たちは絶対に私たちを捕まえにくる。
その前に、姉川さんと佐藤さんに合流せねばならない。
寶川さんと一緒に楠木さんのお弁当を持ち、姉川さんにかけよるが、姉川さんは佐藤さんとともに廊下の生徒と挨拶していた。
近寄ると、そこには再び香芝さんがいた。香芝さんは気づくと、お弁当袋を掲げる。
「あら、2人とも。これからご飯?」
「あ、うん。香芝さんたちも?」
私が姉川さんや佐藤さんを見つつ確認すると、それぞれ頷いた。
「うん。よかったら、一緒に食べる?私はカフェテリア行くけど」
「佳菜、今日は寝坊でご飯の用意ないらしくて…」
それは、昨日の出来事のせいではないか。そう思ったが、言わないでおいた。私は少し考えて、香芝さんを見る。
「私は嬉しいけど、香芝さんたち、部員だけで話したいこととかあるんじゃない?貴重な時間だし」
寶川さんがちらりとこちらを見る。
うん。確かに貴重な機会ではある。ただ、食べる場所さえわかっていればそんなに問題ない。あまりに接近しすぎても、ヒントとなる会話が出るかどうかは別だ。先ほどの雰囲気も引っかかるし。
しかし、意外にも香芝さんは首を振った。
「いいえ、問題ないわ。それよりも、2人のことを知りたいと思うの」
あ、そう。
香芝さんは、ただ強い人が好きなだけなのかもしれない。人とはわからないなと感じつつ、5人でカフェテリアを目指した。
カフェテリアは別館の1階にある食事スペースだ。いわゆる食堂をおしゃれに表現しているだけ、と姉川さんは言っていた。
「…あれ、なんか混んでない?えー…困るなぁ」
姉川さんが、少し賑わっているカフェテリアを見て小走りで近づいていく。
「普段は違うの?」
私が佐藤さんに聞くと、佐藤さんは頷いた。
「ここまで賑わってないですね。なんでしょう」
私と寶川さんも近づいて、その理由はすぐにわかった。
「ねぇ、ちょっとカッコよくない?」
「私はもっと濃い人が好きだけどなぁ」
「っていうか純粋に美味しそう」
「そんなことより隣の人が綺麗」
こういった声で思い出した。
「…楠木さんだ」
みんなの視線の先では、小さなキッチンスペースに収まる楠木さんがいた。隣では知らない女性が会計担当をしているようだ。
楠木さんはコップに向けて、やたらと高い位置から何かを注いでいる。
「寶川さん、何あれ」
ああいうのは紅茶でやるものではないのだろうか。昔の刑事ドラマでやっていたような。
小さい声で質問すると、寶川さんも声を小さくして自然に答えた。
「カフェオレを作っています。ミルクを高い位置から注ぐことで、香りを立てたり、ミルクを泡立てて口当たりをよくする効果があります」
「あ、普段からやってるんだ」
「はい。澄空さんも練習することになります」
「…あ、そう」
楠木さん、あんなに注目を集めてどうする気なんだろう。奇抜なことをして相手が圏を作るのを誘っているのだろうか。
私たちはなんとか席を確保して、それぞれお弁当を広げる。姉川さんはラーメンを受け取りに行った。ラーメンと聞いて、佐藤さんは「またそんな…」と厳しい表情をしていた。
私たちのお弁当は、大きめのサンドイッチだった。なんだろう、このパン。それに、少しバルサミコ酢の香りがする。
ちらりと寶川さんを見ると、同じく気になったのか、香芝さんが尋ねた。
「2人は同じものなのね。サンドイッチ…?」
寶川さんは答える。
「パニーニです。今回はバタールを使ってますね。潰しながらバターを染み込ませて焼いて、別で焼いたトマトやズッキーニ、ハム、チーズなどを挟むサンドイッチです。美味しいですよ」
後半は、私に向けて言っていた。マグノリアのメニューにもあるのだろうか。この通り説明しろということだろう。
パニーニと一緒に入っていた小さい水筒を確かめると、中は暖かいコーヒーだった。当然のようにブラジルっぽい。合わせろということだろう。少し豪華すぎる。
姉川さんがラーメンを持って帰ってきたところで、揃って食べ始めた。
香芝さんは素人の私でもわかるようなタンパク質中心の食事だった。鶏肉で作ったハム、ブロッコリーとゆで卵のサラダに申し訳程度のマヨネーズ。炭水化物らしい炭水化物は小さなおにぎり1つ。
「…香芝さんはそれで足りるの?」
聞くと、香芝さんはスープジャーを取り出してみせた。
「野菜スープもあるから、意外と満腹感あるわ。プロテインも部室に置いてあるし」
佐藤さんは頷きつつ、姉川さんを見る。
「佳菜も見習ってください」
「私だって体重管理くらいしてますー。見てよ、デザートがない」
「ラーメンで十分だからでしょう…」
「でも、あのカフェオレは気になりますなぁ」
姉川さんが楠木さんの方を見る。すると、香芝さんがため息をついた。
「牛乳は意外と脂肪分多いわよ」
「ちょっと、そう思いながら飲むと余計に太りそうじゃんか」
姉川さんが口を突き出しつつ文句を言うと、珍しく寶川さんが口を挟んだ。
「豆乳に変更もできますよ。脂質は半分くらいにできるかと思います。味も多少変わりますが」
なるほど…じゃない。
「…あー、流行りの店ではそうだもんね。あのお店もそうかもね」
慌ててフォローすると、姉川さんは人差し指を立てる。
「それだ!」
佐藤さんはため息をつきつつ、香芝さんを見る。
「せっかくですし、みんなで買いに行きますか?お2人はどうします?」
私は頷いた。楠木さんと3人を接触させるチャンスだ。
「みんなが行くなら、ぜひ」
全員が食べ終えると5人で列に並んだ。やけに混み合って見えたが、半分くらいは野次馬の類のようだった。
私たちの番で、それぞれ注文する。陸上部組は豆乳のカフェラテ。私と寶川さんはすでにコーヒーを飲んでいたのでアイスミルクティーを注文した。
注文を受けてくれたのは知らない女性だった。楠木さんと同じくらいか、少し高いくらいの背丈。年齢は私たちとそこまで離れていないと思う。
その女性は私と寶川さんを見ると、少し恥ずかしそうに目を合わせてくれた。
…関係者であることは間違いなさそうだ。
「お支払いはキャッシュレスのみとなっております。別々でお支払いされますか?」
織星さんとは少し違うけれど、じんわり広がるような、落ち着く声色だった。
他の学生は個別で支払う人が多かったのだろう。それぞれ交通カードなどで支払い、出来上がりを待つ。
楠木さん、肩凝らないのかな。
「お待たせいたしました。トレーは後ほど返却をお願いします」
楠木さんがまとめて渡してくれた。すごい、楠木さんのこのタイプの笑顔は初めて見た気がする。
レアなものを見た、というワクワク感を覚えて、トレーを持ち席に戻る。
「なかなかのイケメンボーイでしたな」
「えー、そうですかぁ。なんか嫌な笑い方でしたよ」
「そんなことないわよ」
姉川さんがラテを受け取りつつ言ったが、佐藤さんはタイプではなかったらしい。
…ボーイと言われていたこと、後で楠木さんに教えてあげよう。
そういえば、と香芝さんがこちらを見て口を開く。
「2人は、もう今日から一緒に参加するのかしら」
私は寶川さんと顔を見合わせてから頷く。
「そっちさえ良ければね。この後顧問の先生に挨拶に行ければと」
「そっか…じゃあこれ飲んだら案内するわ」
「助かるよ、ありがとう」
その後、3人に案内されて職員室を訪れる。
顧問の教師はやはりというか、疲れ切った顔をしていた。強面のおじさんと聞いていたが、予想していた覇気は全くない。
「あぁ…留学の。いいよ。特別な準備は必要ない。佐藤と同じクラスなら、佐藤にいろいろ聞くといい」
佐藤さんが返事をしたところで、姉川さんがエアーチョップを放つ。
「ちょっとコーチー、そのクラスに姉川もいるんですけど」
「お前は自己管理ができてからだ。今日は股関節トレーニング多めにやっとけ。インターバルは他のやつの2倍は取っとけよ」
「…うぃー」
姉川さんが敗退したところで、挨拶をして踵を返すが、一度呼び止められる。
「あぁ、留学生」
「はい?」
振り返ると、その顧問は顔を強張らせていった。
「もし何か気づいたら、教えてくれ」
「…はい」
職員室から出て、陸上部の3人からは一歩引いて歩く。寶川さんも並んだ。
前の3人は、姉川さんを中心に笑ってはいたものの、顧問…彼女たちの言うコーチの疲れを感じているようだった。
「まぁ、そうだよね」
私の感想に、寶川さんも頷く。
「昨日の午前には事情聴取があったようです。顧問もまぁ…色々聞かれる立場でしょう」
「まぁでも、容疑者とは見られないよね」
「現場は自宅自室、両親は全く気づいておらず、あれだけ凄惨な様子になっています。前歴もなければ理由もない人はそこまで疑われないでしょうね」
それにしても。
「最後のあれ、なんだろうね」
「…教師ですから。何か違和感はあった。けれど、見つけ出せなかったと言ったところでしょうか」
「外部からの人間の方が、気づきやすいって?」
どうだろうね、と続けようとしたところ、寶川さんは足を止めた。
「事実、あなたは気づきました」
その目は、何を湛えているのだろう。表情自体は普段と変わらない。それでも、体育館で見たあの目とは違う気がした。
「…まだ、確定したわけじゃないよ」
私が首を振ると、寶川さんは黙って歩き出した。
「…あると思って探さないと、見つかりません」
「そりゃそうだね」
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・CASE FILE 01: 狼男は完結しています。全16話完結(7/1完結予定)。
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