page12:襲撃
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【襲撃】
気が付くと、博物館にいた。
途端に感じる気持ち悪さ、不気味さ。けど、逃げ出せなかった。動けなかった。
始まる揺れ、ひび割れ、崩落。
「お母さん、どこ?お父さん!?」
私の声など、多くの人の声に呑まれてしまう。
必死に首を回して状況を探る。
その中で、幼い少女を見つける。
やがて、その少女からは純粋な力を感じる。
手をのばしても、届かない。視界が真っ暗になる。
.........。
......。
...。
「うっわ...」
まただ。
そう思うと目覚めは最悪だった。
スマホを起動して画面を見ると、目覚ましまであと5分という時間だった。
「二度寝には心もとない」
といっても、本来目覚めなくてはいけない時間まで、あと20分。
少し悩んで、私は身体を起こした。
スマホのメッセージアプリで、織星さんのアカウントを選択する。
『織星さん おはようございます。マグノリアの澄空です。実は...』
シンドロームを認識してから、あの夢を繰り返し見る。記憶の奥底にあったはずの、事故の様子だ。
この夢と、シンドロームは関係あるのだろうか。気になった内容をメッセージとして徒然と記載する。
送信前に読み返すが、あまりにまとまりがない気がする。でも、少し悩んで送信した。
2分ほどして返信がきた。
いたずらっぽい言動の印象が強い織星さんにしては、事務的な文章だ。やはり人は会わないとわからないものだ。
『澄空さん おはようございます。また、臆せず質問してくれてありがとうございました。以下、返答です...』
返答内容は、夢とシンドロームの関係はないが、夢の内容にシンドロームを通して感じた経験や感覚が関係あるかもしれない、とのことだった。
「うーん」
直接考えると、あの事故にもシンドロームやキャリアが関係していたということになる。
ただ、あの夢が私の体験そのものという自信もない。
私は悩んだあげく、夢占いのサイトを検索していた。
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今日の登校は、電車を使った。楠木さんは朝から必要な準備があるとのことで、ついに顔を見ることはなかった。
「おはよー澄空さん」
「あ、おはよう姉川さん。佐藤さんも」
教室で過ごしていると姉川さんと佐藤さんが登校してきた。
姉川さんはそのまま、私がスマホの画面に映していたものを見てニヤニヤする。
「おや、夢占いとは...乙女な部分もありますなぁ」
「そーゆー内容じゃないよう」
「...うっわ」
「...傷ついた」
私が胸を押さえていると、寶川さんがズイと顔をのぞかせる。
「夢占い...夢で見る物自体に意味はないと聞きました。人によって、その物や映像に対する印象が違うため、一律で判断をすることは難しいそうです」
「え、そうなの」
「はい。ですので、その見た内容を言語化しながら、それが澄空さんにとってどのような印象なのか、どんな過去があったものなのかを明らかにすることが重要です」
「詳しいね」
私の評価に同調するように、姉川さんたちも意外そうな顔をしている。
「織星さんの受け売りです」
「なるほどね」
そういえば、織星さんには簡単なお礼しか送っていない。後でまた相談してみようか。
「夢といえばさ」
姉川さんが私の机に顎を載せるようにして話し始めた。
「陸上部の先輩たちが順番に変な夢を見た時期があったんだよね」
「え、ストレスの連鎖?」
私がぎょっとすると、佐藤さんが苦い顔をする。
「佳菜、留学生を怖がらせないの」
「いやー、世間話ですよ。みーんな、何か診察なのか整体なのかわからないけど、足をやたらと褒められるって内容で」
...それは。
「興味深いですね」
私より先に寶川さんが食いついた。
「ね、不思議と気持ち悪さはなかったらしいんだけど、それ以上はあまり詳しく思い出せなかったらしい。足の調子が良くなった人もいれば痛めた人もいて、"ドリーム往診ガチャ"とか言ってたね」
その時はまだ気楽さが残っていたようだ。私は尋ねた。
「それ、いつ頃の話?」
「2~3週間前かな。その後は今みたいな感じで怪我人が続出しちゃって。もう夢の話はなくなりましたとさ」
私が顎に手を添えて相槌を打っていると、寶川さんが記憶を掘り起こすようにしながら質問した。
「それ、夢を見たのはどなたですか」
「えっとー」
続けて姉川さんが話した名前は、確かに1500mの上位2人の名前が含まれていた。
寶川さんも頷いている。間違いない。
そのタイミングで、朝のHRの予鈴が鳴った。
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「だから、共振現象の中でも、音に関するものを共鳴と呼ぶ。共振は前回やったな」
そう言いながら物理の教科担任は長さが様々な振り子を同じ高さから吊り下げた。
授業の中でも、物理に関しては今までよりも意欲的な自分がいる。
自分にできることがより理解できるのではと思ってしまう。
ただ、それを諌めるように、織星さんや楠木さんの顔が浮かぶ。CCと異なり、シンドロームの可能性を考えることは、推奨されないのだろう。
端の振り子が動き始めると、同じ長さの振り子だけが連動するように動きはじめた。
「振り子の固有振動数は糸の長さで決まっている。同じ長さは同じ固有振動数。だから共振が起こる」
クラスの何人かが振り子を追うように体を揺らし始める。すると、何人かが同じように動き始めて、教科担任はため息をついた。
まだまだお昼までの時間は長い。たった20分でも、気にし始めると遠く感じてしまう。
今日のお弁当は昨日のスープカレーの残りだ。美味しかったは美味しかったのだが、正直味は覚えていない。今日はゆっくり楽しみたい…
などと考えていた時。
「…っ!?」
…熱い。
グラウンドの方から異様な熱波を感じた。
思わず立ち上がると、教科担任と目が合った。
「なんだ留学生。トイレなr…」
言い終わる前に、教科担任は倒れた。
続いてバタバタとクラスメイトが倒れ始める。
これは、もしかして。
「圏です」
寶川さんが言いつつ立ち上がる。
その視線の先には姉川さんと佐藤さんがいる。
彼女たちも、他の生徒と同様に突っ伏している。
「…圏への抵抗がない?」
寶川さんは言いながら近寄り、そこそこの力で肩を叩くが、反応はないようだった。
「結構原始的な確認方法なんだね」
「他に手段はありませんから。廊下に出ましょう」
寶川さんに連れられて廊下に出ると、通信機から声が聞こえた。蓮華さんだ。
『2人とも、無事?』
「こちら寶川。私も澄空さんも無事です。クラスの全員が倒れました。圏内に入ったようです」
『うん。楠木さんもそう見てるみたい。楠木さんからの指示で、2人は陸上部の部員がどんな反応か見て回ってって』
「はい。それは良いのですが…この圏は一体…」
寶川さんの言葉に反応するように思い出した。
この熱。この感覚。
「あいつだ。くつろぎを襲った、あの男だ」
『っ!?』
店の中で、あの変な男を吹き飛ばした、あいつ。
その発信源は痛いほどわかる。グラウンドだ。
「待ってください」
私が走り出そうとするのを、寶川さんが肩を掴んで止めた。その力は強い。
「…離して」
少し動くが、より強い力で止められる。
「いいえ。行ってどうするんですか。澄空さんに戦闘能力はありません。例の男だとして、目的も分かりません。楠木さんに任せるべきです」
「でも、楠木さんは」
『楠木さんはもうグラウンドに向かってる。瑞葉ちゃん、楠木さんは瑞葉ちゃんと澪莉ちゃんにさっきの指示を出した。2人にしかわからないことだから』
「でも…あいつが、おじ様とおば様を…」
顔だけでも見てやりたかった。人を人とも思わない、化け物の顔を。
しかし、寶川さんはそれを許さなかった。
「力尽くでも、離しません」
寶川さんは私の手を握ると、懐から出した綺麗なボールペンをあてがう。
…まさか。
考えた頃には、そのペンは形を変え、手錠のように私と寶川さんを繋いでいた。
「私たちには、やらなければならないことがあります。まずはA組です。香芝さんを確認に行きます」
「…わかった」
寶川さんに引っ張られるようにして走る。
「…もし、狼男がいたら、この事態で動きがあるかもしれません。本人は圏内でも動けるんですから」
「…うん」
「それで、調査が終わるならそれに越したことはありません」
「…うん」
それに、と寶川さんは続けた。
「あなたは…無事に帰るべきです。いつもの暮らしに」
ガツンと殴られた心地がした。
血の気が引いていく。
…何故。
…何故私は。
…残念に思ってしまっているんだろう。
寶川さんがA組の扉を開ける。全員倒れていた。香芝さんの席で同様に反応を見たが、動かなかった。
続いて1年、3年と確認したが同様だ。
それにしても。
「こんな広い圏を作れるもんなの」
私の質問に、寶川さんは窓からグランドを眺めて答える。
「やろうと思えば。しかし、普通はやりません。他のキャリアに気づかれます。でも、今回は気づかれるためにやったのかもしれません」
寶川さんの視線の先、若い男が悠々とグランドを歩いていた。
「おーい。出てこいよー。おーい?」
こちらまで届く声で叫んでいる。この学校のキャリアを呼んでいるようだ。まさか私たちではあるまい。
ならば、ヤツは狼男と知り合いというわけだ。
「楠木さんが出てきます。澄空さんは会話を拾ってください」
その男がグランド昇降口から校舎に入ろうとしたところで、制服姿の女子が立ち塞がった。
ん…?女子?
「え、あれは…蓮華さんじゃないよね」
「はい。あれは楠木さんです」
「でも、女子の制服着てるし、何より…」
ここからでもわかる。女性の身体付きだ。
でも、見れば見るほど楠木さんだ。
言うなれば、楠木さんの双子の妹か姉。
若い男が、そんな楠木さんに話しかける。
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【碧】
「…なんだお前」
その男はより強く圏を作り出す勢いで熱を放った。
まだ大丈夫だ。これは空気を温めているだけ。
「ここに立っているんだから、"ローマー"ですよ」
答えると、その男は気に食わないように語気を強める。
「んなこたぁ聞いてねぇよ。あの女を探してんだよ」
「あの女…最近噂になっている、あの?」
この男からしたら、私がCAMかどうかなんてわからないはず。少し話に乗ってみる。
「ああそうだ。喜んで"アウター"を受け取ったから、もう少し派手にやって欲しかったんだが…いつまでもコソコソ地味にやってるから、お願いしにきたんだよ」
アウター。本来シンドローム媒介場との共鳴ができない人間を無理やり共鳴させる薬品と言われている。
こいつが破裂させた男が持っていた物。
出所はこいつか。
「この辺りでそれを扱ってるってことは、この前のカフェの事件、あなたでしょう」
「それがどうしたよ。俺は落とし前をつけただけだ。なんだお前、あそこにいたのか?」
「えぇ。特等席に」
言った途端、男の表情が変わる。
その場から飛び退き、こちらに手をかざす。
そして、私の身体に痛みが走る。チリチリと、胸から全身へと広がる痛み。このままなら、私はあの男と同じように破裂するだろう。
知っている。対策できている。
練習通りに。
「…ふっ」
軽く息を吐いて、前に倒れるように地面を蹴る。
大股三歩ほど前に出た。
男の顔はすぐ目の前。
男の目が見開かれる。
いい調子だ。圧力や筋の振動を適切に調整することで、人体の最高効率で身体を動かす…私のシンドロームに合った戦い方。
左半身を前に踏み込むように鳩尾を狙い左ジャブを放つ。
勢いをそのままに伝えたジャブは、かなり痛い…とスパーリング相手は言っていた。
男は耐えられないように口を開く。痛みを感じているのかはわからないが、反射的な行動だろう。
借り物の制服を汚したくない。
前に出た左足で地面を掴むように体重移動を行う。接地圧を調整し、次の一手に勢いを乗せる。
右足親指で地面を押し、勢いを乗せた右フックで相手の顎を狙う。
肘の角度を固定し、インパクトを一点に。
「…シッ!!」
- パンッ
と、最近聞いた音と似た音が鳴る。
それは破裂音ではなく、おそらく骨が砕ける音だろう。
男は顔の角度がおかしいまま両膝から崩れ落ち、空いた口からは唾液が流れ出ている。
もう熱は去った。シンドロームの行使はある程度集中が必要なので、痛みに悶えたり、意識が途切れたりすると止まってしまう。
私の体も痛くない。血を沸騰させて破裂させるのが常套手段だったのだろうが、それより早くダメージを与えれば問題ない。
「…とは、いかないですか」
「アハ…ハハ…ハ」
想定していたことではある。
男の膝からは血が流れ出ていた。殴られる直前に隠し持ったナイフで刺したのだろう。それも手から離れ、地面に転がっている。
痛みによって、気絶しないよう耐えたのだ。
こいつがするとしたら、もう決まっている。
踵を返して全力で走る。
下駄箱に体を隠しつつ、あいつの周りの空気圧を調整し、囲い込む。
その瞬間。
今度は少し曇った破裂の音が響いた。
確認してみると、グラウンドは熱でたわみ、赤く染まっていた。
「はぁ…本当に、迷惑な奴らだ」
流石に愚痴の一つも言いたくなる。
アウトサイド。CAM以外のキャリアの総称。中には特定の思想を持つものもいる。ただ考えが違うだけならまだいいが、迷惑はやめてほしい。
ここの生徒たちの日常を簡単に壊すわけにはいかない。
耳の通信機をタップし、時音さんを呼び出した。
すると、こちらが話し始める前に明るい声が届いた。
『お疲れ様。調停員いる?』
「はい…。相手はヤツでした。狼男との接触が目的のようです。ヤツはアウターの売人、狼男はサービス品をつかまされたと言ったところでしょう」
『なるほどね。圏はそいつでしょ?引き継ぎは?あー、碧はやめてね。今日はもうだいぶ無理してるでしょ』
「…なら、千歳さんに。彼女にもいろいろ迷惑をかけますが」
『まぁ、仕事のうちだし…あ、でも蓮華さ、夏物で欲しいサンダルあるって言ってた。レザーのオシャレなやつ』
「…1万5千までで。高校生でしょう」
『それは蓮華次第。調停員、もう着くって』
振り返ると、明らかなパトカーが校門前に止まる。
そこからは、静かに圏を広げる女性が降りてきた。
私と同じくらいの年齢。もしかしたらまだ高校の制服を着ても疑わないだろうが、落ち着いたスーツも似合っていた。
暗い髪色で、少々人を突き放すような目つきの人。しかし、それは関わる人を意図的に減らすための行動だと話していた。4年前からの付き合いだ。
優しい人だと思った。
「お疲れ様、碧。現場調停員、茅ヶ崎紫乃です」
紫乃。その人の名前。漢字を思い出すたびに、第一印象とあまりにハマりすぎていて可愛らしく思ったことを覚えている。一言で言い表すなら紫陽花だろう。
それを伝えたら、結構本気で殴られた。
「はい。お疲れ様です、茅ヶ崎さん。校舎全体を強い圏が覆いました。アウトサイドの仕業でしょう。対象は無力化後、自爆しました。できれば、物質結合系の方に地面の修復も依頼したいのですが」
「それはできないわ。急ぎで、私だけ来てしまったから」
「なら構いません。お昼時にありがとうございます」
「…その姿で言われると、"ならお昼奢って"とか言う気もなくなるわね」
茅ヶ崎さんは目を細めて私をみる。この姿で会うのは久々だったかもしれない。
「今度マグノリアに来てくれたらご馳走しますよ」
「…私、神蔵さん苦手なのよね」
『聞こえてますー』
「聞こえてたそうです」
「よかったわ」
「よかったそうです」
『んだとー』
覇気のない言い合いをする2人を思考的な意味で無視しつつ案内する。
現場調停員。こう言ったトラブルの際に、神経伝達系を扱った一般人の記憶の改竄や、物質結合系を扱った現場修復を速やかに行う人々のことだ。記憶の改竄といっても、ぽっかり穴を開けるのではなく、見間違いや記憶違いと思わせる程度しか行えない。限られた人にしかできない仕事だ。
彼らには、最大限の敬意を払いたいと思う。そう思いつつ見送ると、時音さんから再度連絡が入る。
『碧、そろそろカフェテリアに。蓮華と澪莉ちゃんたちが待ってるよ』
「分かりました…ただ、場所は屋上に変更してください」
『…はいはい』
・1日おきに続きを投稿予定です。
・CASE FILE 01: 狼男は完結しています。全16話完結(7/1完結予定)。
・pixivで全編投稿済みです。先が気になる方はこちら(url: https://www.pixiv.net/novel/series/15989613)へ!
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