表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり娘と三人の魔神  作者: ふたぎ おっと
タイル2.リモナとポンコツ旅とランプの魔神
32/38

2-8.誘拐船②

「うえぇ……気持ち悪い……」

 リモナは甲板に仰向けに寝ていた。

 ようやく両手両足の拘束が取れて大の字になれるけれど、胸がむかむかする。

「アズ、時々親方の扱い雑じゃない? うえぇ」

「まっすぐ飛んできただろ?」アズラクは冷たい風を送りながら言う。「お前がこんなところに連れて来られるのが悪い」

「知らないよぉ。なんか起きたらいたんだもん。ああ、こっちに風当てて」

「おい、頼むから俺をここから下ろしてくれ」

 長衣の男が声をかける。

 男は、マストにぐるぐる巻きにされていた。

「あれ、他の人どうしたの?」あんなにいっぱいいた白い人がいない。

「シャチにやった」

「へぇ、シャチ……」

 んん?

 どういうこと?

「あ、あの……」

 気弱な声が聞こえてきた。

 船倉から、少年少女が上がって来た。

 吐瀉物に塗れて臭かった彼らは、アズラクの海風旋風で、だいぶマシになった。

「僕たち、どうなるんですか……?」少年が尋ねた。

「ひっく、お願いだからシャチの餌には……ひっく」

「やらねえよ。一体俺をどんな獰猛な生き物だと思ってんだか」アズラクはため息まじりに言う。

 いや、時々結構獰猛で豪快じゃん。

 リモナは半目でアズラクを見た。

「もう大丈夫なの?」

 リモナはごろんと寝返りを打って、さっき酔い潰れていた女の子を見た。女の子は恥ずかしそうに顔を赤らめて下を向いていた。

「アズ、風の魔法使うなら、せめて船の揺れはなんとかしてよね。ダメな子はダメなんだから」リモナはアズラクを見上げて言う。

 アズラクはぶすっとリモナを見下ろし、リモナの顔に大量の冷風を吹き付けた。

「あば、あばあばっ」

「お前たち、どこから連れて来られたんだ?」アズラクは少年少女に尋ねた。

 彼らはお互いに目を見合わせた。

「私は起きたら薄暗い倉庫にいて……」

「僕は狩りの途中で」

「僕は珍しい鷹がいるからって」

「そのおじさんが、天国のママに会わせてくれるって……」一番小さな女の子が泣き出した。「ママに会いたいよぉ」

 アズラクはマストを見上げた。「おい、どんな風に死ぬ?」

「い、いや、勘弁を」長衣の男は声を引き攣らせた。「ガキ共が退屈そうだったから、冒険を与えてやったんじゃないか」

「嘘だ! お前、急に森に現れて僕を捕まえたじゃないか!」少年が強気に声を上げる。イルサーム語を通訳してくれた子だ。

「黙れガキが。お前のはとこが俺に依頼したんだよ」長衣の男が言い返す。

「私たちどうなるの? もう帰れないの?」

 少女が両手で顔を覆ってうずくまった。それを見て、一番小さな女の子が更に泣いた。

 少年の片方は強気に奮い立たせているが、もう一人は泣きそうな顔を必死に堪えている。

 そうだよね。

 いきなりこんな知ってる人のいない海の上に連れて来られたら、不安だよね。

「アズ」リモナは少年少女に目を向けたまま言う。

「なんだ?」

「この子たち、お家に帰せないかな?」

 アズラクは少年少女を見た。「それは、命令か?」

「うん?」リモナは一瞬アズラクを見上げると、再び少年少女に目を戻した。「うん、命令」

 アズラクは狼のような青い目をきらめかせた。

「承った」


 オオワシに乗って、少年少女が遠ざかっていく。

「あれでちゃんと帰れるの?」リモナは船の手すりにつかまって眺めた。

「帰れるよ。あいつのが土地勘あるし、オオワシってのは昔から話が分かるやつだし」

「ふーん。そんなもんなんだね」

 アズラクの世界は時々不思議でよく分からない。熊と話したり呼んだらオオワシが飛んできたり。指輪から出てくるのも、いまだに謎だ。

「なぁ、俺はいつ下ろしてくれるんだ?」長衣の男が言う。

「あ、あの人まだいたんだ」

「忘れてた」

 二人はマストを見上げた。

 男は潮風にずっと晒されて、顔がしょぼしょぼしている。

「お前、何でリモナを攫ったんだ?」

 アズラクは甲板に腰掛けて聞いた。

 隣でリモナは、船倉にあったグレープフルーツをナイフで剥いた。「んんーすっぱ!」

 長衣の男はぐっと唸ったまま何も言わない。

「おい、もう一回シャチ呼ぶか?」アズラクは甲板に仰向けに横になった。リモナの手からグレープフルーツをひと粒横取りする。

「……お前だよ」長衣の男はぼそりと言った。

「あ?」アズラクは眉を上げた。

「風を操る指輪の魔神、イルサームの軍神だ。在るべき場所に戻るべきだろう」

 アズラクは首を傾げて男を見上げた。「お前、イルサームの人間か?」

「え、そうなの?」リモナは目を丸くしてアズラクと長衣の男を見比べた。「アズのが外国人ぽいよ?」あの人はそんなに肌黒くないし。

「色々混ざってんだろ、知らねえけど」アズラクは面倒臭そうに首を回した。「で、どうなんだ?」

「そうだ……俺はイルサームだ。オルテンザには、たびたび仕入れに行く」

「人間をか?」

 長衣の男は黙った。

「で、リモナを見つけて指輪を奪おうとした。そうだろう?」

「え、そうなの?」

 リモナは目と口をぎゅっと顔の中心に寄せた。

 確かに指輪を外せって言われたような。ああ、酸っぱい。

「在るべき場所とか高尚なことほざいて、お前が使役したかっただけじゃないのか?」アズラクは嘲笑った。たかが人攫いが国のために働くとは思えない。

 長衣の男は唸ったまま、何も言わない。

「ところでこの船、どこに向かってるの?」今更リモナは気になった。前方をじっと見る。「なんか丘が見えて来たよ」

「<ああ、助かった……>」長衣の男がイルサーム語でぼそっと言う。

 アズラクは身体を起こして前方の丘を見た。

「あれはどこだ?」長衣の男に尋ねる。

 長衣の男は、マストにぐるぐる巻きにされたままの締まらない格好で言う。

「|アハラン・ワ・サハラン《ようこそ》、イルサームへ」

 流れてくる匂いに、アズラクは懐かしさを覚えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ