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からくり娘と三人の魔神  作者: ふたぎ おっと
タイル2.リモナとポンコツ旅とランプの魔神
35/38

2-10.オウムとヒヒ

 翌日。

 三人は再びイルサームの砂漠の上を飛んでいた。

「なぁ、これいつまで続けるんだ?」長衣の男が尋ねた。

 男は砂まみれになっていた。昨夜、男が寝た側の壁が崩壊して、砂に襲われたらしい。払っても払っても服から砂が出てきた。

「アズ、本当に友達の居場所分かんないの?」リモナは竜巻クッションの上であくびした。

「エル=シャハームも広いからな」アズラクは旧国名で言う。「ただ昨夜、一つ心当たりを思い出してさ」

 アズラクは西の空へ向かった。

 昔のエル=シャハームの都があった方角だ。

 昨夜、かつて指輪を海に捨てた男の行動を考えてみた。アズラクを散々使い倒したヤツが、かつてアズラクに洞窟探索をさせたのを思い出したのだ。大作戦前のことだったから、あまり気にも留めていなかったが、今にして思えば、やけにそわそわしていた。

 アズラクが飛行速度を上げたせいで、三人はあっという間に旧都にやって来た。昔あった神殿は屋根が崩れ落ち、代わりに隣に新しいまんまる屋根の白亜の神殿が出来ていた。昔なかった土壁の建物が、街に立ち並ぶ。

 そこそこ人が行き交っていた。

「こんなところに来たの、俺も初めてだよ」長衣の男が街を見渡しながら言う。道行く人に怪訝な目を向けられて、少々恥ずかしそうだ。

「不思議な模様がいっぱいだねぇ」リモナは四角や丸がたくさん重ねられた建物の壁をじっと見た。「あれ、あれ工房かな?」リモナは中を覗き込む。

 入り口に独特な模様の布が掛かった薄暗い建物の中で、男が床の絨毯の上で木を削って何かを作っていた。

 あれ、簡単にからくりでどうにかなりそう……。

 隣の建物の中では何人かの女が、毛織物を編んでいた。あれも、からくりで何とか出来そうなのに。

 すると大きな広場に出た。

 広場の真ん中には、空に向いた大きな円盤が置いてあった。針みたいなのが、ゆっくり動いている。

「おおーこれは時計?」リモナは目をきらめかせた。

「日時計だよ」長衣の男がどうでも良さそうに言う。「太陽の動きと影の動きに合わせて動くんだ。オルテンザにあるようなインチキじゃない」

「ふーん」

 リモナは日時計をまじまじ見た。影の動きに合わせるってどうするんだろう? 曇りの日とか困りそうだけど。

「おい、あの青い髪……」

「なぁ伝説の絵にそっくりじゃないか?」

 そう囁く声が、どこからか聞こえた。

 リモナは考え込むアズラクを見上げた。

 この街に来るまでの間にいくつもアズラクに似た像や絵を見たけれど、そんなにイルサームでは有名人なのかな?

 するとアズラクは、ハッとした。

「思い出した。あっちだ」

 言うが早いか、アズラクはリモナと長衣の男を風で浮かして空に飛び立った。

 噂をしていた人たちは、息を飲み目を見開いた。

 ま、まさか、あの伝説が蘇るとは!

 彼らは慌てて地面にひれ伏した。


 アズラクは旧都から更に西へ向かい、オアシスの密林の中に入った。

「こんな森があるんだ」リモナは見たこともない形の葉っぱをまじまじ見た。

「な、なぁ、場所が分かったなら俺はもういいだろ?」長衣の男は怯えながら密林を歩く。「ヘビとか出そうだ……」

「え、ヘビ! やだぁ」リモナも身を小さくした。

「安心しろ、リモナ。ヘビにもヒョウにもワニにもお前は襲わせねえから」アズラクは平然と言う。

「いや、俺は?」男は涙目になって言う。「帰らせてくれよぉ」

「帰りたいならどうぞ」アズラクはリモナを庇いながら歩く。

 男は声にならない悲鳴を上げた。

 イルサームの民よ。

 これが伝説の軍神の現実だ。幻想過ぎる。

「アズ、あのおじさんに冷たいよね」

「リモナ、あいつ人攫いだぞ」

「あ、そっか。なら仕方ないね」リモナはドレスを摘んで歩く。靴下の隙間から葉っぱがちくちく刺さった。

 長衣の男は二人の後ろで両手を組んで誓った。

 イルサームの神よ。

 あ、軍神は除く。

 俺は金輪際人を攫いません。

 すると、キキーッという音が聞こえた。頭上の木が、ガサガサする。

 リモナと男は同時にびくついた。

 見上げると、左に二羽の色鮮やかな鳥、右に大きな毛むくじゃらの人が乗っていた。

「なにあれ、なにあれー!」リモナは右を指すか左を指すか迷って両手で両方指した。

「あっちはうるせえ鳥」アズラクは左を指して言う。「んであっちはヒヒ」右を指して言う。「人じゃないぞ、猿の一種」

「うるせえ鳥! ヒヒ!」リモナは復唱した。

「オウムだよ」長衣の男がぼそっと言う。

「キンピカザイホウ、アルヨ。アッチニ、キンピカザイホウアルヨ」

「わ! 鳥が喋った! しかも分かる!」リモナは目をきらめかせた。イルサームに来てから知らない言葉ばかりで、密かにちんぷんかんぷんだった。

「キンピカザイホウ、アルヨ」二羽のオウムは、交互に言った。「ダイア、ルビー、サファイア、エメラルド、キンギン、トパーズ」

「金銀財宝……ダイア、ルビー、サファイア……」長衣の男が復唱した。口から涎を垂らしている。

 一方、アズラクはヒヒに話しかけた。「なぁ、お前。このあたりの洞窟を探しているんだが」

「ウワッワッ」ヒヒは鳴いた。

「なんて言ったの?」リモナはアズラクに尋ねる。

「森の奥の滝壺がどうとか言ってんな」アズラクは通訳した。「そこまで案内してくれないか?」

「ウワッワッ、グゥ」

「いいって?」リモナは確認した。

「いいけど、生きて帰ったやつ見たことないってさ」アズラクはさらりと言った。

「え、大丈夫なの?」リモナはぎょっとした。

「さぁ。まぁ、俺いるし」アズラクはまったく深刻味なく言う。「とりあえず行くか」

「キンピカザイホウ、スグソコダヨ。タラフク、アルヨ。アンゼンダヨ」二羽のオウムが交互に言う。

「お、俺はあっちに行く!」長衣の男がオウムを指差して言う。「そっちは死ぬんだろ? こっちには財宝があるし!」

「ウワッワッ、ウワッ」ヒヒが何か言った。

「……なんて?」リモナが聞く。

「嘘つきオウムに騙されるなってさ」アズラクは耳に指を突っ込んだ。「分かる。あいつら、昔からうるせえだけだもんな」

「ウワゥ……」なんて言ったか分からないが、ヒヒが頷いたのは見て取れた。

「アンゼンダヨ、シナナイヨ、オオガネモチダヨ、ゼイタクゼイタク」

「ほ、ほら。あっちは安全らしいし」男は二人から距離を取る。「お前らに会って散々だし!」

「はぁ。好きにしろよ」アズラクは面倒臭そうに言う。

「ホラ、ホラ、ハヤクシナイト、ウツシチャウヨ」二羽のオウムは枝から飛んだ。

「あ、待ってくれよ」男はオウムを追いかけた。

「ハヤクハヤク。キンピカザイホウ、ダイア、ルビー、サファイア、エメラルド」

「金銀、トパーズ、ターコイズ……」

 男は夢に浮かされたように続きを口ずさんで、林の向こうへ消えていく。

「金ピカ財宝、ダイア、ルビー、サファイア、エメラルド……」

「おい、お前まで口ずさむのやめろ」

「あ、ごめん」リモナは口を閉じた。

「ウワゥ」

 ヒヒは首をくいと動かして、先へ進んだ。

 リモナとアズラクはヒヒを追いかけた。

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